舞姫の君

藤雪花(ふじゆきはな)

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第3話 王子と舞姫

19-2、それぞれの選択 (第3話完)

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「ブルースはどうするの、わたしたちと共に行く?それともユーディアさまと奴隷になるの?」
「俺の道はユーディアと共にある」

 ユーディアが息を吐き、安堵する気配。
 それを聞くだけで、ユーディアもブルースと共にありたいということを知る。ブルースの決意は固まった。

「髪を切った男どもはどうするの?」
 サラサが幌馬車に向かって声をかけた。
「捕虜には戻りたくないなあ。モテそうにないだろうし」
 カカである。
 部族一細かに編んだ自慢の髪はもうない。
「捕虜には、っていうことは?」
 ユーディアが聞き直した。
「捕虜になり奴隷になれば、自由が利かなくなりそうだ。なら、俺たちは別の方面からベルゼラに入り、ユーディアたちを援護することを考えたほうがよさそうだ」
 眼鏡のライードが思案する声。
「俺も。別方面で。」
 大きな身体に似合わず、ぽつりとトーラスが言う。
 彼らの方向性も決まったのだった。





 そして、翌朝。
 ジプサムは捕虜が逃げたという報告で起こされた。
「なんだって!?」
 大げさに声を上げた。
 仏頂面をつくる。
 宴の片付けができておらず、思わぬところに頭を突っ込み寝ている者たちがいる陣地を速足に抜ける。
 後ろを歩くサニジンは、見かねて酔っ払いと食べ残しを早く片付けろと指示をしている。

 外れの捕虜の檻の馬車の前には、真っ青な顔の男が地面に正座していた。ジプサムの姿を目にして、地面に頭を擦り付けひれ伏した。

「申し訳ございません!!朝起きたら捕虜が逃げておりました」
「そうか。捕虜が逃げたか」
「捕虜の3名が、忽然と消えていたのです!何がなんだかわかりません!」
「そうか。……、3名だって?」
 ジプサムは思わず聞き直した。
「昨晩見たときは確か……」

 もぬけの殻だった。
 ジプサムは鉄格子の奥に座る影をみた。
 一人は膝を抱えるようにして、一人は胡坐をかいている。
 向かい合うようにして座っている二つの影があった。

「ほろを上げ、中を見せろ」
 頭を地面に擦り付けていた一人が立ちあがり、幌をずらして中に朝の光を入れる。

 中の二人は眩し気に瞬いた。
 ひとりは華奢な体つきに顔立ちの美しい若者、ユーディア。
 もうひとりは、褐色の肌の野生の豹のような静謐な迫力のある若者、ブルース。

「おはよう!ジプサム!」
 囚われ人とは思われない元気さでユーディアは言い、伸びをした。
 ブルースは憮然とした表情でジプサムを睨んだのみ。

「どうして、お前たちが、ここにいる」
「ジプサム、ベルゼラに来いと言っていただろ。この際いい機会だから行くことにした」

 ジプサムは絶句する。
「再び舞い戻ってくるとはありえない無知さですね……」
 ジプサムの背後で、細い目を精一杯見開いたサニジンがあきれてつぶやいた。

 檻の中でユーディアは、ジプサム王子に爽やかに笑いかけたのだった。



第3話 王子と舞姫 完
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