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第2部 ベルゼラ国 第5話 色小姓
33、愚図な子①
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ユーディアは思い出す限り、いつだって同年代のリーダーだった。
ブルースは自分を立ててくれるし、ユーディアがこうだと思ったことは大抵、友人たちは不満を漏らしはしても、大ぴらに反対することはなかった。
それは、何の責任もない悪ふざけであったり、子供たちだけのちょっとした冒険であったり。
特別頭がいいとは思わないけれど、馬鹿ではない。
好奇心が旺盛で思い切りがいいとよく言われた。
興味があることはとことん追求するし、多少の困難があってもへこたれたことはない。そして、自分の決断が間違っていたとしても、挽回して周囲を認めさせるだけの努力はしてきた。
それが、ユーディアなのだ。
だから、友人たちはユーディアを認めてくれていたのだと思う。
ユーディアがまだ幼い頃、父がユーディアに東のモルガンを継がせると宣言したこともあったけれど。
ユーディアがベルゼラに来たのも、ユーディアがそうしたいと決断したから、ここにいる。
もちろん、初めからうまくいくとは思っていない。
どんなことでも甘んじて耐え忍ぶ覚悟があった。
いつもそうだったように、自分にはできる。
……できるはずだと思うのだ。
髪を後ろで一つにお団子にまとめた女がユーディアに小言を言っていた。
ユーディアは夜眠れなくなっていた。
部屋をでて、館内をうろつき、遠くの街灯りや、大河を運行する船のランタンを遠くに見て、夜空を仰ぎ星を見た。
そうして戻ってきたのが明け方で、ようやく熟睡したばかりであった。
目を吊り上げてユーディアの眠りを妨害するのは、30歳を超えたぐらいの女は古株の侍女である。
身体に巻き付けていたシーツをはぎ取ったのだ。
「今日の朝の予定を書いたメモをおいていたでしょう!どうしてジプサムさまの部屋の着替えの準備ができていないのよ!」
彼女が指さしたのは小さな机の上に置いた紙である。
「ああ、何やらみみずの這うようなものが書いてあったけど、それが何か」
女は激怒した。
「わたしの字が汚いっていうの!?もういいわ!今日はもうわたしが当番じゃないけれどジプサムさまの朝の準備をしたから、台所の方へ行って昼まで手伝いなさい」
「じゃあ、明日の朝は」
女はユーディアが昨日着て椅子に掛けていた服を掴んでユーディアに押し付けた。
これを毎日着ることになっている。
ユーディアに与えられたのはその一着だけだった。
「明日からはジプサムさまの朝の準備の手伝いから外れてもらうわ。あんた、使えないから。5時半に起きて朝食の準備を手伝いなさい、その後は、掃除班と一緒に行動しなさい!まったく愚図な子ね。ジプサムさまも厄介なものを連れてきたものね。坊ちゃまの資質を疑うわ」
愚図で厄介者といわれてユーディアは唇を噛んだ。
このようになじられたことは、モルガン族の中ではない。
だが、ここではユーディアはすっかり馴染みのある言葉になってしまっている。
「僕の厄介度とジプサム王子の資質は関係ないでしょう」
ユーディアは自分のことに関しては言い返せないが、自分以外の事ならなんとか言い返せた。
女は案の定、目を吊り上げた。
「ったく。口だけは達者ね。はい、そうですね、わかりました、申し訳ありません、すぐいたします。あんたが口にする言葉はそれだけで十分なんだから!自分の立場をわきまえなさい」
この侍女からだけでなく、ユーディアは常に、ののしられる対象となっていた。
ユーディアに仕事を教えてくれる者たちは初めは王子が連れてきた者ということで気を使ってくれていた。
だが次第に、その顔から笑顔が消えて、怪訝な顔になり、イライラを隠せないようになり、最後には抑えきれない怒りが爆発する。
ユーディアにはそれがどうしてなのか、良くわからない。
彼らの言うことも、指さして教えようとすることも、良く分からない。
ジプサムかサムジンに相談すべきだと思うが、話しかけようとしたらユーディア担当になったあの侍女にものすごい形相でにらまれた。
夜食が罰として少しずつ減らされていき、昨日の夜はみんなの3分の1である。
彼女の機嫌を損ねたらいけないことを学んだ。
ユーディアは眠い目をこすり、押し付けられた服に着替えた。
もう一枚服が欲しい。
でもどうやって手に入れるのかわからない。
昨日、炎天下の元、庭作業を手伝ったので汗をかき、泉で綺麗にする前に、別の用事を命じられた。
これぐらいの汚れはベルゼラ人は気にならないのだろうか。
ここでは女も男もユーディアが馬鹿なことをするのを待っていた。
ユーディアは助けてくれるものもなく、ひとりだった。
ブルースは自分を立ててくれるし、ユーディアがこうだと思ったことは大抵、友人たちは不満を漏らしはしても、大ぴらに反対することはなかった。
それは、何の責任もない悪ふざけであったり、子供たちだけのちょっとした冒険であったり。
特別頭がいいとは思わないけれど、馬鹿ではない。
好奇心が旺盛で思い切りがいいとよく言われた。
興味があることはとことん追求するし、多少の困難があってもへこたれたことはない。そして、自分の決断が間違っていたとしても、挽回して周囲を認めさせるだけの努力はしてきた。
それが、ユーディアなのだ。
だから、友人たちはユーディアを認めてくれていたのだと思う。
ユーディアがまだ幼い頃、父がユーディアに東のモルガンを継がせると宣言したこともあったけれど。
ユーディアがベルゼラに来たのも、ユーディアがそうしたいと決断したから、ここにいる。
もちろん、初めからうまくいくとは思っていない。
どんなことでも甘んじて耐え忍ぶ覚悟があった。
いつもそうだったように、自分にはできる。
……できるはずだと思うのだ。
髪を後ろで一つにお団子にまとめた女がユーディアに小言を言っていた。
ユーディアは夜眠れなくなっていた。
部屋をでて、館内をうろつき、遠くの街灯りや、大河を運行する船のランタンを遠くに見て、夜空を仰ぎ星を見た。
そうして戻ってきたのが明け方で、ようやく熟睡したばかりであった。
目を吊り上げてユーディアの眠りを妨害するのは、30歳を超えたぐらいの女は古株の侍女である。
身体に巻き付けていたシーツをはぎ取ったのだ。
「今日の朝の予定を書いたメモをおいていたでしょう!どうしてジプサムさまの部屋の着替えの準備ができていないのよ!」
彼女が指さしたのは小さな机の上に置いた紙である。
「ああ、何やらみみずの這うようなものが書いてあったけど、それが何か」
女は激怒した。
「わたしの字が汚いっていうの!?もういいわ!今日はもうわたしが当番じゃないけれどジプサムさまの朝の準備をしたから、台所の方へ行って昼まで手伝いなさい」
「じゃあ、明日の朝は」
女はユーディアが昨日着て椅子に掛けていた服を掴んでユーディアに押し付けた。
これを毎日着ることになっている。
ユーディアに与えられたのはその一着だけだった。
「明日からはジプサムさまの朝の準備の手伝いから外れてもらうわ。あんた、使えないから。5時半に起きて朝食の準備を手伝いなさい、その後は、掃除班と一緒に行動しなさい!まったく愚図な子ね。ジプサムさまも厄介なものを連れてきたものね。坊ちゃまの資質を疑うわ」
愚図で厄介者といわれてユーディアは唇を噛んだ。
このようになじられたことは、モルガン族の中ではない。
だが、ここではユーディアはすっかり馴染みのある言葉になってしまっている。
「僕の厄介度とジプサム王子の資質は関係ないでしょう」
ユーディアは自分のことに関しては言い返せないが、自分以外の事ならなんとか言い返せた。
女は案の定、目を吊り上げた。
「ったく。口だけは達者ね。はい、そうですね、わかりました、申し訳ありません、すぐいたします。あんたが口にする言葉はそれだけで十分なんだから!自分の立場をわきまえなさい」
この侍女からだけでなく、ユーディアは常に、ののしられる対象となっていた。
ユーディアに仕事を教えてくれる者たちは初めは王子が連れてきた者ということで気を使ってくれていた。
だが次第に、その顔から笑顔が消えて、怪訝な顔になり、イライラを隠せないようになり、最後には抑えきれない怒りが爆発する。
ユーディアにはそれがどうしてなのか、良くわからない。
彼らの言うことも、指さして教えようとすることも、良く分からない。
ジプサムかサムジンに相談すべきだと思うが、話しかけようとしたらユーディア担当になったあの侍女にものすごい形相でにらまれた。
夜食が罰として少しずつ減らされていき、昨日の夜はみんなの3分の1である。
彼女の機嫌を損ねたらいけないことを学んだ。
ユーディアは眠い目をこすり、押し付けられた服に着替えた。
もう一枚服が欲しい。
でもどうやって手に入れるのかわからない。
昨日、炎天下の元、庭作業を手伝ったので汗をかき、泉で綺麗にする前に、別の用事を命じられた。
これぐらいの汚れはベルゼラ人は気にならないのだろうか。
ここでは女も男もユーディアが馬鹿なことをするのを待っていた。
ユーディアは助けてくれるものもなく、ひとりだった。
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