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番外編
秘密3
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「えっと、それで……?」
ジプサムは次を促してしまう。
規律正しい見習い騎士たちは、我先にと話をしはじめた。
そのうちに、焼けた石の上に朴葉包みが乗せられて、ぐつぐつといい始める。
できたものは、騎士見習いたちにジプサムは譲る。
朴葉を開いた者たちから歓声が上がる。
石焼きの熱にあぶられた串にさされたウナギも回ってくる。
一段落がついたのか、ハルビン料理長も含めた全員が朴葉包みが乗る石焼きを囲む輪の中に加わった。
ベッカムが、いったんどこかに消えたかと思うと、川水に浸していた酒瓶を持ってきた。
キンキンに冷えた酒に歓声が上がり、酒が回る。
次第に、打ち解けたというには控えめすぎる盛り上がりを見せていく。
相槌をうつものがいなくても、自分で話を盛り上げて大声で笑っている。
河原で大の字になって眠り始める者もいる。
よい気候と解放された空間とうまい酒が、規律正しい騎士たちの羽目を外してしまうのか。
「ジプサムさま、何も口にしないでください」
誰も手渡してくれるものがいないので、自分で包みの隙間から湯気を上げる朴葉を手に取り、少し冷めるまで待っていたジプサムに、サニジンがこそりという。
「……異様ではありませんか?みんなの崩れようが。何か理性のタガがはずれかけているように見えます。変なものを食べたのではないですか。明らかにおかしいです。ほら、みんな、好き勝手に憑かれたように話している」
サニジンは眉を寄せ、手にしていた朴葉の中身をじっくり検証しはじめた。
「鹿肉はわかります。これはグミの実ですよね。これは、なんでしょう、オレンジ色の、きのこ?」
サニジンは眉をよせ、鮮やかな色の物体をつまみ上げた。
「何やら甘い匂いがします。黄色と緑の斑点……?」
思いあたるものがある。
「ミラクルマッシュルームじゃないか?」
「まさか」
サニジンはジャンに、これはなにかと聞く。
「それは、サニジンさまがウナギと一緒に持ってきてくださったきのこですよ。スライスして加えました。甘味があり噛み応えもあっておいしいきのこですね。ハルビン料理長も料理したことがないと言ってました。余ったのはスープに投入しましたよ!あははははっ」
何が面白いのかわからない。
酒ときのこでジャンはすっかり酩酊している。
ジプサムとサニジンは顔を見合せた。
ようやく事態を把握する。
ミラクルマッシュルームをみんな食べてしまったのだった。
何かのきっかけをつかんで、皆、言いたいことを気持ちよく話しているのだ。
「これは、吐き出させたほうがいいかな」
「いえ、この際、きのこの自白剤としての真贋を何人かで確認してみましょう」
「じゃあ、まずはお前から。一見かわいいんだけれどよく見れば毒々しいものが苦手だといったが、具体的に何を連想させたのか教えてくれないか?なんだろうと俺も考えていたんだが思い当たるものがない」
ジプサムの質問にサニジンは即答する。
「アムリアさまです。いつまでもお若くて美しく、だけどかわいらしいだけではない。毒々しさを持ち合わせ栄光と破滅を同時に与えることができる方であり、本当に危険な方です。わたしは彼女のことを……」
サニジンは慌てて口をふさぎ、川べりに駆け寄り、口に手を入れて胃の中のものを吐き出した。
ミラクルマッシュルームは本物だとサニジンは身をもって証明したのである。
ジプサムは次を促してしまう。
規律正しい見習い騎士たちは、我先にと話をしはじめた。
そのうちに、焼けた石の上に朴葉包みが乗せられて、ぐつぐつといい始める。
できたものは、騎士見習いたちにジプサムは譲る。
朴葉を開いた者たちから歓声が上がる。
石焼きの熱にあぶられた串にさされたウナギも回ってくる。
一段落がついたのか、ハルビン料理長も含めた全員が朴葉包みが乗る石焼きを囲む輪の中に加わった。
ベッカムが、いったんどこかに消えたかと思うと、川水に浸していた酒瓶を持ってきた。
キンキンに冷えた酒に歓声が上がり、酒が回る。
次第に、打ち解けたというには控えめすぎる盛り上がりを見せていく。
相槌をうつものがいなくても、自分で話を盛り上げて大声で笑っている。
河原で大の字になって眠り始める者もいる。
よい気候と解放された空間とうまい酒が、規律正しい騎士たちの羽目を外してしまうのか。
「ジプサムさま、何も口にしないでください」
誰も手渡してくれるものがいないので、自分で包みの隙間から湯気を上げる朴葉を手に取り、少し冷めるまで待っていたジプサムに、サニジンがこそりという。
「……異様ではありませんか?みんなの崩れようが。何か理性のタガがはずれかけているように見えます。変なものを食べたのではないですか。明らかにおかしいです。ほら、みんな、好き勝手に憑かれたように話している」
サニジンは眉を寄せ、手にしていた朴葉の中身をじっくり検証しはじめた。
「鹿肉はわかります。これはグミの実ですよね。これは、なんでしょう、オレンジ色の、きのこ?」
サニジンは眉をよせ、鮮やかな色の物体をつまみ上げた。
「何やら甘い匂いがします。黄色と緑の斑点……?」
思いあたるものがある。
「ミラクルマッシュルームじゃないか?」
「まさか」
サニジンはジャンに、これはなにかと聞く。
「それは、サニジンさまがウナギと一緒に持ってきてくださったきのこですよ。スライスして加えました。甘味があり噛み応えもあっておいしいきのこですね。ハルビン料理長も料理したことがないと言ってました。余ったのはスープに投入しましたよ!あははははっ」
何が面白いのかわからない。
酒ときのこでジャンはすっかり酩酊している。
ジプサムとサニジンは顔を見合せた。
ようやく事態を把握する。
ミラクルマッシュルームをみんな食べてしまったのだった。
何かのきっかけをつかんで、皆、言いたいことを気持ちよく話しているのだ。
「これは、吐き出させたほうがいいかな」
「いえ、この際、きのこの自白剤としての真贋を何人かで確認してみましょう」
「じゃあ、まずはお前から。一見かわいいんだけれどよく見れば毒々しいものが苦手だといったが、具体的に何を連想させたのか教えてくれないか?なんだろうと俺も考えていたんだが思い当たるものがない」
ジプサムの質問にサニジンは即答する。
「アムリアさまです。いつまでもお若くて美しく、だけどかわいらしいだけではない。毒々しさを持ち合わせ栄光と破滅を同時に与えることができる方であり、本当に危険な方です。わたしは彼女のことを……」
サニジンは慌てて口をふさぎ、川べりに駆け寄り、口に手を入れて胃の中のものを吐き出した。
ミラクルマッシュルームは本物だとサニジンは身をもって証明したのである。
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