姫の騎士

藤雪花(ふじゆきはな)

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2-2、選抜試験

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「僕はアン。勝手に割り込んでごめん。驚かすつもりはなかったんだ。姫騎士になりたくて、はるばるアデール国から試験を受けに来た。正直、筆記試験に一日拘束されるとは思ってなかったし。それで、なんでこんなに難しい試験をいくつも受けなければならないか、落とすためだけじゃないというのはどういう意味なのか、あんたの考えを知りたいんだ」
「アデール国だって?姫の出身の!」
 ロッシが食い入るように見ている。
「自分の国の姫なのに、エール国の試験を受けなければならないなんて馬鹿げてるだろ」
 そういうアンは不満げである。
 セルジオは答えた。
「つまり、試験だから選別する意味もある。だけど、それだけじゃないと思う根拠は難しすぎたところ」
「だから、それがどうだっていうの?」

 アンは首をかしげてみせた。
 小鳥を思わせるしぐさである。
 ジルコンの婚約者と同じ金髪の若者は、じっとセルジオの目を見返していた。
 金髪の若者の青灰色の瞳は、夕闇の雫をひとつ垂らしたような不思議な色味を持っていた。
 その美しさに、記憶に焼き付けようと凝視しそうになる。
 セルジオは意識的に目をそらした。

「この筆記試験に受かったとしても、これからも学び続けなければならないことを突きつけた試験だ。例えば、地理。最近小競合いが起こった事件をその理由とともに書き記せ、なんてこと、国際情勢を意識していないと絶対に答えられない問題だろ。つまり、これから各国の動向に意識を向け続けろということ」

「……その通りだね」

「午後からの試験だって、外国語だろ?森と平野の国々は同じ語源の兄妹言語だといわれているから、少し勉強すればわずかな違いを押さえるだけで意思疎通は簡単だろう。だけど、全く言語体系が異なるパジャン語も試験に入るならば、そうなると、ここにいる騎士志願者のうち、パジャン語をきちんと学んだものは一体どれだけいる?」

「俺は白紙決定だよ」
ロッシがいうと、俺も俺もと絶望の声があがる。
「つまり、姫の騎士には外国語が話せるか、理解できるだけの素養が求められるってことだ。それも、遠い草原の国々も視野に入れているってことだ」
「はあ?王子の婚約者になった姫の、お飾りの騎士にしては求めるレベルが高いんじゃないか?」
 ルイは呆れていう。
「たんに、深読みしすぎじゃないのか、セルジオ!」

 アデール国から来たという若者は、何かを言う代わりにじっとセルジオを見つめたのであった。

 午後の試験に講堂に戻ると、午前の試験であきらめたのか、席は半分ほど空席になっている。
 試験の結果は数日後に通知された。

 姫の騎士に応募した者は300人。
 第一次試験合格者は50名。
 セルジオの通過順位は5位。
 あの試験で5位というのは誇れるものがあるが、採用枠はたった1枠しかないのだ。

 不合格だったロッシは、食堂で酒をのみ管をまく。
 先日まで夢中になっていた、あの美人の店ではない。

「お前本当にどれだけ勉強しているんだよ。剣術や体術だって強いのに、去年の黒騎士にだって選ばれてもおかしくなかったのにな」
「俺には後がないんだ。ロッシには家業があるだろ」
「そうだ!お前と違って俺には腐っても鍛冶屋がある!だから、今度もその髪のせいで、実力があるのに騎士になれないなんてことにならないように、友のために祈ってやる!だからセルジオ、今回はどんな結果でも短気を起すなよ……」


 セルジオが書類で落とされるのは、片親で私生児のため。
 戸籍には戦場でであった父の名前は空白なのだ。
 出自が実力に勝るのは、往々にしてよくあること。
 特に、高貴な者たちの命を預かる護衛騎士の場合は、セルジオの、傭兵を思わせる赤毛と片親は、彼の忠義や資質を疑わせ、時に不合格にするのに十分な理由とされるのだ。

 それでも夢をあきらめたくなかった。
 だけど、これが最後のチャンスになることもよくわかってる。
 
 セルジオは、硬いベッドに横になり目を閉じる。
 明日から一週間、王城に移り選抜試験が続く。
 どんな試験が行われるかわからない以上、十分に休んでおかねばならなかった。
 昼間のアデールの若者の、不思議な色合いの瞳や輝く金髪を思い出す。
 あの若者は、セルジオが騎士となり、命をかけて仕えることになる姫と似ているのだろうか。
 そもそも、がさつで、夜這いで、奇行の目立つ姫とは、どんな姫なのだろう。
 性格や行動がどうであれ、ジルコン王子が結婚することを決めたのだから、そこそこ美しいのに違いないと思うのだが。

 そんなことをつらつらと思っているうちに、意識を手放したのだった。




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