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第1部草原の掟 第1話 草原の民
3、祭りの羊
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数年後の新年の祭りには、草原中から多くの民が集まっていた。
大きな西と東のモルガン族だけでなく、移動に駱駝を使い交易をおこなう、砂漠がちなところから訪れる部族や、部族というには小さな家族単位で遊牧する、西にも東にもどこにも属さない者たちもいた。
今年は西と東の合同で祭事を行う。
西の宿営地の端に、男たち総出でこれ以上できないと思われるほど大きなテントが張られた。
訪れた者たちも、自分たちが滞在するための移動式幕舎を張っている。
既に多くの人々と動物たち、着飾った娘たちの賑わいで、祭りがはじまったかのようである。
祭りのあるところにはどこにでも顔を出す、歌や踊りで場を盛り上げるゼプシーたちもいる。
来訪者たちは巨大なテントに入っていく。
フェルトを重ねた絨毯の上に、中には西と東の族長をはじめ、大人たちが胡坐に座っている。
結婚の報告、子供が無事に生まれた報告、今年生まれた羊の数や、昨年とれた作物のことなどめでたい報告。
続いて、野性動物に襲われたことや、最近できた草原の国の土地に入れなくなった話や、強い武器で威嚇された話、ベルゼラ人が動物を楽しみのために狩りをして鹿が激減していること、拐われ暴行された娘の話など、あまり聞きたくもないことも報告されていく。
広大な草原に接する国々との小競り合いが、最近報告に上がることが多くなっている。
中でも、ベルゼラ国とのトラブルは多い。
西のジダンの髭の顔には刀傷が走る。
ジダンは腕を組み、深刻な顔で報告を聞く。
悪い報告は年々多くなっている。
「乱暴を働くベルゼラの奴らを草原から追い出すべきではないですか」
そう進言する西の部族の若者もいる。
「ベルゼラや他国と戦うことは得策ではない。彼らは強い。わたしはベルゼラ国を知っているが我らとの国力の差、武力の差は大きい」
ジダンの隣のゼオンがなだめにかかる。
「では、どうすればいいとゼオンさまは思われるのですか!」
若者が声を上げた。
不満顔は実際に被害を受けた者たちである。
「我々に干渉しないように、そして生き方を認めてもらうように働きかけ続けるのが良いではないか?犯した罪を倍にして返すのは、怨恨の連鎖を生むだけだろう」
「ゼオン。わかってもらえるように働きかけるとは、貢物を抱えて使節団をベルゼラ国に送るとでもいうのか?そんな気の長いやり方などやってられるか。目には目を、だ」
ジダンがはき捨てるように言う。
自分たちに害するものたちへの対応は、西と東では正反対である。
テントの端の布を左右に分けて、ユーディアとブルース、カカやライード、シャビ、トーレスといった悪友たちは顔を見合わせた。
その中にはジプサムもいる。
ジプサムは全ての大人の男たちが、年を取り頭頂が薄くなったとしても総髪を細かに三つ編みをしているのを知った。モルガン族の男の特徴である。女はゆるやかに結い上げたり、片側で三つ編みをしていたりなどさまざまな髪型である。
「なんだか、もめているね?」
ユーディアが言う。
「ジプサムの国のことじゃないか?」
「俺の知っている人で悪いことをする奴らはいないよ」
そういうものの、ジプサムは不安になる。
東の穏やかなユーディアの部族に馴染んでいるジプサムにとって、西の部族の男たちは見るからに強そうである。
彼らが武器を持ってベルゼラの辺境の街に攻め入れば、もしかしてベルゼラはひとたまりもないのではないかと思うのだ。
大きな西と東のモルガン族だけでなく、移動に駱駝を使い交易をおこなう、砂漠がちなところから訪れる部族や、部族というには小さな家族単位で遊牧する、西にも東にもどこにも属さない者たちもいた。
今年は西と東の合同で祭事を行う。
西の宿営地の端に、男たち総出でこれ以上できないと思われるほど大きなテントが張られた。
訪れた者たちも、自分たちが滞在するための移動式幕舎を張っている。
既に多くの人々と動物たち、着飾った娘たちの賑わいで、祭りがはじまったかのようである。
祭りのあるところにはどこにでも顔を出す、歌や踊りで場を盛り上げるゼプシーたちもいる。
来訪者たちは巨大なテントに入っていく。
フェルトを重ねた絨毯の上に、中には西と東の族長をはじめ、大人たちが胡坐に座っている。
結婚の報告、子供が無事に生まれた報告、今年生まれた羊の数や、昨年とれた作物のことなどめでたい報告。
続いて、野性動物に襲われたことや、最近できた草原の国の土地に入れなくなった話や、強い武器で威嚇された話、ベルゼラ人が動物を楽しみのために狩りをして鹿が激減していること、拐われ暴行された娘の話など、あまり聞きたくもないことも報告されていく。
広大な草原に接する国々との小競り合いが、最近報告に上がることが多くなっている。
中でも、ベルゼラ国とのトラブルは多い。
西のジダンの髭の顔には刀傷が走る。
ジダンは腕を組み、深刻な顔で報告を聞く。
悪い報告は年々多くなっている。
「乱暴を働くベルゼラの奴らを草原から追い出すべきではないですか」
そう進言する西の部族の若者もいる。
「ベルゼラや他国と戦うことは得策ではない。彼らは強い。わたしはベルゼラ国を知っているが我らとの国力の差、武力の差は大きい」
ジダンの隣のゼオンがなだめにかかる。
「では、どうすればいいとゼオンさまは思われるのですか!」
若者が声を上げた。
不満顔は実際に被害を受けた者たちである。
「我々に干渉しないように、そして生き方を認めてもらうように働きかけ続けるのが良いではないか?犯した罪を倍にして返すのは、怨恨の連鎖を生むだけだろう」
「ゼオン。わかってもらえるように働きかけるとは、貢物を抱えて使節団をベルゼラ国に送るとでもいうのか?そんな気の長いやり方などやってられるか。目には目を、だ」
ジダンがはき捨てるように言う。
自分たちに害するものたちへの対応は、西と東では正反対である。
テントの端の布を左右に分けて、ユーディアとブルース、カカやライード、シャビ、トーレスといった悪友たちは顔を見合わせた。
その中にはジプサムもいる。
ジプサムは全ての大人の男たちが、年を取り頭頂が薄くなったとしても総髪を細かに三つ編みをしているのを知った。モルガン族の男の特徴である。女はゆるやかに結い上げたり、片側で三つ編みをしていたりなどさまざまな髪型である。
「なんだか、もめているね?」
ユーディアが言う。
「ジプサムの国のことじゃないか?」
「俺の知っている人で悪いことをする奴らはいないよ」
そういうものの、ジプサムは不安になる。
東の穏やかなユーディアの部族に馴染んでいるジプサムにとって、西の部族の男たちは見るからに強そうである。
彼らが武器を持ってベルゼラの辺境の街に攻め入れば、もしかしてベルゼラはひとたまりもないのではないかと思うのだ。
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