上 下
231 / 238
第十三話 成婚

132-2、ジルコンの決意

しおりを挟む
 掴まれた時と同様に、すぐにジルコンの手から力が抜け落ちる。
 ジルコンは、今はじめてみたかのように目を見開きベッドのロゼリアに青い目を向けた。
 怒りに我を失っていたジルコンから怒りの結び目がほどけ始める。

 ようやくロゼリアは、ジルコンが黒金の制服のなかでも一番豪奢な衣裳を着ていることに気が付いた。刺繍は重く金は鮮やか、袖の先まで金の模様がある。
 ロゼリアは、確認しなければならないことがあることに気が付いた。

「……真夜中にどうして盛装してバルコニーからわたしの部屋に来たの?」
「あなたに伝えたいことがあったから」
「第一盛装をしてまでして?」

 ジルコンの喉仏が上下に動いた。
 ロゼリアの胸に触れる手を引くか引くまいか迷い、手をそのままにしてベッドに片膝をつき、正面から向き合った。

「あなたの父上に正式に赦しを得た。ララはあなたの調子が悪いと絶対に会わせてくれない。明日まで待っていられなかった。俺にはバルコニーから侵入することしかできなかった。これでは、ラシャールやレオと同様だな。……風邪はもういいのか?」

 突然、ロゼリアの心臓は暴走し始めた。
 ジルコンが何を言おうとしているか察したからだ。
 待ちこがれたアレではないか?
 激しく波打つ胸は、ロゼリアの興奮をジルコンに確実に伝えている。

「要件を、ジルコン」
「俺は今夜、言おうとしてのびのびになってしまったことを言いにきた。ロゼリア・アデール、俺と結婚して欲しい」
「婚約しようではなくって?」
「できるならば今すぐにでも、夫婦の誓いを交わしたいぐらいだ」

 ジルコンは、胸に己の手を押しつけるロゼリアの手を取った。
 その手の甲に口づけする。
 ロゼリアに向けるのは、恐れと期待が入り混じる、極度に緊張した秀麗な顔。

「いいわ」
 ジルコンは眉を寄せ、首を振る。
 ひたとロゼリアの心を覗き込んだ。

「そんなに簡単に答えないでほしい。どうかよく考えてから返事をしてほしい。俺は、ロゼリア・フィオラ・アデールを結婚という鎖で、未来永劫縛り付けたい。あなたの過去、あなたの未来の全てが欲しいんだ。あなたが感じる楽しいことも辛いことも嬉しいことも、そのすべてをあますことなく俺はあなたと共有したい。あなたが、しわしわでかさかさのおばあちゃんになったとしても、俺はあなたを手放すつもりはない。あなたが俺の身体と心の一部のように感じたい。そして、何があっても俺より先に死ぬことは絶対に許すつもりはない」

 ジルコンは一息でいった。
 青い目は不安をロゼリアに伝える。
 そして、ロゼリアが拒絶をしても許してあげられるように、心に一枚膜を張り、どうにか距離を取ろうとする努力。
 一端目を閉じた。
 ロゼリアが己の前から逃れられる猶予を与えるかのように。

「……だから、よく考えて、返事を聞かせてもらえないか?返事はいつまでも待つつもりだ」
「ジルコン・フォレスト・エール、何日考えてもわたしの気持ちは変わらない。もちろんイエスよ!」

 ロゼリアはジルコンの顔を挟み己に向ける。
 伸びあがりジルコンに唇を寄せた。
 引き結ばれていた唇はゆるんだ。
 ジルコンの己を縛る、最後の抑制が外れた。
 ロゼリアを見る青い目は黒くけぶる……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四回目の人生は、お飾りの妃。でも冷酷な夫(予定)の様子が変わってきてます。

千堂みくま
恋愛
「あぁああーっ!?」婚約者の肖像画を見た瞬間、すべての記憶がよみがえった。私、前回の人生でこの男に殺されたんだわ! ララシーナ姫の人生は今世で四回目。今まで三回も死んだ原因は、すべて大国エンヴィードの皇子フェリオスのせいだった。婚約を突っぱねて死んだのなら、今世は彼に嫁いでみよう。死にたくないし!――安直な理由でフェリオスと婚約したララシーナだったが、初対面から夫(予定)は冷酷だった。「政略結婚だ」ときっぱり言い放ち、妃(予定)を高い塔に監禁し、見張りに騎士までつける。「このままじゃ人質のまま人生が終わる!」ブチ切れたララシーナは前世での経験をいかし、塔から脱走したり皇子の秘密を探ったりする、のだが……。あれ? 冷酷だと思った皇子だけど、意外とそうでもない? なぜかフェリオスの様子が変わり始め――。 ○初対面からすれ違う二人が、少しずつ距離を縮めるお話○最初はコメディですが、後半は少しシリアス(予定)○書き溜め→予約投稿を繰り返しながら連載します。

完 あの、なんのことでしょうか。

水鳥楓椛
恋愛
 私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。  よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。  それなのに………、 「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」  王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。 「あの………、なんのことでしょうか?」  あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。 「私、彼と婚約していたの?」  私の疑問に、従者は首を横に振った。 (うぅー、胃がいたい)  前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。 (だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

悪役令嬢に仕立てあげられて婚約破棄の上に処刑までされて破滅しましたが、時間を巻き戻してやり直し、逆転します。

しろいるか
恋愛
王子との許婚で、幸せを約束されていたセシル。だが、没落した貴族の娘で、侍女として引き取ったシェリーの魔の手により悪役令嬢にさせられ、婚約破棄された上に処刑までされてしまう。悲しみと悔しさの中、セシルは自分自身の行いによって救ってきた魂の結晶、天使によって助け出され、時間を巻き戻してもらう。 次々に襲い掛かるシェリーの策略を切り抜け、セシルは自分の幸せを掴んでいく。そして憎しみに囚われたシェリーは……。 破滅させられた不幸な少女のやり直し短編ストーリー。人を呪わば穴二つ。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

処理中です...