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【第2部 スクール編】第四話 百花繚乱
39、B国のリシュア姫 ①
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何人か集まれば、どこか印象に残る者がいる。
際だって美麗というわけでもなく、弁舌が優れているというものでもない。
王子や姫たちの中でどこか雰囲気が違う。
時間もオーバーする者が続出する中、時間内に終わり静かに退席する。
ロゼリアがその姫が印象付けられたのは静かに語っている姿女がまとう、薄幸な印象であった。
B国の王族の娘、リシュア。
胸に付けた大きな黒いバラには真ん中に大きな青い石。
さらに細かな星屑のような青い石がいくつもきらめいていた。
「彼女が気になるの?」
ロゼリアの視線を追い、そう耳打ちするのはウォラス。
彼とジルコンでロゼリアを挟む席に座る。
延々と続く自己紹介を、時折ひとり、くすりと笑いをかみ殺しながら聞く余裕の態度である。
ロゼリアは二年目の参加で暇を持て余しているらしいウォラスが、自分の観察をすることで楽しもうと思っていることに早くも気が付いた。
確かに、リシュアがなんとなく気になって、その席に戻る姿も見ていたからだ。
既に次の者が壇上に上がっている。
「彼女が気分でも悪いのかと思って」
言い訳するようにロゼリアは言う。
ウォラスはわかっているよ、というように目元を緩ませた。
「君の好みは、大人しそうな女子なのかい?でも彼女はやめていた方がいいよ?」
「どうして?」
「どうしてって、彼女は事情が複雑だからだよ」
「複雑ってどういうこと?」
ウォラスは大げさに片眉をあげて見せた。
「彼女がここに参加する意味は、パジャンの者たちが参加するのと同様に重要で複雑っていうことだよ」
「それはどういうこと?意味がわからない」
その時、席についていたリシュアの視線がロゼリアに向く。
ロゼリアは反射的に笑顔で応えた。
ウォラスも気が付いてにっこりと微笑をつくり手をひらひらと軽率に振った。
娘の視線は二人にぎょっとして据えられるが、すぐに下を向き気が付かないふりをされてしまう。
振られたね、とウォラスは笑う。
「だけど、君がどんなにがんばっても無駄だと思うよ?リシュア姫の狙いはただ一人ジルコンだから」
「ジルコンにはもう婚約者がいるでしょう?」
ロゼリアが即答すると、ウォラスは目を見開きロゼリアを凝視し、そして口元を押さえ笑った。
ロゼリアはどうも愚かな発言をしたようだった。
「婚約者がいても、そして結婚していても、ジルコンは選び放題ということがわからないのか?」
「何それ。僕の父は母だけだよ。フォルス王も妻は一人だけだ」
「まあ、確かにフォルス王は王妃一筋だな。でも、息子はそうだとは限らないだろう?エール国の支配を盤石にするために、他国との婚姻をすることで絆を強めようとするかもしれない。これは体のいい、妻選抜スクールともいえないか?」
「選びたい放題の妻選抜スクール、、、」
ロゼリアは絶句する。
高尚な目的の元に多様な国々から将来の国政を担う若者たちが集められているのではないのか。
「おい、ウォラス、聞こえているぞ。いい加減馬鹿なことを吹き込むな。アンが本気にしてしまう」
ぎろりとジルコンがウォラスを睨んだ。
「妻選抜というのは冗談。だけど、若い男女が集まっているんだ。結果はどうなるかはわからない」
ウォラスはこっそりとロゼリアにだけ聞こえるようにささやいたのであった。
ロゼリアの気になったリシュアは、女たちのグループの端に席を取る。
控えめで大人しく静かな性格のようである。
彼女から声がかかったのは、自己紹介をすべて終わり、ロゼリアが身体中の空気を入れ替えしたいと外に出たときであった。
振り返ると、間近で見る緊張した目元。ほんのり上気した顔。
華やかさはないが、美しいといえる娘である。
意を決してロゼリアに話しかけたのがわかった。
強く握りしめたこぶしが姫に似つかわしくないとロゼリアは思う。
「中立国のアデールの王子がどうしてエールの王子の席の傍におられるのですか?」
「それはジルが僕を参加させたことに責任を感じているからだと思うよ」
「B国にも打診がありわたしも参加することになったのですが、そのことに対してエールの王子はあなたに感じているのと同様の責任を感じていると思いますか?」
「それはそう思っていると思う」
「ですが、遠巻きに見ることしかできず、直接お声がけするにもできませんの」
そしてじっとロゼリアをみつめた。
どこか思いつめた冷たい目。緊張の色をはらんでいる。
ロゼリアが気になる薄幸そうな美しさである。
彼女が何をロゼリアに求めているのか、ロゼリアは察した。
「なら、僕が直接ジルとの間を取り持とうか。直接挨拶をしたらいいと思うよ」
「ええ?本当ですか!そうだとしたらこれほどうれしいことはありません」
娘は喜んだ。
ウォラスがロゼリアに囁いた、ジルコンを狙っているといった言葉がよぎるが、直接話をしたいと言っているのに取り持たない選択肢はロゼリアにはないのだ。
だが、結果的にはロゼリアは非常に後悔することになる。
リシュアがジルコンを狙っていたのは確かであった。
だがそれは妻の座ではない。
ジルコンもロゼリアの後に続いて外に出てきていた。
「ジル、B国のリシュア姫が直接話をしたいそうです」
ジルコンは、ロゼリアからその横に立つ娘に視線を向けた。
娘はゆっくりと振り返り膝を折り、ジルコンに笑顔を向けた。
正式な拝礼を行う。
優雅な挙措であった。
際だって美麗というわけでもなく、弁舌が優れているというものでもない。
王子や姫たちの中でどこか雰囲気が違う。
時間もオーバーする者が続出する中、時間内に終わり静かに退席する。
ロゼリアがその姫が印象付けられたのは静かに語っている姿女がまとう、薄幸な印象であった。
B国の王族の娘、リシュア。
胸に付けた大きな黒いバラには真ん中に大きな青い石。
さらに細かな星屑のような青い石がいくつもきらめいていた。
「彼女が気になるの?」
ロゼリアの視線を追い、そう耳打ちするのはウォラス。
彼とジルコンでロゼリアを挟む席に座る。
延々と続く自己紹介を、時折ひとり、くすりと笑いをかみ殺しながら聞く余裕の態度である。
ロゼリアは二年目の参加で暇を持て余しているらしいウォラスが、自分の観察をすることで楽しもうと思っていることに早くも気が付いた。
確かに、リシュアがなんとなく気になって、その席に戻る姿も見ていたからだ。
既に次の者が壇上に上がっている。
「彼女が気分でも悪いのかと思って」
言い訳するようにロゼリアは言う。
ウォラスはわかっているよ、というように目元を緩ませた。
「君の好みは、大人しそうな女子なのかい?でも彼女はやめていた方がいいよ?」
「どうして?」
「どうしてって、彼女は事情が複雑だからだよ」
「複雑ってどういうこと?」
ウォラスは大げさに片眉をあげて見せた。
「彼女がここに参加する意味は、パジャンの者たちが参加するのと同様に重要で複雑っていうことだよ」
「それはどういうこと?意味がわからない」
その時、席についていたリシュアの視線がロゼリアに向く。
ロゼリアは反射的に笑顔で応えた。
ウォラスも気が付いてにっこりと微笑をつくり手をひらひらと軽率に振った。
娘の視線は二人にぎょっとして据えられるが、すぐに下を向き気が付かないふりをされてしまう。
振られたね、とウォラスは笑う。
「だけど、君がどんなにがんばっても無駄だと思うよ?リシュア姫の狙いはただ一人ジルコンだから」
「ジルコンにはもう婚約者がいるでしょう?」
ロゼリアが即答すると、ウォラスは目を見開きロゼリアを凝視し、そして口元を押さえ笑った。
ロゼリアはどうも愚かな発言をしたようだった。
「婚約者がいても、そして結婚していても、ジルコンは選び放題ということがわからないのか?」
「何それ。僕の父は母だけだよ。フォルス王も妻は一人だけだ」
「まあ、確かにフォルス王は王妃一筋だな。でも、息子はそうだとは限らないだろう?エール国の支配を盤石にするために、他国との婚姻をすることで絆を強めようとするかもしれない。これは体のいい、妻選抜スクールともいえないか?」
「選びたい放題の妻選抜スクール、、、」
ロゼリアは絶句する。
高尚な目的の元に多様な国々から将来の国政を担う若者たちが集められているのではないのか。
「おい、ウォラス、聞こえているぞ。いい加減馬鹿なことを吹き込むな。アンが本気にしてしまう」
ぎろりとジルコンがウォラスを睨んだ。
「妻選抜というのは冗談。だけど、若い男女が集まっているんだ。結果はどうなるかはわからない」
ウォラスはこっそりとロゼリアにだけ聞こえるようにささやいたのであった。
ロゼリアの気になったリシュアは、女たちのグループの端に席を取る。
控えめで大人しく静かな性格のようである。
彼女から声がかかったのは、自己紹介をすべて終わり、ロゼリアが身体中の空気を入れ替えしたいと外に出たときであった。
振り返ると、間近で見る緊張した目元。ほんのり上気した顔。
華やかさはないが、美しいといえる娘である。
意を決してロゼリアに話しかけたのがわかった。
強く握りしめたこぶしが姫に似つかわしくないとロゼリアは思う。
「中立国のアデールの王子がどうしてエールの王子の席の傍におられるのですか?」
「それはジルが僕を参加させたことに責任を感じているからだと思うよ」
「B国にも打診がありわたしも参加することになったのですが、そのことに対してエールの王子はあなたに感じているのと同様の責任を感じていると思いますか?」
「それはそう思っていると思う」
「ですが、遠巻きに見ることしかできず、直接お声がけするにもできませんの」
そしてじっとロゼリアをみつめた。
どこか思いつめた冷たい目。緊張の色をはらんでいる。
ロゼリアが気になる薄幸そうな美しさである。
彼女が何をロゼリアに求めているのか、ロゼリアは察した。
「なら、僕が直接ジルとの間を取り持とうか。直接挨拶をしたらいいと思うよ」
「ええ?本当ですか!そうだとしたらこれほどうれしいことはありません」
娘は喜んだ。
ウォラスがロゼリアに囁いた、ジルコンを狙っているといった言葉がよぎるが、直接話をしたいと言っているのに取り持たない選択肢はロゼリアにはないのだ。
だが、結果的にはロゼリアは非常に後悔することになる。
リシュアがジルコンを狙っていたのは確かであった。
だがそれは妻の座ではない。
ジルコンもロゼリアの後に続いて外に出てきていた。
「ジル、B国のリシュア姫が直接話をしたいそうです」
ジルコンは、ロゼリアからその横に立つ娘に視線を向けた。
娘はゆっくりと振り返り膝を折り、ジルコンに笑顔を向けた。
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優雅な挙措であった。
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