姫の騎士

藤雪花(ふじゆきはな)

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13-2、姫の騎士

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 黒と銀の礼服に身を包んだ騎士たちがセルジオをまっすぐに見た。
 新たに加わった仲間を迎えいれる。

「おめでとう、セルジオ!」
「よろしくな!」
「あんたが面接をクリアすると思ってたわよ!」
 セルジオが彼らの前を通る度に、声がかかり肩や頭を叩かれた。

「新人君!ねえ、何かいったらどうなのよ!」
 アヤがセルジオを小突いた。
「あ、アンが、色気なしの夜這いで奇行のアデールの姫……」

 セルジオは自分が何を口走ったのかさだかではない。
 足もとがふわふわしてまっすぐ歩いているのかも微妙である。
 その場でセルジオの発言を聞いた者は、どっと笑った。
 あっちゃあと、アヤが頭を抱えた。
 背中を震わせて笑いを押し殺しているのはジルコン王子。

「色気なしには異議を唱えたいところだが、女だとバレなかったところからは世間的には当たっているというところなのだな!それからロズからは、夜這いはされていない。ただの、捻じ曲げられた噂だ。奇行は、まったくもってその通りだ。あはははっ」

 とうとうジルコン王子は声をあげて笑う。
 肩越しにセルジオに流し目を送る。

「夏スクールは見ものだったぞ。ロズの、頭の上に本を乗せて普通に過ごしていたことや、かかとのないヒールの靴を、平然と履きこなして見せるとか。最近では、自分で自分の騎士を選びたいと言い出したところだな。また、男装をすると言い出して、俺は止めたんだが、ロズは言い出したらきかない」
「だって、四六時中わたしのそばにいてくれるのだから人となりとを知っておくべきだと思うでしょう?信頼のおける人じゃないと。それに、わたし自身のことも知って欲しかったから」

 ふたりは立ち止まり見つめ合った。
 セルジオは水が高きところから低いところへと流れていくように、物事が決まっていくのを堰き止めずにはおられない。
 自分は流れの中で翻弄される木の葉のような存在のように思えた。

「知ってのとおり俺は、私生児で、金のためになんでもすると蔑まれる赤毛なのに、栄誉ある騎士にするというのですか!」
「わたしの剣術の師匠は赤毛の傭兵だったけど、彼は命をかけてわたしを護ってくれたわ。わたしは、あなたの出自がどうこうというのではなくて人となりで選んだの」
「それよりもむしろ、赤毛加点がされているのではないか?俺のロゼリア。赤毛のハンサムな騎士に、心をうばわれないでくれ」
「わたしのジルコン。そんなこと、未来永劫あり得るはずがないでしょう?」

 セルジオに意識が向けられたのは一瞬だけ。
 ジルコン王子とロゼリア姫はふたたびすべての関心が互いに向かう。

 セルジオは二人が立ち止まり濃厚なキスをするのを呆然と見た。
 アンがアデールの姫で、ジルコン王子と結婚を控えた婚約者で、世間でどんな噂がささやかれようとも二人が熱烈恋愛中であることを理解する。
 アンはジルコン王子の愛人であるというのもある意味当たっていたというところなのか。

「よく聞け、セルジオ。姫の専属騎士とはいえ、所属は黒騎士だ。王子が最高責任者。黒騎士の団長は俺。主人に仕える規範や心持ちなどはあとでじっくりと教えてやる。まずは、礼儀正しく視線を外しつつ、なにが起こっても対応できるように主人の姿を視界に入れておけ」

 ロサン騎士団長が真顔でセルジオにいう。
 ようやくセルジオは、姫の騎士に選ばれたことを実感したのである。






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