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第五話 赤のショール
42、球投げ勝負 ②
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いつぶつかってもおかしくない、相いれない二陣営なのである。
この10日間衝突らしい衝突がなかったことが、奇跡的ともいえたのだった。
彼らが勝負を持ち越した球投げとは、二つに隣接する陣地に、それぞれ内と外に敵と味方に分かれ、一つの球をパスしあい、内側の敵チームメンバーに球をぶつけて倒していく勝負である。
投げつけられた球を受け止めれば、自陣の球として、今度は攻守が入れ替わる。
「ほら行くぞ」
「ジル、腕をつかんだままだ」
ロゼリアはようやく掴まれていた腕を解放される。
その場に留まろうとするが、既に外へ向かう流れに飲み込まれていた。
二つの陣営が一斉に外に向かう。
ロゼリアが加わり、舌打ちしそうなノルの冷たい顔。
あっちでもよかったんじゃない?とフィン。
足をひっぱるぐらいなら見学でもしていたらいいよ?とエスト。
そして、強制的に謝罪させられ怒りがおさまらないバルトの、ロゼリアを睨む剣呑な目つき。
ジルコンがロゼリアから離れたとき、バルトはロゼリアに怒りを吐き出した。
「お前が女のようにほそっちいからちょっとぶつかっただけで、大げさなことになるんだ。もっと体を鍛えろよ!」
ロゼリアもむっとする。
「あなたこそ、後ろにもう少し気を配ればいいだけじゃないの?図体が大きすぎて背後に首が回らないのではないの?」
「なんだって」
バルドはロゼリアが言い返すと思ってなかったようだった。
ジルコンが二人をたしなめる。
釈然としないままバルトは押し黙った。
ロゼリアも気持ちがすっきりしない。
バルトとぶつかったところよりも、ラシャールに掴まれた肩、ジルコンに掴まれた腕が痛い。
ジルコンとラシャールはロゼリアを同時に強く引っ張りあったのだ。
ロゼリアは最後に振り返る。
実は、バルトにぶつかりラシャールが受け止めてくれたその直前に、自分の手先が誰かをひっかけたように思えた。
うわっというくぐもった小さな悲鳴を聞いていた。
確認する間もなく対立する二陣営の間に立たされ、結局その悲鳴の主を追求する余裕がなかったのだった。
ロゼリアが気になった通り、彼らの誰にも目に留まらずロゼリアの手先にぶつかり豪快に弾き飛ばされた若者がいる。
それは眼鏡のレオ。
反動で尻餅をつき、眼鏡は飛ばされていた。
騎馬を主体として運動神経が極めて優れた者たちが多いパジャンの勢力にありながらも、運動神経がとりわけ優れているわけでもない王子。
大人しく目立たない、今回で二回目の参加である。
レオはロゼリアよりもひどい目にあったといえるのだが、彼に手を差し伸ばす者はおらず、もちろん誰からの謝罪もない。
まったく気づいてもらえなかったのだった。
小さくため息をつく。
アデールの王子のように、その発言がずれていようが馬鹿にされようが、己の意見をはっきり言えるほど利発でも強くもない。
さらに言えば、ジルコンとラシャールに引っ張り合われたアデールの王子ほど、見目麗しい容姿を持っていない。
アデールの王子は、エール側の者たちから仲間外れにされているが、つい目で追ってしまうほど美しいと思う。
その淡く輝く金の髪に触れてみたいと思うし、遠目からもわかるその宝石のようにきらめく青灰色の目を間近で見てみたいと思うのだ。
女なら許されるものではないが、同じ男なら少しばかり弾みで触れても、無粋に顔を覗き込んでも問題ないのではと思えるぐらいである。
だが、今回は弾みで弾き飛ばされたのだが、、、。
ラシャールが、そのアデールの王子を気にしていたとは知らなかった。
何か自分の知らない交流が二人の間であるのかもしれないとレオは思う。
アデールの王子は既に、何人もの講師のお気に入りになっている。
それがますます、エール側の者たちの反発心をおこすことに繋がっているようなのだが、そのことに気が付きもしない。
目立たず大人しく生きてきたレオには、アデールの王子のある意味傍若無人なふるまいには、はらはらするぐらいである。
両陣営が去り、レオは一人残された。
「俺っていつもこうなんだよな、、、」
このまま野外の授業に参加しなくても、誰も気がつかないのではないかと思ったのであった。
この10日間衝突らしい衝突がなかったことが、奇跡的ともいえたのだった。
彼らが勝負を持ち越した球投げとは、二つに隣接する陣地に、それぞれ内と外に敵と味方に分かれ、一つの球をパスしあい、内側の敵チームメンバーに球をぶつけて倒していく勝負である。
投げつけられた球を受け止めれば、自陣の球として、今度は攻守が入れ替わる。
「ほら行くぞ」
「ジル、腕をつかんだままだ」
ロゼリアはようやく掴まれていた腕を解放される。
その場に留まろうとするが、既に外へ向かう流れに飲み込まれていた。
二つの陣営が一斉に外に向かう。
ロゼリアが加わり、舌打ちしそうなノルの冷たい顔。
あっちでもよかったんじゃない?とフィン。
足をひっぱるぐらいなら見学でもしていたらいいよ?とエスト。
そして、強制的に謝罪させられ怒りがおさまらないバルトの、ロゼリアを睨む剣呑な目つき。
ジルコンがロゼリアから離れたとき、バルトはロゼリアに怒りを吐き出した。
「お前が女のようにほそっちいからちょっとぶつかっただけで、大げさなことになるんだ。もっと体を鍛えろよ!」
ロゼリアもむっとする。
「あなたこそ、後ろにもう少し気を配ればいいだけじゃないの?図体が大きすぎて背後に首が回らないのではないの?」
「なんだって」
バルドはロゼリアが言い返すと思ってなかったようだった。
ジルコンが二人をたしなめる。
釈然としないままバルトは押し黙った。
ロゼリアも気持ちがすっきりしない。
バルトとぶつかったところよりも、ラシャールに掴まれた肩、ジルコンに掴まれた腕が痛い。
ジルコンとラシャールはロゼリアを同時に強く引っ張りあったのだ。
ロゼリアは最後に振り返る。
実は、バルトにぶつかりラシャールが受け止めてくれたその直前に、自分の手先が誰かをひっかけたように思えた。
うわっというくぐもった小さな悲鳴を聞いていた。
確認する間もなく対立する二陣営の間に立たされ、結局その悲鳴の主を追求する余裕がなかったのだった。
ロゼリアが気になった通り、彼らの誰にも目に留まらずロゼリアの手先にぶつかり豪快に弾き飛ばされた若者がいる。
それは眼鏡のレオ。
反動で尻餅をつき、眼鏡は飛ばされていた。
騎馬を主体として運動神経が極めて優れた者たちが多いパジャンの勢力にありながらも、運動神経がとりわけ優れているわけでもない王子。
大人しく目立たない、今回で二回目の参加である。
レオはロゼリアよりもひどい目にあったといえるのだが、彼に手を差し伸ばす者はおらず、もちろん誰からの謝罪もない。
まったく気づいてもらえなかったのだった。
小さくため息をつく。
アデールの王子のように、その発言がずれていようが馬鹿にされようが、己の意見をはっきり言えるほど利発でも強くもない。
さらに言えば、ジルコンとラシャールに引っ張り合われたアデールの王子ほど、見目麗しい容姿を持っていない。
アデールの王子は、エール側の者たちから仲間外れにされているが、つい目で追ってしまうほど美しいと思う。
その淡く輝く金の髪に触れてみたいと思うし、遠目からもわかるその宝石のようにきらめく青灰色の目を間近で見てみたいと思うのだ。
女なら許されるものではないが、同じ男なら少しばかり弾みで触れても、無粋に顔を覗き込んでも問題ないのではと思えるぐらいである。
だが、今回は弾みで弾き飛ばされたのだが、、、。
ラシャールが、そのアデールの王子を気にしていたとは知らなかった。
何か自分の知らない交流が二人の間であるのかもしれないとレオは思う。
アデールの王子は既に、何人もの講師のお気に入りになっている。
それがますます、エール側の者たちの反発心をおこすことに繋がっているようなのだが、そのことに気が付きもしない。
目立たず大人しく生きてきたレオには、アデールの王子のある意味傍若無人なふるまいには、はらはらするぐらいである。
両陣営が去り、レオは一人残された。
「俺っていつもこうなんだよな、、、」
このまま野外の授業に参加しなくても、誰も気がつかないのではないかと思ったのであった。
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