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第6話 ベルゼラの王
54-2、取引(第6話完)
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「あなたは、モルガンの男踊りを踊れる。モルガンに滞在していたことがあるのね。ジプサムが毎年来ていたのも、あなたが勧めたのでしょう?あなたはモルガンの娘と恋をし、その娘と踊りたいために男踊りを覚えたのね。東には男踊りを踊れるものがいなかったから、きっと西のモルガン族の娘だったのね」
レグランは息をつめていたのか、ふっと息を吐き出した。
ユーディアを縛る結び目がほどけようとしていた。
「ご推察の通りだよ。君は、昔の彼女に似ているんだ。自由で無邪気で、時に残酷で。自身が男を惹きつけることなど全く考えもせず、無防備に誘惑する。俺は、リーンに、ディアに、振り回されてばかり」
「あなたのリーンは、どうなったの」
ふんわりと風に流れて漂って、窓に紙風船がこつんとぶつかった。
レグラン王は肩越しに、ほの明るく照らしては遠ざかる紙風船を追う。
近寄りがたく哀を帯びた男の目は、鎮魂の紙風船に何を見たのか。
ユーディアの脚を割る王の膝が落ちた。
「レギーが欲しいのは、わたしじゃなくその人なのね」
「君を手に入れたい気持ちは変わらないんだが」
ジプサムが熱に浮かされ呻いた。
王はユーディアを残し、ジプサムの横に立った。
手を伸ばし、ジプサムの額からずれ落ちて枕を濡らすタオルを横の桶に入れた。
だが、それだけだった。
もう用事がすんだといわんばかりにくるりと向きを変える。
王の脅威は、完全に払拭されたわけではない。
なんの確約も得たわけではなかった。
その顔に刻まれているのは、すべてを手に入れた覇王と言われながら、本当に欲しい愛を手に入れることがかなわなかった虚しさと悲しさ。
来た時と同様に音もなく去ろうとする王の袖を、ユーディアはつかんでいた。
レグラン王が、失った愛の身代わりをユーディアに求めるのならば、ユーディアは何もかも手に入れることができるだろう。
王座さえ手放してもいいというぐらいに、王はかつてモルガンの娘を愛したのだった。
「……引き留めるのか。せっかく見逃してやろうというのに」
「レギー、ジプサムを援助して」
「……考えておこう」
「ワニの解体を手伝ってくれた男たちがあなたを襲った事件に、星の宮の者たちはまったく無関係よ」
「そうだろうな。誰もそんなこと思ってないよ」
「ゼプシーのモルガン族の男たちはわたしに会いに来ただけだった」
「ゼプシーが臨時に雇った者たちのなかに知り合いが紛れているのは珍しいことではないな」
ユーディアは安堵する。
レグラン王はそこまでするつもりはなかったのだ。
そのまま行きかけて、レグラン王は足を止めた。
「……それで、君はどうするつもりだ?」
「ベルゼラにきて一年もたっていない。もっと学ぶ必要があるし、ジプサムを助けられることがあるのならばわたしのできることをやりたい」
「ジプサムを俺が援助するとすれば、あいつをトルメキアの姫と結婚させるぞ。強力な後ろ盾を得られるだろう。それで構わないのか?」
「構わない」
我知らず声が震える。
「取引が成立ということか?許嫁がいて俺の求愛にこたえるわけでもないのに、何をしてくれるというのか」
ユーディアは首を傾げた。
「キス?」
レギーは完全にユーディアに向き合い、笑った。
「ったく。君は、本当にまだ愛を知らないんだな」
第6話完
レグランは息をつめていたのか、ふっと息を吐き出した。
ユーディアを縛る結び目がほどけようとしていた。
「ご推察の通りだよ。君は、昔の彼女に似ているんだ。自由で無邪気で、時に残酷で。自身が男を惹きつけることなど全く考えもせず、無防備に誘惑する。俺は、リーンに、ディアに、振り回されてばかり」
「あなたのリーンは、どうなったの」
ふんわりと風に流れて漂って、窓に紙風船がこつんとぶつかった。
レグラン王は肩越しに、ほの明るく照らしては遠ざかる紙風船を追う。
近寄りがたく哀を帯びた男の目は、鎮魂の紙風船に何を見たのか。
ユーディアの脚を割る王の膝が落ちた。
「レギーが欲しいのは、わたしじゃなくその人なのね」
「君を手に入れたい気持ちは変わらないんだが」
ジプサムが熱に浮かされ呻いた。
王はユーディアを残し、ジプサムの横に立った。
手を伸ばし、ジプサムの額からずれ落ちて枕を濡らすタオルを横の桶に入れた。
だが、それだけだった。
もう用事がすんだといわんばかりにくるりと向きを変える。
王の脅威は、完全に払拭されたわけではない。
なんの確約も得たわけではなかった。
その顔に刻まれているのは、すべてを手に入れた覇王と言われながら、本当に欲しい愛を手に入れることがかなわなかった虚しさと悲しさ。
来た時と同様に音もなく去ろうとする王の袖を、ユーディアはつかんでいた。
レグラン王が、失った愛の身代わりをユーディアに求めるのならば、ユーディアは何もかも手に入れることができるだろう。
王座さえ手放してもいいというぐらいに、王はかつてモルガンの娘を愛したのだった。
「……引き留めるのか。せっかく見逃してやろうというのに」
「レギー、ジプサムを援助して」
「……考えておこう」
「ワニの解体を手伝ってくれた男たちがあなたを襲った事件に、星の宮の者たちはまったく無関係よ」
「そうだろうな。誰もそんなこと思ってないよ」
「ゼプシーのモルガン族の男たちはわたしに会いに来ただけだった」
「ゼプシーが臨時に雇った者たちのなかに知り合いが紛れているのは珍しいことではないな」
ユーディアは安堵する。
レグラン王はそこまでするつもりはなかったのだ。
そのまま行きかけて、レグラン王は足を止めた。
「……それで、君はどうするつもりだ?」
「ベルゼラにきて一年もたっていない。もっと学ぶ必要があるし、ジプサムを助けられることがあるのならばわたしのできることをやりたい」
「ジプサムを俺が援助するとすれば、あいつをトルメキアの姫と結婚させるぞ。強力な後ろ盾を得られるだろう。それで構わないのか?」
「構わない」
我知らず声が震える。
「取引が成立ということか?許嫁がいて俺の求愛にこたえるわけでもないのに、何をしてくれるというのか」
ユーディアは首を傾げた。
「キス?」
レギーは完全にユーディアに向き合い、笑った。
「ったく。君は、本当にまだ愛を知らないんだな」
第6話完
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