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第2話 モルガンの誇り
8-2、若者たちの決断
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ユーディアも決断する。
「ブルースが行くというのなら、僕も行く。我らはベルゼラの王子、ジプサムと友人である。彼の助けを得て、軍をとめることもできるかもしれない」
「そうだ。ジプサムがいる!わざわざ警告してくれたんだから」
シャビが期待を込めて言う。
「その頼りの綱の王子さまとやらは俺らに逃げろといった。状況はよくないのだろう。ユーディアたちは必要ない、俺ひとりで行く。これは西の問題であり、東のお前たちが追放や、戦に巻き込まれなくてもいい」
「もし仮りに既に戦闘が起こっているのならば、怪我人への我らの助けが必要になるかもしれない。だから、僕たちが行くとしても、それは父の懸念しているベルゼラとの戦に加わるというわけではない。ベルゼラ軍がどういうものか知りたい。とにかく見届けに行く」
ユーディアの決断に若者たちは勢い付いた。
「ユーディアとブルースが行くのならば俺も行く!」
そう言ったのはカカ。
一番細かな三つ編みの頭に、長い手足で、馬の扱いに関しては、父親も舌を巻くほどの技術をもつ。
ライードは頷き、頭の後ろで紐で縛る眼鏡のガラスの位置を整えた。
シャビは、ブルースの下半身を押さえるのをやめトンボ返りして賛同を示した。
大柄なトーレスは、勇気づけるように無言でばんばんとブルースの肩を叩いた。
彼らは体の大小、目の良しあしはあるとはいえ、子供のころから大自然の中で鍛え上げられた強靭な筋肉の、モルガンの戦士となれる者たちである。
そうと決まれば、ユーディアたちの行動は早かった。
放牧している彼らの馬を口笛、指笛で呼ぶ。
宿営地にもどると既に、あちらこちらにあった彼らの移動式幕舎は塊になり、ごろりと転がされていた。
ゼオンはユーディアたちを見て、彼らの決断を受け入れられないことを示すように首を振るが、部族長としてのゼオンの決断が覆らないように、ユーディアたちの決断も変わらない。
ユーディアには母が、姉が涙を浮かべ鞍上のユーディアに抱擁を交わす。
別れの抱擁ともいえるような、離れるときに引き裂かれるような辛さがあった。
あちこちで、危険を顧みず行動しようとする若者たちに抱擁がかわされる。
幸運を祈るまじないが、さざ波のようにつぶやかれた。
最後まで首をふりつづけたのはサラサ。
わたしも行くと涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら言い続けた。
星読みの婆が母に手を引かれてユーディアの前に行く。
「婆さま、僕が最後のモルガン族の族長になるという未来は変わってないのでしょうか」
「星が定めた運命も、別の大きな定めを背負った者たちとの出会いや、細かな選択で変わりうる。未来は常に不確定じゃ。わしが告げたのは一番ありうる未来だということにすぎないんじゃ。それに、言葉は様々な意味を孕んでいる。ひとつの状況を説明するのに、良いようにも悪いようにもいかようにも解釈することができるのじゃ。たとえ良いこととしたことでも、長い星の命のなかでは良いと言えないこともあるし、最悪の事態が、すべてを好転させる良き事であることもあり得る……」
婆と話をするといつも混乱する。
馬上のブルースたちが待っている。
あらゆることを想定した救命道具の準備で、思いがけず時間がかかってしまっている。
「それは一体どういう意味……」
婆は歯のない顔を一層しわしわにして笑った。
「お前の選択し行動するひとつひとつが、さまざまなものに共鳴を起しながら未来の道を定めていくということじゃ」
「心しながら行動せよ、ということじゃないか?」
眼鏡のライードは婆の言葉を要約する。
時に婆のとの会話は問答のようになって気が付けば日が落ちていたということもある。
母はユーディアに行ってほしくないのだった。
時間稼ぎの母の策略だと知る。
馬を降りて、婆とこれ以上踏み込んで話をするのは今ではない。
婆の頬に、母の頬にユーディアはキスをする。
「わかった。では行ってくる。幸運を祈っていて」
「ユーディア、自分が女であることも忘れるな」
ゼオンが苦悩を隠し切れない顔で、最後に声をかけた。
ユーディアは振り返り、見送る部族の者たちの姿を目に焼き付けた。
若者たちは西の宿営地を目指したのである。
「ブルースが行くというのなら、僕も行く。我らはベルゼラの王子、ジプサムと友人である。彼の助けを得て、軍をとめることもできるかもしれない」
「そうだ。ジプサムがいる!わざわざ警告してくれたんだから」
シャビが期待を込めて言う。
「その頼りの綱の王子さまとやらは俺らに逃げろといった。状況はよくないのだろう。ユーディアたちは必要ない、俺ひとりで行く。これは西の問題であり、東のお前たちが追放や、戦に巻き込まれなくてもいい」
「もし仮りに既に戦闘が起こっているのならば、怪我人への我らの助けが必要になるかもしれない。だから、僕たちが行くとしても、それは父の懸念しているベルゼラとの戦に加わるというわけではない。ベルゼラ軍がどういうものか知りたい。とにかく見届けに行く」
ユーディアの決断に若者たちは勢い付いた。
「ユーディアとブルースが行くのならば俺も行く!」
そう言ったのはカカ。
一番細かな三つ編みの頭に、長い手足で、馬の扱いに関しては、父親も舌を巻くほどの技術をもつ。
ライードは頷き、頭の後ろで紐で縛る眼鏡のガラスの位置を整えた。
シャビは、ブルースの下半身を押さえるのをやめトンボ返りして賛同を示した。
大柄なトーレスは、勇気づけるように無言でばんばんとブルースの肩を叩いた。
彼らは体の大小、目の良しあしはあるとはいえ、子供のころから大自然の中で鍛え上げられた強靭な筋肉の、モルガンの戦士となれる者たちである。
そうと決まれば、ユーディアたちの行動は早かった。
放牧している彼らの馬を口笛、指笛で呼ぶ。
宿営地にもどると既に、あちらこちらにあった彼らの移動式幕舎は塊になり、ごろりと転がされていた。
ゼオンはユーディアたちを見て、彼らの決断を受け入れられないことを示すように首を振るが、部族長としてのゼオンの決断が覆らないように、ユーディアたちの決断も変わらない。
ユーディアには母が、姉が涙を浮かべ鞍上のユーディアに抱擁を交わす。
別れの抱擁ともいえるような、離れるときに引き裂かれるような辛さがあった。
あちこちで、危険を顧みず行動しようとする若者たちに抱擁がかわされる。
幸運を祈るまじないが、さざ波のようにつぶやかれた。
最後まで首をふりつづけたのはサラサ。
わたしも行くと涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら言い続けた。
星読みの婆が母に手を引かれてユーディアの前に行く。
「婆さま、僕が最後のモルガン族の族長になるという未来は変わってないのでしょうか」
「星が定めた運命も、別の大きな定めを背負った者たちとの出会いや、細かな選択で変わりうる。未来は常に不確定じゃ。わしが告げたのは一番ありうる未来だということにすぎないんじゃ。それに、言葉は様々な意味を孕んでいる。ひとつの状況を説明するのに、良いようにも悪いようにもいかようにも解釈することができるのじゃ。たとえ良いこととしたことでも、長い星の命のなかでは良いと言えないこともあるし、最悪の事態が、すべてを好転させる良き事であることもあり得る……」
婆と話をするといつも混乱する。
馬上のブルースたちが待っている。
あらゆることを想定した救命道具の準備で、思いがけず時間がかかってしまっている。
「それは一体どういう意味……」
婆は歯のない顔を一層しわしわにして笑った。
「お前の選択し行動するひとつひとつが、さまざまなものに共鳴を起しながら未来の道を定めていくということじゃ」
「心しながら行動せよ、ということじゃないか?」
眼鏡のライードは婆の言葉を要約する。
時に婆のとの会話は問答のようになって気が付けば日が落ちていたということもある。
母はユーディアに行ってほしくないのだった。
時間稼ぎの母の策略だと知る。
馬を降りて、婆とこれ以上踏み込んで話をするのは今ではない。
婆の頬に、母の頬にユーディアはキスをする。
「わかった。では行ってくる。幸運を祈っていて」
「ユーディア、自分が女であることも忘れるな」
ゼオンが苦悩を隠し切れない顔で、最後に声をかけた。
ユーディアは振り返り、見送る部族の者たちの姿を目に焼き付けた。
若者たちは西の宿営地を目指したのである。
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