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第十話 ダンス勝負
103-2、鎮魂祭 ①
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「はい。この後に菓子の準備を手伝ってからと思っていましたが、ご迷惑でしたか?」
「そういうわけではないが。王都の治安のよくないところにも足を延ばすから、本当に同行するつもりならば気を付けて欲しいと言おうと思ったんだ。黒騎士たちの護衛も連れていくつもりなので、大丈夫だとは思うが、勝手な行動は控えて欲しい。それから他国からの姫ということは伏せていた方がいいだろう。それから、あまり華美にならないように気を付けてくれ」
「わかりました。城の小間使いのような、手伝いにきた人のような感じがよいのでしょうか」
「ああ、そうだな。そのあたりララがいるからぬかりはないとは思うが。では、後で」
それだけ言ってジルコンは肩の力を抜いた。
ジルコンはロゼリアに話しかけるのに緊張していたのだった。
ジルコンは自分用の朝食を選びに行く。
なんとなく食堂の空気がおかしいことにロゼリアは気が付いた。
視線がロゼリアに向けられている。
ジルコンとロゼリアが会話をするのは珍しかったのだろう。
ダンスのペアになっても、よそよそしい態度をジルコンは貫いていたし、話は最小限だったのだ。
気にせず食事に戻ろうとテーブルに顔を戻すと、きらきら眼を輝かせたロレットとベラたちがうずうずとロゼリアを待っていた。
「えっと、わたしに何か言いたいことが?」
「ロゼリアさまは、ジルコンさまとご一緒に鎮魂祭に行くのですか!」
ベラの声は興奮すると大きく響いた。
「その準備にね」
隣のテーブルは、ディアやクレアやイリスといったジュリアのテーブルである。
「鎮魂祭のご準備なら、わたしたちもお手伝いをしたいわ。ロゼリアさまがいいのならば、わたくしたちもご一緒してもよろしいのかしら」
そう言ったのはイリスである。
「ララがいいといえばいいのじゃないかな。人数によって馬車の準備もあるだろうから、早めに伝えた方がいいと思うけど」
ロゼリアはうんざりする気持ちが顔にでないように顔をつくった。
「お菓子の準備もこれからするのだけど一緒にしますか?」
「鎮魂祭で配るお菓子は、自分たちで最高の物を用意しますわ。では、出発する時に落ちあいましょう」
「服装が華美にならないように……」
ジルコンの言っていた注意を口にすれば、イリスににらまれる。
「聞こえておりましたわ!ご心配くださらなくて大丈夫です」
イリスとは普通に話をするのが難しい。
ロゼリアはあきらめて、再び自分の食事に集中することにした。
ジルコンと半日同行していれば二人の距離も縮まるかもと膨らんでいた期待が、針にでもつつかれたかのようにしぼんでいく。
イリスたちが一緒なら二人きりになれるわけでもなさそうだからだ。
「ロズは、本当にジルコンさまの婚約者なんですね」
ロレットがしんみりと口にした。
その目の輝きは消えていない。
「かろうじてだけど。どうして?」
ロレットは興奮しながらも声を落とした。
「第一声で姫って呼んだ時、イリス嬢以外の全員がお顔を上げたのに気がつきませんでしたか?ここにいるほとんどの女子が、お姫さまなのですよ。街でお母さんと呼べばほとんどのお母さんが自分のことを呼ばれたかと思うのと同じです。ですが、ジルコンさまにとって姫とは、ロズ一人なんですよ!これってすごいことではないですか!」
ジルコンが自分をなんて呼んでいるかなんて全く意識していなかった。
確かに、ここにいるほとんどの女子は姫である。
ロゼリアは自分が呼ばれたのだと確信していたのだけれど。
「そんなはずはないと思うけど。わたしだけがジルコンにとって姫だというのなら、他の人は名前を呼ぶということでしょう?ロズとかロゼリアとか、名前を呼ぶのが面倒なだけじゃないかしら。もしかしてわたしの名前を覚えていないということもあり得る……」
ロゼリアは顔をしかめた。
ベラとロレットとレベッカは顔を見合わせ、くすくすと笑ったのだった。
「そういうわけではないが。王都の治安のよくないところにも足を延ばすから、本当に同行するつもりならば気を付けて欲しいと言おうと思ったんだ。黒騎士たちの護衛も連れていくつもりなので、大丈夫だとは思うが、勝手な行動は控えて欲しい。それから他国からの姫ということは伏せていた方がいいだろう。それから、あまり華美にならないように気を付けてくれ」
「わかりました。城の小間使いのような、手伝いにきた人のような感じがよいのでしょうか」
「ああ、そうだな。そのあたりララがいるからぬかりはないとは思うが。では、後で」
それだけ言ってジルコンは肩の力を抜いた。
ジルコンはロゼリアに話しかけるのに緊張していたのだった。
ジルコンは自分用の朝食を選びに行く。
なんとなく食堂の空気がおかしいことにロゼリアは気が付いた。
視線がロゼリアに向けられている。
ジルコンとロゼリアが会話をするのは珍しかったのだろう。
ダンスのペアになっても、よそよそしい態度をジルコンは貫いていたし、話は最小限だったのだ。
気にせず食事に戻ろうとテーブルに顔を戻すと、きらきら眼を輝かせたロレットとベラたちがうずうずとロゼリアを待っていた。
「えっと、わたしに何か言いたいことが?」
「ロゼリアさまは、ジルコンさまとご一緒に鎮魂祭に行くのですか!」
ベラの声は興奮すると大きく響いた。
「その準備にね」
隣のテーブルは、ディアやクレアやイリスといったジュリアのテーブルである。
「鎮魂祭のご準備なら、わたしたちもお手伝いをしたいわ。ロゼリアさまがいいのならば、わたくしたちもご一緒してもよろしいのかしら」
そう言ったのはイリスである。
「ララがいいといえばいいのじゃないかな。人数によって馬車の準備もあるだろうから、早めに伝えた方がいいと思うけど」
ロゼリアはうんざりする気持ちが顔にでないように顔をつくった。
「お菓子の準備もこれからするのだけど一緒にしますか?」
「鎮魂祭で配るお菓子は、自分たちで最高の物を用意しますわ。では、出発する時に落ちあいましょう」
「服装が華美にならないように……」
ジルコンの言っていた注意を口にすれば、イリスににらまれる。
「聞こえておりましたわ!ご心配くださらなくて大丈夫です」
イリスとは普通に話をするのが難しい。
ロゼリアはあきらめて、再び自分の食事に集中することにした。
ジルコンと半日同行していれば二人の距離も縮まるかもと膨らんでいた期待が、針にでもつつかれたかのようにしぼんでいく。
イリスたちが一緒なら二人きりになれるわけでもなさそうだからだ。
「ロズは、本当にジルコンさまの婚約者なんですね」
ロレットがしんみりと口にした。
その目の輝きは消えていない。
「かろうじてだけど。どうして?」
ロレットは興奮しながらも声を落とした。
「第一声で姫って呼んだ時、イリス嬢以外の全員がお顔を上げたのに気がつきませんでしたか?ここにいるほとんどの女子が、お姫さまなのですよ。街でお母さんと呼べばほとんどのお母さんが自分のことを呼ばれたかと思うのと同じです。ですが、ジルコンさまにとって姫とは、ロズ一人なんですよ!これってすごいことではないですか!」
ジルコンが自分をなんて呼んでいるかなんて全く意識していなかった。
確かに、ここにいるほとんどの女子は姫である。
ロゼリアは自分が呼ばれたのだと確信していたのだけれど。
「そんなはずはないと思うけど。わたしだけがジルコンにとって姫だというのなら、他の人は名前を呼ぶということでしょう?ロズとかロゼリアとか、名前を呼ぶのが面倒なだけじゃないかしら。もしかしてわたしの名前を覚えていないということもあり得る……」
ロゼリアは顔をしかめた。
ベラとロレットとレベッカは顔を見合わせ、くすくすと笑ったのだった。
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