舞姫の君

第4話 捕虜

22-2、勝負①

「俺もベルゼラ兵の実力を確かめたいと思っていたところだった。いつも檻の外で騒ぐばかりの口ばかりの者たちだから本当は弱いんじゃないかって思っていたところだった。このままで勝負をするか？俺には武器があることになるが」

　こぶしをつくった腕を突き出し横に引くと、ジャンと金属は音を立てた。
　これで首を絞めたり押さえつけたりすることができるとの表示である。
　ヤンたちは顔を見合わせた。
　武器になりうる拘束具だった。
「こいつの鎖を解けるか？手だけじゃなく足も外してやれ」
　成り行きを見守っていた黄色の腕章の男たちは顔を見合わせる。
「殺すなよ。ほら」

　そういいつつ、一人がポケットの中から取り出した鍵を捕虜に投げた。
　空中でこともなげに掴んだ捕虜は、自分で手足の戒めの鍵を外し、その鍵をもう一人の方へ落とす。
　捕虜の二人は戒めから解放され、それぞれ手首をこすっている。
　ジャンには小柄な方の男の手首についた赤い跡が見えた。

「ブルース、僕も一緒に体を動かそうか」
「ユーディア、俺だけでいい」

　まるで体操をするような声かけである。
　ブルースが片腕ずつ背後へ大きく伸ばした。
　両手首が繋がれていた時にはできない動きに、ブルースの口元に満足気な笑みが浮かぶ。

　褐色の方がブルース。
　小柄なほうがユーディア。

　ジャンは初めて二人の名前を知った。
　ブルースは長身ではあるが身体は細い。
　対して、対峙するヤンをはじめ、ベルゼラ兵はいずれもブルースよりも縦にも横にも身体は大きかった。腕の筋肉の筋のひとつひとつが目に見えるぐらいに鍛え上げている。
　モルガンの若者、ブルースが勝てるとは思えない肉体差で、腕を組み見学を決め込んだ男たちの顔に、余裕の表情が浮かぶ。
　にやにやと下品な笑いを浮かべる者たちもいる。
　ヤンが負けるとは誰一人思っていないのだ。
　ヤンだけが、未知の相手に両拳を胸の前に作り体を固くする。
　ブルースは腰を落とした。腕は柔らかく体側に落としたままである。
　ただ10本の指先が何かを奏でるように動いていた。

　ブルースとヤンは睨みあい、間合いをはかりあった。
　一瞬、視界が暗くなる。
　ジャンが見上げると大空に数羽の鷹が円を描き舞い、太陽の光を遮っていた。
　ブルースとヤンの勝負が始まったのである。