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第2話 アゲート領の白檀
8.聖なる森の守護
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アゲート領の奥には山脈がつづく。
山脈の裾野の植生豊かな森の中に、ジャンバラヤ族が守る聖なる森がある。
「この森の白檀の枝を燃やす香りは潜在意識をクリアに高めます。
蒸留してオイルを抽出して他のオイルと混ぜても利用できます。
遠い異国からこのオイルを求めてこられる商人も多いのです。
ジャンバラヤ族は、この森を代々守ってきました。広く砂漠の遊牧民ではありますが、遊牧民が精神的な繋りをもてるのは、この白檀のお陰ともいえます」
ジャンは聖なる森へ、ムハンマド一行を案内をしていた。
厳粛な顔になっている。
ジャンはもうひとり、ジャンバラヤ族の大柄な男、シラヤがつく。
髭の濃い強そうな男だ。
空気が白檀の濃厚な匂いに満ちていた。
空気が煙っているような錯覚を受けるほどだ。
ジャンは語りだした。
「白檀は大変気難しい植物です。白檀、、私たちはサンダルウッドと呼んでいるのですが、サンダルウッドは実は己だけでは大きくなれません」
サンダルウッドの若木と、その横にある別の若木を指した。
「この若木がないと、サンダルウッドは大きくなれません。
必要に応じて地下で根を伸ばして、宿主から栄養をいただく、半寄生植物なのです。
これがサンダルウッドの秘密で、それを知っているのは我々の一族の、ごく一部です。
この秘密をムハンマド様に差し上げます。これで、ムハンマド様は、今後白檀を栽培し、欲しがる諸国へ売り、莫大な利益を手にすることが可能になるでしょう」
聖なる森は、広大なサンダルウッドとホストプランツの森だった。
秘密を悟られないように、宿主は色んな種類が植えられている。
「アゲートの領主に、我々に居住する権利と引き換えに白檀を納めております。
年々要求量が増え、森の維持を考えて昨年納める量を減らしてもらえるように、直訴しにいきました。
私の父と森の守護のサラが行きました。
それっきりサラは帰ってきません。私の父はショックで寝込んでおります。
我々は次の世代を育てるため、今育てている若木をうまく宿主に向かわせて、確実に寄生させなければなりません。
でないと、今のペースで収穫すれば、この森のサンダルウッドは絶滅してしまうのです」
「寄生できないとどうなるのだ?」
ムハンマドは聞いた。
「栄養を得られず、若木から大人の大木になれないのです。
地中で根を伸ばして寄生させるお手伝いを、サラがしておりました。
彼女がいると、確実に寄生させることができました」
「なるほど。それで我々に何をしてほしいのだ」
ムハンマドは聞く。
「彼女をアゲートから奪い返したいのです。彼女はこの森の守り主なのです。彼女がいなくなって、森の泉も悪くなりました、、。前は水草が緑の絨毯のような、そして透明度の高い水だったのに、、」
今は水草はほんの少しだけだった。
泉の水は濁っている。
藻が大量に発生している。
「生活にも利用しているので、調子を悪くするものも多くなりました」
きっと、ムハンマドを真正面から見据えた。
リリアスは意識をサンダルウッドに添わせる。
あなたに側にいてほしい。
独りでは生きていけないから。
あなたとおんなじ夢をみたいのです。
サンダルウッドの若木のせつない声が聞こえるようだった。
枝をのばし、四方に根を伸ばす。
暗闇のなか、宿主と出会う。
うれしくて絡まる。根を張りつけて、宿主の命を吸い上げる。
宿主は寛大で、自分に寄生しないと生きられないサンダルウッドを愛しく思う。
そんなに切なく
絡ませて
独りで生きる寂しさを
気づかせてくれたのはあなた
わたしの命をあげましょう
(なんて切ない生きものなんだろう、、)
「サラさんは土の精霊の加護を持っているんだ」
リリアスはジャンに言った。
ジャンはぎょっとしてリリアスをみる。
「どういうことですか?」
「土の精霊は育む力を持っているから。
サラディーンさんは精霊の力をうまく利用して、若いサンダルウッドを導いて、宿主と出会わせていたのだと思う」
ジャンはふいにリリアスの手をとった。
その手の甲に唇を押し付ける。
ふわっと土の精霊の加護を模様が浮き出て消えた。
リリアスの手をとったジャンの手にも同じ土の加護紋様が彫られている。
「離れろ」
ムハンマドとバードは、リリアスとジャンの間に割り込んだ。
すぐジャンは手を離した。
ムハンマドに手を切り落とされそうな殺気を感じたのだ。
「あなたも土の加護を持っているのですね。
土の加護を持つものは、その土地を豊かに実らせることができるでしょう」
熱い眼をしてリリアスを見た。
「だからバラモンの王子が大事にするのですね。
あなたを誰よりも大事にしているのが、遠巻きに見ていてもわかりましたよ」
加護を持っているから大事にされる。
その時、何か冷たいものがリリアスの胸に落ちた。
ジャンは真正面からムハンマドを見据えた。
「サラを取り返し、アゲートの悪政から解放することができるのなら、ジャンバラヤ族の息子ジャンは、ムハンマド第六王子を全面支援する!」
ジャンバラヤ族は、一部定住したり、聖なる森を守ったりしているが、広くバラモン全土に散らばる遊牧民が主体である。
遊牧生活をするものも多いが、騎乗での強弓、太刀技など、非常に戦闘力が高い。
ムハンマド第六王子の赤茶の眼の奥がきらめいた。
山脈の裾野の植生豊かな森の中に、ジャンバラヤ族が守る聖なる森がある。
「この森の白檀の枝を燃やす香りは潜在意識をクリアに高めます。
蒸留してオイルを抽出して他のオイルと混ぜても利用できます。
遠い異国からこのオイルを求めてこられる商人も多いのです。
ジャンバラヤ族は、この森を代々守ってきました。広く砂漠の遊牧民ではありますが、遊牧民が精神的な繋りをもてるのは、この白檀のお陰ともいえます」
ジャンは聖なる森へ、ムハンマド一行を案内をしていた。
厳粛な顔になっている。
ジャンはもうひとり、ジャンバラヤ族の大柄な男、シラヤがつく。
髭の濃い強そうな男だ。
空気が白檀の濃厚な匂いに満ちていた。
空気が煙っているような錯覚を受けるほどだ。
ジャンは語りだした。
「白檀は大変気難しい植物です。白檀、、私たちはサンダルウッドと呼んでいるのですが、サンダルウッドは実は己だけでは大きくなれません」
サンダルウッドの若木と、その横にある別の若木を指した。
「この若木がないと、サンダルウッドは大きくなれません。
必要に応じて地下で根を伸ばして、宿主から栄養をいただく、半寄生植物なのです。
これがサンダルウッドの秘密で、それを知っているのは我々の一族の、ごく一部です。
この秘密をムハンマド様に差し上げます。これで、ムハンマド様は、今後白檀を栽培し、欲しがる諸国へ売り、莫大な利益を手にすることが可能になるでしょう」
聖なる森は、広大なサンダルウッドとホストプランツの森だった。
秘密を悟られないように、宿主は色んな種類が植えられている。
「アゲートの領主に、我々に居住する権利と引き換えに白檀を納めております。
年々要求量が増え、森の維持を考えて昨年納める量を減らしてもらえるように、直訴しにいきました。
私の父と森の守護のサラが行きました。
それっきりサラは帰ってきません。私の父はショックで寝込んでおります。
我々は次の世代を育てるため、今育てている若木をうまく宿主に向かわせて、確実に寄生させなければなりません。
でないと、今のペースで収穫すれば、この森のサンダルウッドは絶滅してしまうのです」
「寄生できないとどうなるのだ?」
ムハンマドは聞いた。
「栄養を得られず、若木から大人の大木になれないのです。
地中で根を伸ばして寄生させるお手伝いを、サラがしておりました。
彼女がいると、確実に寄生させることができました」
「なるほど。それで我々に何をしてほしいのだ」
ムハンマドは聞く。
「彼女をアゲートから奪い返したいのです。彼女はこの森の守り主なのです。彼女がいなくなって、森の泉も悪くなりました、、。前は水草が緑の絨毯のような、そして透明度の高い水だったのに、、」
今は水草はほんの少しだけだった。
泉の水は濁っている。
藻が大量に発生している。
「生活にも利用しているので、調子を悪くするものも多くなりました」
きっと、ムハンマドを真正面から見据えた。
リリアスは意識をサンダルウッドに添わせる。
あなたに側にいてほしい。
独りでは生きていけないから。
あなたとおんなじ夢をみたいのです。
サンダルウッドの若木のせつない声が聞こえるようだった。
枝をのばし、四方に根を伸ばす。
暗闇のなか、宿主と出会う。
うれしくて絡まる。根を張りつけて、宿主の命を吸い上げる。
宿主は寛大で、自分に寄生しないと生きられないサンダルウッドを愛しく思う。
そんなに切なく
絡ませて
独りで生きる寂しさを
気づかせてくれたのはあなた
わたしの命をあげましょう
(なんて切ない生きものなんだろう、、)
「サラさんは土の精霊の加護を持っているんだ」
リリアスはジャンに言った。
ジャンはぎょっとしてリリアスをみる。
「どういうことですか?」
「土の精霊は育む力を持っているから。
サラディーンさんは精霊の力をうまく利用して、若いサンダルウッドを導いて、宿主と出会わせていたのだと思う」
ジャンはふいにリリアスの手をとった。
その手の甲に唇を押し付ける。
ふわっと土の精霊の加護を模様が浮き出て消えた。
リリアスの手をとったジャンの手にも同じ土の加護紋様が彫られている。
「離れろ」
ムハンマドとバードは、リリアスとジャンの間に割り込んだ。
すぐジャンは手を離した。
ムハンマドに手を切り落とされそうな殺気を感じたのだ。
「あなたも土の加護を持っているのですね。
土の加護を持つものは、その土地を豊かに実らせることができるでしょう」
熱い眼をしてリリアスを見た。
「だからバラモンの王子が大事にするのですね。
あなたを誰よりも大事にしているのが、遠巻きに見ていてもわかりましたよ」
加護を持っているから大事にされる。
その時、何か冷たいものがリリアスの胸に落ちた。
ジャンは真正面からムハンマドを見据えた。
「サラを取り返し、アゲートの悪政から解放することができるのなら、ジャンバラヤ族の息子ジャンは、ムハンマド第六王子を全面支援する!」
ジャンバラヤ族は、一部定住したり、聖なる森を守ったりしているが、広くバラモン全土に散らばる遊牧民が主体である。
遊牧生活をするものも多いが、騎乗での強弓、太刀技など、非常に戦闘力が高い。
ムハンマド第六王子の赤茶の眼の奥がきらめいた。
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