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【第1部アデール国編 】第一話 アデール国の双子
7、アデールの赤 (第一話 完)
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剣と体術は体を鍛えて強くなるための兄のアンジュのためのものだとすれば、女性のクラスはロゼリアのためのものである。
元々、アデール国は現ベルゼ国王の曾祖父が、彼を長とする複数の一族を率いて森を開墾し、家畜を繁殖させ、糸を紡ぎ染め、布を織り、この森に根を下ろしたのが始めである。
食べ物も、着る物も、道具も、必要なもののほとんどの物が自給自足で事足りる。
だが、平野部ではどんどんと人口が増加する。
人も物資も産業も急激に動いていた。だからこそより豊さを求めて戦が始まっていたといってもよかった。
彼らの胃袋を満たすための農産物の生産が大規模化し、物作りも分業化し、商業も発達して交流が盛んになっている。
それらを学びにアデール国の優秀な若者も都会へ出る。
彼らが持ち帰ったものを真似て、いろんな事がアデール国内でも試されはじめていた。
だがしかし、祖先から引き継いだ手仕事は王室では変わらず引き継がれていた。
母がロゼリアに伝えたように。
そしてロゼリアもいずれ我が子に伝えるように。
「部分だけではなく、最初から最後まで誰の助けも借りず、自分の力でできなければなりません」
母のセーラ王妃はいう。
「無人島で生活しなくてはならなくなったら、一から百まで一連でできなければ、火も起こせず飢え死し、服も作れず凍え死ぬかもしれません!」
そんな状況に陥るはずもなかったが、セーラ王妃は大真面目である。
無人島に例えるから意味がわからなくなるが、戦に敗れ国を追われて新たな土地にゼロから再び始める必要にせまられた時、と脳内で変換するとわかりやすくなる。
「あなたが感じているように、この考え方は時代に取り残されている感はありますが、王族であるわたしたちだけでも自然を敬い、先祖を敬い、時間も労力もかかりますが、大地に根付いた手仕事をいたしましょう。
それに流行りの分業も効率的かもしれませんが、細切れの仕事は面白くありません!創意工夫が生まれる余地がありませんね」
セーラ王妃は力説する。
くすくすと、一緒に学ぶサララが笑う。
サララはロゼリアとアンジュの従姉だ。
彼女はアンジュの婚約者でもある。
「とにかく、ロゼリアとアンジュには、わたしの仕事に付き合ってもらいますから」
それで、女子のクラスでは母の手伝いをしながら、その仕事の一番最初まで遡って学ぶことになるのである。
毛織ものなら、羊を育てることから始まる。
赤ちゃん羊の出産に立ち会い、この手で取上げたときは感動で涙が出た。
生まれたときの毛は艶々で柔らかだが、同じ羊が二年目になると毛質が変わることを知った。
そうすると、その毛の用途が変わるのだ。
ショールがいい、絨毯がいいと、双子とサララは楽しんだ。
そして、初夏の戸外で羊毛を刈り、洗い、染める。
冬の屋内で、暖炉の前で紡ぎ、糸を掛け、織ったり編んだりする。
時には蚕に桑の葉をやり、糸を引き出すこともする。
手仕事だけではなく、料理もする。
羊を捌く。
鶏を絞める。
野菜を育て収穫する。
怪我の応急措置をできるようになる。
怪我人がでれば、医者と母と共に救急箱をもって走るのだ。
王妃について学ぶ女の仕事は、生きること全てを網羅する。
女の方が実のところ大変なのではないか?
ロゼリアはこれから紡いで糸になる前の原毛の膨大な山をみて思うのであった。
15才のある日。
ロゼリアは洗った原毛を、赤い染料に浸しては引き上げることを繰り返していた。
その都度、色の染まり具合を確認する。
羊毛を沈めたとき、染料が跳ねあがり、染液を浴びてしまう。
「うわっ。なんでわたしがこんなことしなきゃならないのよ」
ロゼリアは悲痛に叫ぶ。
見かねてサララが、そっと自分の袖口で濡れた髪をぬぐった。
「駄目だよ、サララ。あなたの袖が赤く染まってしまう」
その手を掴み、ロゼリアに言われてサララは頬を赤くする。
「気になさらないで!ロズさま。この服はもとより染色用の服ですから、何が付いてもいいのです。わたしの袖が赤く染まるよりも、ロズさまの金の髪がディーンのように赤毛になる方が嫌ですから」
ロゼリアは苦笑する。
「ディーンのやつ人気がないなあ。女の子には優しいよ?あ、わたしは女の子扱いされていないけどね。それより、顔についていない?」
ロゼリアはサララに顔を向けた。
サララは間近にロゼリアに見られて、わずかにからだを引き頬を染める。
ロゼリアは何も気にしない。
サララは兄の婚約者であり同性である。
女子が頬を染める場面は、ロゼリアの周りではよく目にする光景である。
二人のやり取りのその横で、サララの婚約者であるはずのアンジュは、ロゼリアが染めた色をほれぼれと眺めた。
ホンの少量の赤色染料で、見事な赤色に染まる、アデールの不思議が行われたのである。
この希少さをロゼリアは本当のところ理解できていないとアンジュは思う。
「この赤は特別。アデールの赤色は他には出せない色だよ。ロズも知っているでしょう?」
この赤は、偶然がかさなり発見された、虫から取れる染料で染まる。
赤色は、他に茜の根や、木の幹を使って染めることもできる。
だが、この、カイガラムシを使って染めるアデールの赤は、大地や木々を傷めない。
そして、葉や枝にびっちりとはりついた不格好なムシからこの美しい赤が抽出されるというアデールの秘密を知ったときのアンジュの衝撃は大きかった。
この赤は、産業らしい産業のないアデール国でしか産出しないとされていて、非常に高値で取引されている。
アデールの赤は虫から採れる。
これはアデール国の二つめの、最重要極秘事項である。
ロゼリアとアンジュが入れ替わっていることに次ぐ、いやもしかしてそれ以上の、門外不出の秘密であった。
アンジュは実はカイガラムシに夢中である。
「カイガラムシ畑を作って、みっちり繁殖させて一度に沢山採集すれば、国庫には金貨がざっくざく、、、」
アンジュの呟きをきき、葉っぱ全てに隙間なくわさわさと張り付いたカイガラムシを想像したロゼリアは、目眩を感じたのである。
病弱だったアンジュは風邪を引かなくなり強くなってきていた。
一方ロゼリアは並の男以上に鍛え上げているために、女性らしさは目立たなかったが、その服の下は、サララほどではないが、慎ましいながらも胸がふくらんできていたのであった。
幼い頃からの努力の甲斐があって、アデール国には前途有望な強く賢いアンジュ王子と、たいそう美しいロゼリア姫がいるという評判は国境を越えて広く伝わっていく。
二人の美しく強い世継ぎがいるために、アデール国は安泰である。
皆がそう思っていた。
その印象を確かなものにするために、アンジュもロゼリアも頑張ってきていたのである。
二人は来月で16才になる。
そろそろ二人は、生まれ持った性別へ戻る時期が近づいてきていたのである。
第1話 アデール国の双子 完
元々、アデール国は現ベルゼ国王の曾祖父が、彼を長とする複数の一族を率いて森を開墾し、家畜を繁殖させ、糸を紡ぎ染め、布を織り、この森に根を下ろしたのが始めである。
食べ物も、着る物も、道具も、必要なもののほとんどの物が自給自足で事足りる。
だが、平野部ではどんどんと人口が増加する。
人も物資も産業も急激に動いていた。だからこそより豊さを求めて戦が始まっていたといってもよかった。
彼らの胃袋を満たすための農産物の生産が大規模化し、物作りも分業化し、商業も発達して交流が盛んになっている。
それらを学びにアデール国の優秀な若者も都会へ出る。
彼らが持ち帰ったものを真似て、いろんな事がアデール国内でも試されはじめていた。
だがしかし、祖先から引き継いだ手仕事は王室では変わらず引き継がれていた。
母がロゼリアに伝えたように。
そしてロゼリアもいずれ我が子に伝えるように。
「部分だけではなく、最初から最後まで誰の助けも借りず、自分の力でできなければなりません」
母のセーラ王妃はいう。
「無人島で生活しなくてはならなくなったら、一から百まで一連でできなければ、火も起こせず飢え死し、服も作れず凍え死ぬかもしれません!」
そんな状況に陥るはずもなかったが、セーラ王妃は大真面目である。
無人島に例えるから意味がわからなくなるが、戦に敗れ国を追われて新たな土地にゼロから再び始める必要にせまられた時、と脳内で変換するとわかりやすくなる。
「あなたが感じているように、この考え方は時代に取り残されている感はありますが、王族であるわたしたちだけでも自然を敬い、先祖を敬い、時間も労力もかかりますが、大地に根付いた手仕事をいたしましょう。
それに流行りの分業も効率的かもしれませんが、細切れの仕事は面白くありません!創意工夫が生まれる余地がありませんね」
セーラ王妃は力説する。
くすくすと、一緒に学ぶサララが笑う。
サララはロゼリアとアンジュの従姉だ。
彼女はアンジュの婚約者でもある。
「とにかく、ロゼリアとアンジュには、わたしの仕事に付き合ってもらいますから」
それで、女子のクラスでは母の手伝いをしながら、その仕事の一番最初まで遡って学ぶことになるのである。
毛織ものなら、羊を育てることから始まる。
赤ちゃん羊の出産に立ち会い、この手で取上げたときは感動で涙が出た。
生まれたときの毛は艶々で柔らかだが、同じ羊が二年目になると毛質が変わることを知った。
そうすると、その毛の用途が変わるのだ。
ショールがいい、絨毯がいいと、双子とサララは楽しんだ。
そして、初夏の戸外で羊毛を刈り、洗い、染める。
冬の屋内で、暖炉の前で紡ぎ、糸を掛け、織ったり編んだりする。
時には蚕に桑の葉をやり、糸を引き出すこともする。
手仕事だけではなく、料理もする。
羊を捌く。
鶏を絞める。
野菜を育て収穫する。
怪我の応急措置をできるようになる。
怪我人がでれば、医者と母と共に救急箱をもって走るのだ。
王妃について学ぶ女の仕事は、生きること全てを網羅する。
女の方が実のところ大変なのではないか?
ロゼリアはこれから紡いで糸になる前の原毛の膨大な山をみて思うのであった。
15才のある日。
ロゼリアは洗った原毛を、赤い染料に浸しては引き上げることを繰り返していた。
その都度、色の染まり具合を確認する。
羊毛を沈めたとき、染料が跳ねあがり、染液を浴びてしまう。
「うわっ。なんでわたしがこんなことしなきゃならないのよ」
ロゼリアは悲痛に叫ぶ。
見かねてサララが、そっと自分の袖口で濡れた髪をぬぐった。
「駄目だよ、サララ。あなたの袖が赤く染まってしまう」
その手を掴み、ロゼリアに言われてサララは頬を赤くする。
「気になさらないで!ロズさま。この服はもとより染色用の服ですから、何が付いてもいいのです。わたしの袖が赤く染まるよりも、ロズさまの金の髪がディーンのように赤毛になる方が嫌ですから」
ロゼリアは苦笑する。
「ディーンのやつ人気がないなあ。女の子には優しいよ?あ、わたしは女の子扱いされていないけどね。それより、顔についていない?」
ロゼリアはサララに顔を向けた。
サララは間近にロゼリアに見られて、わずかにからだを引き頬を染める。
ロゼリアは何も気にしない。
サララは兄の婚約者であり同性である。
女子が頬を染める場面は、ロゼリアの周りではよく目にする光景である。
二人のやり取りのその横で、サララの婚約者であるはずのアンジュは、ロゼリアが染めた色をほれぼれと眺めた。
ホンの少量の赤色染料で、見事な赤色に染まる、アデールの不思議が行われたのである。
この希少さをロゼリアは本当のところ理解できていないとアンジュは思う。
「この赤は特別。アデールの赤色は他には出せない色だよ。ロズも知っているでしょう?」
この赤は、偶然がかさなり発見された、虫から取れる染料で染まる。
赤色は、他に茜の根や、木の幹を使って染めることもできる。
だが、この、カイガラムシを使って染めるアデールの赤は、大地や木々を傷めない。
そして、葉や枝にびっちりとはりついた不格好なムシからこの美しい赤が抽出されるというアデールの秘密を知ったときのアンジュの衝撃は大きかった。
この赤は、産業らしい産業のないアデール国でしか産出しないとされていて、非常に高値で取引されている。
アデールの赤は虫から採れる。
これはアデール国の二つめの、最重要極秘事項である。
ロゼリアとアンジュが入れ替わっていることに次ぐ、いやもしかしてそれ以上の、門外不出の秘密であった。
アンジュは実はカイガラムシに夢中である。
「カイガラムシ畑を作って、みっちり繁殖させて一度に沢山採集すれば、国庫には金貨がざっくざく、、、」
アンジュの呟きをきき、葉っぱ全てに隙間なくわさわさと張り付いたカイガラムシを想像したロゼリアは、目眩を感じたのである。
病弱だったアンジュは風邪を引かなくなり強くなってきていた。
一方ロゼリアは並の男以上に鍛え上げているために、女性らしさは目立たなかったが、その服の下は、サララほどではないが、慎ましいながらも胸がふくらんできていたのであった。
幼い頃からの努力の甲斐があって、アデール国には前途有望な強く賢いアンジュ王子と、たいそう美しいロゼリア姫がいるという評判は国境を越えて広く伝わっていく。
二人の美しく強い世継ぎがいるために、アデール国は安泰である。
皆がそう思っていた。
その印象を確かなものにするために、アンジュもロゼリアも頑張ってきていたのである。
二人は来月で16才になる。
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第1話 アデール国の双子 完
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