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第3部 冬山離宮 第7話 盗賊
57、出立
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まだ暗いうちからの出立に、リリアたちは眠い目をこすりながら見送ってくれる。
ジプサムが蟄居のメンバーとして選定したのは側近のサニジンと10名の見習い騎士とユーディア、料理および雑務担当としてハルビン料理長とジャン。
それに王から護衛責任を命じられたベッカム隊長とトニー隊長は、ベッカム自身が参加し、トニー隊からはブルースともう一人が護衛として参加する。
総勢18名の、最小人数の小隊となった。
ジプサムの騎士見習いたちは互いに見知ったものたちも多く、長年ジプサムの護衛をしていながら騎士の修練を続けていた20代後半のサラードが若手を取りまとめる形になる。
正式な騎士の任命がなされていない状態なので、彼らはそれぞれ私服での合流で、制服を支給されてはいたがそれらは広げられることなく、駆り立てられるように出発していた。
おおきなあくびをベッカムはかみ殺しながら、先頭を馬で行くジプサムに並べた。
「ジプサム王子、こんな寄せ集めの集団のような一行でいいのか?」
「ベッカム殿。重ねて付き添いをしてくれることに感謝する。蟄居に行くのにきらびやかな行軍のようなことをしてもむなしいだけだろう?」
「それもそうだが。俺の隊でもないから、どうみられてもいいわけでもあるが、王子はベルゼラの将来をしょって立つんだから、これから行く先々でそれなりのものであるとアピールしておいたほうがいいんじゃないか?」
ベッカムの疑問は、ジプサムとサニジン以外の全員の持つ疑問、というか不満である。
馬上のトニー隊のブルースともう一人は無表情かつ無言を貫いているが、騎士見習いたちの大半は、最初の仕事が普段着でできる者だということに明らかに出鼻をくじかれてたようである。
まるで学生時代の剣術クラブの同窓が集まった物見遊山の貧乏旅行ではないか。
そのように思っている顔がちらほらある。
「それに、離宮への道筋は無駄が多くてわけがわからん。どういうことだ?」
「どうって、そういうことだ。何か問題があるか?」
「これだと最短3日が、10日はかかるじゃないか」
「ベッカムさま、ジプサムさまがおっしゃる通り、そういうことでありますから」
横から割り込んだのはサニジンである。
細い目でベッカムをけん制する。
ベッカムはサニジンが重ねて意味ありげにいうことで、思案顔になる。
「……そういうことって、そういうことか」
馬車の中で会話を聞いていたユーディアは、サニジンの言葉をベッカムがどう理解したのかがわからない。
「服装の件もからめて考えると、そういうことか。じゃあ、もうひとつこんなに朝っぱらから王城を出たわけはなんだ?」
ユーディアは馬車から身を乗り出した。
「ベッカムさま、何を理解されたんですか?」
隻眼がユーディアに向けられ、何度か瞬くと、顔がこわばった。
あふれだしそうになる笑いをかみ殺しているのだとユーディアは知る。
「それは、寄り道をしていくにも理由があり、いかにもきらびやかな恰好をしていないのも理由があるということだ」
「はあ?わかるようにいってくれないと」
隣のジャンが素っ頓狂な声を上げた。
「ジャン、ベッカムさまに無礼な言動を控えろ」
向かいに座るハルビン料理長にジャンはすかさず小突かれた。
「サニジンがお前に問題をだすんじゃないか?自分なりの答えを用意しておけよ」
ジャンの態度に、ベッカムは意にも介さない。
すぐに答えをいわないところは図書館での勉強の癖である。
時間があるならば、まずは自分でとことん考えよ。
わからないならばそのヒントになりそうなものを教えてもらって、もう一度考えよ。
とことん考えれば、出題したものが求める答え以上のものをつかめることができるかもしれないからね。
そう、いつもユーディアがサニジンに言われていることである。
「早朝は、まだみんなが寝静まっているときに王都をでたいからじゃないかな。平日だから馬で行こうと思えば混むし、ジプサムさまがいう通り、処罰を受けていくんだからむしろ目立たないようにという配慮があるんじゃないの?」
ジャンである。
「それは早朝に出発するわけの推測だよね。なら、あえて遠回りをすることの意味は?僕たちが私服で行くわけは?それはどう思うの?」
「それは、蟄居にかこつけた物見遊山でもしながらいこうと思っているんじゃないの?涼しくなったし行楽にはいい気候だし。グランド領に、ジプサムさまのご実家のゴールデン領、それぞれ見所がありそうだよ。それで最後のマーシャン領で必要なものをすべてそろえてアルタイ山入りをすれば身軽でいいんじゃないの?」
ジプサムが蟄居のメンバーとして選定したのは側近のサニジンと10名の見習い騎士とユーディア、料理および雑務担当としてハルビン料理長とジャン。
それに王から護衛責任を命じられたベッカム隊長とトニー隊長は、ベッカム自身が参加し、トニー隊からはブルースともう一人が護衛として参加する。
総勢18名の、最小人数の小隊となった。
ジプサムの騎士見習いたちは互いに見知ったものたちも多く、長年ジプサムの護衛をしていながら騎士の修練を続けていた20代後半のサラードが若手を取りまとめる形になる。
正式な騎士の任命がなされていない状態なので、彼らはそれぞれ私服での合流で、制服を支給されてはいたがそれらは広げられることなく、駆り立てられるように出発していた。
おおきなあくびをベッカムはかみ殺しながら、先頭を馬で行くジプサムに並べた。
「ジプサム王子、こんな寄せ集めの集団のような一行でいいのか?」
「ベッカム殿。重ねて付き添いをしてくれることに感謝する。蟄居に行くのにきらびやかな行軍のようなことをしてもむなしいだけだろう?」
「それもそうだが。俺の隊でもないから、どうみられてもいいわけでもあるが、王子はベルゼラの将来をしょって立つんだから、これから行く先々でそれなりのものであるとアピールしておいたほうがいいんじゃないか?」
ベッカムの疑問は、ジプサムとサニジン以外の全員の持つ疑問、というか不満である。
馬上のトニー隊のブルースともう一人は無表情かつ無言を貫いているが、騎士見習いたちの大半は、最初の仕事が普段着でできる者だということに明らかに出鼻をくじかれてたようである。
まるで学生時代の剣術クラブの同窓が集まった物見遊山の貧乏旅行ではないか。
そのように思っている顔がちらほらある。
「それに、離宮への道筋は無駄が多くてわけがわからん。どういうことだ?」
「どうって、そういうことだ。何か問題があるか?」
「これだと最短3日が、10日はかかるじゃないか」
「ベッカムさま、ジプサムさまがおっしゃる通り、そういうことでありますから」
横から割り込んだのはサニジンである。
細い目でベッカムをけん制する。
ベッカムはサニジンが重ねて意味ありげにいうことで、思案顔になる。
「……そういうことって、そういうことか」
馬車の中で会話を聞いていたユーディアは、サニジンの言葉をベッカムがどう理解したのかがわからない。
「服装の件もからめて考えると、そういうことか。じゃあ、もうひとつこんなに朝っぱらから王城を出たわけはなんだ?」
ユーディアは馬車から身を乗り出した。
「ベッカムさま、何を理解されたんですか?」
隻眼がユーディアに向けられ、何度か瞬くと、顔がこわばった。
あふれだしそうになる笑いをかみ殺しているのだとユーディアは知る。
「それは、寄り道をしていくにも理由があり、いかにもきらびやかな恰好をしていないのも理由があるということだ」
「はあ?わかるようにいってくれないと」
隣のジャンが素っ頓狂な声を上げた。
「ジャン、ベッカムさまに無礼な言動を控えろ」
向かいに座るハルビン料理長にジャンはすかさず小突かれた。
「サニジンがお前に問題をだすんじゃないか?自分なりの答えを用意しておけよ」
ジャンの態度に、ベッカムは意にも介さない。
すぐに答えをいわないところは図書館での勉強の癖である。
時間があるならば、まずは自分でとことん考えよ。
わからないならばそのヒントになりそうなものを教えてもらって、もう一度考えよ。
とことん考えれば、出題したものが求める答え以上のものをつかめることができるかもしれないからね。
そう、いつもユーディアがサニジンに言われていることである。
「早朝は、まだみんなが寝静まっているときに王都をでたいからじゃないかな。平日だから馬で行こうと思えば混むし、ジプサムさまがいう通り、処罰を受けていくんだからむしろ目立たないようにという配慮があるんじゃないの?」
ジャンである。
「それは早朝に出発するわけの推測だよね。なら、あえて遠回りをすることの意味は?僕たちが私服で行くわけは?それはどう思うの?」
「それは、蟄居にかこつけた物見遊山でもしながらいこうと思っているんじゃないの?涼しくなったし行楽にはいい気候だし。グランド領に、ジプサムさまのご実家のゴールデン領、それぞれ見所がありそうだよ。それで最後のマーシャン領で必要なものをすべてそろえてアルタイ山入りをすれば身軽でいいんじゃないの?」
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