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第十三話 成婚
132-3、レオとベラの場合(3/7追加)
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その夜、ベラは今日すべきことを全てやり終えると、自室のバルコニーにでた。
レオが部屋に行くとか叫んでいたのだ。
レオの決死の公開告白を聞いて、心が動かなかったというのはうそになる。
だけどその言葉を真に受けて、部屋の中でただじっとレオを待つなんて、ベラにはできそうにない。
それで、あがってきても部屋の中に入れないつもりである。バルコニーで待つことにした。
ベラはレオにはっきりと断っている。
自分は森と平野の男と結婚すると。
夏スクールで共に過ごす内に、レオとはアデールの王子を介して仲が良くなった。
はじめの頃は目にもとまらなかった彼だけど、地味な彼が見せた観察力とか、ベラには聞き取れない音や匂いを感じることができるとか、彼を大いに見直したこともあった。
だが、それはそれ、これはこれ。
結婚とは、竹を割ったように割り切ることが必要なのではないかと思う。
ベラの部屋のバルコニーは、小さなカフェテーブルに一脚だけがかろうじておける小さなものである。
そこに腰を下ろすと、寛げるというよりも自分が小さな存在であることを実感する。
ティータイムを優雅に楽しめるアデールの姫の特別室を思うと、その違いに愕然としたものだった。
アデールの姫が特別室を利用するのは、婚約破棄をされたことに対するアメリア王妃のお詫びの気持ちだという。
だけど、ジルコン王子と結婚しないのなら、アデールの姫もただの姫。
自分と同じような一室に全てが詰め込まれた部屋でいいのではないか。
誰にそれを訴えたらいいのか。
スクールの事務官のユリアン?
女官次官のララ?
それとも直接アメリア王妃に直訴する?
ベラは首を振った。
事務官のユリアンは20代の若手で、ジルコン王子に気に入られている。
結婚するのならば、どこかの国の王族でないのならば、ああいう将来性のある若手がいいのではないかと思う。
だから婿候補になりそうなユリアンにいいつけて、面倒なヤツと思われたくない。
ララに訴えるのを想像した。
彼女なら、人を落とすよりもむしろ自分が特別室に入れるように考え努力した方が魅力的な女性のすることではないですか、と妖艶な笑みを浮かべながら一蹴しそうである。
アメリア王妃にいうのは、とうてい無理だ。
ということは、初めからこの不平等は愚痴を言うだけ無駄ではないか………。
そのうちに雨がふった。部屋に戻った。
雨がやんだのを見て、バルコニーに出た。
そのうちに、雨がふる……。
ベラは部屋に戻るのも面倒になった。
あれだけ大見え切ったレオはやってこない。
さきほどからずっと馬鹿なことばかり考えている。
椅子に座っているのもおっくうになって、バルコニーの床に直接座った。
背中は桟にもたせ掛けた。
黒々とした雲が覆う夜空を仰ぐ。
頬に髪に雨が落ちる。床は冷えていてお尻が冷たく気持ちが悪い。
これは、何かの罰なのだろうか。
親友であるアデールの姫の快適そうな部屋をうらやんだ?
生まれて初めて世界で一番自分のことを好きだと公開告白までしてくれた男を、遠い国だからという理由だけで切り捨てることに対しての?
姉たちに不格好だといわれていじけていた自分は、アデールの王子や姫、ロレットやレベッカたちと仲良くなって、触発されて少しばかりやせて綺麗になったからといって、いい気になっていたことに対しての?
いつまで待っても、自分のことを好きだといったレオは来ない。
レオは、やっぱり思い直したのかもしれない。
そう思うと悲しくなった。
その時、夜空ににゅうっと何かが被さった。
ベラの視線のすぐ上の桟に、指がかかっていた。
爪が短く切られ、力が入ってまだらに赤く白くなっている。
はっと息を吐くような、掛け声のようなものとともに、大きな何かがベラの上にふってきた。
「きゃあっ!」
「うわあ!」
二つの叫び声が重なった。
窮屈なところでベラと空から降ってきた何かは絡み合う。
身体の上のものを、身体の下のものを、手を伸ばして探りあう。
ベラは手は綿の手触りと冷たく固いゴツッとした素材に触れた。
ベラにのしかかる何かはベラの髪を探り顔に、胸に触れた。
部屋から漏れる光が互いの姿を照らした。
ベラがふれている固いものは腰に挿した反り返る短剣で、パジャンの男が身に着けるもの。
「ベラ!どうしてバルコニーに!ごめん。まさか誰かがいると思わなくて……潰れていない?」
「だ、大丈夫よ」
「大丈夫じゃない」
予定された侵入者は、腰を下ろしベラに向き合った。
「こんなに濡れている。いつからここに、僕を待って?遅くなってごめん」
「いいの。あなたに断るためにいただけだから。せっかく来てくれるあなたに、さよならをきちんといいたかっただけだから……」
メガネのその奥の目がベラを見つめる。
遠くのものをつぶさに見通す驚異的な目は、ベラの心を覗き込もうとする。
レオは近くのものは見えにくい。
だから、己の本心を見通さないでとベラは願った。
レオの眼には決意が見えた。
レオが部屋に行くとか叫んでいたのだ。
レオの決死の公開告白を聞いて、心が動かなかったというのはうそになる。
だけどその言葉を真に受けて、部屋の中でただじっとレオを待つなんて、ベラにはできそうにない。
それで、あがってきても部屋の中に入れないつもりである。バルコニーで待つことにした。
ベラはレオにはっきりと断っている。
自分は森と平野の男と結婚すると。
夏スクールで共に過ごす内に、レオとはアデールの王子を介して仲が良くなった。
はじめの頃は目にもとまらなかった彼だけど、地味な彼が見せた観察力とか、ベラには聞き取れない音や匂いを感じることができるとか、彼を大いに見直したこともあった。
だが、それはそれ、これはこれ。
結婚とは、竹を割ったように割り切ることが必要なのではないかと思う。
ベラの部屋のバルコニーは、小さなカフェテーブルに一脚だけがかろうじておける小さなものである。
そこに腰を下ろすと、寛げるというよりも自分が小さな存在であることを実感する。
ティータイムを優雅に楽しめるアデールの姫の特別室を思うと、その違いに愕然としたものだった。
アデールの姫が特別室を利用するのは、婚約破棄をされたことに対するアメリア王妃のお詫びの気持ちだという。
だけど、ジルコン王子と結婚しないのなら、アデールの姫もただの姫。
自分と同じような一室に全てが詰め込まれた部屋でいいのではないか。
誰にそれを訴えたらいいのか。
スクールの事務官のユリアン?
女官次官のララ?
それとも直接アメリア王妃に直訴する?
ベラは首を振った。
事務官のユリアンは20代の若手で、ジルコン王子に気に入られている。
結婚するのならば、どこかの国の王族でないのならば、ああいう将来性のある若手がいいのではないかと思う。
だから婿候補になりそうなユリアンにいいつけて、面倒なヤツと思われたくない。
ララに訴えるのを想像した。
彼女なら、人を落とすよりもむしろ自分が特別室に入れるように考え努力した方が魅力的な女性のすることではないですか、と妖艶な笑みを浮かべながら一蹴しそうである。
アメリア王妃にいうのは、とうてい無理だ。
ということは、初めからこの不平等は愚痴を言うだけ無駄ではないか………。
そのうちに雨がふった。部屋に戻った。
雨がやんだのを見て、バルコニーに出た。
そのうちに、雨がふる……。
ベラは部屋に戻るのも面倒になった。
あれだけ大見え切ったレオはやってこない。
さきほどからずっと馬鹿なことばかり考えている。
椅子に座っているのもおっくうになって、バルコニーの床に直接座った。
背中は桟にもたせ掛けた。
黒々とした雲が覆う夜空を仰ぐ。
頬に髪に雨が落ちる。床は冷えていてお尻が冷たく気持ちが悪い。
これは、何かの罰なのだろうか。
親友であるアデールの姫の快適そうな部屋をうらやんだ?
生まれて初めて世界で一番自分のことを好きだと公開告白までしてくれた男を、遠い国だからという理由だけで切り捨てることに対しての?
姉たちに不格好だといわれていじけていた自分は、アデールの王子や姫、ロレットやレベッカたちと仲良くなって、触発されて少しばかりやせて綺麗になったからといって、いい気になっていたことに対しての?
いつまで待っても、自分のことを好きだといったレオは来ない。
レオは、やっぱり思い直したのかもしれない。
そう思うと悲しくなった。
その時、夜空ににゅうっと何かが被さった。
ベラの視線のすぐ上の桟に、指がかかっていた。
爪が短く切られ、力が入ってまだらに赤く白くなっている。
はっと息を吐くような、掛け声のようなものとともに、大きな何かがベラの上にふってきた。
「きゃあっ!」
「うわあ!」
二つの叫び声が重なった。
窮屈なところでベラと空から降ってきた何かは絡み合う。
身体の上のものを、身体の下のものを、手を伸ばして探りあう。
ベラは手は綿の手触りと冷たく固いゴツッとした素材に触れた。
ベラにのしかかる何かはベラの髪を探り顔に、胸に触れた。
部屋から漏れる光が互いの姿を照らした。
ベラがふれている固いものは腰に挿した反り返る短剣で、パジャンの男が身に着けるもの。
「ベラ!どうしてバルコニーに!ごめん。まさか誰かがいると思わなくて……潰れていない?」
「だ、大丈夫よ」
「大丈夫じゃない」
予定された侵入者は、腰を下ろしベラに向き合った。
「こんなに濡れている。いつからここに、僕を待って?遅くなってごめん」
「いいの。あなたに断るためにいただけだから。せっかく来てくれるあなたに、さよならをきちんといいたかっただけだから……」
メガネのその奥の目がベラを見つめる。
遠くのものをつぶさに見通す驚異的な目は、ベラの心を覗き込もうとする。
レオは近くのものは見えにくい。
だから、己の本心を見通さないでとベラは願った。
レオの眼には決意が見えた。
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