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第1部草原の掟 第1話 草原の民
1、子供たち
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草原にもうっそうと繁る森がある。
その森は子供たちの格好の遊び場である。
木々を飛び移り、駆け上り、釣り下がり、飛び降りる。
ベルゼラ国からきたジプサムは、彼らの遊びにはついていけなかった。
だが、自分に寄せられる期待ばかりが大きくて、息の詰まる大人たちの中にいるよりずっといい。大人たちは自分に媚へつらいながら、そのくせ何もできない子供のくせにと馬鹿にしていた。
モルガン族の男たちは、総髪を細かに三つ編みにする異様な頭をしているのが恐怖を誘う。
都会では男はみんな短髪である。
そんな頭をした男はベルゼラにはいない。
馬の背から降ろしてもらい、自分の子供だと紹介されていたモルガン族の少年は、ジプサムを無視をする。
子供の相手をするのも面倒だという態度がみえみえである。
ジプサムは、腕も足も筋肉があるのかどうかわからないような、ぷよぷよな体をしていた。
モルガン族の少年のように風のように草原を速く走れないし、ムササビのようには木々を渡れない。初めて、自分が不格好かもしれないとジプサムは思う。
モルガン族の子供は、木に両足を引っかけ逆さになった。
木登りがうまくできない、自分を哀れな目で見下ろす。
草原の子供たちはみんな細身で、弾むような筋肉をしていて、日にこんがりと焼けている。
「なんであんた、登れないんだ?」
「国では、みんなに木登りを禁止されていたんだ!危険だって」
「危険だって?どこが??」
言われてジプサムはムッとして、何度も何度もひとりで木登りを続ける。
案の定、手は体重を支えられず、足指は木の幹を捕まえられない。
失敗してもくじけない、その負けん気の強さにモルガン族の少年は笑顔になる。
「僕はユーディア!あんたは?」
「わたしはジプサム!」
少し仲良くなると、お互いに遠慮がなくなっていく。
「ジプサムは太っちょだな!」
「お前が細っちょなんだよ!ベルゼラの子供はわたしが標準だ」
「ふうん?そうなんだ。だから、ベルゼラの大人たちはみんな、体がでっかいんだね!」
「わたしもでっかくなるよ!ここと食べ物が違うんだ。今度ユーディアが、ベルゼラに遊びに来るといいよ!」
ジプサムは言う。
細い小枝のような身体のユーディアがジプサムの草原の友人の第一号になった。
ユーディアは、うまく走れないジプサムをつれ回して遊ぶ。
ユーディアは明るく元気で、子羊のように駆け回った。
同年代の子供たちの人気者で、リーダーだった。
他の男の子たちと同様に、黒髪をざっくりと三つ編みにしてしている。
ユーディアは、青みがかった黒い目をしていた。
その目は印象的で他の誰とも違っていた。
ジプサムのぷよぷよだった身体は、3か月の間ですっかり絞られた体になった。
「来年も来るよ」
ジプサムは約束する。
連れてこられた夜は、母親から見捨てられたようで泣いたのだけれど。
今では来年が待ち遠しく感じる。
「絶対に、絶対だよ!」
ユーディアが言ってくれると嬉しかった。
ジプサムは友人たちと別れを惜しんで泣いたのだった。
その森は子供たちの格好の遊び場である。
木々を飛び移り、駆け上り、釣り下がり、飛び降りる。
ベルゼラ国からきたジプサムは、彼らの遊びにはついていけなかった。
だが、自分に寄せられる期待ばかりが大きくて、息の詰まる大人たちの中にいるよりずっといい。大人たちは自分に媚へつらいながら、そのくせ何もできない子供のくせにと馬鹿にしていた。
モルガン族の男たちは、総髪を細かに三つ編みにする異様な頭をしているのが恐怖を誘う。
都会では男はみんな短髪である。
そんな頭をした男はベルゼラにはいない。
馬の背から降ろしてもらい、自分の子供だと紹介されていたモルガン族の少年は、ジプサムを無視をする。
子供の相手をするのも面倒だという態度がみえみえである。
ジプサムは、腕も足も筋肉があるのかどうかわからないような、ぷよぷよな体をしていた。
モルガン族の少年のように風のように草原を速く走れないし、ムササビのようには木々を渡れない。初めて、自分が不格好かもしれないとジプサムは思う。
モルガン族の子供は、木に両足を引っかけ逆さになった。
木登りがうまくできない、自分を哀れな目で見下ろす。
草原の子供たちはみんな細身で、弾むような筋肉をしていて、日にこんがりと焼けている。
「なんであんた、登れないんだ?」
「国では、みんなに木登りを禁止されていたんだ!危険だって」
「危険だって?どこが??」
言われてジプサムはムッとして、何度も何度もひとりで木登りを続ける。
案の定、手は体重を支えられず、足指は木の幹を捕まえられない。
失敗してもくじけない、その負けん気の強さにモルガン族の少年は笑顔になる。
「僕はユーディア!あんたは?」
「わたしはジプサム!」
少し仲良くなると、お互いに遠慮がなくなっていく。
「ジプサムは太っちょだな!」
「お前が細っちょなんだよ!ベルゼラの子供はわたしが標準だ」
「ふうん?そうなんだ。だから、ベルゼラの大人たちはみんな、体がでっかいんだね!」
「わたしもでっかくなるよ!ここと食べ物が違うんだ。今度ユーディアが、ベルゼラに遊びに来るといいよ!」
ジプサムは言う。
細い小枝のような身体のユーディアがジプサムの草原の友人の第一号になった。
ユーディアは、うまく走れないジプサムをつれ回して遊ぶ。
ユーディアは明るく元気で、子羊のように駆け回った。
同年代の子供たちの人気者で、リーダーだった。
他の男の子たちと同様に、黒髪をざっくりと三つ編みにしてしている。
ユーディアは、青みがかった黒い目をしていた。
その目は印象的で他の誰とも違っていた。
ジプサムのぷよぷよだった身体は、3か月の間ですっかり絞られた体になった。
「来年も来るよ」
ジプサムは約束する。
連れてこられた夜は、母親から見捨てられたようで泣いたのだけれど。
今では来年が待ち遠しく感じる。
「絶対に、絶対だよ!」
ユーディアが言ってくれると嬉しかった。
ジプサムは友人たちと別れを惜しんで泣いたのだった。
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