樹海の宝石【1】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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第2話 アゲート領の白檀

11.解放と解呪1

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歓迎の宴は広間で行われていた。

アゲートの有力者やアゲートの妻たちや娘、息子たち、ジャンバラヤ族の息子ジャンとシラヤ、それにムハンマド一行と、宴の席に呼ばれた楽士たち、お客の後ろにひかえる奴隷たち、サービスをする者たちで、盛大なものだった。

親族のなかには、迎えにきていた娘もいる。

アゲートとムハンマドは主賓席で隣に座り、ムハンマドの横にはその娘が座っている。

リリアスは末席に近いところで、かえって全体がよく見える位置だった。

娘はかいがいしく、酒をムハンマドに薦め、料理の説明をしたりしているようだ。
全員略式正装だが帯刀している。

バラーは座らず、王子の後ろに影のようにつく。

(なにあれ)

リリアスはなんだか気に入らない。

(なにあれ、あんな布がないような服を着て)

(ちょい、リリー!お願いだから、俺の頭に念話するのをやめてくれ!!あれは、アゲートが娘をムハンマドの嫁にしようとしているんだ)

(なにそれ!!)

(ムハンマドの目に止まれば、時期王の后となり後宮にあがって、子でも成せばアゲートは安泰だからな)

(、、、、)

(リリー、不安なのか?あいつはお前にぞっこんだぞ?端からみていて恥ずかしいぐらいだ。ジャンバラヤ族が狙ったのも、お前だっただろう?お前は違うんだよ)

リリアスは胸にざわつく感情が嫉妬の感情だと理解した。

自分は男になるか女になるかわからない。

わからないまま、ムハンマドを愛してよいのかわからなくなった。

彼は多分僕が女になってほしいと思っている。
僕は女になれるのかわからない。

変化のないこの体。

かえって男になれば、最近不意に覚え始めたこの制御不能の感情から解放されるのだろうか。

広間は全員がはいってもまだゆとりのある大きさで、天井まで装飾が施された贅沢な部屋であった。

壁の片側は庭に大きく開かれていて、木々や草花、枝には小鳥の籠などが掛けられ、優雅なものであった。

少し高台に邸宅があるため、日が落ちていく町の様子も見れるようになっている。

ただ、この素晴らしい会場には、異様なものが真ん中にあった。

何も知らないものがみれば、アゲートの趣向の面白さを感じたかもしれない。
広間の真ん中に床を突き破って木の根か枝かが、絡まりあって天井までのびているのだ。

アゲートの領主は自然の素晴らしさ、美しさ、その神秘性を知っている、と思ったかもしれない。

あれは、一年前、聖なる森の守護がアゲートの館から帰ってこなかった頃、突如出現した。

「あれはサンダルウッドの根なのです」

領主は柔和な顔をほころばせた。

「サンダルウッドの国らしい神秘さだな」
とムハンマド。

「ところで、最近の白檀は質が落ちているという噂を聞いたことがあるのだが」

「そんなことはありません。
最近の白檀のオイルを使って良さを味わってほしいものです。
後で娘に届けさせますので、、」

ムハンマドのとなりの娘は頬を染めてうなづいた。

「リリアス、大丈夫?」

末席の隣はバードで、その奥はセシルだ。
セシルも主賓席で行われている積極的な色仕掛に眉を潜め、リリアスを心配する。
バラーは無関心を装っている。

「僕には関係ない」
リリアスがそういうと、そんな気持ちになった。

目の前の料理に集中する。

楽士達は、アゲートの流行音楽や王都を称える曲目を演奏していた。

やがて、一息つくころ楽士のなかからひときわ眼を引く甘いマスクの男が進み出た。
しきりにムハンマドにすり寄っていた娘も食い入るように見つめた。


「今夜はムハンマド第六王子さまがアゲートに視察にお越しくださった歓迎の宴に、旅の吟遊詩人であるわたくしノアールをお呼びくださいまして、誠にありがとうございます」

手には小振りなたて琴をいだいている。

「貴重な白檀をたたえる詩を謳わせていただきます。
皆さまごゆるりと、、、」

ノアールは広間の中央、サンダルウッドの木の元に腰を落ち着ける。

そして、軽くて琴をかき鳴らす。

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