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第4話 捕虜
23-3、勝負②
しおりを挟む「トニー隊長……」
腕を押さえて顔をひきつらせたのはヤン。
地面に顔を擦り付けるようにして伏せている。
いままで捕虜をいたぶっていた男たちも似たり寄ったりな格好である。
彼らは顔色を変えた。
トニー隊長が、鷹の攻撃を避けるためにかがんでいる男たちの間を歩く。
ジャンの横を通り過ぎた。
モルガンの二人は腕を空に振り上げ、鷹を再び大空に放った。
鷹は上空で再び円を描き待機する。
ジャンは、その光景をこの数日何度も眼にしていたことを思い出した。
いつからか気が付けば、鷹は上空を旋回していた。
鷹はブルースの鷹だったのだ。
「お前、俺の部隊に入らないか?その見事な戦いぶり、気に入った」
血に飢えたような興奮は今はもうどこにもない。
今までと違う種類の動揺が走り、場がざわめいた。
トニーの部隊に入るには、厳しい試験を潜り抜けなければならない。
彼らはそうして選出された精鋭部隊である。
銀髪の男の腕にまくオレンジの腕章をブルースは見て眉を寄せる。
「こいつらの族長かなにかか?あんたの部族に入っても俺の得るものはなさそうだからやめておく」
すげない答えに普段は柔和なトニー隊長の表情が固まった。
ジャンははらはらと成り行きを見守った。
普通なら、トニー隊長の入団の誘いを断る腕に覚えのある男はいない。
「ヤンのような奴らばかりではない。かれらはきちんと処罰する。俺はあんたが欲しくなったんだ。その腕の手当ても腐り落ちないようにきちんとしてやる」
素手で鷹を止まらせた腕からは鮮血が流れ出て、手の甲を伝い指先からしたたり落ち続けている。
「俺はユーディアと離れるつもりはない」
ブルースは宣言する。
トニー隊長は横目でユーディアを見て、ため息をつく。
「お前たちは兄弟かなにかか?なら、しかるべき手順を踏んで手に入れることになるが。二人ともとりあえず面倒をみてやる。今だけだから心配するな」
その後ブルースとユーディアはトニー隊長の天幕に強引に引き入れられた。
捕虜にあるまじき特別待遇である。
身体を清め、新たな服を与えられ、怪我の手当てをされる。
夕食を運びにジャンは檻馬車に向かう。
檻馬車の当番だったベッカム隊により檻馬車は綺麗に掃除をされていた。
夕食時の見物人は昼間の事件の後で誰もいなかった。
中をのぞくと誰かからさしいれられたのかクッションを背に、捕虜二人は優雅に寝そべっていたのである。
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