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その2、ムハンマド篇
8、人生の道が決まるとき
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多くの有力貴族や領主たち、政治力をもったものたちへのお披露目が終わる。
この一年公務でイベント等に出ていたとはいえ、そうそう利害を推し量る目をした男たちから注目をあびることがないムハンマドである。
ぐったりと疲れて、新しく用意された離宮にいく。当分の間、彼には王の親衛隊の誰かがついていた。
離宮の入り口にはノアールがムハンマドを待っていた。
無視して部屋に入るが、少し休むと彼とちゃんと話をしていないのが悲しかった。
「離宮の前にいたノアールを呼んでくれ。まだそこにいるならば」
ノアールは居た。
彼は静かにムハンマドがベッドに横になる部屋に入る。
気だるくムハンマドは体を起こした。
疲れたまま、倒れるように寝たので礼服のままであった。
「ようやく、あなたはわたしを呼んでくれましたね。いつでもいくといっていたでしょう?」
それはいつだったかの口止めのお礼のことだった。
「最後に王子に会えて良かった」
ぎしっとノアールはベッドに腰かける。
これ以上ないぐらいに短く刈かられた赤毛に手を伸ばす。
無防備な耳が、首筋が痛々しかった。
だが、その手は触れずに力なくベッドのシーツに置かれる。
「最後ってどこかにいくのか?」
たずねるムハンマドの声が震える。
「はい。少し遠方に。わたしはいろんな伝承や風習に興味があるのです。いろんなところに行ってそれを集めたい。そして、最近は古い民間療法にも興味があって、それも学ぼうと思っているのです」
「遠方ってどこまで?」
ノアールは悲しく笑う。
「この大地が続く限り」
「もう帰ってこないつもりなのか?」
ムハンマドの手がノアールの腿に置かれた。
ノアールは電撃に撃たれたようにびくっとする。
「、、、そのつもりです。わたしは最後にあなたに会えて本当にうれしい」
焼き付けるように、ノアールはムハンマドを見た。
その手はとうとう赤毛へと伸びて五本の指を滑らせる。
「見事な赤毛だったのに惜しい」
「髪でなんにも変わらない。わたしはわたしだ」
ムハンマドはノアールの顔に手を伸ばす。
「はなむけだ。わたしを好きにせよ」
ノアールはムハンマドにキスをする。
体を引くと追いかけようとするムハンマドの唇から、名残惜しく唇を離す。
「ムハンマドさま。わたしは誰とでも寝てきましたが、愛しているといってくれない人とはこれ以上進むことはできません」
情欲に濡れる赤茶の目が、怒りにちらちら燃える。
「わたしにどうしてもいわせたいのか?
ノアール、お前を愛している!どこにもいってくれるな!いや、いってもいいがお前の帰る場所は父王のところでもなく、わたしのところであると約束してくれ」
そういうムハンマドの目から熱い涙がこぼれ落ちた。
愛を懇願する、己の愛したサーシャ姫の目を、ノアールは一生忘れることはないと思う。
「ああ、サーシャ。わたしのサーシャ。愛しています。
あなたにとってはこの愛がいずれもっと大きな愛に飲み込まれてしまうかもしれないけれど、今はわたしだけの愛する人でいてください、、、」
ノアールは固い礼服の詰め襟ボタンを外す。全てを脱がせる。
ムハンマドもノアールの服をはぐようにして脱がせた。
ノアールの体には見たことのない刺青が上半身に彫られていた。
ムハンマドはノアールの刺青に唇をはわせる。辿っていくと、それは大きくなった男の印に続く。
「咥えて」
ムハンマドは言われるまま咥えこんだ。
その形をたどるように舌をはわせる。
だがすぐに引き上げられる。
「あなたにされるとすぐにいってしまいそうだ。わたしにさせてほしい」
ノアールはムハンマドと体を入れ替える。
まだ幼さは残るが、大人の男になり始めた美しい体であった。
ノアールはキスをする。
身体中を確認するように。
その唇が舌が、触れられるところすべてがゾクゾクと気持ちよかった。
「愛しています、サーシャ」
その美しい声も、ムハンマドを酔わせる。
十分に後ろの口が舌で解されて指を入れられる。
だが、その狭さにノアールは最後の最後で躊躇した。
「何をしている、はやくこい」
「でも、やはり、わたしはあなたを傷つけたくない。わたしはこうしてあなたと過ごせただけでも幸せなのです」
離れようとするノアールの顔をムハンマドは両手で挟んで捕まえた。
「バカをいうな、最後までしてほしい。あなたを感じたいんだ。わたしはこれから王子になり、戦にもでるだろう。あなたは旅で危険な目に会うだろう。もしかしてこれが最初で最後の肌を合わせる機会かもしれない。死ぬときに、ああ、最後までしていたら良かったと悔やむならば、死んでも死にきれないと思わないか?
少なくとも、わたしはそんなこと思いたくない。だから、してくれ」
ノアールの目から涙がこぼれる。
ムハンマドの唇は再びノアールの唇に塞がれ、舌がからまされる。そのキスの気持ち良さに体が弛むのを見計らい、体を開かれ熱くて固いものが押し当てられ押し入った。
「はあっ、、」
ムハンマドの喘ぎがノアールにすべてが飲み込まれていく。
はじめは苦しくて無意識にずり上がって逃れようとするが、優しくその肩を押さえられる。徐々に深く、繋がっていく。
「いいですか」
そうたずねるノアールも返事を聞く余裕がなくなっている。
優しく抜き差しをしていたのはホンのはじめだけ。
途中から、ムハンマドが与える快楽にノアールは溺れる。ノアールは萎えかけたムハンマドのそれを握りリズムを合わせて擦りあげるとたちまち大きくなり、よだれを垂らす。
そして、ムハンマドが耐えきれず吐き出すのに合わせて、ノアールもいく。
「わたしはノアールを放さない。わたしは
あなたを何度も呼ぶ。だがら戻ってこないなんていうな!」
ノアールの涙は止まらない。
自分は命あるかぎり、この美しい自分だけの姫であった赤毛の王子から離れられないことを知った。
既にバラモンは第二の王の候補にざわめいている。ムハンマドの歩み始めた道は決して平坦ではないだろう。
喜びも悲しみも、激しい愛も体験していくのだろう。
成功も挫折もするだろう。
それを、彼の人生に寄り添い、彼の熱い感情を拾い、自分も同じ空気を吸う。
そして、吟遊詩人としてかれの物語を歌うのも面白そうではないか?
ムハンマドがサーシャ姫から王子になったその日、ノアールの人生も決まった。
その日、彼らは何度も昇っては果てたのだった。
ムハンマドがリリアスとエディンバラで出会うのは、十年以上後のことである。
この一年公務でイベント等に出ていたとはいえ、そうそう利害を推し量る目をした男たちから注目をあびることがないムハンマドである。
ぐったりと疲れて、新しく用意された離宮にいく。当分の間、彼には王の親衛隊の誰かがついていた。
離宮の入り口にはノアールがムハンマドを待っていた。
無視して部屋に入るが、少し休むと彼とちゃんと話をしていないのが悲しかった。
「離宮の前にいたノアールを呼んでくれ。まだそこにいるならば」
ノアールは居た。
彼は静かにムハンマドがベッドに横になる部屋に入る。
気だるくムハンマドは体を起こした。
疲れたまま、倒れるように寝たので礼服のままであった。
「ようやく、あなたはわたしを呼んでくれましたね。いつでもいくといっていたでしょう?」
それはいつだったかの口止めのお礼のことだった。
「最後に王子に会えて良かった」
ぎしっとノアールはベッドに腰かける。
これ以上ないぐらいに短く刈かられた赤毛に手を伸ばす。
無防備な耳が、首筋が痛々しかった。
だが、その手は触れずに力なくベッドのシーツに置かれる。
「最後ってどこかにいくのか?」
たずねるムハンマドの声が震える。
「はい。少し遠方に。わたしはいろんな伝承や風習に興味があるのです。いろんなところに行ってそれを集めたい。そして、最近は古い民間療法にも興味があって、それも学ぼうと思っているのです」
「遠方ってどこまで?」
ノアールは悲しく笑う。
「この大地が続く限り」
「もう帰ってこないつもりなのか?」
ムハンマドの手がノアールの腿に置かれた。
ノアールは電撃に撃たれたようにびくっとする。
「、、、そのつもりです。わたしは最後にあなたに会えて本当にうれしい」
焼き付けるように、ノアールはムハンマドを見た。
その手はとうとう赤毛へと伸びて五本の指を滑らせる。
「見事な赤毛だったのに惜しい」
「髪でなんにも変わらない。わたしはわたしだ」
ムハンマドはノアールの顔に手を伸ばす。
「はなむけだ。わたしを好きにせよ」
ノアールはムハンマドにキスをする。
体を引くと追いかけようとするムハンマドの唇から、名残惜しく唇を離す。
「ムハンマドさま。わたしは誰とでも寝てきましたが、愛しているといってくれない人とはこれ以上進むことはできません」
情欲に濡れる赤茶の目が、怒りにちらちら燃える。
「わたしにどうしてもいわせたいのか?
ノアール、お前を愛している!どこにもいってくれるな!いや、いってもいいがお前の帰る場所は父王のところでもなく、わたしのところであると約束してくれ」
そういうムハンマドの目から熱い涙がこぼれ落ちた。
愛を懇願する、己の愛したサーシャ姫の目を、ノアールは一生忘れることはないと思う。
「ああ、サーシャ。わたしのサーシャ。愛しています。
あなたにとってはこの愛がいずれもっと大きな愛に飲み込まれてしまうかもしれないけれど、今はわたしだけの愛する人でいてください、、、」
ノアールは固い礼服の詰め襟ボタンを外す。全てを脱がせる。
ムハンマドもノアールの服をはぐようにして脱がせた。
ノアールの体には見たことのない刺青が上半身に彫られていた。
ムハンマドはノアールの刺青に唇をはわせる。辿っていくと、それは大きくなった男の印に続く。
「咥えて」
ムハンマドは言われるまま咥えこんだ。
その形をたどるように舌をはわせる。
だがすぐに引き上げられる。
「あなたにされるとすぐにいってしまいそうだ。わたしにさせてほしい」
ノアールはムハンマドと体を入れ替える。
まだ幼さは残るが、大人の男になり始めた美しい体であった。
ノアールはキスをする。
身体中を確認するように。
その唇が舌が、触れられるところすべてがゾクゾクと気持ちよかった。
「愛しています、サーシャ」
その美しい声も、ムハンマドを酔わせる。
十分に後ろの口が舌で解されて指を入れられる。
だが、その狭さにノアールは最後の最後で躊躇した。
「何をしている、はやくこい」
「でも、やはり、わたしはあなたを傷つけたくない。わたしはこうしてあなたと過ごせただけでも幸せなのです」
離れようとするノアールの顔をムハンマドは両手で挟んで捕まえた。
「バカをいうな、最後までしてほしい。あなたを感じたいんだ。わたしはこれから王子になり、戦にもでるだろう。あなたは旅で危険な目に会うだろう。もしかしてこれが最初で最後の肌を合わせる機会かもしれない。死ぬときに、ああ、最後までしていたら良かったと悔やむならば、死んでも死にきれないと思わないか?
少なくとも、わたしはそんなこと思いたくない。だから、してくれ」
ノアールの目から涙がこぼれる。
ムハンマドの唇は再びノアールの唇に塞がれ、舌がからまされる。そのキスの気持ち良さに体が弛むのを見計らい、体を開かれ熱くて固いものが押し当てられ押し入った。
「はあっ、、」
ムハンマドの喘ぎがノアールにすべてが飲み込まれていく。
はじめは苦しくて無意識にずり上がって逃れようとするが、優しくその肩を押さえられる。徐々に深く、繋がっていく。
「いいですか」
そうたずねるノアールも返事を聞く余裕がなくなっている。
優しく抜き差しをしていたのはホンのはじめだけ。
途中から、ムハンマドが与える快楽にノアールは溺れる。ノアールは萎えかけたムハンマドのそれを握りリズムを合わせて擦りあげるとたちまち大きくなり、よだれを垂らす。
そして、ムハンマドが耐えきれず吐き出すのに合わせて、ノアールもいく。
「わたしはノアールを放さない。わたしは
あなたを何度も呼ぶ。だがら戻ってこないなんていうな!」
ノアールの涙は止まらない。
自分は命あるかぎり、この美しい自分だけの姫であった赤毛の王子から離れられないことを知った。
既にバラモンは第二の王の候補にざわめいている。ムハンマドの歩み始めた道は決して平坦ではないだろう。
喜びも悲しみも、激しい愛も体験していくのだろう。
成功も挫折もするだろう。
それを、彼の人生に寄り添い、彼の熱い感情を拾い、自分も同じ空気を吸う。
そして、吟遊詩人としてかれの物語を歌うのも面白そうではないか?
ムハンマドがサーシャ姫から王子になったその日、ノアールの人生も決まった。
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