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第三話 ジルコンの憂鬱
21、エールへの道行
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ロゼリアは一人で朝の準備をする。
エール国への道程では一人部屋を用意してくれている。
いつも身の回りのことを手伝ってくれていたフラウがいないのだ。
自分のことは自分でしなければならない。
それが旅の基本である。
ロゼリアは旅をしたことがないわけではないけれど、それはごく身近な国まで。
アデールの世継ぎの君が活発で聡明だということをアピールするための外交だった。
それも何年も前のことである。
入れ替わりをはじめた頃からずっと一緒だったフラウはいない。
顔を洗うとローズオイルの瓶から、少量を取り出して髪になでつけ片側で固く三つ編みをする。
フラウからは、この髪にも肌にもつけられるローズオイルを。
サララからは、女性になりたくなった時のためにと紅の入った小さな陶器のうつわを。
アンジュからは、精製したアデールの赤い染料がずしりと入った小さな巾着袋を。
出立したのは三日前の朝のこと。
胸に晒しを巻き平らに固く整えた。
手伝ってもらわなくてもできるようになるものである。
宿の曇った鏡をのぞき込むと、不安げで自信なさげなアンジュが見返してくる。
アンジュ扮するロゼリアが。
その顔を見て、ロゼリアは自分が不安を感じていることを知る。
黒づくめのどこか冷たいエールの騎士たち。
彼らの賊を壊滅させたその情け容赦ない姿は焼き付いている。
彼らの強さの噂は森と平野の国々には知れ渡ってるようで、この3日間危険なことは起こらなかった。
きたときと同様の茶色いマントに身を包み、エール国の王子と騎士はアデールの森のきわを走り抜けた。
初日の昼間には、森続きの隣国、エリンの領土に入る。
森と田園地帯をぬけていく。
きちんとした食事をするには、城壁の内側に入らなければならなかった。
関所の砦で、一行は待ち構えたエリンの官僚に足止めされ、歓待される。
彼らの宗主と仰ぐ強国の、黒い騎士たちを引きつれたジルコンは、どこでも歓待され足止めを食らう。
中には王自らが挨拶に出向いてくることもある。
結局、エール国にたどり着くまでによった国々で何かしらの足止めされることになったのである。
ジルコン王子は、その整った顔に笑みを浮かべ感謝を述べる。
森で襲撃された時にロゼリアに見せた傲慢な態度を見せることはない。
初日はロゼリアは、ジルコン王子のすぐ近くで馬を走らせていたが、ジルコンは特に話しかけることはない。
黒騎士たちは、ロゼリアに目をやりつつも彼らから話しかけることもない。
結局、ジルコンが方向転換したことに気が付かず、道を反れてしまい気が付いた時にははぐれてしまうという失態を起してしまった。
それ以来、ロゼリアは先頭に立つジルコンではなく、最後尾につくことにしている。
それはそれで、珍しいものを見てしまうと、最後をゆく巨躯のジムから引き離されて後れを取ってしまうのであったが。
騎士たちは声を低くして話をする。
ロゼリアには聞き取れず、言葉をひろって意味不明なことも多い。
ここには、ロゼリアを気に掛けるものなど誰もいなかった。
アデール国から外の世界を勉強しろと手を掴んで引き上げたジルコンは、ロゼリアを放置の状態である。
勝手についてこいとのことだった。
勝手どころか厄介者扱いになってきているようにも思う。
そして、ジルコン王子からは放置され、騎士たちからは無視をされ、勝手がわからず道を外し遅れをとる状態であったアデール国を出てからの二日間を思うと、ロゼリアはこの先、自分ははたして一人でやっていけるのかどうか、大いに不安しか抱かなかったのである。
既に朝の準備が整い、朝食を終えた騎士たちは馬を引きロゼリアを待っていた。
「お連れさまは、ご準備がおすみですか?」
エリンを抜け、ナミビア国に入ってから隣国まで同道させてほしいと無理やりついてきた素朴な顔のナミビアの騎士は黒服の集団を見回し尋ねた。
彼は20代の騎士で、昨日はしきりに王が王城を離れられないことを謝っていたのだった。
出立を考えると、王城に入るよりも町の中の方が便利ということで、彼らは宿に泊まっていた。
宿屋は賓客に小さな騒動が起こっているのも、エール国の者たちは気にもしない。
「連れ?ああ。朝の準備にいつも手間取るようだ」
ジルコンは言う。
「ああ、女性ですからね。お供の方もお連れされていないようですし」
ナミビアの騎士はなんの気なしに言う。
その途端ジルコンをはじめその場の近くにいた黒騎士たちは固まった。
「女性ではないよ」
軽いパンチを不意打ちにくらった衝撃から立ち直ったジルコンは言う。
そもそも双子なのだから、王子が姫に間違われるのももっともだと思い直す。
「ええ?彼女は、アデールの姫ではないのですか?ジルコン殿下は麗しきアデールの姫を迎えに行ったと噂されておりましたので。その、お連れ様は、淡雪の肌。唇は心を解きほぐし、声は胸に染みとおる。黄金の絹糸の髪。
アデールの赤が似合いそうな、大層お美しい方ですから、てっきりアデールの姫かと、、、」
ジルコンは鼻白んだ。
騎士が自分の婚約者の容姿を歌うように言ったのが、なんとなく気に食わなかったのだ。
「そんな噂になっているのか。彼は、姫の方ではなくて王子の方だ」
「アンジュ王子の方ですか!」
彼はますます興味を引かれたようであった。
ロゼリアが準備を整えて浮かぬ顔をして彼らと合流したとき、そんな会話がなされていたのだった。
黒服の集団のなかで、彼らと同じような茶のマントを頭から羽織るが、その下から金の髪の筋をこぼれさせ、白と藍の織地をのぞかせるロゼリアは、ある意味、目を引く存在だったのである。
そしてナミビアの国境には昼前につく予定である。
彼のお供もそこまでである。ナミビアの騎士は彼らの最後尾につくことにする。
素朴な騎士は、おずおずとロゼリアに話しかけてみた。
するとぱあっとロゼリアの顔が輝いた。
ロゼリアは広がる田畑の作物をきく。
農村で生活をする彼らの生活をきく。
ナミビアの騎士は、もとは農民からの出であったようで、ロゼリアの質問に嬉々として応える。
次第に、ロゼリアの声も大きくなっていく。
時折笑い声も上がっている。
「今度お時間があるときにでも、ナミビアを案内させてください。
季節ごとの面白い風物がございますから!これから草花も美しく咲き乱れますし」
別れ際には、エールの王子一行には丁寧な旅の安全を祈る挨拶を、ロゼリアにはそれに加えて、少しくだけてはにかんだ笑みをナミビアの騎士は添える。
それに、晴れ晴れとした笑顔でロゼリアは応えている。
朝の不安げな様子はもうどこかにいっていた。
そして彼らの盛り上がる話や笑い声を前方で馬を進めながらずうっと聞かされていたジルコンは、アデール国を出立して以来、彼らの騎士が緊張するほど、これ以上ないほど不機嫌になっていたのである。
エール国への道程では一人部屋を用意してくれている。
いつも身の回りのことを手伝ってくれていたフラウがいないのだ。
自分のことは自分でしなければならない。
それが旅の基本である。
ロゼリアは旅をしたことがないわけではないけれど、それはごく身近な国まで。
アデールの世継ぎの君が活発で聡明だということをアピールするための外交だった。
それも何年も前のことである。
入れ替わりをはじめた頃からずっと一緒だったフラウはいない。
顔を洗うとローズオイルの瓶から、少量を取り出して髪になでつけ片側で固く三つ編みをする。
フラウからは、この髪にも肌にもつけられるローズオイルを。
サララからは、女性になりたくなった時のためにと紅の入った小さな陶器のうつわを。
アンジュからは、精製したアデールの赤い染料がずしりと入った小さな巾着袋を。
出立したのは三日前の朝のこと。
胸に晒しを巻き平らに固く整えた。
手伝ってもらわなくてもできるようになるものである。
宿の曇った鏡をのぞき込むと、不安げで自信なさげなアンジュが見返してくる。
アンジュ扮するロゼリアが。
その顔を見て、ロゼリアは自分が不安を感じていることを知る。
黒づくめのどこか冷たいエールの騎士たち。
彼らの賊を壊滅させたその情け容赦ない姿は焼き付いている。
彼らの強さの噂は森と平野の国々には知れ渡ってるようで、この3日間危険なことは起こらなかった。
きたときと同様の茶色いマントに身を包み、エール国の王子と騎士はアデールの森のきわを走り抜けた。
初日の昼間には、森続きの隣国、エリンの領土に入る。
森と田園地帯をぬけていく。
きちんとした食事をするには、城壁の内側に入らなければならなかった。
関所の砦で、一行は待ち構えたエリンの官僚に足止めされ、歓待される。
彼らの宗主と仰ぐ強国の、黒い騎士たちを引きつれたジルコンは、どこでも歓待され足止めを食らう。
中には王自らが挨拶に出向いてくることもある。
結局、エール国にたどり着くまでによった国々で何かしらの足止めされることになったのである。
ジルコン王子は、その整った顔に笑みを浮かべ感謝を述べる。
森で襲撃された時にロゼリアに見せた傲慢な態度を見せることはない。
初日はロゼリアは、ジルコン王子のすぐ近くで馬を走らせていたが、ジルコンは特に話しかけることはない。
黒騎士たちは、ロゼリアに目をやりつつも彼らから話しかけることもない。
結局、ジルコンが方向転換したことに気が付かず、道を反れてしまい気が付いた時にははぐれてしまうという失態を起してしまった。
それ以来、ロゼリアは先頭に立つジルコンではなく、最後尾につくことにしている。
それはそれで、珍しいものを見てしまうと、最後をゆく巨躯のジムから引き離されて後れを取ってしまうのであったが。
騎士たちは声を低くして話をする。
ロゼリアには聞き取れず、言葉をひろって意味不明なことも多い。
ここには、ロゼリアを気に掛けるものなど誰もいなかった。
アデール国から外の世界を勉強しろと手を掴んで引き上げたジルコンは、ロゼリアを放置の状態である。
勝手についてこいとのことだった。
勝手どころか厄介者扱いになってきているようにも思う。
そして、ジルコン王子からは放置され、騎士たちからは無視をされ、勝手がわからず道を外し遅れをとる状態であったアデール国を出てからの二日間を思うと、ロゼリアはこの先、自分ははたして一人でやっていけるのかどうか、大いに不安しか抱かなかったのである。
既に朝の準備が整い、朝食を終えた騎士たちは馬を引きロゼリアを待っていた。
「お連れさまは、ご準備がおすみですか?」
エリンを抜け、ナミビア国に入ってから隣国まで同道させてほしいと無理やりついてきた素朴な顔のナミビアの騎士は黒服の集団を見回し尋ねた。
彼は20代の騎士で、昨日はしきりに王が王城を離れられないことを謝っていたのだった。
出立を考えると、王城に入るよりも町の中の方が便利ということで、彼らは宿に泊まっていた。
宿屋は賓客に小さな騒動が起こっているのも、エール国の者たちは気にもしない。
「連れ?ああ。朝の準備にいつも手間取るようだ」
ジルコンは言う。
「ああ、女性ですからね。お供の方もお連れされていないようですし」
ナミビアの騎士はなんの気なしに言う。
その途端ジルコンをはじめその場の近くにいた黒騎士たちは固まった。
「女性ではないよ」
軽いパンチを不意打ちにくらった衝撃から立ち直ったジルコンは言う。
そもそも双子なのだから、王子が姫に間違われるのももっともだと思い直す。
「ええ?彼女は、アデールの姫ではないのですか?ジルコン殿下は麗しきアデールの姫を迎えに行ったと噂されておりましたので。その、お連れ様は、淡雪の肌。唇は心を解きほぐし、声は胸に染みとおる。黄金の絹糸の髪。
アデールの赤が似合いそうな、大層お美しい方ですから、てっきりアデールの姫かと、、、」
ジルコンは鼻白んだ。
騎士が自分の婚約者の容姿を歌うように言ったのが、なんとなく気に食わなかったのだ。
「そんな噂になっているのか。彼は、姫の方ではなくて王子の方だ」
「アンジュ王子の方ですか!」
彼はますます興味を引かれたようであった。
ロゼリアが準備を整えて浮かぬ顔をして彼らと合流したとき、そんな会話がなされていたのだった。
黒服の集団のなかで、彼らと同じような茶のマントを頭から羽織るが、その下から金の髪の筋をこぼれさせ、白と藍の織地をのぞかせるロゼリアは、ある意味、目を引く存在だったのである。
そしてナミビアの国境には昼前につく予定である。
彼のお供もそこまでである。ナミビアの騎士は彼らの最後尾につくことにする。
素朴な騎士は、おずおずとロゼリアに話しかけてみた。
するとぱあっとロゼリアの顔が輝いた。
ロゼリアは広がる田畑の作物をきく。
農村で生活をする彼らの生活をきく。
ナミビアの騎士は、もとは農民からの出であったようで、ロゼリアの質問に嬉々として応える。
次第に、ロゼリアの声も大きくなっていく。
時折笑い声も上がっている。
「今度お時間があるときにでも、ナミビアを案内させてください。
季節ごとの面白い風物がございますから!これから草花も美しく咲き乱れますし」
別れ際には、エールの王子一行には丁寧な旅の安全を祈る挨拶を、ロゼリアにはそれに加えて、少しくだけてはにかんだ笑みをナミビアの騎士は添える。
それに、晴れ晴れとした笑顔でロゼリアは応えている。
朝の不安げな様子はもうどこかにいっていた。
そして彼らの盛り上がる話や笑い声を前方で馬を進めながらずうっと聞かされていたジルコンは、アデール国を出立して以来、彼らの騎士が緊張するほど、これ以上ないほど不機嫌になっていたのである。
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