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第1部草原の掟 第1話 草原の民
6-2、男髪
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里帰りする一番目の姉を捕まえては、踊りを教えてくれとせがむ。
姉はユーディアの変わりように驚くが、喜んで付き合ってくれる。
三歳上の二番目の姉は、時折面倒な顔を見せたが、根気強くユーディアに付き合った。
姉たちはユーディアに約束をさせる。
踊りの稽古する時は、男髪は禁止であること。
細かく男髪をしているときも、きつく大きく三つ編みをしている時もあったが、ユーディアが踊りの前に髪を解き、女のように柔らかに結び直すと、ユーディアは女たちの仲間になった。
踊りの練習の合間のおしゃべりに巻き込まれた。
稽古が頻繁になるにつれて、姉たちがいない時もある。
ユーディアは悩んだ末にサラサにお願いをすることにした。
「ちょっとサラサに手伝ってほしいんだ」
「わたしに何を?」
「いいから来て。髪を洗って欲しいんだ」
「髪を?」
サラサは、りりしい男髪のユーディアに頼まれて目に見えて緊張している。
ユーディアは大人しく、湯気をあげる桶に頭を向けて待っている。
サラサは言われるままに細かな三つ編みをほどき髪を洗う。
自分の手の中でやわかな表情になっていくユーディアをサラサは目の当たりにする。
「わたしたちの世継ぎは、わたしと同じ、女の子だったのね」
サラサは感慨深げにつぶやいた。
「踊りは顔ほど素敵ではなくて、前途多難な予感しかしないけれど、あんたの踊りの稽古によろこんで付き合ってあげるわ!」
「あ、ありがとう」
練習の後にもユーディアはサラサに再びお願いをする。
他の女の子たちのうらやまし気な視線を受け、サラサは口を引き結びうなずいた。
「ごめん。ブルースの役目なのかもしれないけれど、男には頼めないし、女の子で一番頼みやすいのはサラサだから」
「わかってる」
男の髪を結ぶのは、特別な相手なのである。
ユーディアはサラサをその相手に選んだのだ。
サラサはユーディアの髪をすくい、細かに編み込んでいく。
サラサの指は不器用で、姉たちよりも倍ほど時間がかかったが、必死に結んでくれている。
三つ編みが顔の横に一つ二つと増えていく。
鏡の中で自分をみつめる女の子が、ユーディアの良く知る引き締まった顔つきの少年に変わっていく。
サラサはユーディアの後ろから鏡を覗き、ため息をついた。
「……ユーディアに戻ったのね。女髪のときのあんたとまるで別人ね。なら、髪を下ろしたあの子をディアと呼んでもいい?」
「ディア」
「ディアの時には、あたしの女友達なんだから。ちゃんと女の子になってもらうからね。そうじゃないとうまく踊れないんだから」
サラサにより、ユーディアは女名のディアをもらったのだった。
そして、何年も繰り返すうちにユーディアは男と女の切り替えを、髪を結う、ほどく、でできるようになるのだった。
姉はユーディアの変わりように驚くが、喜んで付き合ってくれる。
三歳上の二番目の姉は、時折面倒な顔を見せたが、根気強くユーディアに付き合った。
姉たちはユーディアに約束をさせる。
踊りの稽古する時は、男髪は禁止であること。
細かく男髪をしているときも、きつく大きく三つ編みをしている時もあったが、ユーディアが踊りの前に髪を解き、女のように柔らかに結び直すと、ユーディアは女たちの仲間になった。
踊りの練習の合間のおしゃべりに巻き込まれた。
稽古が頻繁になるにつれて、姉たちがいない時もある。
ユーディアは悩んだ末にサラサにお願いをすることにした。
「ちょっとサラサに手伝ってほしいんだ」
「わたしに何を?」
「いいから来て。髪を洗って欲しいんだ」
「髪を?」
サラサは、りりしい男髪のユーディアに頼まれて目に見えて緊張している。
ユーディアは大人しく、湯気をあげる桶に頭を向けて待っている。
サラサは言われるままに細かな三つ編みをほどき髪を洗う。
自分の手の中でやわかな表情になっていくユーディアをサラサは目の当たりにする。
「わたしたちの世継ぎは、わたしと同じ、女の子だったのね」
サラサは感慨深げにつぶやいた。
「踊りは顔ほど素敵ではなくて、前途多難な予感しかしないけれど、あんたの踊りの稽古によろこんで付き合ってあげるわ!」
「あ、ありがとう」
練習の後にもユーディアはサラサに再びお願いをする。
他の女の子たちのうらやまし気な視線を受け、サラサは口を引き結びうなずいた。
「ごめん。ブルースの役目なのかもしれないけれど、男には頼めないし、女の子で一番頼みやすいのはサラサだから」
「わかってる」
男の髪を結ぶのは、特別な相手なのである。
ユーディアはサラサをその相手に選んだのだ。
サラサはユーディアの髪をすくい、細かに編み込んでいく。
サラサの指は不器用で、姉たちよりも倍ほど時間がかかったが、必死に結んでくれている。
三つ編みが顔の横に一つ二つと増えていく。
鏡の中で自分をみつめる女の子が、ユーディアの良く知る引き締まった顔つきの少年に変わっていく。
サラサはユーディアの後ろから鏡を覗き、ため息をついた。
「……ユーディアに戻ったのね。女髪のときのあんたとまるで別人ね。なら、髪を下ろしたあの子をディアと呼んでもいい?」
「ディア」
「ディアの時には、あたしの女友達なんだから。ちゃんと女の子になってもらうからね。そうじゃないとうまく踊れないんだから」
サラサにより、ユーディアは女名のディアをもらったのだった。
そして、何年も繰り返すうちにユーディアは男と女の切り替えを、髪を結う、ほどく、でできるようになるのだった。
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