樹海の宝石【1】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

文字の大きさ
上 下
39 / 46
第2話 アゲート領の白檀

7.ジャンバラヤ族

しおりを挟む
「リリアスこいっ」

アゲートに出立の合図をかけると、ムハンマドは直ぐにリリアスを自分の隣に寄せる。

親衛隊は皆、駱駝でなく馬に乗る。
リリアスも乗れるようになっていた。

「あれがアゲート領。
バラモン最大の財力と権力を握る。
バラモンは一枚岩の国ではない。
複数の領主が土地を納め、彼らが後ろ楯になっているからこそ、我がバラモン国が成り立っている。
中でもアゲートは最大の勢力だ。
財力に人、そして最近は独自の自衛団を組織し、あなどれないようになってきている」

砂漠に盛り上がるような丘に、ぐるりと取り囲む城壁の内側には街が広がっていて、建物群が遠方からもうかがえる。

この辺りは平坦な道ではなく、ゴツゴツした岩肌に、こんもりとした薮など、雨も多いため豊富な動植物など多様な植生をしているゆたかな土地だ。

リリアスは、まっすぐ先のアゲートを見ていると、落ち着かない気分になった。

「アゲートは、最近、不可解な動きがある。
作物の収穫高が落ち、バラモンの特産物のひとつ、アゲート産の白檀も品質や生産が落ちている。それを今回は独自に調査する」

「白檀?」

ムハンマドはウィンクした。

「昨晩たいていただろう?官能を高める魅惑の香りだ。瞑想にも使われるがな」

そういえば、よい香りだったと思い出したとたん、昨晩を思い出し、リリアスは真っ赤になった。

など、これから向かうアゲートの概要を道中で話している時、パスンと先頭をいくバラーの前に矢が落ちた。

一瞬の間ののち、バラーの怒号がとぶ。

「襲撃だ~構えろ!」
との声に長い隊列が丸く、ムハンマドを中心に囲うように陣を組もうと動く。

相手は馬上の覆面団で、手には遊牧民が使う狩猟用の弓矢をもっていた。

14、5人と敵数が多く、とたんに取り囲まれる。

「お前たちはバラモン国の王族の者か!」

リーダー格のフードの男はいった。

「そうだとしたら何だ」
と、ムハンマドは男の前に進みでる。

その手には抜刀された剣がぎらりと握られている。

「我々の言葉を王に伝えてほしい!」

「ふん。これは人に物を頼む態度ではないな。聴いて欲しければ、もっとやりようがあるだろう?」
ムハンマドがいうと、男は弓をきりっと構えた。

「お前の大事なものの命と引き換えだったらどうだ?」

リーダーは迷わずリリアスに狙いをつける。
リリアスはヒヤリとした。

バードも身構える。
風を起こして流せるかもしれない。

しかし、他の覆面団も四方八方からリリアスを針ネズミにすべく全身を狙う。

ムハンマドはリリアスの前にでて庇う。
後ろにはバードが立つ。 

「、、、やり方は気に入らんが、話は聞こう」

それを聞くと弓矢が降ろされ、ムハンマドの親衛隊も構えていた剣を鞘に納めた。
覆面の男は馬を降り、顔をさらす。
きりっとした表情の好青年だ。
他の者も後につづいた。
フードをとれば荒ぶれた様子を感じさせない、好青年たちの一団だ。

「大変失礼をいたしました。私はジャンバラヤ族の族長の息子ジャン。聖なる森を守護しております。
アゲートの横暴な振る舞いを知ってかつ正していただきたく、そちら様が王族の第六王子ムハンマド様とお見受けして、お力を貸していただきたいと思いまして、このようなご無礼を働いた次第です。
アゲートに入られる前に是非、当方の原状を見て、助けてください」
ムハンマド王子一行は、ジャンバラヤ族の族長の息子の案内で、寄り道をすることになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

二人の王子【2】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)
BL
【甘いだけではない大人のファンタジー】 呪術に守られた樹海の奥底に、いにしえに失われた王国と、秘宝があるという。秘宝を手にいれた者は、世界の覇者にもなれるという。 樹海の少年リリアスには秘密があった。 男でもあり女でもある、両性未分化(プロトタイプ)だったのだ。 ☆気に入っていただけたら、お気にいりに加えてくださるとうれしいです。 励みになります!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...