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【第2部 スクール編】第四話 百花繚乱

35、スクール初日の朝食①

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ロゼリアは薄いカーテンの透き間から頬に差しかかる日差しの温かさで目が覚めた。

晴天である。
ベッドには天蓋がなかった。
いつも繭のような空間で眠っていたロゼリアではあるが、旅では天蓋がないときもあり、エールの寮でもなくてもいいかと思ったが、軽く扉が叩かれ返事をまたず扉が開き、「もう起きてますか?」とアヤが顔をのぞかせたこともあり、やはりベッドと空間、視界を遮るワンクッションは必要だと思い直す。
寝ている間は胸を押さえる晒はしていないからだ。

いきなり扉を開けた本人が、鍵をかけないなんて不用心です!と露骨に顔をしかめている。
ロゼリアは突然の早朝の訪問の、アヤの開口一番のお叱りに面食らう。
そもそもアヤが来ることを聞いていないのだ。

「僕の部屋には盗られて困るような高価なものはないよ?」

そういうと、あんた本気で言っているの?と言わんばかりに見返されてしまう。
「物ばかりが盗られるものとは限らないわ。命、誘拐、貞操。そういうもの奪おうとする者はいるわ。ここはエールの王城であり、守りは固いとはいえ、そういう所ほど内側に入り込めば案外脆いところもあるから」
そこでアヤはジルコンの部屋と逆の方向をに目をやった。
「パジャンの勢力も同じ階なのよ。彼らを用心しなければ。そういうことを除いても、アンさまは男なのにおきれいなのですから気をつけてください!」
と付け加えた。
「きれいなのが危ないことなのか?」
「危ないです!アデールでも危ない目にはあったことがないのですか?」
「ない。それに僕は鍛えているから大抵は撃退できる」
とはいえ、ロゼリアの時もアンジュの時も一人でいることはなかったといえる。
外国であることも踏まえて、アヤの言う通り気をつけなければならないと思い直した。

「早く準備してください。付き添いますから」
そんな騒がしい幕開けで、6か月ほど続く夏スクールの初日がはじまったのであった。



ジルコンの采配でアヤは今日だけ朝食を終えるまで付くという。
慌てて顔を洗い、身体を拭う。
昨日シリルの店で誂えた機能的に動ける服を着て部屋をでると、アヤはロゼリアを扉外で直立不動で立ち待っていた。
細く鋭い目つきで上から下までロゼリアをじろじろと見ていった言葉は「それだけですか?」である。
その不満げな様子を隠さないが、何が不満なのかがわからない。
ロゼリアは新しい服の着心地もよくて、快適で過ごしやすい一日になりそうと思い、朝の機嫌のよいモードに入っていたのだが、アヤの不満が冷や水を差した。

アヤは朝からピリピリとしている。
ロゼリアに王子として足りないところが散見しているようで、怒りさえわいてくるようである。
その怒りがロゼリアにはどうもわからない。

「それだけというのはどういうこと?」
「身に付ける物はそれだけですか、ということです。今日は初日で参加者が勢ぞろいいたします。そのシンプルすぎるのは、王子として目立たなすぎるのではないですか?」
アヤはロゼリアの服装を指摘する。
「ええ?僕は勉強しにきたのであって、目立ちたいと思って参加をするわけではないのだけど」
「それは建前です。アンさま。わたしは直接参加しておりませんが、噂に聞くところ、各国いろいろ競うようなところもあるそうですが。同盟国なりに、完全な横並びというよりも、森と平野の国々の中で、存在感を増したいというところでしょうか」
「アデールは豊かな国ではないよ。宝石を身に付けて豊かさを誇示することもないし、きらびやかに着飾って存在感を増したいという要求もない」
「それはそうですが、、、」
アヤは何か言いたそうである。
アヤはエールの騎士の銀の刺繍が入った黒服の正装で、旅の時の簡易な黒服ではない。
黒騎士の制服にも場面に合わせた正装度合いがあるようである。
ロゼリアは、アヤがかなり気合がはいっているように思えた。

「今日はこれから何か式典かなにかあるの?」
「今日の予定は、これから食堂に案内し、最初の勉強会会場にご案内するところまでがわたしの役割です。
そして、アンさまにエールの王子の正騎士がついているということをはっきりと示すこと。それがジルさまが望まれていることです」
決意をこめてアヤは言う。
話ながらもアヤは食堂に向かい、先に歩く。
彼女はこぎみよく靴音を響かせる。
ロゼリアにはそのアヤの張り切り具合はよく理解でなかったのだが、それは食堂に入ってようやく理解できたのである。

食堂には大きなテーブルがいくつも置いてあり、既に、絢爛豪華な衣装を身に付けた王子たちが席に付き、食事を始めていた。
ロゼリアにアヤが付いているように、彼らはそれぞれのお付きの者を連れてその背後に立たせている。
騎士たちが多いようである。
しかも、アヤがきちんと正装をしているのと同様に、それぞれの騎士たちの正装度は高い。
騎士たちは視線を走らせ、互いの実力を測りあったのだった。



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