37 / 238
第3話 王子と舞姫
19-2、それぞれの選択 (第3話完)
しおりを挟む
「ブルースはどうするの、わたしたちと共に行く?それともユーディアさまと奴隷になるの?」
「俺の道はユーディアと共にある」
ユーディアが息を吐き、安堵する気配。
それを聞くだけで、ユーディアもブルースと共にありたいということを知る。ブルースの決意は固まった。
「髪を切った男どもはどうするの?」
サラサが幌馬車に向かって声をかけた。
「捕虜には戻りたくないなあ。モテそうにないだろうし」
カカである。
部族一細かに編んだ自慢の髪はもうない。
「捕虜には、っていうことは?」
ユーディアが聞き直した。
「捕虜になり奴隷になれば、自由が利かなくなりそうだ。なら、俺たちは別の方面からベルゼラに入り、ユーディアたちを援護することを考えたほうがよさそうだ」
眼鏡のライードが思案する声。
「俺も。別方面で。」
大きな身体に似合わず、ぽつりとトーラスが言う。
彼らの方向性も決まったのだった。
※
そして、翌朝。
ジプサムは捕虜が逃げたという報告で起こされた。
「なんだって!?」
大げさに声を上げた。
仏頂面をつくる。
宴の片付けができておらず、思わぬところに頭を突っ込み寝ている者たちがいる陣地を速足に抜ける。
後ろを歩くサニジンは、見かねて酔っ払いと食べ残しを早く片付けろと指示をしている。
外れの捕虜の檻の馬車の前には、真っ青な顔の男が地面に正座していた。ジプサムの姿を目にして、地面に頭を擦り付けひれ伏した。
「申し訳ございません!!朝起きたら捕虜が逃げておりました」
「そうか。捕虜が逃げたか」
「捕虜の3名が、忽然と消えていたのです!何がなんだかわかりません!」
「そうか。……、3名だって?」
ジプサムは思わず聞き直した。
「昨晩見たときは確か……」
もぬけの殻だった。
ジプサムは鉄格子の奥に座る影をみた。
一人は膝を抱えるようにして、一人は胡坐をかいている。
向かい合うようにして座っている二つの影があった。
「ほろを上げ、中を見せろ」
頭を地面に擦り付けていた一人が立ちあがり、幌をずらして中に朝の光を入れる。
中の二人は眩し気に瞬いた。
ひとりは華奢な体つきに顔立ちの美しい若者、ユーディア。
もうひとりは、褐色の肌の野生の豹のような静謐な迫力のある若者、ブルース。
「おはよう!ジプサム!」
囚われ人とは思われない元気さでユーディアは言い、伸びをした。
ブルースは憮然とした表情でジプサムを睨んだのみ。
「どうして、お前たちが、ここにいる」
「ジプサム、ベルゼラに来いと言っていただろ。この際いい機会だから行くことにした」
ジプサムは絶句する。
「再び舞い戻ってくるとはありえない無知さですね……」
ジプサムの背後で、細い目を精一杯見開いたサニジンがあきれてつぶやいた。
檻の中でユーディアは、ジプサム王子に爽やかに笑いかけたのだった。
第3話 王子と舞姫 完
「俺の道はユーディアと共にある」
ユーディアが息を吐き、安堵する気配。
それを聞くだけで、ユーディアもブルースと共にありたいということを知る。ブルースの決意は固まった。
「髪を切った男どもはどうするの?」
サラサが幌馬車に向かって声をかけた。
「捕虜には戻りたくないなあ。モテそうにないだろうし」
カカである。
部族一細かに編んだ自慢の髪はもうない。
「捕虜には、っていうことは?」
ユーディアが聞き直した。
「捕虜になり奴隷になれば、自由が利かなくなりそうだ。なら、俺たちは別の方面からベルゼラに入り、ユーディアたちを援護することを考えたほうがよさそうだ」
眼鏡のライードが思案する声。
「俺も。別方面で。」
大きな身体に似合わず、ぽつりとトーラスが言う。
彼らの方向性も決まったのだった。
※
そして、翌朝。
ジプサムは捕虜が逃げたという報告で起こされた。
「なんだって!?」
大げさに声を上げた。
仏頂面をつくる。
宴の片付けができておらず、思わぬところに頭を突っ込み寝ている者たちがいる陣地を速足に抜ける。
後ろを歩くサニジンは、見かねて酔っ払いと食べ残しを早く片付けろと指示をしている。
外れの捕虜の檻の馬車の前には、真っ青な顔の男が地面に正座していた。ジプサムの姿を目にして、地面に頭を擦り付けひれ伏した。
「申し訳ございません!!朝起きたら捕虜が逃げておりました」
「そうか。捕虜が逃げたか」
「捕虜の3名が、忽然と消えていたのです!何がなんだかわかりません!」
「そうか。……、3名だって?」
ジプサムは思わず聞き直した。
「昨晩見たときは確か……」
もぬけの殻だった。
ジプサムは鉄格子の奥に座る影をみた。
一人は膝を抱えるようにして、一人は胡坐をかいている。
向かい合うようにして座っている二つの影があった。
「ほろを上げ、中を見せろ」
頭を地面に擦り付けていた一人が立ちあがり、幌をずらして中に朝の光を入れる。
中の二人は眩し気に瞬いた。
ひとりは華奢な体つきに顔立ちの美しい若者、ユーディア。
もうひとりは、褐色の肌の野生の豹のような静謐な迫力のある若者、ブルース。
「おはよう!ジプサム!」
囚われ人とは思われない元気さでユーディアは言い、伸びをした。
ブルースは憮然とした表情でジプサムを睨んだのみ。
「どうして、お前たちが、ここにいる」
「ジプサム、ベルゼラに来いと言っていただろ。この際いい機会だから行くことにした」
ジプサムは絶句する。
「再び舞い戻ってくるとはありえない無知さですね……」
ジプサムの背後で、細い目を精一杯見開いたサニジンがあきれてつぶやいた。
檻の中でユーディアは、ジプサム王子に爽やかに笑いかけたのだった。
第3話 王子と舞姫 完
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる