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第二夜 人身御供
10、赤い封筒 (第二夜 完)
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朝食を王妃と自室でとっていた王のもとに、ベルゼラからの申し出書が届く。
アズール王子の赤い龍の封を王は開いた。
それを読むアラン王の顔が険しくなる。みるみる赤くなり青くなる。
手紙を破り捨てようとする勢いにシシリア王妃は驚いた。
「王?そんなにお怒りになって、、。何が書かれているのですか?」
「デクロアの娘を連れ帰るのは、わたしの娘を含めた、デクロア国の16才以上の未婚の娘の中から選ぶといってきた」
シシリアは目を丸くして、ざっと頭の中で計算する。
「該当者は、、、800人はおりますわ!?どうやってアズール王子は800人から一人を選びますの?」
「面接をするので場所を貸せともいっている。警備要因と、人員整理、国民への通達などはこちらに一任するとのことだ。
馬鹿にしておる!」
アラン王の怒りとは真逆に、シシリア王妃は顔を輝かせた。
「それはいいわ!早速、国中にお触れをだしましょう。
ベルゼラの王子に見初められたい娘は多いはずですから。
まるでシンデレラストーリーではないですか!」
「わたしの娘がもらわれるのは決定事項だ」
「あら?もちろんそうですわ!娘たちは賢くも美しいのですから、最後まで残ります。
ですが、これはもともと人身御供も同然。つかの間の平和を娘と引き換えに得るのです。
わたしたちの娘でなくてもよいといわれるならば、それに便乗させていただきましよう」
リラがリシアにその日の夕方一通の手紙を持ってくる。
「赤い手紙?」
「招待状のようですわ」
リラも興味津々である。
リシアは赤い封筒から手紙を取り出す。
ミス リシア
命第20181216号が発令され、○月○日10時に王城への参内が決まりました。
同盟国のベルゼラ国第二王子アズールによる妃選びの一次試験の筆記試験と体力テストを併せて行います。
デクロア国の16才以上の独身の女子全員にご参加いただきます。
この命令は何よりも優先されます。
急な通達で申し訳ありませんが、仕事関係や他に必要な場合には、同封の控え文書をご提出ください。
会場 王城 西の宮 花の間
日時 ○月○日 10時~16時
試験内容 筆記試験、体力テスト
尚、当日はこの通知と筆記用具をご持参ください。
運動のできる服でお越しください。
華美な服装は控えてください。
デクロア国 法務省 長官
デクロア国王 アラン
そこまでリシアは読む。
「これって、花嫁選びをデクロアの独身女子全員からするってことではありませんか!?」
リラは顔を真っ赤にして興奮している。
「王子さまに見初められたものが異国の妃になれるということですか!」
「、、、そのようね。謹慎中のわたしにも参加せよと。アクア姉さんもマリン姉さんも一次試験から参加って、思いきったことをするわ」
リシアの謹慎は、馬鹿らしくなった王に、その夕方早くも解かれたのであった。
ラリマーはあれよあれよと進む成り行きをはらはらと見守っていた。
当の王子は平然としている。
「デクロアは平和な国なのに対応は早いな。16才以上の未婚者の拾い出しも早いし、個別の通知も送ったそうだな」
「平和だからこそ、戸籍制度や住民登録もきちんとなされ、国家が一人一人の状況を把握できているのでしょう。郵便制度は驚かされました。きちんと分業がなされ、きちんと統制された国のようですね。デクロア国は」
と、ノキア。
アズール王子の一行は戦争以外でも他国へ赴くことが多く、その度になにかしら発見があった。
良いところを吸収する意欲がアズールにはあった。
彼は他国をよく観察し、次のベルゼラ国のあり方を模索中である。
「まずは筆記試験をするそうですよ。シーアさんが落ちないように手を回しておかないと」
とラリマーが言うと、アズールは首を振る。
「シーアはベルゼラ語が堪能だ。筆記試験にベルゼラ語をいれてもらったので、大丈夫だろう。それに、彼女はしっかり教育を受けている感じがする。
体力テストは狩りをするぐらいだから問題ないだろう」
アズール側は要望を伝えるだけであったが、段取りは全てデクロア側にまかせている。
優しくも美しい王妃のシシリアが張り切って進めていた。
段取りの手際も良く、なかなかのやり手の王妃のようだった。
「ほんとうに最終まで残った娘を連れて帰るのですか?」
とノキア。
「そのつもりだ。選考過程で人となりを見させてもらう予定だ。わたしの気に入る娘も現れよう」
とアズール。
彼は、シシリア王妃からの妃選びの概要を書いたものをみる。
一次試験は筆記試験と体力テストで振り落とします。
二次試験は簡単な面接をします。
面接にはベルゼラ側の方に同席してもらいます。
三次はグループ面接か、得意な芸を披露などどうでしょう?
最終には、ダンスパーティ、食事会、アズール王子との個別デートタイムなど予定。
試験監督にはご自由にご参加、ご意見をください。最終判断はアズール王子さまにあります。
いかがでしょうか?
ははっとアズールは笑う。
「シシリア王妃は面白いな!」
他の800名の独身女子との公正を期するため、予定されていた姫たちとの晩餐会はひとまず中止になった。
デクロア国は、その日から天地をひっくり返したような大騒ぎになったのだった。
自分の娘が異国の妃になるかもしれないチャンスが降ってきたのだ。
娘が、妹が、姉が、いとこが、近所のお姉さんが、最終まで残るかもしれなかった。
ベルゼラの妃と親戚というのは自慢できるのではないか?
独身女子の本人を、その家族を、ご近所を巻き込んで、大騒ぎになる。
こうやって、悲喜交々の花嫁選びの10日間が始まった。
第二夜 人身御供 完
アズール王子の赤い龍の封を王は開いた。
それを読むアラン王の顔が険しくなる。みるみる赤くなり青くなる。
手紙を破り捨てようとする勢いにシシリア王妃は驚いた。
「王?そんなにお怒りになって、、。何が書かれているのですか?」
「デクロアの娘を連れ帰るのは、わたしの娘を含めた、デクロア国の16才以上の未婚の娘の中から選ぶといってきた」
シシリアは目を丸くして、ざっと頭の中で計算する。
「該当者は、、、800人はおりますわ!?どうやってアズール王子は800人から一人を選びますの?」
「面接をするので場所を貸せともいっている。警備要因と、人員整理、国民への通達などはこちらに一任するとのことだ。
馬鹿にしておる!」
アラン王の怒りとは真逆に、シシリア王妃は顔を輝かせた。
「それはいいわ!早速、国中にお触れをだしましょう。
ベルゼラの王子に見初められたい娘は多いはずですから。
まるでシンデレラストーリーではないですか!」
「わたしの娘がもらわれるのは決定事項だ」
「あら?もちろんそうですわ!娘たちは賢くも美しいのですから、最後まで残ります。
ですが、これはもともと人身御供も同然。つかの間の平和を娘と引き換えに得るのです。
わたしたちの娘でなくてもよいといわれるならば、それに便乗させていただきましよう」
リラがリシアにその日の夕方一通の手紙を持ってくる。
「赤い手紙?」
「招待状のようですわ」
リラも興味津々である。
リシアは赤い封筒から手紙を取り出す。
ミス リシア
命第20181216号が発令され、○月○日10時に王城への参内が決まりました。
同盟国のベルゼラ国第二王子アズールによる妃選びの一次試験の筆記試験と体力テストを併せて行います。
デクロア国の16才以上の独身の女子全員にご参加いただきます。
この命令は何よりも優先されます。
急な通達で申し訳ありませんが、仕事関係や他に必要な場合には、同封の控え文書をご提出ください。
会場 王城 西の宮 花の間
日時 ○月○日 10時~16時
試験内容 筆記試験、体力テスト
尚、当日はこの通知と筆記用具をご持参ください。
運動のできる服でお越しください。
華美な服装は控えてください。
デクロア国 法務省 長官
デクロア国王 アラン
そこまでリシアは読む。
「これって、花嫁選びをデクロアの独身女子全員からするってことではありませんか!?」
リラは顔を真っ赤にして興奮している。
「王子さまに見初められたものが異国の妃になれるということですか!」
「、、、そのようね。謹慎中のわたしにも参加せよと。アクア姉さんもマリン姉さんも一次試験から参加って、思いきったことをするわ」
リシアの謹慎は、馬鹿らしくなった王に、その夕方早くも解かれたのであった。
ラリマーはあれよあれよと進む成り行きをはらはらと見守っていた。
当の王子は平然としている。
「デクロアは平和な国なのに対応は早いな。16才以上の未婚者の拾い出しも早いし、個別の通知も送ったそうだな」
「平和だからこそ、戸籍制度や住民登録もきちんとなされ、国家が一人一人の状況を把握できているのでしょう。郵便制度は驚かされました。きちんと分業がなされ、きちんと統制された国のようですね。デクロア国は」
と、ノキア。
アズール王子の一行は戦争以外でも他国へ赴くことが多く、その度になにかしら発見があった。
良いところを吸収する意欲がアズールにはあった。
彼は他国をよく観察し、次のベルゼラ国のあり方を模索中である。
「まずは筆記試験をするそうですよ。シーアさんが落ちないように手を回しておかないと」
とラリマーが言うと、アズールは首を振る。
「シーアはベルゼラ語が堪能だ。筆記試験にベルゼラ語をいれてもらったので、大丈夫だろう。それに、彼女はしっかり教育を受けている感じがする。
体力テストは狩りをするぐらいだから問題ないだろう」
アズール側は要望を伝えるだけであったが、段取りは全てデクロア側にまかせている。
優しくも美しい王妃のシシリアが張り切って進めていた。
段取りの手際も良く、なかなかのやり手の王妃のようだった。
「ほんとうに最終まで残った娘を連れて帰るのですか?」
とノキア。
「そのつもりだ。選考過程で人となりを見させてもらう予定だ。わたしの気に入る娘も現れよう」
とアズール。
彼は、シシリア王妃からの妃選びの概要を書いたものをみる。
一次試験は筆記試験と体力テストで振り落とします。
二次試験は簡単な面接をします。
面接にはベルゼラ側の方に同席してもらいます。
三次はグループ面接か、得意な芸を披露などどうでしょう?
最終には、ダンスパーティ、食事会、アズール王子との個別デートタイムなど予定。
試験監督にはご自由にご参加、ご意見をください。最終判断はアズール王子さまにあります。
いかがでしょうか?
ははっとアズールは笑う。
「シシリア王妃は面白いな!」
他の800名の独身女子との公正を期するため、予定されていた姫たちとの晩餐会はひとまず中止になった。
デクロア国は、その日から天地をひっくり返したような大騒ぎになったのだった。
自分の娘が異国の妃になるかもしれないチャンスが降ってきたのだ。
娘が、妹が、姉が、いとこが、近所のお姉さんが、最終まで残るかもしれなかった。
ベルゼラの妃と親戚というのは自慢できるのではないか?
独身女子の本人を、その家族を、ご近所を巻き込んで、大騒ぎになる。
こうやって、悲喜交々の花嫁選びの10日間が始まった。
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