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【第3部 チェンジ】第七話 乱闘
67-1、立食パーティ ②
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「お兄さま、アンジュ殿を独り占めしたら駄目ですよ!」
パーティー会場では、ロゼリアとジルコンの近くへ、黒髪を見事に巻いたジュリアが寄っていた。
手にしている皿には、大皿を切り取ったかのように見事に美味しそうに料理が盛られている。
「アンジュを独り占めだって?」
ジルコンは目を丸くする。
「あら?アデールの王子さまは、女性にも人気ですよ?いつもご一緒のベラが羨ましく思われるぐらいに」
ジュリアが後ろを振り返ると、普段の授業の時よりもパーティー仕様に着飾っている娘たちがそれを合図にジルコンとロゼリアに群がった。
普段は話をしたくてもできなかったロゼリアとジルコンに、この機会にお近づきになろうと期待している娘たちだった。パーティーは交流のない者たちとも気軽に話せる場でもある。
ロゼリアとジルコンの二人だけだと遠慮していたベルも、彼女たちの中に紛れて思い切って合流する。
「ご一緒できてうれしいです!あのジュリアさまのスカーフと本当は同じのがいいのですけど、恐れ多いので別の柄でも嬉しいので、ベラと一緒に作ったと聞いたので、わたしとも一緒に作ってもらっていいですか!?」
「それは、わたしだって自分用に機会があれば作りたいと思っているの」
負けずにベラも参加している。
女子たちは今はもうベラを仲間として受け入れている。
「では、次の休みの日に皆で一緒に教えていただき、何かに染めてみるというのはいかが?ハンカチとかスカーフとか持ち寄って」
一人が提案し、賛同を集めている。
日程までこの場で染色体験講座が決まりそうな勢いである。
「わたしもぜひ!あの赤はアデールの門外不出の赤ですよね。その謎は、わたしだけに教えていただけませんか?」
積極的な女子たちに、ロゼリアは引き気味である。
修復したジュリアの白いスカーフは、ジュリアが良く身につけているために、女子たちの最大の関心事になっていた。
「アデールの赤の秘密は実はわたしも知らないんだ。精製後の材料は少し持ってきてはいるんだけど。希望者全員分を染めるだけの染料が残っているかも怪しいと思う」
やんわりと断って逃れようとしても、女子たちは小さなハンカチでいいですから、とかなんとか逃げ切れなさそうであった。
みかねてジュリアが娘たちとロゼリアの間に割って入る。
「お辞めなさい、アンジュさまは困っておりますよ?秘密を聞き出そうとするのはもう少し個人的に親しくなってからではないですか?それに誰かの秘密を知ろうと思えば、あなたの秘密も差し出さねばならなくなりますよ?それでもいいのですか?」
キャーと悲鳴に似た歓声があがる。
「自分の秘密を男に差し出すとは、いったい我が妹は何を言い出すんだ。アンジュ、ジュリアの言うことをきくんじゃないいぞ」
ジルコンもロゼリア以上に腰が引けている。
本当に、彼女は自分と同じ年なのだろうか?と思うほどジュリアは惚れ惚れするほど、しっかりしている。
ずいと、ジュリアはジルコンに体を寄せ、扇子で口元を隠した。
縁を水鳥の胸毛で優雅に縁取ったふわふわの羽の扇子は、D国から取り寄せたものである。
「姫たちが個人的にアンジュ殿にお近づきになろうとするのを邪魔するのですか?まったく、アンジュに対するお兄さんの寵愛ぶりは心配になるわ!お兄さまは、今まで特にお気に入りを作るタイプではなかった分、彼に注目を集めてしまっているわよ?」
「彼は、俺の婚約者の兄だからだろ。いずれ身内になるものを傍においてもおかしくはないだろう」
「王都でのマーケットで二人で護衛を巻き、お忍びデートをされていた噂も聞きましたよ。デートといえば、パジャンのラシャール殿も、劇場を男性と二人で見られたとかで、男性が趣味だとかそういう噂も耳にしましたけれども」
「ラシャールがそういう趣味だって!?」
ジルコンは、口にしたものを噴出しかける。
ひそひそ話のはずが、ジルコンの声は大きい。
端で談笑していたラシャールに一斉に視線が向けられた。
娘たちの視線に気が付いたラシャールがわけがわからないまでも、いつも行動を共にしているアリシャンと共に、笑顔を返す。それを見て、ふたたびキャーと悲鳴に似た歓声があがったのであった。
ひとしきり兄の反応を楽しむと、ジュリアは体を離した。
ぐるりと会場全体へ、ジルコンとよく似たアーモンドのようなくっきりとした目を走らせた。
「ところで、ウォラスは?最近話をしてくれなくなって、今日こそはと思ったのだけど会場にはいなさそうだわ?さきほどまで説明してくださっていたのに」
会場にはホストのウォラスの姿は既にない。
さらに女官も一人いなかったのだが。
「ジュリア、ウォラスに関心をもつのはもう辞めておけよ?最近、あいつは少々乱れているからな」
そういわれて、ジュリアは表情を曇らせた。
兄妹同士では、自分では直視したくないことを、直截に指摘し合えた。
「噂は、噂にすぎないわ」
「だが、火のないところにけむりは立たないというからな。誤解されるようなことをウォラスはしているのだろう」
「ウォラスは昔は真面目な方だったのに……」
ジュリアはそうため息とともにつぶやくと、ロゼリアを見た。
「ウォラスの次のターゲットはあなたという噂ですから、ご身辺にお気を付けてね」
ロゼリアのよくわからないという顔をみて、ジルコンが付けたす。
「大人の宮廷遊びに巻き込まれるな、ということだ。そんな遊びにここにいる姫や王子たちを巻き込むほど馬鹿ではないと信じてはいるが……」
「ウォラスさまになら巻き込まれたいです」
そう顔をあからめていう娘もいる。
「ウォラスさまにならわたしだって」
つぎつぎ名乗りが上がっていく。
今夜は酒が振舞われている。
姫たちの舌も緩くなっているようだった。
パーティー会場では、ロゼリアとジルコンの近くへ、黒髪を見事に巻いたジュリアが寄っていた。
手にしている皿には、大皿を切り取ったかのように見事に美味しそうに料理が盛られている。
「アンジュを独り占めだって?」
ジルコンは目を丸くする。
「あら?アデールの王子さまは、女性にも人気ですよ?いつもご一緒のベラが羨ましく思われるぐらいに」
ジュリアが後ろを振り返ると、普段の授業の時よりもパーティー仕様に着飾っている娘たちがそれを合図にジルコンとロゼリアに群がった。
普段は話をしたくてもできなかったロゼリアとジルコンに、この機会にお近づきになろうと期待している娘たちだった。パーティーは交流のない者たちとも気軽に話せる場でもある。
ロゼリアとジルコンの二人だけだと遠慮していたベルも、彼女たちの中に紛れて思い切って合流する。
「ご一緒できてうれしいです!あのジュリアさまのスカーフと本当は同じのがいいのですけど、恐れ多いので別の柄でも嬉しいので、ベラと一緒に作ったと聞いたので、わたしとも一緒に作ってもらっていいですか!?」
「それは、わたしだって自分用に機会があれば作りたいと思っているの」
負けずにベラも参加している。
女子たちは今はもうベラを仲間として受け入れている。
「では、次の休みの日に皆で一緒に教えていただき、何かに染めてみるというのはいかが?ハンカチとかスカーフとか持ち寄って」
一人が提案し、賛同を集めている。
日程までこの場で染色体験講座が決まりそうな勢いである。
「わたしもぜひ!あの赤はアデールの門外不出の赤ですよね。その謎は、わたしだけに教えていただけませんか?」
積極的な女子たちに、ロゼリアは引き気味である。
修復したジュリアの白いスカーフは、ジュリアが良く身につけているために、女子たちの最大の関心事になっていた。
「アデールの赤の秘密は実はわたしも知らないんだ。精製後の材料は少し持ってきてはいるんだけど。希望者全員分を染めるだけの染料が残っているかも怪しいと思う」
やんわりと断って逃れようとしても、女子たちは小さなハンカチでいいですから、とかなんとか逃げ切れなさそうであった。
みかねてジュリアが娘たちとロゼリアの間に割って入る。
「お辞めなさい、アンジュさまは困っておりますよ?秘密を聞き出そうとするのはもう少し個人的に親しくなってからではないですか?それに誰かの秘密を知ろうと思えば、あなたの秘密も差し出さねばならなくなりますよ?それでもいいのですか?」
キャーと悲鳴に似た歓声があがる。
「自分の秘密を男に差し出すとは、いったい我が妹は何を言い出すんだ。アンジュ、ジュリアの言うことをきくんじゃないいぞ」
ジルコンもロゼリア以上に腰が引けている。
本当に、彼女は自分と同じ年なのだろうか?と思うほどジュリアは惚れ惚れするほど、しっかりしている。
ずいと、ジュリアはジルコンに体を寄せ、扇子で口元を隠した。
縁を水鳥の胸毛で優雅に縁取ったふわふわの羽の扇子は、D国から取り寄せたものである。
「姫たちが個人的にアンジュ殿にお近づきになろうとするのを邪魔するのですか?まったく、アンジュに対するお兄さんの寵愛ぶりは心配になるわ!お兄さまは、今まで特にお気に入りを作るタイプではなかった分、彼に注目を集めてしまっているわよ?」
「彼は、俺の婚約者の兄だからだろ。いずれ身内になるものを傍においてもおかしくはないだろう」
「王都でのマーケットで二人で護衛を巻き、お忍びデートをされていた噂も聞きましたよ。デートといえば、パジャンのラシャール殿も、劇場を男性と二人で見られたとかで、男性が趣味だとかそういう噂も耳にしましたけれども」
「ラシャールがそういう趣味だって!?」
ジルコンは、口にしたものを噴出しかける。
ひそひそ話のはずが、ジルコンの声は大きい。
端で談笑していたラシャールに一斉に視線が向けられた。
娘たちの視線に気が付いたラシャールがわけがわからないまでも、いつも行動を共にしているアリシャンと共に、笑顔を返す。それを見て、ふたたびキャーと悲鳴に似た歓声があがったのであった。
ひとしきり兄の反応を楽しむと、ジュリアは体を離した。
ぐるりと会場全体へ、ジルコンとよく似たアーモンドのようなくっきりとした目を走らせた。
「ところで、ウォラスは?最近話をしてくれなくなって、今日こそはと思ったのだけど会場にはいなさそうだわ?さきほどまで説明してくださっていたのに」
会場にはホストのウォラスの姿は既にない。
さらに女官も一人いなかったのだが。
「ジュリア、ウォラスに関心をもつのはもう辞めておけよ?最近、あいつは少々乱れているからな」
そういわれて、ジュリアは表情を曇らせた。
兄妹同士では、自分では直視したくないことを、直截に指摘し合えた。
「噂は、噂にすぎないわ」
「だが、火のないところにけむりは立たないというからな。誤解されるようなことをウォラスはしているのだろう」
「ウォラスは昔は真面目な方だったのに……」
ジュリアはそうため息とともにつぶやくと、ロゼリアを見た。
「ウォラスの次のターゲットはあなたという噂ですから、ご身辺にお気を付けてね」
ロゼリアのよくわからないという顔をみて、ジルコンが付けたす。
「大人の宮廷遊びに巻き込まれるな、ということだ。そんな遊びにここにいる姫や王子たちを巻き込むほど馬鹿ではないと信じてはいるが……」
「ウォラスさまになら巻き込まれたいです」
そう顔をあからめていう娘もいる。
「ウォラスさまにならわたしだって」
つぎつぎ名乗りが上がっていく。
今夜は酒が振舞われている。
姫たちの舌も緩くなっているようだった。
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