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第十二話 雨乞い祈願

120-2、異変

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「視察というほどのものじゃないんだけど、そのあたりをうろうろと」

 本当は見たいところはある。
 ロゼリアが誘拐された路地裏の治安はどうなったのかとか、あの細い少年は保護されて元気にしているのかどうかとか。
 実際には、そんなに足を伸ばさなくても極暑の影響はそこかしこに見ることになる。
 目貫通りに面した街道に軒を連ねていた屋台は骨組みだけ残していて、竹筒の水筒に水を入れて売る婆がいるぐらいである。
 御用達の店も日差しが差し込まないようによしずがかけられている。

 ロレットの顔色がいくばくもなく赤くなるので、早い段階で日差しを避け、お茶をすることになった。
 その後に足を伸ばした夕方の市場は混雑していて、野菜も肉も品ぞろえが薄く、値段も二倍近くに高騰していた。

 荷車に樽を積み、水だけを汲み求める者もいた。
 そして、なんでこんなに高いの、とか、足を踏んだわね、とか、よそ者は帰れ、など罵声が飛んでいる。水場は俺たちの地区のものだ、よそ者は大量に持ち帰るな、という凄みのある声も聞こえてくる。

 ディーンがロゼリアのすぐ前を行く。
 ロレットはロゼリアの腕をつかみ、その後ろにはラシャールが付いた。
 レベッカはラシャールとアリシャンに挟まれるようにして歩き、顔をずっとしかめている。
 パジャンの膨らんだ袖に、よそ者は帰れと言わんばかりの目を向ける者たちもいたからだ。彼らはこんなに居心地の悪い思いをしたことは一度もなかった。

「これはいつもより人が多いな。暑さで気が立っている者も多い。日照りで野菜が育たないことの影響が出始めている。ロズ、もう帰った方がいいのではないか?正直いって、この時期に王都をうろうろ出歩くのはお勧めしない。この調子だと、雨が数日以内に降らないと、水が豊富な王都に人が押し寄せパニックになるかもしれないからな。よそ者が多くなれば、どんな奴らが混ざっているかわからない。これを機に、何かを仕掛けてくる者もいるかもしれない。襲ってくる者が多ければ、俺だけではあなたたちを守れない。持つものを持たざる者が襲撃するという最悪の事態も考えられるし、逆に持つ者が持たざるものを過剰に撃退することも考えられる」
 本当のところはディーンが守るのはロゼリアだけである。
「何かをしかけるってどういうことを?」
 ロゼリアはディーンに訊いた。

「はっきりとはわからないが。パジャンをよく思わないものがドサクサにまぎれてパジャンの所縁のものを襲撃するとか、またその逆とか。エール配下の国々であっても、それぞれ遺恨禍根を残している間柄もある。それに、日照りが続けば、雨乞い祈願を行う因習を残しているところも各地各地区それぞれあったりする。日照りが長ければ長いほど、雨を望む気持ちも強くなる。それだけ捧げものをしたり、普通では考えられない祈祷をしたり、人身御供が行われたりする例もある。そういう時に、よそ者が人身御供に選ばれたりすることがある。あなたたちはエールではよそ者だろう?ここでは用心をするに越したことはない」

 アリシャンが鼻を鳴らし憤慨する。
 ロレットの足元がふらついた。
 暑さで目をまわしかけたのだった。
 ロゼリアの視察はここまでだった。
 ロゼリアとロレットは王城に戻ることにした。
 パジャンの三人はもう少し視察をするようで、市場を出たところで別れたのである。

 わずか数時間の視察であったが、ロゼリアはエールで起きている異変を肌で感じることができた。
 ディーンが言うように、雨が数日以内に降らないと大変なことが起こる予感がある。
 鎮魂祭を終えてわずか1か月ばかりで、ロゼリアの知る王都ではなかったのである。





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