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その2、ムハンマド篇
6、後宮の外の世界
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外の世界に出ようとムハンマドは強く思うようになる。
後宮から出る方法はいくつかあり、結婚もそのひとつではあるが、それを選択できないので、別の方法をムハンマドは考えた。
王室の福祉活動や外交の場に王族として参加する方法だった。
妻や姫がこれまでも手助けしている事例がたくさんある。むしろ、後宮の仕事といって良かった。
ムハンマドは女官長に掛け合う。
「外交の場は人気で既に決まっております」
女官長は言う。
よい縁談先をねらって自分を売ろうとする姫は多い。
冷たく断られても、ムハンマドはすがり付いた。
「みんなが嫌がるようなものでもいいんだ。別に外交や、貴族などが関係しない、アルゴル王都の、いやちいさな地区の自治の集りだってなんだっていいから!
王族が参加するだけで喜ばれるのだろう?イメージアップに役立ちたいんだ」
年老いた女官長は、ムハンマドの必死の迫力に負けて、今までは誰も行きたいとは言わなかった、ちいさな仕事をムハンマドに回していく。
清掃活動キャンペーン、交通ルールを守ろうキャンペーン、三食食べようキャンペーン、児童養護施設への訪問、老人介護施設への視察同行、軍部の慰安活動のプレイベント、、、。
普段王族からも地域の住民さえも見向きもされないちいさなイベントに、質素ながらも第十五番目とはいえ、姫のサーシャが参加するとたいそう喜ばれた。
姫を見に、普段よりイベントは盛り上がる。
町をきれいにしよう清掃活動キャンペーンでは、ムハンマドは挨拶だけでなく一緒に清掃活動もする。
後宮だけでは知り得ない、バラモン国の庶民の生活環境や、日々彼らを悩ます問題や関心、バラモン王室との絶壁の隔たりなど、肌で感じ知る。
またたく間に、赤毛のサーシャ姫は名前が知られ、人気がでていく。
なぜなら、彼らにとって生身の体と声とで反応を返してくれる王族は、サーシャであるムハンマドしかいなかったからだ。
女官長は返ってくる反応の良さに、どんどんムハンマドに仕事を回すことになる。
その結果、ムハンマドは年の3分の2は、後宮から離れることになり、バラモンを学び、さらに信奉者を増やしていくことになる。
報酬ではないが、謝礼金もムハンマドのところに入ってきていた。
ノアールが後宮に訪れても、一週間の訪問の間の演奏の場にムハンマドが来れるのは、一回か二回になっていた。
ムハンマドの衣装が相変わらず質素ではあるが質の良いものに変わっている。
アクセサリーも胸元に飾る。
アクアマリンのピアスはつけたままだった。
だが、ムハンマドであるサーシャ姫に会うたびに、キリッとした雰囲気を強めていく。それは他の姉妹たちには持ち得ない強さで、美しさであった。
いじめは立ち消えていて、逆に、ムハンマドは姉妹たちの中で、慕うものが出てきているようだった。
その夜も久々にノアールはムハンマドを部屋に送る。
「サーシャ姫は美しく、強くなった。町でも噂をあちらこちらできいたよ?」
「え?どんな噂?」
「躓いたときに、助けてあげたらとてもいい匂いがした、とか。おならをした、やっぱり姫も人間だった、とか」
あははっとムハンマドは笑う。
「情熱を向けられるものは見つけられた?」
ノアールは部屋の前まで送る。
前よりも壁も直されて、見事な絵もかかり、嬪と姫の部屋らしくなっていた。
ノアールはムハンマドと向かい合う。
「サーシャは本当に面白い。ここに来ても会えない夜なんて、つまらなすぎて歌えないぐらいだ」
甘い顔が近付く。
振りきることも思い付かず、ムハンマドは二度目のキスをしてしまう。
それは次に進むことを促す濃厚なキス。
「、、、わたしは、駄目なんだ」
「どうして?誰か好きな殿方でもできたのですか?」
「違うっ、だけど、ダメなんだ。あなたとは」
ノアールは傷つき、甘い面を歪ませた。
そんな顔をみたことがなかった。
「、、、わかりました。わたしが汚い男だからですね。初めの出会いも最悪でしたから。わたしは誰とでも寝ている。
だけど、あなたをこの腕に抱き締めることができるのなら、全てを捨ててもいいとさえ思えるんだ。
その赤くて燃える目に焼かれたい」
「違うんだ。もうじき、あなたにすべてを話せるから、その時にもう一度、ノアールの思いを聞せてほしい」
「もうじきとは、、、?」
「来年」
来年にはムハンマドは16になる。
姫から王子に正式に発表するのだ。
母やその親しい信頼のおける同志が密かに手を回して動いていた。
資金はムハンマドの謝礼金が渡されている。
今も声変りが少し始り、声が低くなってきている。
もしかして16を前に公にするかもという可能性も視野にいれる必要があった。
「そう、、、。わかった。あなたへの恋心をひとりで歌って待つことにしよう」
ノアールはいう。
ノアールはスピネル王のお気にいりであった。彼が後宮にくると王の渡りが増える。
王は女の部屋にノアールを呼びつける。
王は女を抱きながらノアールも抱く。
ノアールが後宮で自由なのも、スピネル王の愛人だからであった。
後宮から出る方法はいくつかあり、結婚もそのひとつではあるが、それを選択できないので、別の方法をムハンマドは考えた。
王室の福祉活動や外交の場に王族として参加する方法だった。
妻や姫がこれまでも手助けしている事例がたくさんある。むしろ、後宮の仕事といって良かった。
ムハンマドは女官長に掛け合う。
「外交の場は人気で既に決まっております」
女官長は言う。
よい縁談先をねらって自分を売ろうとする姫は多い。
冷たく断られても、ムハンマドはすがり付いた。
「みんなが嫌がるようなものでもいいんだ。別に外交や、貴族などが関係しない、アルゴル王都の、いやちいさな地区の自治の集りだってなんだっていいから!
王族が参加するだけで喜ばれるのだろう?イメージアップに役立ちたいんだ」
年老いた女官長は、ムハンマドの必死の迫力に負けて、今までは誰も行きたいとは言わなかった、ちいさな仕事をムハンマドに回していく。
清掃活動キャンペーン、交通ルールを守ろうキャンペーン、三食食べようキャンペーン、児童養護施設への訪問、老人介護施設への視察同行、軍部の慰安活動のプレイベント、、、。
普段王族からも地域の住民さえも見向きもされないちいさなイベントに、質素ながらも第十五番目とはいえ、姫のサーシャが参加するとたいそう喜ばれた。
姫を見に、普段よりイベントは盛り上がる。
町をきれいにしよう清掃活動キャンペーンでは、ムハンマドは挨拶だけでなく一緒に清掃活動もする。
後宮だけでは知り得ない、バラモン国の庶民の生活環境や、日々彼らを悩ます問題や関心、バラモン王室との絶壁の隔たりなど、肌で感じ知る。
またたく間に、赤毛のサーシャ姫は名前が知られ、人気がでていく。
なぜなら、彼らにとって生身の体と声とで反応を返してくれる王族は、サーシャであるムハンマドしかいなかったからだ。
女官長は返ってくる反応の良さに、どんどんムハンマドに仕事を回すことになる。
その結果、ムハンマドは年の3分の2は、後宮から離れることになり、バラモンを学び、さらに信奉者を増やしていくことになる。
報酬ではないが、謝礼金もムハンマドのところに入ってきていた。
ノアールが後宮に訪れても、一週間の訪問の間の演奏の場にムハンマドが来れるのは、一回か二回になっていた。
ムハンマドの衣装が相変わらず質素ではあるが質の良いものに変わっている。
アクセサリーも胸元に飾る。
アクアマリンのピアスはつけたままだった。
だが、ムハンマドであるサーシャ姫に会うたびに、キリッとした雰囲気を強めていく。それは他の姉妹たちには持ち得ない強さで、美しさであった。
いじめは立ち消えていて、逆に、ムハンマドは姉妹たちの中で、慕うものが出てきているようだった。
その夜も久々にノアールはムハンマドを部屋に送る。
「サーシャ姫は美しく、強くなった。町でも噂をあちらこちらできいたよ?」
「え?どんな噂?」
「躓いたときに、助けてあげたらとてもいい匂いがした、とか。おならをした、やっぱり姫も人間だった、とか」
あははっとムハンマドは笑う。
「情熱を向けられるものは見つけられた?」
ノアールは部屋の前まで送る。
前よりも壁も直されて、見事な絵もかかり、嬪と姫の部屋らしくなっていた。
ノアールはムハンマドと向かい合う。
「サーシャは本当に面白い。ここに来ても会えない夜なんて、つまらなすぎて歌えないぐらいだ」
甘い顔が近付く。
振りきることも思い付かず、ムハンマドは二度目のキスをしてしまう。
それは次に進むことを促す濃厚なキス。
「、、、わたしは、駄目なんだ」
「どうして?誰か好きな殿方でもできたのですか?」
「違うっ、だけど、ダメなんだ。あなたとは」
ノアールは傷つき、甘い面を歪ませた。
そんな顔をみたことがなかった。
「、、、わかりました。わたしが汚い男だからですね。初めの出会いも最悪でしたから。わたしは誰とでも寝ている。
だけど、あなたをこの腕に抱き締めることができるのなら、全てを捨ててもいいとさえ思えるんだ。
その赤くて燃える目に焼かれたい」
「違うんだ。もうじき、あなたにすべてを話せるから、その時にもう一度、ノアールの思いを聞せてほしい」
「もうじきとは、、、?」
「来年」
来年にはムハンマドは16になる。
姫から王子に正式に発表するのだ。
母やその親しい信頼のおける同志が密かに手を回して動いていた。
資金はムハンマドの謝礼金が渡されている。
今も声変りが少し始り、声が低くなってきている。
もしかして16を前に公にするかもという可能性も視野にいれる必要があった。
「そう、、、。わかった。あなたへの恋心をひとりで歌って待つことにしよう」
ノアールはいう。
ノアールはスピネル王のお気にいりであった。彼が後宮にくると王の渡りが増える。
王は女の部屋にノアールを呼びつける。
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