男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子

藤雪花(ふじゆきはな)

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第五話 赤のショール

41、授業 ②

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専属の家庭教師との学びの時間しか経験したことのなかったロゼリアは、教室での学びを経験したことがない。

同じ年ごろの者たちの成熟した発言を聞き、己の至らなさを感じることもしばしばで、考えたことのないテーマでは、いったん発言はするが、自分の答えが最良だとどうしても思えないこともあった。
悶々とした気持ちを持て余し、一晩寝て改めて発言させてほしいと願い出た。

「おいおい、あいつのくだらない意見をまた聞かされるのかよ?」

そう呆れてつぶやいたのは、エストである。
美しい鳥の羽で作った扇を優雅にゆらがせて暑さをしのいでいたが、ロゼリアの発言に音を立てて扇を閉じた。
ジルコンの周囲をがっつりと囲むノル、フィン、ラドー、バルトから、同意の言葉。

その後日改めて発言には、エストだけでなく全員の視線がロゼリアに集中する。
ジルコンも眼を丸くしてロゼリアをみていた。
その異様な雰囲気に、またやってしまったとロゼリアは赤面する。
授業での講師からの問かけは講師が指示しない限り、その授業だけのもので完結するのが通常であることを初めて知ったのだった。
恥ずかしい失敗の一つである。

授業の合間にぶらりとウォラスがロゼリアの席に微笑を湛えながら寄ってくる。
ロゼリアと発言するのに躊躇をすることはないようである。
貴重な学友だといえるのか。

「君って本当に面白いね。無邪気な発言には、つっこみどころ満載で。都度叩かれるけどめげていない。むしろ強くなっているような気がするね」

ロゼリアは苦笑する。
叩かれれば闘志がわいてくるのは確かである。
無視されるよりかはよっぽど良かった。

「それって褒めてくれている?」
「この夏スクールで一番興味深く面白いし、君を観察しているだけでもいい暇つぶしになる」
「暇つぶし、、、」
ウォラスはロゼリアを単なる暇つぶしにしているだけのようだったが、この際ロゼリアはそれでもいいと思う。
誰かと話さないと人恋しくてたまらないのだ。
ただ、無駄に色気を振りまくのは辞めて欲しいと思う。

「そう。暇つぶし。僕は退屈でしかたがない」
ウォラスはロゼリアに、その女子たちに騒がれる、美男子といえる顔を寄せる。
くるりと巻いた銀髪が頬に触れそうになった。
この態度はウォラスが気に入った女子たちにしている態度である。
女扱いされているようである。
ロゼリアは眉を寄せ押し戻すと、ウォラスは素直に距離を取り直す。
誰かがウォラスを呼び、腰を浮かせ行こうとするが、少し思いとどまり、ロゼリアを見つめた。

「でも、気をつけて。君は、王子たちの優雅な仮面をはがそうとしているよ?彼らも生まれ育ちはどうであれ、16,7,8の若者にすぎない。そこいらの若者とおんなじだ。仮面の下には本能にむき出しになった獣が潜んでいるし、それを君は刺激するようだ」
「何か、起こるかもしれないというの?」
ぞっとしてロゼリアは聞き直す。
「起こるかもしれないし起こらないかもしれない。何も起こらなければ、君はずっとこのままの状態だろうね」
ウォラスは肩をすくめて見せた。
六か月の間、ずっとこの状態が続くことを想像する。
「それは、それで、嫌すぎる」
「じゃあ、この状況をなんとかしようと自ら動いた方がいいんじゃない?その結果、波乱を引き起こすだろうと思うけど。そうなれば、君も僕も、退屈しないでいいんじゃない?」

ウォラスは僕もを強調して言う。
どうやったらいいと思うと聞けば、そんなこと知らないと返された。
何をしても現状打破にいいんじゃないの?何なら、何か僕も手助けするよ、と無責任発言である。

ウォラスはナミビアの第五王子。
彼の、退屈という心の闇はどこまで深いのだろうとロゼリアは感じたのだった。




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