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第1部草原の掟 第1話 草原の民
2、右手と左手
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夜が白々と明けるころ、ユーディアの父である東の族長のゼオンはユーディアの様子を見に行く。
ユーディアを閉じ込めた檻の回りには、子供たちが思い思いの寝相で熟睡していた。
檻の中には、大の字になって仰向けに寝るユーディアがいる。
大地に突き立てたその木の柵の中に、ブルースが腕の付け根まで手を差し入れて寝ている。
その手はユーディアの右手をしっかりとつないでいた。
ブルースはユーディアよりもふたつ上。
褐色の肌の、黒髪の、草原の民の特徴を色濃く引き継いだ少年である。
モルガン族はもとはひとつの一族であるが、二つに大きく分かれ、それぞれ族長に従うために、西の、東の、と呼んでいる。
東のゼオン自身は、温厚派、穏健派で争いごとは好まない。
軟弱者とそしられることも多いのだが。
西のジダンが率いる西のモルガン族は、勇猛果敢な男たちが多い。部族内外の争いごとには必ず駆け付け矢面に立つこともしばしば。
ブルースは、その勇猛果敢な西のジダンの三男坊。
時に無謀と思えるような勇猛さをみせることはないが、ゼオンが見る限り、子供ながらに自制が効いているだけで弱いわけではない。
普段、無茶をしがちなユーディアたちの傍にいるために、年長であることもあり自制力を鍛えたのかもしれなかった。
そのブルースは、西の次期族長になる世継ぎのユーディアの、入り婿候補である。
ユーディアは実は、正真正銘の女の子である。
我が子が三人、娘が続いた時に、ジダンは西の宿営地全体に響きわたるほど大きな声で産声を上げたユーディアを、男子として、自分の後継ぎとして育てることを決断したのだった。
娘とブルースの仲は大変良かった。
良き友というよりは、ブルースが良き兄という感じであるが。
ユーディアが東の族長となったとき、思慮深い夫であるブルースが横で支えるというのが、ジダンが思い描いている未来図である。
ゼオンはユーディアの左手を見た。
ユーディアの左手は、柵から少し出て、その手はベルゼラの王子の手に繋がれていた。
その繋がれた手を見て、ベルゼラとモルガン族の、このところ高まりつつある緊張を解く鍵があるような気がする。
だが、彼らはまだ大人の事情などよぎりもしないであろう。
腕を骨折したカカは包帯を巻いた腕を抱えて寝ている。
地鳴りのようないびきはライード。
宿営地の傍に放している鶏が夜明けを告げて随分たつのに、彼らはぐっすり眠っている。
夜遅くまでおしゃべりでもしていたのかも知れなかった。
「カカ、ライード、シャビ、トーレス、ブルース。そしてベルゼラのジプサム王子まで。なんとまあ、仲の良いことで」
ゼオンは苦笑する。
「一晩檻で過ごす孤独な罰が、罰になっていないじゃないか。悪友は、友達想いのいい友人でもあるな。出してやろうと思ったが、しょうがない。もう少し、寝かせてやろう」
ゼオンは微笑みながらその場を離れたのだった。
ユーディアを閉じ込めた檻の回りには、子供たちが思い思いの寝相で熟睡していた。
檻の中には、大の字になって仰向けに寝るユーディアがいる。
大地に突き立てたその木の柵の中に、ブルースが腕の付け根まで手を差し入れて寝ている。
その手はユーディアの右手をしっかりとつないでいた。
ブルースはユーディアよりもふたつ上。
褐色の肌の、黒髪の、草原の民の特徴を色濃く引き継いだ少年である。
モルガン族はもとはひとつの一族であるが、二つに大きく分かれ、それぞれ族長に従うために、西の、東の、と呼んでいる。
東のゼオン自身は、温厚派、穏健派で争いごとは好まない。
軟弱者とそしられることも多いのだが。
西のジダンが率いる西のモルガン族は、勇猛果敢な男たちが多い。部族内外の争いごとには必ず駆け付け矢面に立つこともしばしば。
ブルースは、その勇猛果敢な西のジダンの三男坊。
時に無謀と思えるような勇猛さをみせることはないが、ゼオンが見る限り、子供ながらに自制が効いているだけで弱いわけではない。
普段、無茶をしがちなユーディアたちの傍にいるために、年長であることもあり自制力を鍛えたのかもしれなかった。
そのブルースは、西の次期族長になる世継ぎのユーディアの、入り婿候補である。
ユーディアは実は、正真正銘の女の子である。
我が子が三人、娘が続いた時に、ジダンは西の宿営地全体に響きわたるほど大きな声で産声を上げたユーディアを、男子として、自分の後継ぎとして育てることを決断したのだった。
娘とブルースの仲は大変良かった。
良き友というよりは、ブルースが良き兄という感じであるが。
ユーディアが東の族長となったとき、思慮深い夫であるブルースが横で支えるというのが、ジダンが思い描いている未来図である。
ゼオンはユーディアの左手を見た。
ユーディアの左手は、柵から少し出て、その手はベルゼラの王子の手に繋がれていた。
その繋がれた手を見て、ベルゼラとモルガン族の、このところ高まりつつある緊張を解く鍵があるような気がする。
だが、彼らはまだ大人の事情などよぎりもしないであろう。
腕を骨折したカカは包帯を巻いた腕を抱えて寝ている。
地鳴りのようないびきはライード。
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夜遅くまでおしゃべりでもしていたのかも知れなかった。
「カカ、ライード、シャビ、トーレス、ブルース。そしてベルゼラのジプサム王子まで。なんとまあ、仲の良いことで」
ゼオンは苦笑する。
「一晩檻で過ごす孤独な罰が、罰になっていないじゃないか。悪友は、友達想いのいい友人でもあるな。出してやろうと思ったが、しょうがない。もう少し、寝かせてやろう」
ゼオンは微笑みながらその場を離れたのだった。
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