21 / 29
13-1、姫の騎士
しおりを挟む
エール城から出るのが問題だった。
アンが男にしては小柄であるとはいえ、鞄に入れて運ぶには大きすぎる。
夜間の出入りは厳しく確認される。
「門番のいない森を突っ切り、途中で王都へ紛れ込むか?いずれにしろそうと決めたのなら、今夜から動いた方がいいだろう」
セルジオの頭の中では、王城から出て森を進み王都に入り、馬を走らせて三日、アデールに向けて逃走するという計画を立てる。
ジルコン王子は追手を差し向けるだろう。
金髪に赤毛では目立ちすぎる。
髪色を染めたりして目立たなく変装する必要がある。
手助けをしてくれる人が必要だった。
セルジオの危険で無謀な要求をきいて助けてくれるのは誰か、顔を思い浮かべた。
「何か、いいプランはあるか?」
「セルジオ、その……」
アンは何かいいにくそうに口ごもった。
その時、軽くノックの音。
「監視されていると言っていたが、もしかしてここに来たことがばれているのか?アンが来たルートを逆にたどって逃走するか?」
セルジオはアンが来たバルコニーに目をやった。
「セルジオ、実は、いわなければならないことあるんだ!」
アンがセルジオの腕を押さえ言ったのと、扉が開かれるのが同時。
セルジオは咄嗟に体でアンを庇う。
扉を開けたのは事務次官のスアレス。
セルジオは一瞬、面接が始まるのかと思う。
だが、アデールの姫が立ち合うには遅い時間である。
スアレスの視線が、セルジオから、その背後へと移っていく。
ジルコン王子が執着するアデールの王子が、セルジオの部屋にふたりきりでいることはどう考えてもおかしな状況である。
今夜中にひそかに逃走するタイミングを、セルジオは逃してしまったことを知る。
こうなれば、別の機会をさぐらなければならない。
セルジオの頭はフル回転する。
明日の、アデールの姫との面接を適当にやり過ごし、選ばれないように持っていくか。
王城を去るときにアンを連れていくか。
もしくは、姫騎士に選ばれて、王城に留まりつつ、できるだけ早いタイミングでの逃走のタイミングを計るか。
「それで、面接試験はどうでしたか?」
セルジオの焦りを気にした様子もなくスアレスが事務的に言った。
「は?」
セルジオは意味が分からず聞き直した。
「今日はアデールの姫との面接試験はなかったが……」
「彼に決めました」
セルジオに代わり、返事をしたのは背後のアン。
セルジオの腕を押さえスアレスの前に進み出る。
「彼に合格を与えます。僕の騎士になると言ってくれました。そうでしょう?」
アンは振り返った。
その目はきらきらと輝き、セルジオを見上げた。
セルジオは混乱しいうべき言葉を失った。
なぜなら、先ほどまでの話の流れでは、アンはアンジュ王子で、自分の騎士にするといったのであり、それはアデール国に逃走するのを助ける見返りのような話だった。
本当に騎士に任命されるとも思っていないし、そもそもスアレスが言っているのは姫騎士の面接試験であって、アンジュ王子の騎士の話ではない。
スアレスの背後には黒金の礼服のジルコン王子がいた。
「アン、男の部屋から出てこい。そもそもこの階は女子は禁制だ。夏スクールの時から変わってない」
「だから、僕はこっそり三階から忍んできたんだけど」
「そういう危ないことはするなと言っただろう」
アンが軽やかな足取りで部屋を出て、セルジオは部屋に残された。
意味が分からない。
どうしたらいいのかわからないので、身体が動かせない。
アンは、逃走するつもりなどないのか。
ジルコン王子の執着を嫌がっているわけでもないようだ。
女子禁制のこのフロアに、アンはいるべきはない?
それは、アンが男ではないから?
セルジオは男ではないアンの騎士になった?
自分はとてつもなく盛大な勘違いをしているような気がする。
「なんだ?まだお前の騎士は戸惑っているようだが、ちゃんと説明をしたのか?」
「したよ。いやしてなかったかも?」
図書館でみたアデールの姫は、アンと同じ顔。
はじめて会ったはずのセルジオを見て、彼女は驚いた。
それは、セルジオを既に知っていたからだ。
セルジオと、図書館で会うはずがないと思っていたから驚いたのだ。
「いい加減、彼が戸惑っているようだから、自分でしでかしたことには自分で始末をつけた方がいいのではないか?ロズ?」
いわれてアンは振り返り、改めてセルジオに向き直る。
申し訳なさそうにセルジオの顔をうかがった。
その顔つきも、セルジオの知るアンの顔と微妙に違っている。
表情が柔らかい。目元が別人のように緩んでいる。
セルジオの呆然とした顔をみて、微笑を浮かべた。
「はじめましてになりますね。わたしは本当はロゼリアなの。自分の騎士を選ぶのに、勝手に決められるのが嫌だったの。ロゼリアとして参加できないから、ただのアンとして初めから参加させてもらった。最終面接にセルジオが合格してくれて嬉しいわ。知りもしない姫ではなくて、わたし自身を選んでくれたのがわかったから。わたしの無茶な望みをかなえようとしてくれた。障害物競争の時も、わたしの気持ちを汲んでくれて競争に参加させてくれた。本当にうれしかった」
「だそうだ。妬けるな。セルジオ、ついてこい。祝ってやる」
セルジオは促されるままに部屋をでた。
廊下には、ジルコン王子とスアレスの他に、10人の威厳に満ちた黒騎士たちが勢ぞろいしていた。
どくどくと心臓が打ち始めた。
熱い血が身体に巡りだす。
アンが男にしては小柄であるとはいえ、鞄に入れて運ぶには大きすぎる。
夜間の出入りは厳しく確認される。
「門番のいない森を突っ切り、途中で王都へ紛れ込むか?いずれにしろそうと決めたのなら、今夜から動いた方がいいだろう」
セルジオの頭の中では、王城から出て森を進み王都に入り、馬を走らせて三日、アデールに向けて逃走するという計画を立てる。
ジルコン王子は追手を差し向けるだろう。
金髪に赤毛では目立ちすぎる。
髪色を染めたりして目立たなく変装する必要がある。
手助けをしてくれる人が必要だった。
セルジオの危険で無謀な要求をきいて助けてくれるのは誰か、顔を思い浮かべた。
「何か、いいプランはあるか?」
「セルジオ、その……」
アンは何かいいにくそうに口ごもった。
その時、軽くノックの音。
「監視されていると言っていたが、もしかしてここに来たことがばれているのか?アンが来たルートを逆にたどって逃走するか?」
セルジオはアンが来たバルコニーに目をやった。
「セルジオ、実は、いわなければならないことあるんだ!」
アンがセルジオの腕を押さえ言ったのと、扉が開かれるのが同時。
セルジオは咄嗟に体でアンを庇う。
扉を開けたのは事務次官のスアレス。
セルジオは一瞬、面接が始まるのかと思う。
だが、アデールの姫が立ち合うには遅い時間である。
スアレスの視線が、セルジオから、その背後へと移っていく。
ジルコン王子が執着するアデールの王子が、セルジオの部屋にふたりきりでいることはどう考えてもおかしな状況である。
今夜中にひそかに逃走するタイミングを、セルジオは逃してしまったことを知る。
こうなれば、別の機会をさぐらなければならない。
セルジオの頭はフル回転する。
明日の、アデールの姫との面接を適当にやり過ごし、選ばれないように持っていくか。
王城を去るときにアンを連れていくか。
もしくは、姫騎士に選ばれて、王城に留まりつつ、できるだけ早いタイミングでの逃走のタイミングを計るか。
「それで、面接試験はどうでしたか?」
セルジオの焦りを気にした様子もなくスアレスが事務的に言った。
「は?」
セルジオは意味が分からず聞き直した。
「今日はアデールの姫との面接試験はなかったが……」
「彼に決めました」
セルジオに代わり、返事をしたのは背後のアン。
セルジオの腕を押さえスアレスの前に進み出る。
「彼に合格を与えます。僕の騎士になると言ってくれました。そうでしょう?」
アンは振り返った。
その目はきらきらと輝き、セルジオを見上げた。
セルジオは混乱しいうべき言葉を失った。
なぜなら、先ほどまでの話の流れでは、アンはアンジュ王子で、自分の騎士にするといったのであり、それはアデール国に逃走するのを助ける見返りのような話だった。
本当に騎士に任命されるとも思っていないし、そもそもスアレスが言っているのは姫騎士の面接試験であって、アンジュ王子の騎士の話ではない。
スアレスの背後には黒金の礼服のジルコン王子がいた。
「アン、男の部屋から出てこい。そもそもこの階は女子は禁制だ。夏スクールの時から変わってない」
「だから、僕はこっそり三階から忍んできたんだけど」
「そういう危ないことはするなと言っただろう」
アンが軽やかな足取りで部屋を出て、セルジオは部屋に残された。
意味が分からない。
どうしたらいいのかわからないので、身体が動かせない。
アンは、逃走するつもりなどないのか。
ジルコン王子の執着を嫌がっているわけでもないようだ。
女子禁制のこのフロアに、アンはいるべきはない?
それは、アンが男ではないから?
セルジオは男ではないアンの騎士になった?
自分はとてつもなく盛大な勘違いをしているような気がする。
「なんだ?まだお前の騎士は戸惑っているようだが、ちゃんと説明をしたのか?」
「したよ。いやしてなかったかも?」
図書館でみたアデールの姫は、アンと同じ顔。
はじめて会ったはずのセルジオを見て、彼女は驚いた。
それは、セルジオを既に知っていたからだ。
セルジオと、図書館で会うはずがないと思っていたから驚いたのだ。
「いい加減、彼が戸惑っているようだから、自分でしでかしたことには自分で始末をつけた方がいいのではないか?ロズ?」
いわれてアンは振り返り、改めてセルジオに向き直る。
申し訳なさそうにセルジオの顔をうかがった。
その顔つきも、セルジオの知るアンの顔と微妙に違っている。
表情が柔らかい。目元が別人のように緩んでいる。
セルジオの呆然とした顔をみて、微笑を浮かべた。
「はじめましてになりますね。わたしは本当はロゼリアなの。自分の騎士を選ぶのに、勝手に決められるのが嫌だったの。ロゼリアとして参加できないから、ただのアンとして初めから参加させてもらった。最終面接にセルジオが合格してくれて嬉しいわ。知りもしない姫ではなくて、わたし自身を選んでくれたのがわかったから。わたしの無茶な望みをかなえようとしてくれた。障害物競争の時も、わたしの気持ちを汲んでくれて競争に参加させてくれた。本当にうれしかった」
「だそうだ。妬けるな。セルジオ、ついてこい。祝ってやる」
セルジオは促されるままに部屋をでた。
廊下には、ジルコン王子とスアレスの他に、10人の威厳に満ちた黒騎士たちが勢ぞろいしていた。
どくどくと心臓が打ち始めた。
熱い血が身体に巡りだす。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説


【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる