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第3話 真珠を得る者

33、商品のレベルアップ

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ラズを得たエドは、ゲーレで表向き人材紹介業の大元締である。傭兵から、厨房の厨師、道路や橋梁工事の50人規模の労働者まで要望があれば人足を集め、西も東も関係なく斡旋していた。
雇うのではなく所有したいもの達のために、奴隷として人を売買する奴隷売買の仲介も希望があれば行っている。
最貧民の下働きを斡旋することもあれば、貴族の愛人まで彼は良心の呵責を感じることなく仕事をこなし、どんな卑劣な要望でも応えてきた。
しかも、顧客が条件を出した以上の商品の提供を目指しているので、大変満足度の高い仕事ぶりである。
そのがむしゃらに働いた20年の年月により、頭の禿げ上がりかけた小太りのエドは今や権力者たちの篤い信頼と後楯を得て、ゲーレで自前の用心棒を雇い、城門の要塞の一角に拠点を構え、ほうぼうから一目置かれる人物に成り上がっていた。

そのエドは上得意や、興味がありそうな方面に密書を作成していた。

ラブラド国の楽器店の息子18才。
金髪にブルーグレイの瞳。
体に傷なし。極めて美麗。
一か月後に公開落札予定。
お披露目は公開落札日当日。
興味があれば、至急お返事願う。
当日の詳細は参加のご連絡をくださった方のみに再度、招待状を送ります。
参加は有料。

との簡易なものである。
彼がそれを送った先は、彼の美学に合うところ。黄金に輝きながらもどこか憂いを帯びた美しい宝石に相応しいところを想像する。
芸術品高級品を扱う豪商の未亡人。各国の王族。
ラブラドの新王にも招待状を送る。
ラブラドは最近奴隷制度を廃止し、実権をもつ宰相の息子が、王族の娘と結婚し、王位を継いだのが先日の話である。
売買される可愛そうな美貌の自国人を救出するために来るかも?
なんて軽い気持ちで送ったのだった。
エドは送った先から、参加の返事をもらいほくそ笑む。
その反響はなかなかのものであった。
奴隷斡旋業で名の通るエドが、市場に出さず、特定のものだけしか集めないということで、普段は参加を断っていた者たちも興味を引かれるものだったのだろう。
参加の返事を見ると、最高レベルのお客が揃いそうだった。
誰がラブラドの若者を競り落としても、贅の限りを尽くした人生を過ごせそうであった。

エドは、素晴らしい商品を、最適なお客様に、最高の金額で引き渡すことに喜びを感じる男である。
ラズは、長年の多くの人を見てきたエドからみても近年まれにみる掘り出し物であると思う。
彼がこの商売に入って20年。
お披露目にわくわくするのも久々である。
最高の演出をする、入念な準備が必要だった。
昼間は音楽家を招いての演奏会を。
夜は晩餐会を行うことを計画する。

準備のための時間をたっぷり取ることにした。
テーブルマナーなどは、一か月あればなんとかなるはずであった。
会場はこのむさ苦しい砦より良いところ。
パウエラ国の今は利用されていない離宮でもどうかと、エドは借りる方法を思案する。早速いくつものつてを辿り、運よく借りることができることになった。

俄然、やる気がでる。
今度は舞台になる離宮映えする最高の商品を作り上げることが必須だった。
素材が良いのは、裸体を確認したエドは保証付きである。貴族の愛人に高額で受け渡された数年前の奴隷の娘でも、あのような美しい体をしていなかった。
このラブラドの若者は、所有者がどこに引き連れても遜色なく、男も女も見るものの溜め息を誘わずにはいられない、所有者の権勢を示すものになるだろうと思う。
取引を優位にする一夜の贈り物として貸し出すのもよし、部下への褒美に貸すもよし。己だけに独占するもよし。掛け合わせて、特徴を引き継いだ美しい子供を得るのも可能であろう。

絢爛に輝く宝石に磨きあげるための4週間がエドからラズに課され、ラズとアランはパウエラに居を移すことになった。
緩衝地帯の城門に備わる砦で、人の往来も多いとはいえ、やはりこまごまとした講師を呼ぶには、パウエラ国内の方が良かった。
四週間あれば、元王騎士アランの無惨に腫れた顔も引き、見れる顔になっているだろう。
二人は兄弟とは思えないが、ラブラド特有の日の光を煌めかせる明るい髪や白い肌の若者が二人揃うと、さらに場が華やぐではないか?
さらに、騎士のように付き従えさせれば、箔がつく。二人セットで購入していただければ願ったり叶ったりである。
とエドは心を踊らせ思う。

三人は同じ馬車で移動する。
相変わらず元騎士のアランには手枷が必要ではあったが、鉄の鎖のような厳重なものではなく、革紐の簡易なものに替えている。
二人を一緒にすることで、お互いの気が穏やかになるようだった。
アランはまるでラズを王子のように体をはって守ろうとしていた。
ただの楽器屋の息子に、混乱の末に亡くなったラブラドの王子を重ねて見ているようであった。

「アランのこの騎士然とした雰囲気も堪らなくいい。一緒にお買い上げいただく方向で押すが、無理ならアランは、単独でお金持ち貴族の未亡人の騎士当たりでいけそうだ」
などとエドは思うのであった。

そして、商品をレベルアップさせるための教養を詰め込む四週間が始まった。
これは、引き渡された後に主人と話をするにしても、絶対に彼の役にたつだろうと思う。顔だけよい馬鹿なんて、すぐに飽きられてしまうからだ。
一度売買したものがボロボロになり出戻るなんて、それはエドの美学に合わなかった。

礼儀作法のクラス。
食事マナーのクラス。
ダンスのクラス。
音楽のクラス。
各国の歴史。
地理、社会問題、、、。


エドが呼んだのは町の講師だった。
初日で講師はラズにはもう少しレベルの高い講師が相応しいのではと、別の講師を紹介する。
そして、また数日後には、別の講師をと紹介される。
その度に講師へ支払う謝礼金の額が跳ね上がっていく。
「いったいどういうことなのです、講師をやめたいとは?彼は駄目で手間がかかるのですか?」

エドはパウエラでは別の用事や今回の演出手配で忙しく、直接ラズとアランの最終仕上げの習練には立ち会っていないが、謝礼金が跳ね上がるのに驚いて、辞退を伝えにに来た礼儀作法と食事マナーを兼任していた講師をつかまえて理由をきく。
理由を聞かれて、講師は申し訳なさそうにいう。

「わたしが教えることはございません。もう少し、深く本質を教えられる方に来ていただいたほうが良いと思うのです。今回の演奏会や晩餐会には、王族の方が来られるそうですし。力不足で本当に申し訳ありません、、」
引き留めようにもその決意は変わらないようだった。
エドにはまったく訳がわからない。

今回は、関わる者たちの目の色が変わっていくのをエドは感じていた。
毎日、彼らを逃亡防止に監視させているエドの部下たちも、久々に見かけるとなんだか別人のように取り澄ました真面目な雰囲気を醸し出している。
もっとも少し話すと、やっぱりいつもの彼らだったのだが。

それでお披露目会一週間前に時間をとって、ラズとアランの仕上り具合を自分の目で確認することにした。
本番を想定した、演奏会、会話、晩餐の流れで行う。
通しでやってみると、いまひとつなところが浮き出してきて、重点強化もしくは切り捨てるところがわかるのだ。

今回は過去最高の演出に商品、賓客たちになる。
ラズをはじめて見たときから、彼は己に莫大な金をもたらすだろうと彼の直感が告げていた。
エドは一介の人足からひとかどの人物と言われるようになった己の直感を何よりも信用している。

エドは本番さながらの客席に腕を組んで座ったのだった。




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