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番外編
秘密4-2 (番外編その3完)
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こんな形で性的な関係になるべきではないと理性をかき集めた。
このまま触れて、ユーディアが拒絶のそぶりを見せないのであれば、皆が噂するような親密な関係になるのは男と男であっても馬に乗るよりもたやすいことなのではないかと、なけなしの理性を崩しにかかる自分もいる。
後者の方が欲望の後押しを得て優勢だった。
ブルースがユーディアに過保護で執着しているのも、もしかして彼等は既にそういう関係になっているからではないかとよぎった。
「ブルースとはこういうことをしたことがあるのか?」
普通の状態ではありえない質問で、答えなくていい問いかけである。
「ないよ」
それを聞いて、明らかにほっとする。
ブルースのユーディアへの、一方的な感情なのだ。
「ディア!そうだ、ディアのことを知りたい。ディアはどこにいるんだ、教えてほしい」
ジプサムは己の理性をつなぎとめるために、心に定めた女の名前を出す。
そして瞬時に後悔することになった。
なぜなら、ディアと口にした途端に、目の前に横たわるユーディアがディアに見えてきたのだ。
もともと、ユーディアとディアはとても似ていた。
表情を作る神経の糸の張り具合が、引き締めるところ緩めるところをわずかに違えるだけで、ユーディアはキスを誘う顔になる。
ただ、睡魔に襲われ表情が緩んだだけなのかもしれないが。
鎮めようとしたのに、いっそう心も体もざわざわと落ち着かなくなる。
半眼の、とろんとした目で、ユーディアはいう。
あくびをかみ殺した。
「ディアは、すぐそばにいる」
「すぐそばに?ゼクシーたちと一緒ではなくて?ベルゼラにいるということなのか?ディアが俺の前にでてきてくれなくても、俺は彼女が好きでたまらないのに落ち着いていられるのは、ユーディアやブルースが俺のそばにいてくれるからだ。あなたの存在が、俺を前に進ませる。母に守られ、父の威光に隠れたところから、誰の考えでも押しつけでもない自分の形があり、それをはっきりと形にしていけばいいんだと思えるようになった。それに、本当にあなたはディアに似ている。あなたとこうしているだけで、心が浮きたつ。霊送りの祭りでディアを自分のものにしようとした父王が、ディアを取り逃し、モルガン族のあなたの存在を知り、あなたを手に入れようとしたのを知って、許せなかった。俺は……」
何を口走っているのだろう。
秘密を話すのは、ユーディアのはずだ。
朴葉包み焼きは口にしなかったが、肉スープは食べた。
それに、ミラクルマッシュルームのエキス分がしみだしていたのか。
今や、心のうちの秘密を語っているのはジプサムの方だった。
ジプサムは自分に対してさえ、あいまいなままにしておこうと蓋をした、己の秘密。
秘密はくっきりと明確だった。
自覚してしまえば、今度は吐き出したくてたまらなくなる。
「あなたが、モルガン族のユーディアでなく本当に競売で手に入れた俺の奴隷であるならば、本当に俺のものにして、政略結婚したとしても一生そばに置くだろう。俺が死ぬときには、死を賜らせて共に冥界へ連れていく。だけど、あなたは、競売で手に入れたとはいえ、俺の憧れ、友人なんだ。まわりが色小姓だとさわぎ続けていたとしても、世間すべてが誤解をしているとしても、俺だけの気持ちを貫き通すことなどできやしない。俺ができるのは、あなたがベルゼラから学ぶことがまだまだあるはずだと思わせることだけ。あなたに飽きられないように、ベルゼラにとどまってくれるように、あなたが成長する以上に、俺自身が成長していくことだけ。俺はあなたのことを、」
愛している。
ジプサムは最後の言葉を必死に飲み込んだ。
自分は、すべきではない愛の告白をしようとしていた。
そんなことをすれば、ブルースとユーディアと自分の関係が変わってしまう。
ディアを愛しているということで、ユーディアを愛する気持ちを、ユーディアを、ブルースを、そして自分自身までだましていたのだ。
「僕のことを、何?」
そうひとこと問いかけられたら、ジプサムはもう己の気持ちを堰き止めることはできなかっただろう。
理性はぐっしょりとぬれた紙のよう。
指で軽くつつくだけで破けてしまう。
安堵したことに、ユーディアからそう問いかけられることはなかった。
代わりに軽い寝息が胸にかかる。
甘い、甘い、ユーディアの吐息。
ジプサムも目を閉じて呼吸に集中する。
重なる二人の呼吸音が、ジプサムを鎮め、眠りの淵へ誘ったのである。
秘密 完
このまま触れて、ユーディアが拒絶のそぶりを見せないのであれば、皆が噂するような親密な関係になるのは男と男であっても馬に乗るよりもたやすいことなのではないかと、なけなしの理性を崩しにかかる自分もいる。
後者の方が欲望の後押しを得て優勢だった。
ブルースがユーディアに過保護で執着しているのも、もしかして彼等は既にそういう関係になっているからではないかとよぎった。
「ブルースとはこういうことをしたことがあるのか?」
普通の状態ではありえない質問で、答えなくていい問いかけである。
「ないよ」
それを聞いて、明らかにほっとする。
ブルースのユーディアへの、一方的な感情なのだ。
「ディア!そうだ、ディアのことを知りたい。ディアはどこにいるんだ、教えてほしい」
ジプサムは己の理性をつなぎとめるために、心に定めた女の名前を出す。
そして瞬時に後悔することになった。
なぜなら、ディアと口にした途端に、目の前に横たわるユーディアがディアに見えてきたのだ。
もともと、ユーディアとディアはとても似ていた。
表情を作る神経の糸の張り具合が、引き締めるところ緩めるところをわずかに違えるだけで、ユーディアはキスを誘う顔になる。
ただ、睡魔に襲われ表情が緩んだだけなのかもしれないが。
鎮めようとしたのに、いっそう心も体もざわざわと落ち着かなくなる。
半眼の、とろんとした目で、ユーディアはいう。
あくびをかみ殺した。
「ディアは、すぐそばにいる」
「すぐそばに?ゼクシーたちと一緒ではなくて?ベルゼラにいるということなのか?ディアが俺の前にでてきてくれなくても、俺は彼女が好きでたまらないのに落ち着いていられるのは、ユーディアやブルースが俺のそばにいてくれるからだ。あなたの存在が、俺を前に進ませる。母に守られ、父の威光に隠れたところから、誰の考えでも押しつけでもない自分の形があり、それをはっきりと形にしていけばいいんだと思えるようになった。それに、本当にあなたはディアに似ている。あなたとこうしているだけで、心が浮きたつ。霊送りの祭りでディアを自分のものにしようとした父王が、ディアを取り逃し、モルガン族のあなたの存在を知り、あなたを手に入れようとしたのを知って、許せなかった。俺は……」
何を口走っているのだろう。
秘密を話すのは、ユーディアのはずだ。
朴葉包み焼きは口にしなかったが、肉スープは食べた。
それに、ミラクルマッシュルームのエキス分がしみだしていたのか。
今や、心のうちの秘密を語っているのはジプサムの方だった。
ジプサムは自分に対してさえ、あいまいなままにしておこうと蓋をした、己の秘密。
秘密はくっきりと明確だった。
自覚してしまえば、今度は吐き出したくてたまらなくなる。
「あなたが、モルガン族のユーディアでなく本当に競売で手に入れた俺の奴隷であるならば、本当に俺のものにして、政略結婚したとしても一生そばに置くだろう。俺が死ぬときには、死を賜らせて共に冥界へ連れていく。だけど、あなたは、競売で手に入れたとはいえ、俺の憧れ、友人なんだ。まわりが色小姓だとさわぎ続けていたとしても、世間すべてが誤解をしているとしても、俺だけの気持ちを貫き通すことなどできやしない。俺ができるのは、あなたがベルゼラから学ぶことがまだまだあるはずだと思わせることだけ。あなたに飽きられないように、ベルゼラにとどまってくれるように、あなたが成長する以上に、俺自身が成長していくことだけ。俺はあなたのことを、」
愛している。
ジプサムは最後の言葉を必死に飲み込んだ。
自分は、すべきではない愛の告白をしようとしていた。
そんなことをすれば、ブルースとユーディアと自分の関係が変わってしまう。
ディアを愛しているということで、ユーディアを愛する気持ちを、ユーディアを、ブルースを、そして自分自身までだましていたのだ。
「僕のことを、何?」
そうひとこと問いかけられたら、ジプサムはもう己の気持ちを堰き止めることはできなかっただろう。
理性はぐっしょりとぬれた紙のよう。
指で軽くつつくだけで破けてしまう。
安堵したことに、ユーディアからそう問いかけられることはなかった。
代わりに軽い寝息が胸にかかる。
甘い、甘い、ユーディアの吐息。
ジプサムも目を閉じて呼吸に集中する。
重なる二人の呼吸音が、ジプサムを鎮め、眠りの淵へ誘ったのである。
秘密 完
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