22 / 29
13-2、姫の騎士
しおりを挟む
黒と銀の礼服に身を包んだ騎士たちがセルジオをまっすぐに見た。
新たに加わった仲間を迎えいれる。
「おめでとう、セルジオ!」
「よろしくな!」
「あんたが面接をクリアすると思ってたわよ!」
セルジオが彼らの前を通る度に、声がかかり肩や頭を叩かれた。
「新人君!ねえ、何かいったらどうなのよ!」
アヤがセルジオを小突いた。
「あ、アンが、色気なしの夜這いで奇行のアデールの姫……」
セルジオは自分が何を口走ったのかさだかではない。
足もとがふわふわしてまっすぐ歩いているのかも微妙である。
その場でセルジオの発言を聞いた者は、どっと笑った。
あっちゃあと、アヤが頭を抱えた。
背中を震わせて笑いを押し殺しているのはジルコン王子。
「色気なしには異議を唱えたいところだが、女だとバレなかったところからは世間的には当たっているというところなのだな!それからロズからは、夜這いはされていない。ただの、捻じ曲げられた噂だ。奇行は、まったくもってその通りだ。あはははっ」
とうとうジルコン王子は声をあげて笑う。
肩越しにセルジオに流し目を送る。
「夏スクールは見ものだったぞ。ロズの、頭の上に本を乗せて普通に過ごしていたことや、かかとのないヒールの靴を、平然と履きこなして見せるとか。最近では、自分で自分の騎士を選びたいと言い出したところだな。また、男装をすると言い出して、俺は止めたんだが、ロズは言い出したらきかない」
「だって、四六時中わたしのそばにいてくれるのだから人となりとを知っておくべきだと思うでしょう?信頼のおける人じゃないと。それに、わたし自身のことも知って欲しかったから」
ふたりは立ち止まり見つめ合った。
セルジオは水が高きところから低いところへと流れていくように、物事が決まっていくのを堰き止めずにはおられない。
自分は流れの中で翻弄される木の葉のような存在のように思えた。
「知ってのとおり俺は、私生児で、金のためになんでもすると蔑まれる赤毛なのに、栄誉ある騎士にするというのですか!」
「わたしの剣術の師匠は赤毛の傭兵だったけど、彼は命をかけてわたしを護ってくれたわ。わたしは、あなたの出自がどうこうというのではなくて人となりで選んだの」
「それよりもむしろ、赤毛加点がされているのではないか?俺のロゼリア。赤毛のハンサムな騎士に、心をうばわれないでくれ」
「わたしのジルコン。そんなこと、未来永劫あり得るはずがないでしょう?」
セルジオに意識が向けられたのは一瞬だけ。
ジルコン王子とロゼリア姫はふたたびすべての関心が互いに向かう。
セルジオは二人が立ち止まり濃厚なキスをするのを呆然と見た。
アンがアデールの姫で、ジルコン王子と結婚を控えた婚約者で、世間でどんな噂がささやかれようとも二人が熱烈恋愛中であることを理解する。
アンはジルコン王子の愛人であるというのもある意味当たっていたというところなのか。
「よく聞け、セルジオ。姫の専属騎士とはいえ、所属は黒騎士だ。王子が最高責任者。黒騎士の団長は俺。主人に仕える規範や心持ちなどはあとでじっくりと教えてやる。まずは、礼儀正しく視線を外しつつ、なにが起こっても対応できるように主人の姿を視界に入れておけ」
ロサン騎士団長が真顔でセルジオにいう。
ようやくセルジオは、姫の騎士に選ばれたことを実感したのである。
新たに加わった仲間を迎えいれる。
「おめでとう、セルジオ!」
「よろしくな!」
「あんたが面接をクリアすると思ってたわよ!」
セルジオが彼らの前を通る度に、声がかかり肩や頭を叩かれた。
「新人君!ねえ、何かいったらどうなのよ!」
アヤがセルジオを小突いた。
「あ、アンが、色気なしの夜這いで奇行のアデールの姫……」
セルジオは自分が何を口走ったのかさだかではない。
足もとがふわふわしてまっすぐ歩いているのかも微妙である。
その場でセルジオの発言を聞いた者は、どっと笑った。
あっちゃあと、アヤが頭を抱えた。
背中を震わせて笑いを押し殺しているのはジルコン王子。
「色気なしには異議を唱えたいところだが、女だとバレなかったところからは世間的には当たっているというところなのだな!それからロズからは、夜這いはされていない。ただの、捻じ曲げられた噂だ。奇行は、まったくもってその通りだ。あはははっ」
とうとうジルコン王子は声をあげて笑う。
肩越しにセルジオに流し目を送る。
「夏スクールは見ものだったぞ。ロズの、頭の上に本を乗せて普通に過ごしていたことや、かかとのないヒールの靴を、平然と履きこなして見せるとか。最近では、自分で自分の騎士を選びたいと言い出したところだな。また、男装をすると言い出して、俺は止めたんだが、ロズは言い出したらきかない」
「だって、四六時中わたしのそばにいてくれるのだから人となりとを知っておくべきだと思うでしょう?信頼のおける人じゃないと。それに、わたし自身のことも知って欲しかったから」
ふたりは立ち止まり見つめ合った。
セルジオは水が高きところから低いところへと流れていくように、物事が決まっていくのを堰き止めずにはおられない。
自分は流れの中で翻弄される木の葉のような存在のように思えた。
「知ってのとおり俺は、私生児で、金のためになんでもすると蔑まれる赤毛なのに、栄誉ある騎士にするというのですか!」
「わたしの剣術の師匠は赤毛の傭兵だったけど、彼は命をかけてわたしを護ってくれたわ。わたしは、あなたの出自がどうこうというのではなくて人となりで選んだの」
「それよりもむしろ、赤毛加点がされているのではないか?俺のロゼリア。赤毛のハンサムな騎士に、心をうばわれないでくれ」
「わたしのジルコン。そんなこと、未来永劫あり得るはずがないでしょう?」
セルジオに意識が向けられたのは一瞬だけ。
ジルコン王子とロゼリア姫はふたたびすべての関心が互いに向かう。
セルジオは二人が立ち止まり濃厚なキスをするのを呆然と見た。
アンがアデールの姫で、ジルコン王子と結婚を控えた婚約者で、世間でどんな噂がささやかれようとも二人が熱烈恋愛中であることを理解する。
アンはジルコン王子の愛人であるというのもある意味当たっていたというところなのか。
「よく聞け、セルジオ。姫の専属騎士とはいえ、所属は黒騎士だ。王子が最高責任者。黒騎士の団長は俺。主人に仕える規範や心持ちなどはあとでじっくりと教えてやる。まずは、礼儀正しく視線を外しつつ、なにが起こっても対応できるように主人の姿を視界に入れておけ」
ロサン騎士団長が真顔でセルジオにいう。
ようやくセルジオは、姫の騎士に選ばれたことを実感したのである。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定


【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる