姫の騎士

藤雪花(ふじゆきはな)

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8-1、勝敗の行方

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 視界にライバルの三人の姿があった。
 この勝負、ミシェルとルイとカルバンは、拮抗している。
 彼らは助け合いながらここまで進んできたようである。
 彼らが勝負を仕掛けるのは、次の障害の水溜まりからのようだった。
 五メートル四方に水がなみなみとたたえられている。
 どれぐらいの水深があるのかは聞かされていない。
 三人は、誰が入って確かめるのかを牽制し合ったが、リュックを下ろして飛び込んだのはルイ。
 ルイは腰骨の高さまで水に浸かった。

「思ったより深いな!」
 それをみてカルバンが言う。
 ルイはいったん陸に腰を上げ、リュックを水に浸からないように胸に抱え直した。
 カルバンとミシェルもリュックを下ろし、胴体ほどありそうなリュックを頭に抱えて水に飛び込んだ。
 三人の勝負はここからである。
 セルジオとアンが追い付いたとき、ルイが先頭でカルバンがそのすぐ後ろ、ミシェルが最後尾で水溜まりを渡っているところであった。

「僕は泳げるよ!」
 アンが目を輝かせるのをセルジオは押しとどめた。
 全力で走ってきたこともありアンの息は上がっている。
 セルジオの体力はまだ十分にある。
 重量を運んで障害物を超えてきた前のライバルたちとは違っている。

「水の中は体力を消耗する。アンは肩車か、正面で抱きかかえた方が脚が濡れないな」
「濡れても構わないよ」
 セルジオは首を振る。
「濡れると体から熱を奪い、疲労する。服が水を吸って重くなる。最後のハードルを越えるのが辛くなるだろ。だからここはできるだけ濡れないようにしたほうがいい」

 中ほどまで進んでいたミシェルがリュックを頭に乗せたまま振り返った。
「うそでしょ。アンとセルジオがどうして一緒にいるのよ。アンはでないことにしたんじゃなかったの?」
 ありえない人物の猛追に驚き、ミシェルの言葉に毒がない。
「アンは俺が運んでいる。あんたらが砂を運ぶように」

 セルジオはアンを抱きかかえ、足先から差し込み水に入った。
 アンを高く抱き、その尻が水に浸からないように気をつけた。
 しなやかな腕が首に強く巻き付いた。
 アンは脚をあげて水に浸からないようにする。

 先頭を行く男二人も振り返った。
「ようやく追いついてきたかと思ったら、セルジオ、それは反則だろう!それを抱えてゴールしても点数にはならないんじゃないか!」
 ルイが仏頂面で言う。
「あはははっ。あり得ない光景で、衝撃を受けました。それは思いつきませんでした!あなたたち、面白すぎです!」
 カルバンは、笑いすぎて頭にのせたリュックを取り落としかけている。
「おっと。ここで落としてしまえば、重量点を失ってしまうところです」
 カルバンとルイはもう振り返らず、対岸に向かう。
 前方には5つほどハードルが横一列に並べられ、さらに、三列ほどあり、ゴールが見えていた。
 ゴールはスタート地点の横にあり、王子が待つ大きな日傘がみえた。
 二人は後方に構う余裕などない。
 どちらが先にゴールするかだった。


 セルジオは焦りだした。
 三人との差はどうしても埋まらない。
 先に三人が水から上がるのは確実だった。
 泳げば差を詰められると思うが、アンを水に濡らせない。
 水の中では確実に一歩一歩進めるしかないのだ。

 前方でルイが水に上がった。
 胸に抱えていたリュックを下ろし、口を勢いよく開いた。

「セルジオ!お前の荷物は何キロだ!教えてくれ」
 ルイは、このまま30キロを運ぶ続けるよりも優勝できるぎりぎりのところまで重量を減らし、身軽になってゴールを目指す作戦なのだ。
 カルバンは30キロはありそうなリュックを背に抱え、走りだした。
 だが、カルバンの足取りは重い。
 水の障害物で、もともとすり減っていた体力が根こそぎ取られている。

「友だろ!協力してくれ!」
 セルジオはアンの体重など知らない。
 知らないが、女を抱えて文字通り抱いてきたセルジオがわからないはずがない。
 だが、協力してしまえば、ルイを優勝させてしまう。
 ルイを無視してしまうには、ルイは学友で、友人で、同じ夢を追いかけ切磋琢磨した仲間である。
 彼が、協力して欲しいと望むのならば、セルジオは自分が不利になろうとも、協力せずにはいられない。

「よんじゅう…」
「四十!?」

 顔をセルジオの頭に押し付けていたアンの身体が強張った。
アンとルイが同時に叫んだ。
 二つの叫びは違う意味を持っていた。
 ひとつは先を促し、ひとつは悲鳴に近いもの?

「よんじゅうよんてんななキロだ!」
「44.7キロだな!気持ち悪いほど細かいな!」

 ルイはリュックの中から10キロと5キロの砂袋を取り出し、軽くしたリュックを担ぎ直した。

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