124 / 238
第八話 ふたりの決断
77-2 双子の片割れ
しおりを挟む
すぐに長老たちの立ち合いの元、家族族会議が行われた。
セーラ王妃、アンジュ、彼の許嫁のサララが集り、その手紙を何度も読み返した。
軽いものから深刻なものまでいろんな悪い状況が想定された。
一番楽天的なものとしては、
故郷を離れて、ロゼリアはひどいホームシックになっているのではないか?
それだと寂しさを紛らわせるために、アンジュは呼ばれたのである。
そしてこの場に集まった彼らが一番考えたくなくて、かつ、一番ありえそうな深刻な状況は、ロゼリアが最悪な状況下で女とばれたのではないかということである。
そのことによりロゼリアは肉体的にも精神的にもひどく傷ついたのかもしれない。一人で立ち直れないほどに。
フォルス王が、本物のアンジュ王子を呼び寄せて、ロゼリアの気持ちを和らげようとしているのではないか。そして、帰国させようとしているのではないか。
アンジュは自分が行ってもなんの解決にもならないような気がした。
ただ、妹が異国で奮闘しているのに、ぬくぬくとアデール国で守られているのが日に日に情けなくなってきたところでもある。
毎日、あの傲慢な王子の元、ロゼリアがどうしているか考えない日はない。
「ロゼリアが大変な状態になっていたら、わたしが連れて帰る!本来ならわたしが行くべきであったのだから!」
兄として男として、アンジュは格好よくそう言い切りたかった。
だがその言葉は口から発せられる前に、ふにゃふにゃと芯が抜けてしまう。
そもそも今も、ロゼリア姫として女装姿でいる。
その姿も板につきすぎてしまっている。
言いよどんだアンジュの代わりに、サララはロゼリア姿のアンジュの手をしっかと取った。
「アンジュさま、ロズさまの一大事かもしれません!わたしたちが必要とされているのです。さっそく急ぎまいりましょう!」
「サララ、でも……」
それでもぐずぐずとアンジュは煮えきらない。
アデール国の姫としてのぬくぬく生活は心地よい。アンジュには外の世界は恐ろしく思えた。
母であるセーラはサララの言葉に大きくうなずきにっこり笑う。
「よく言いました!サララ!ロゼリアの様子を見にアンジュ、サララを連れていきなさい。根本的に助けることがたとえできなくても、なんらかの状況の変化は生むでしょう!」
母の意向は家族会議ではほとんど通る。
アンジュはその言葉を聞き、エール行きが逃れられない定めと知る。
「セプターと護衛にディーンを連れていけ。彼は頼りになる」
ベルゼ王が言い、ロゼリア姫の女装をするアンジュ、アンジュの婚約者サララ、王騎士セプター、護衛役としてディーンが雇われ、翌朝エール国へ出立する。
王族の他国への訪問にしては、質素で軽装、最小人数の、慎ましやかな一行だった。
そうして、数日かけてエールの王城にたどり着いたのである。
彼らは、門兵に遮られる。
門番が彼らの素性を確認し、直接王からの親書に目を通した。
「アデールのロゼリア姫ですか!」
門番は、外套のフードを後ろに落として見せた、アデールの王子とそっくりの、双子の姫の麗しい顔を見て納得する。
同じ顔立ちでも男と女でずいぶん雰囲気が違うものだと門番は思う。
アンジュとサララ、王騎士は通すが、武装した門衛はディーンを槍で押し止めた。
「あなたはアデールの姫の護衛なのか?」
「そうだ」
「王城内は王族以外、あらゆる武器の持ち込みはできない。全て預からせて頂く」
ディーンは身体のいたるところを探られて、剣やナイフを全て取り上げられたのであった。
フォルス王との謁見は多忙な王の合間をぬって、手早く行われた。
フォルスは妹のロゼリアと交わしたのと同様の固い抱擁を交わす。
「ロゼリア姫、大きく美しくなったな!その姿とても似合っている!よく来てくれた!いそがして申し訳ないが、アンジュ王子にあってやれ。彼が部屋に籠ってもう七日がたつ。ジルコンはわたしに何も言ってこないが、見かねてな。それが、ちょっと色々あったことはユリアンやスアレスたちから報告を受けているのだが……ロゼリア姫とサララ殿には快適に滞在できるように王城に部屋も用意しよう。護衛の方々には王都の王城のすぐ近くの宿を紹介する。厳戒態勢をとっているために、ごく限られた関係者以外は王城には滞在できないことになっている」
顔に傷のある王は端的にロゼリアの状況を説明する。
聞くにつれて、アンジュの顔は紙のように白くなっていく。
「そんなことが起こっていたなんて。なんてこと……」
サララが涙を浮かべ鼻をすすった。
ようやくアンジュたちはロゼリアのエールでの状況を知ることになる。
ジルコンの取り巻きたちに嫉妬され、仲間になかなか入れてもらえない末に、集団での暴行事件が起こったことを知ったのだった。
セーラ王妃、アンジュ、彼の許嫁のサララが集り、その手紙を何度も読み返した。
軽いものから深刻なものまでいろんな悪い状況が想定された。
一番楽天的なものとしては、
故郷を離れて、ロゼリアはひどいホームシックになっているのではないか?
それだと寂しさを紛らわせるために、アンジュは呼ばれたのである。
そしてこの場に集まった彼らが一番考えたくなくて、かつ、一番ありえそうな深刻な状況は、ロゼリアが最悪な状況下で女とばれたのではないかということである。
そのことによりロゼリアは肉体的にも精神的にもひどく傷ついたのかもしれない。一人で立ち直れないほどに。
フォルス王が、本物のアンジュ王子を呼び寄せて、ロゼリアの気持ちを和らげようとしているのではないか。そして、帰国させようとしているのではないか。
アンジュは自分が行ってもなんの解決にもならないような気がした。
ただ、妹が異国で奮闘しているのに、ぬくぬくとアデール国で守られているのが日に日に情けなくなってきたところでもある。
毎日、あの傲慢な王子の元、ロゼリアがどうしているか考えない日はない。
「ロゼリアが大変な状態になっていたら、わたしが連れて帰る!本来ならわたしが行くべきであったのだから!」
兄として男として、アンジュは格好よくそう言い切りたかった。
だがその言葉は口から発せられる前に、ふにゃふにゃと芯が抜けてしまう。
そもそも今も、ロゼリア姫として女装姿でいる。
その姿も板につきすぎてしまっている。
言いよどんだアンジュの代わりに、サララはロゼリア姿のアンジュの手をしっかと取った。
「アンジュさま、ロズさまの一大事かもしれません!わたしたちが必要とされているのです。さっそく急ぎまいりましょう!」
「サララ、でも……」
それでもぐずぐずとアンジュは煮えきらない。
アデール国の姫としてのぬくぬく生活は心地よい。アンジュには外の世界は恐ろしく思えた。
母であるセーラはサララの言葉に大きくうなずきにっこり笑う。
「よく言いました!サララ!ロゼリアの様子を見にアンジュ、サララを連れていきなさい。根本的に助けることがたとえできなくても、なんらかの状況の変化は生むでしょう!」
母の意向は家族会議ではほとんど通る。
アンジュはその言葉を聞き、エール行きが逃れられない定めと知る。
「セプターと護衛にディーンを連れていけ。彼は頼りになる」
ベルゼ王が言い、ロゼリア姫の女装をするアンジュ、アンジュの婚約者サララ、王騎士セプター、護衛役としてディーンが雇われ、翌朝エール国へ出立する。
王族の他国への訪問にしては、質素で軽装、最小人数の、慎ましやかな一行だった。
そうして、数日かけてエールの王城にたどり着いたのである。
彼らは、門兵に遮られる。
門番が彼らの素性を確認し、直接王からの親書に目を通した。
「アデールのロゼリア姫ですか!」
門番は、外套のフードを後ろに落として見せた、アデールの王子とそっくりの、双子の姫の麗しい顔を見て納得する。
同じ顔立ちでも男と女でずいぶん雰囲気が違うものだと門番は思う。
アンジュとサララ、王騎士は通すが、武装した門衛はディーンを槍で押し止めた。
「あなたはアデールの姫の護衛なのか?」
「そうだ」
「王城内は王族以外、あらゆる武器の持ち込みはできない。全て預からせて頂く」
ディーンは身体のいたるところを探られて、剣やナイフを全て取り上げられたのであった。
フォルス王との謁見は多忙な王の合間をぬって、手早く行われた。
フォルスは妹のロゼリアと交わしたのと同様の固い抱擁を交わす。
「ロゼリア姫、大きく美しくなったな!その姿とても似合っている!よく来てくれた!いそがして申し訳ないが、アンジュ王子にあってやれ。彼が部屋に籠ってもう七日がたつ。ジルコンはわたしに何も言ってこないが、見かねてな。それが、ちょっと色々あったことはユリアンやスアレスたちから報告を受けているのだが……ロゼリア姫とサララ殿には快適に滞在できるように王城に部屋も用意しよう。護衛の方々には王都の王城のすぐ近くの宿を紹介する。厳戒態勢をとっているために、ごく限られた関係者以外は王城には滞在できないことになっている」
顔に傷のある王は端的にロゼリアの状況を説明する。
聞くにつれて、アンジュの顔は紙のように白くなっていく。
「そんなことが起こっていたなんて。なんてこと……」
サララが涙を浮かべ鼻をすすった。
ようやくアンジュたちはロゼリアのエールでの状況を知ることになる。
ジルコンの取り巻きたちに嫉妬され、仲間になかなか入れてもらえない末に、集団での暴行事件が起こったことを知ったのだった。
0
お気に入りに追加
575
あなたにおすすめの小説
姫の騎士
藤雪花(ふじゆきはな)
恋愛
『俺は命をかける価値のある、運命の女を探している』
赤毛のセルジオは、エール国の騎士になりたい。
募集があったのは、王子の婚約者になったという、がさつで夜這いで田舎ものという噂の、姫の護衛騎士だけ。
姫騎士とは、格好いいのか、ただのお飾りなのか。
姫騎士選抜試験には、女のようなキレイな顔をしたアデール国出身だというアンという若者もいて、セルジオは気になるのだが。
□「男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子」の番外編です。
□「姫の騎士」だけでも楽しめます。
表紙はPicrewの「愛しいあの子の横顔」でつくったよ! https://picrew.me/share?=2mqeTig1gO #Picrew #愛しいあの子の横顔
EuphälleButterfly さま。いつもありがとうございます!!!
男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される
未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】
ミシェラは生贄として育てられている。
彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。
生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。
繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。
そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。
生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。
ハッピーエンドです!
※※※
他サイト様にものせてます
背高王女と偏頭痛皇子〜人質の王女ですが、男に間違えられて働かされてます〜
二階堂吉乃
恋愛
辺境の小国から人質の王女が帝国へと送られる。マリオン・クレイプ、25歳。高身長で結婚相手が見つからず、あまりにもドレスが似合わないため常に男物を着ていた。だが帝国に着いて早々、世話役のモロゾフ伯爵が倒れてしまう。代理のモック男爵は帝国語ができないマリオンを王子だと勘違いして、皇宮の外れの小屋に置いていく。マリオンは生きるために仕方なく働き始める。やがてヴィクター皇子の目に止まったマリオンは皇太子宮のドアマンになる。皇子の頭痛を癒したことからマリオンは寵臣となるが、様々な苦難が降りかかる。基本泣いてばかりの弱々ヒロインがやっとのことで大好きなヴィクター殿下と結ばれる甘いお話。全27話。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
王子様と過ごした90日間。
秋野 林檎
恋愛
男しか爵位を受け継げないために、侯爵令嬢のロザリーは、男と女の双子ということにして、一人二役をやってどうにか侯爵家を守っていた。18歳になり、騎士団に入隊しなければならなくなった時、憧れていた第二王子付きに任命されたが、だが第二王子は90日後・・隣国の王女と結婚する。
女として、密かに王子に恋をし…。男として、体を張って王子を守るロザリー。
そんなロザリーに王子は惹かれて行くが…
本篇、番外編(結婚までの7日間 Lucian & Rosalie)完結です。
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる