舞姫の君

藤雪花(ふじゆきはな)

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第6話 ベルゼラの王

51-2、霊送りの祭り 男踊り②

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 そう悟ったとき。
 関節が硬くこわばるようになった無骨な手が、女の首に伸びた。
 いつまでも美しい妻を永遠に自分のものにするには、彼女を殺すしかなかった。
 竜神の娘だった女の瞳が最後に写したのは、滂沱の涙を流す己のしわだらけの顔。
 最後の息を、男は吸い上げる。
 永遠に女の息が、己の60億個の細胞の一つに一つと結合し、体内にとどまることを強く願った。

 男の元には、ふたりの兄妹が残された。
 二人は生まれながらにして動物たちの言葉を解した。
 それは兄妹が大人になっても失われなかった。
 彼らがモルガン族の始祖である。
 母がそうであったように、子供たちは自由に草原を駆け、命がけの恋をする……。


 濃厚なキスに思考が停止していた。
 男の愛が流れ込む。
 これは踊りではなかった。
 頭が鷲捕まれ、腰に腕が回され動けない。
 ユーディアは、足りない酸素をもとめてあえいだ。
 レギーは己の息を吹き込んだ。
 男が奪った最後の息を、女に返すように。

 
 舞が終わる。
 楽の音も余韻が漂うのみ。
 歓声と拍手喝采に包まれるが、会場の一部で不穏なざわめきが混っていた。
 それは女姿のユーディアのことではなかった。
 モルガンの男踊りを見事に踊り切った仮面の男の方が、彼らをざわつかせていた。
 
「……男の踊り手、似ていないか?」
「まさか、でも、言われてみれば……?」
「男の仮面は、青い鱗の?そんなことあるはずがない……」
「蛮族の踊りを踊れるはずがないでしょ、われらの……が」

 最後の一言が、茫然自失していたユーディアを気づかせた。
 唇が離れた。

「レギーは、あなたは……」
 ユーディアは男の仮面を取る。
 青い鱗は龍の鱗。
 どんなものであれ龍の文様は、王族のもの。
 くっきりと目鼻立ちが刻まれたハンサムな顔。
 レギーはジプサムと似ているのだ。
 その顔に刻まれた苦悩の月日は、レギーの方がはるかに重く深い。
 哀を含んだ目が、ユーディアを見つめていた。

「俺の名は、レグラン・リュウジュ・フォルシス・ベルゼラ。ベルゼラの王であり、後宮の庭の手入れも気が向けばする」
 レグラン王の手が、ユーディアの仮面をずらした。




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