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第6話 ベルゼラの王
48-2、霊送りの祭り 漁港
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「見に行きたい!でも寄り道はするなとサニジンから言われている」
「俺が付いているからいいだろ?お前が外部と連絡を取ったり、危険に巻き込まれたりしないようにみはってやるから」
ユーディアはまだ用事があるというジャンと別れ、ベッカムとともに競馬の会場に行くことになった。
会場に近づくにつれて人は多くなり、強面のベッカムは一般人からは遠巻きにされ、休暇中の部下や知り合いからはやたら声をかけられている。中には女もいる。
彼らは久々に王都にでてきたベッカムと他愛もない会話をし、ベッカムが誰を連れているかを、抜け目なく確認している。
「お前、可愛い子を連れているな。男か女か?どっちにしろ可愛いな。だけど、今までのお前の趣味じゃないだろ」
「男。変な気起こすなよ。俺はコイツの護衛だ。お前らのようなヤツから守るためにいる」
「護衛って、その服は王宮の関係か?」
ユーディアは後ろから押されて流されそうになる。これほど多い人混みにもまれたことは初めてである。
ベッカムが慌てて手を掴んで引き寄せる。
「俺からはなれるな。金をかけているものがいるからやたら熱くなっているものもいる」
今度はがっつり手を掴まれた。
屋根のついた貴賓席にはジプサムがいた。
複数の女の姿がある。
ユーディアはとっさに視線を外し、それ以上見ないように決意する。
王城の馬場の5倍はありそうな巨大な競馬場で、ぐるりと三周18頭の人馬が走り、人々は腕を振り上げて熱狂する。
「有名な厩舎の軍馬も出ているし、俺の厩舎の馬も何頭かでている。俺の馬が勝つよ。モルガンの馬を手なずけられるいい調教師を雇ったんだ。彼は馬だけでなく、騎手の騎馬方法も改善し、レベルを上げてくれた。あとで紹介しよう」
ベッカムの予想した通り、ベッカムの馬は大差で優勝する。
ベッカムとユーディアは騎手たちを迎えられる場所に、人込みを分けて進んだ。
ベッカムは馬の首をたたき、騎手をほめたたえ、手綱を握る若い男をユーディアに紹介する。
「こんにちは。あなたがメモの主だったのですか?ありがとうございます。メモは、読んでもらいました。文字が読めないので。参考にさせていただきました」
髪は後ろで一つに結んでいる。
細身の体はいかにも俊敏そうな雰囲気を漂わせている。
「こ、こんにちは。とても調子が良いようで、安心しました」
「俺のことですか?」
「う、馬のことです。見事な走りで……」
ユーディアは何を話したかよく覚えていない。
目の前の調教師は、間違いなく悪友のカカであった。
ここで再会するとは思ってもみなかった。
ベッカムは騎手と話をしている。
ユーディアと幼馴染は口では会話をしながら、目立たぬように手で会話をする。
『俺は、ベッカムの厩舎で雇われている。ライードは商家の下働きから計算できることを買われ、気に入られて学校に行かせてもらっている。朝から晩まで勉強している。いいところまでいけるかもと本人も言っていた』
『いいところ?』
『智文館の文官として王城にはいりこむとかなんとか。俺はよくわからないけど』
それはむりでしょう、と口に出そうになるのをユーディアは飲み込んだ。
智文館で働く者たちは、ベルゼラの国政の土台を支えている。
素性の明白な、ベルゼラの国益の事を第一に考える者たちである。
『トーレスも商家にやとわれている。窓ふきから庭掃除、用心棒までなんでもしているって言っていた。シャビは、ゼプシーとともに行動している。霊送りの最終日、後宮の祭りに参加するっていっていたぞ。みんな、案外ユーディアに近いところにいるからな』
懐かしくも優しい目は、ユーディアを心配している。
『お前の方は大丈夫か?もうやめるのならば、いつでもやめてもいいんだ。ブルースの噂は聞くぞ。あいつは変わったな。変わらないのは、モルガンの髪型だけだが……』
『ブルースは変わってないわよ?ほぼ毎日図書館で勉強で顔を合わせるから』
『あいつはトニー隊長に気に入られ、残虐なことにも手を染める。懐刀と言われているそうじゃないか』
『残虐?懐刀?』
ユーディアは視線を感じた。
ベッカムが見ている。
「今度、あなたの調教した馬を乗りたい。今度、厩舎に遊びにいってもいいかな」
「もちろん。ベッカムさまのご友人ですから、いつでもどうぞ」
にこやかに声に出して会話を続ける。
目の端に、貴賓席から立ち上がり退席するジプサムをとらえた。
女子たちも立ち上がり、退席していく。
『霊送りの祭りの最終日、解放された後宮の舞台イベントに仮面をつけてわたしも参加する。わたしは女子に戻って、始まりの踊りを踊りたい。シャビに会うことがあれば、始まりの踊りのことを事前につたえていてほしい』
『わかった。久々に元気な顔をみれてうれしかったよ』
『僕も。じゃあまた』
『ああ』
カカのいうブルースの変化に不安を抱きつつも、友人との再会に、ユーディアは元気がでたのである。
※
翌日の朝、ジャンに一報が届いた。
巨大魚を漁師がとらえ、引き取るのなら早くひきとってくれ、とのことである。
急遽、チーム星の宮は招集された。
漁師がとらえたものは100キロのワニ。
ジャンはワニを捌いたことがない。
そもそもそんな恐ろしい生き物を間近で見たことがない。
ハルビン料理長は絶句し、誰か強烈に拒絶してくれ、と視線をさまよわせた。
「ワニ!?それはすごい!見たことないよ!狂暴なんでしょう!それはみんな度肝を抜くんじゃないかな!?ワニの解体ショーなら、優勝間違いなしでしょう!」
例によってユーディアが目を輝かせ、決定的な一言を口にする。
ワニを運んできたのは腕に渦巻き模様の入れ墨を入れた男。
漁労の民だった。
ハルビン料理長と入れ墨の男は交渉する。
無口そうなその男は祭りの最終日に解体を手伝うことを請け負ってくれた。
チーム星の宮は彼の手助けをし、切り分けられた肉を手際よく調理するということで、段取りが付いたのである。
「俺が付いているからいいだろ?お前が外部と連絡を取ったり、危険に巻き込まれたりしないようにみはってやるから」
ユーディアはまだ用事があるというジャンと別れ、ベッカムとともに競馬の会場に行くことになった。
会場に近づくにつれて人は多くなり、強面のベッカムは一般人からは遠巻きにされ、休暇中の部下や知り合いからはやたら声をかけられている。中には女もいる。
彼らは久々に王都にでてきたベッカムと他愛もない会話をし、ベッカムが誰を連れているかを、抜け目なく確認している。
「お前、可愛い子を連れているな。男か女か?どっちにしろ可愛いな。だけど、今までのお前の趣味じゃないだろ」
「男。変な気起こすなよ。俺はコイツの護衛だ。お前らのようなヤツから守るためにいる」
「護衛って、その服は王宮の関係か?」
ユーディアは後ろから押されて流されそうになる。これほど多い人混みにもまれたことは初めてである。
ベッカムが慌てて手を掴んで引き寄せる。
「俺からはなれるな。金をかけているものがいるからやたら熱くなっているものもいる」
今度はがっつり手を掴まれた。
屋根のついた貴賓席にはジプサムがいた。
複数の女の姿がある。
ユーディアはとっさに視線を外し、それ以上見ないように決意する。
王城の馬場の5倍はありそうな巨大な競馬場で、ぐるりと三周18頭の人馬が走り、人々は腕を振り上げて熱狂する。
「有名な厩舎の軍馬も出ているし、俺の厩舎の馬も何頭かでている。俺の馬が勝つよ。モルガンの馬を手なずけられるいい調教師を雇ったんだ。彼は馬だけでなく、騎手の騎馬方法も改善し、レベルを上げてくれた。あとで紹介しよう」
ベッカムの予想した通り、ベッカムの馬は大差で優勝する。
ベッカムとユーディアは騎手たちを迎えられる場所に、人込みを分けて進んだ。
ベッカムは馬の首をたたき、騎手をほめたたえ、手綱を握る若い男をユーディアに紹介する。
「こんにちは。あなたがメモの主だったのですか?ありがとうございます。メモは、読んでもらいました。文字が読めないので。参考にさせていただきました」
髪は後ろで一つに結んでいる。
細身の体はいかにも俊敏そうな雰囲気を漂わせている。
「こ、こんにちは。とても調子が良いようで、安心しました」
「俺のことですか?」
「う、馬のことです。見事な走りで……」
ユーディアは何を話したかよく覚えていない。
目の前の調教師は、間違いなく悪友のカカであった。
ここで再会するとは思ってもみなかった。
ベッカムは騎手と話をしている。
ユーディアと幼馴染は口では会話をしながら、目立たぬように手で会話をする。
『俺は、ベッカムの厩舎で雇われている。ライードは商家の下働きから計算できることを買われ、気に入られて学校に行かせてもらっている。朝から晩まで勉強している。いいところまでいけるかもと本人も言っていた』
『いいところ?』
『智文館の文官として王城にはいりこむとかなんとか。俺はよくわからないけど』
それはむりでしょう、と口に出そうになるのをユーディアは飲み込んだ。
智文館で働く者たちは、ベルゼラの国政の土台を支えている。
素性の明白な、ベルゼラの国益の事を第一に考える者たちである。
『トーレスも商家にやとわれている。窓ふきから庭掃除、用心棒までなんでもしているって言っていた。シャビは、ゼプシーとともに行動している。霊送りの最終日、後宮の祭りに参加するっていっていたぞ。みんな、案外ユーディアに近いところにいるからな』
懐かしくも優しい目は、ユーディアを心配している。
『お前の方は大丈夫か?もうやめるのならば、いつでもやめてもいいんだ。ブルースの噂は聞くぞ。あいつは変わったな。変わらないのは、モルガンの髪型だけだが……』
『ブルースは変わってないわよ?ほぼ毎日図書館で勉強で顔を合わせるから』
『あいつはトニー隊長に気に入られ、残虐なことにも手を染める。懐刀と言われているそうじゃないか』
『残虐?懐刀?』
ユーディアは視線を感じた。
ベッカムが見ている。
「今度、あなたの調教した馬を乗りたい。今度、厩舎に遊びにいってもいいかな」
「もちろん。ベッカムさまのご友人ですから、いつでもどうぞ」
にこやかに声に出して会話を続ける。
目の端に、貴賓席から立ち上がり退席するジプサムをとらえた。
女子たちも立ち上がり、退席していく。
『霊送りの祭りの最終日、解放された後宮の舞台イベントに仮面をつけてわたしも参加する。わたしは女子に戻って、始まりの踊りを踊りたい。シャビに会うことがあれば、始まりの踊りのことを事前につたえていてほしい』
『わかった。久々に元気な顔をみれてうれしかったよ』
『僕も。じゃあまた』
『ああ』
カカのいうブルースの変化に不安を抱きつつも、友人との再会に、ユーディアは元気がでたのである。
※
翌日の朝、ジャンに一報が届いた。
巨大魚を漁師がとらえ、引き取るのなら早くひきとってくれ、とのことである。
急遽、チーム星の宮は招集された。
漁師がとらえたものは100キロのワニ。
ジャンはワニを捌いたことがない。
そもそもそんな恐ろしい生き物を間近で見たことがない。
ハルビン料理長は絶句し、誰か強烈に拒絶してくれ、と視線をさまよわせた。
「ワニ!?それはすごい!見たことないよ!狂暴なんでしょう!それはみんな度肝を抜くんじゃないかな!?ワニの解体ショーなら、優勝間違いなしでしょう!」
例によってユーディアが目を輝かせ、決定的な一言を口にする。
ワニを運んできたのは腕に渦巻き模様の入れ墨を入れた男。
漁労の民だった。
ハルビン料理長と入れ墨の男は交渉する。
無口そうなその男は祭りの最終日に解体を手伝うことを請け負ってくれた。
チーム星の宮は彼の手助けをし、切り分けられた肉を手際よく調理するということで、段取りが付いたのである。
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