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第6話 ベルゼラの王
46、踊りの指南
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「君の、始まりの踊りは徹頭徹尾、楽しくていいんだけど。でもこれは竜神の娘の、世界の創世の踊りだろ?彼女が触れるところ見るところ感じるところに、動植物ができていく。踏みしめるあなうらに大地ができ、飛ぶ先に空がうまれた」
「そう。世界にどんどん命が生まれ世界が広がり、満ちていくの!だから、楽しく見えるように踊ったのよ?笛の音はちぐはぐだったけれど」
わかってないな、とレギーは眉をよせた。
だがその目は笑っている。
「彼女は文字通り神なんだ。前半は、大地と空とまぐわい生き物たちを産む、厳粛な世界創世の物語だ。だからもっと重々しさが必要なんじゃないか?そして後半は、二つ足の動物、つまり人間だな、が産み落とされた後には、竜神の女神はもっと、卑近な、人間的な感情を持つようになるんだ。厳かな存在から、愛らしく美しい人間の娘に変わる。踊りも変わる。それを最初から最後まで一本調子に踊られたら、見せられるほうとしては、少々退屈になる」
レギーは手厳しい。
「そんな解釈もできるかも。だけど、モルガンの神話を、まったく関係のないベルゼラの後宮の庭師に言われたくないわ」
「それだけ、物事をよく知っていると思ってくれると嬉しいんだが。そもそも、君の友人を好きという君の上司である姫か女官が、とっかえひっかえ来客を迎えているという話だったな。君の、上司という姫か女官、それとも侍女は誰だ?それとも奴隷として買われてきたのか?モルガン族の娘が後宮にいる話は聞いたことがない。それに、君を日中みかけないんだが……」
「さすがの庭師もすべてを把握するのは難しいのじゃないの?」
ユーディアは次第に落ちてくる夜闇とレギーが自分の所属を探ろうとする気配にそわそわし始めた。
大袈裟に頚を巡らして夜の気配を確認する。
そろそろ帰らないと道が暗くなる。
追及されるのもたまらない。
レギーは、ユーディアのいう上司を、後宮の女だと思っている。
ユーディアが星の宮の、ジプサムの小姓だとは気がついていない。
女が女の好意を巡って嫉妬するなんて考えたこともなかったユーディアは、男同士の色小姓があるのなら女同士も同じような関係があるのも当然だと、妙に納得してしまった。
レギーはユーディアと自分の位置を入れ替え、引き留める。
「今から、俺の本物の始まりの踊りを見せてやろうか」
「本物の?そんなこと男の人にできるはずがないじゃないの」
「そう思う?」
レギーは笛をユーディアに預けた。何度か身体を屈伸させ、呼吸を整えるとタンと飛び上がる。
それが合図だった。
威厳に満ちたレギーの女神は、重々しく大地に植物を鳥たちを動物を産み始めた。
大地に大空に、命が満ちる。
竜神の娘が望めば、すべてがかなう。
世界は彼女のためにあった。
ユーディアは目が釘付けになった。
男が踊る、はじめの踊りは初めてみたが、しなやかで荘厳で迫力があるのに、美しかった。
同じような振り付けなのに、確実に違う。
次第に踊るレギーがすこしばかり大柄なだけの、美女に見えてくるのが不思議だった。
レギーは息を切らし、始まりの踊りの中ほどでいったん終了する。
あたりは暗くなり、後半は、こまかな指の動きはわからないが、それはとるにたりない些細なことだった。
「すごい、信じられない」
ユーディアは称賛の声を上げ、拍手をせずにはいられなかった。
観客がいれば喝采を受ける素晴らしい始まりの踊りだった。
膝に手をつき、レギーは肩で息をしている。
「こんな感じだ。わかったか?」
「どうしてレギーが女の踊りを踊れるの。ここは後宮だし、もしかしてレギーは女……」
「そんなことあるはずないだろ。ちゃんとついているって言わなかったか?確かめてみるか」
「結構よ。それよりわたしももう一度踊ってみたいけど、もう帰らなきゃ」
「明日も来るか?」
「わからないわ」
「君の上司の、君の友人への好意をもう一度思い出させるために、もうとっかえひっかえ女子を宮に呼ばないように、君がもっとうまく踊れるようになって君の友人におしえてあげたらいい」
とてもまどろっこしい。
レギーのまじめな物言いは冗談のようにも聞こえる。
どこまでユーディアの話をまじめにとらえているのか測りかねた。
「そう。世界にどんどん命が生まれ世界が広がり、満ちていくの!だから、楽しく見えるように踊ったのよ?笛の音はちぐはぐだったけれど」
わかってないな、とレギーは眉をよせた。
だがその目は笑っている。
「彼女は文字通り神なんだ。前半は、大地と空とまぐわい生き物たちを産む、厳粛な世界創世の物語だ。だからもっと重々しさが必要なんじゃないか?そして後半は、二つ足の動物、つまり人間だな、が産み落とされた後には、竜神の女神はもっと、卑近な、人間的な感情を持つようになるんだ。厳かな存在から、愛らしく美しい人間の娘に変わる。踊りも変わる。それを最初から最後まで一本調子に踊られたら、見せられるほうとしては、少々退屈になる」
レギーは手厳しい。
「そんな解釈もできるかも。だけど、モルガンの神話を、まったく関係のないベルゼラの後宮の庭師に言われたくないわ」
「それだけ、物事をよく知っていると思ってくれると嬉しいんだが。そもそも、君の友人を好きという君の上司である姫か女官が、とっかえひっかえ来客を迎えているという話だったな。君の、上司という姫か女官、それとも侍女は誰だ?それとも奴隷として買われてきたのか?モルガン族の娘が後宮にいる話は聞いたことがない。それに、君を日中みかけないんだが……」
「さすがの庭師もすべてを把握するのは難しいのじゃないの?」
ユーディアは次第に落ちてくる夜闇とレギーが自分の所属を探ろうとする気配にそわそわし始めた。
大袈裟に頚を巡らして夜の気配を確認する。
そろそろ帰らないと道が暗くなる。
追及されるのもたまらない。
レギーは、ユーディアのいう上司を、後宮の女だと思っている。
ユーディアが星の宮の、ジプサムの小姓だとは気がついていない。
女が女の好意を巡って嫉妬するなんて考えたこともなかったユーディアは、男同士の色小姓があるのなら女同士も同じような関係があるのも当然だと、妙に納得してしまった。
レギーはユーディアと自分の位置を入れ替え、引き留める。
「今から、俺の本物の始まりの踊りを見せてやろうか」
「本物の?そんなこと男の人にできるはずがないじゃないの」
「そう思う?」
レギーは笛をユーディアに預けた。何度か身体を屈伸させ、呼吸を整えるとタンと飛び上がる。
それが合図だった。
威厳に満ちたレギーの女神は、重々しく大地に植物を鳥たちを動物を産み始めた。
大地に大空に、命が満ちる。
竜神の娘が望めば、すべてがかなう。
世界は彼女のためにあった。
ユーディアは目が釘付けになった。
男が踊る、はじめの踊りは初めてみたが、しなやかで荘厳で迫力があるのに、美しかった。
同じような振り付けなのに、確実に違う。
次第に踊るレギーがすこしばかり大柄なだけの、美女に見えてくるのが不思議だった。
レギーは息を切らし、始まりの踊りの中ほどでいったん終了する。
あたりは暗くなり、後半は、こまかな指の動きはわからないが、それはとるにたりない些細なことだった。
「すごい、信じられない」
ユーディアは称賛の声を上げ、拍手をせずにはいられなかった。
観客がいれば喝采を受ける素晴らしい始まりの踊りだった。
膝に手をつき、レギーは肩で息をしている。
「こんな感じだ。わかったか?」
「どうしてレギーが女の踊りを踊れるの。ここは後宮だし、もしかしてレギーは女……」
「そんなことあるはずないだろ。ちゃんとついているって言わなかったか?確かめてみるか」
「結構よ。それよりわたしももう一度踊ってみたいけど、もう帰らなきゃ」
「明日も来るか?」
「わからないわ」
「君の上司の、君の友人への好意をもう一度思い出させるために、もうとっかえひっかえ女子を宮に呼ばないように、君がもっとうまく踊れるようになって君の友人におしえてあげたらいい」
とてもまどろっこしい。
レギーのまじめな物言いは冗談のようにも聞こえる。
どこまでユーディアの話をまじめにとらえているのか測りかねた。
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