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第2部 砂漠の王者 第1話 あなたの奴隷
1.砂漠の夜の夢(第2部プロローグ)
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また夜がきてしまう。
日が落ちて暑い砂漠に冷気がするりと入り込むころ、リリアスは落ち着かなくなる。
誰かに呼ばれているような気がするのだ。
強く、切なく、リリアスを求めて伸ばされる腕に夜毎抱かれる夢。
振り払っても、振り払っても早、起きの小鳥がおしゃべりを始める頃まで、夢の中の腕は彼を捕らえ、抱きしめ、そして開き、熱い欲望で貫き通そうとする。
今夜もその夢をみるのか。
リリアスは夢をみると、体に移ったどうしようもない切なさに泣きたくなる。
だから、今夜も彼の天幕に訪れる。
入り口には護衛が立つ。
今夜は顔に傷のある男だ。
頭からすっぽりフードを被り顔を隠していても、彼はすぐに了解し中に通される。
天幕の主はまだ起きていた。
燭台に灯りを灯して、巻物の何かに目を落としている。
顔をあげるとじっと探るような眼でみる。
もう、巻物には目をやらないので、彼の訪れを待っていたのかも知れなかった。
移動式の天幕とはいえ、リリアス達の天幕とは違い大変快適に設えられている。
持ち運びできるよう軽いし上がりの手織りの絨毯や、折りたたみできるテーブルの細工が素晴しい。
羽の布団が引かれている。
フードを脱ぎ足元に落とした。
その下はほっそりとした体にありふれた男物の夜着をまとっただけの、色気のあるものではない。
だが、天幕の主は満足げに目を細めて眺める。
そのまま立っていると声がかけられた。
「、、、おいで」
リリアスはクッションに背を預ける男に近づき、膝をついて腕を伸ばして、肩に手をのせた。
彼の赤茶の目はリリアスの黒曜石の目を離さない。
「どうした、眠れないのか?」
問いかけながらも彼はその応えを待つことはない。
手を伸ばして頭の後でひとつ結びにしていた黒髪をほどく。
初めてあった夜と比べて随分伸びたと思う。
伸ばしてくれているのがうれしい。
胸の下まで伸びた髪をかき揚げて指で透かしあげると、長毛種のネコのように、黒曜石の宝石のような目が心地好げに細くなった。
そのままなされるままに夜着の胸ボタンをはずされていく。
少し日焼けしている肌と日射しから守られて真白く艶めいている肌が、へそ下まで灯りに照らされていく。
「これ、どうしたの?」
腕の包帯を見つけて男は眉をひそめた。
「練習中に切られた」
「気を付けろ。君に傷をつけたくない。
これ以上つけるならわたしの隊から外すからな」
大丈夫だよ、といいかけた唇を男は身を乗り出して吸い上げた。
ふわっと幻想的に精霊の加護紋様が現れた。
加護紋様は、加護の刺青を入れている者と、精霊の加護をもつ者が触れあうと現れる紋様だ。
濃厚な接吻を堪能すると、男は情慾を赤く煌めかせた眼でリリアスの眼を覗く。
「男か女か」
リリアスは男に体を入れ替えられ、褥に押し付けられた。
男の体は強く鋼のように鍛え上げられ、彼がひねりあげようと思えば、リリアスは赤子同然だろう。
髪がふわっと広がり、リリアスの胸にも落ちる。
男はほんの少し膨らんだ胸を手のひらで愛しげに揉み込み、舌で転がす。
つん、と立ちあがってきたのを軽く吸う。
「はあっ」
あえぎ声がリリアスの口から漏れでる。
「こうしていると、まるで女のようだ、、、おまえの中で包まれたい」
リリアスは15才になったばかり。
まだ男であり、女でもある。
両方の可能性を残している両性未分化(プロトタイプ)は、古代の古い血族の血を引いているものに時折り出現する。
今では大変珍しいプロトタイプだ。
彼らは三回、性別を定めるという。
一度目は、産み落とした親に。
二度目は、自ら望んで。
三度目は、愛するものに望まれて。
「男で」
リリアスは男が自分を、女のように抱きたいことがわかっている。
自分の中に女のように抱かれてみたいという気持ちも、彼と出逢ってから生まれ始めている。
だが、言葉にできなかった。
言葉には力が宿る。
女で、と言ったとたん、全てが定まってしまうような予感が、リリアスの言葉を詰まらせる。
「わかった」
男はさらっと返事を返す。
彼は自身に熱い欲望をたぎらせながらも、リリアスがまだ幼く未熟なことを知っている。
男は無理強いをしない。
だからリリアスは安心して、切ない思いを紛らわせに来れる。
満たされて朝を向かえることができる。
先程までの満天の星が己の光を徐々に失って空に同化し始めた頃。
天幕から、来たときと同じフードの人影が音もなく出てきて去っていく。
天幕のすぐに外に座っていた顔に傷のある男バラーは、入り口の幕を少しあげ、主人の様子を一応確認した。
「今夜もお夜伽ご苦労さまです」
皮肉なものいいにも、ムハンマドはさらっと返す。
なぜならその通りなのだ。
沙漠のバラモン王国の第六王子ムハンマドは、少年に夜毎求められるまま奉仕をしている。
「、、、お前もご苦労」
リリアスは気紛れに訪れては満足し、夜明け前に誰にも見つからないように帰っている。
続けて来るときもあるし、ぴたっと来ないときもある。
ムハンマドには明日もリリアスが訪れるかはわからない。
毎夜来てほしいと心より思っているのだけれども。
彼は、後宮で愛する王を待つ愛人たちの、切なく焦がれる気持ちがわかったような気がした。
日が落ちて暑い砂漠に冷気がするりと入り込むころ、リリアスは落ち着かなくなる。
誰かに呼ばれているような気がするのだ。
強く、切なく、リリアスを求めて伸ばされる腕に夜毎抱かれる夢。
振り払っても、振り払っても早、起きの小鳥がおしゃべりを始める頃まで、夢の中の腕は彼を捕らえ、抱きしめ、そして開き、熱い欲望で貫き通そうとする。
今夜もその夢をみるのか。
リリアスは夢をみると、体に移ったどうしようもない切なさに泣きたくなる。
だから、今夜も彼の天幕に訪れる。
入り口には護衛が立つ。
今夜は顔に傷のある男だ。
頭からすっぽりフードを被り顔を隠していても、彼はすぐに了解し中に通される。
天幕の主はまだ起きていた。
燭台に灯りを灯して、巻物の何かに目を落としている。
顔をあげるとじっと探るような眼でみる。
もう、巻物には目をやらないので、彼の訪れを待っていたのかも知れなかった。
移動式の天幕とはいえ、リリアス達の天幕とは違い大変快適に設えられている。
持ち運びできるよう軽いし上がりの手織りの絨毯や、折りたたみできるテーブルの細工が素晴しい。
羽の布団が引かれている。
フードを脱ぎ足元に落とした。
その下はほっそりとした体にありふれた男物の夜着をまとっただけの、色気のあるものではない。
だが、天幕の主は満足げに目を細めて眺める。
そのまま立っていると声がかけられた。
「、、、おいで」
リリアスはクッションに背を預ける男に近づき、膝をついて腕を伸ばして、肩に手をのせた。
彼の赤茶の目はリリアスの黒曜石の目を離さない。
「どうした、眠れないのか?」
問いかけながらも彼はその応えを待つことはない。
手を伸ばして頭の後でひとつ結びにしていた黒髪をほどく。
初めてあった夜と比べて随分伸びたと思う。
伸ばしてくれているのがうれしい。
胸の下まで伸びた髪をかき揚げて指で透かしあげると、長毛種のネコのように、黒曜石の宝石のような目が心地好げに細くなった。
そのままなされるままに夜着の胸ボタンをはずされていく。
少し日焼けしている肌と日射しから守られて真白く艶めいている肌が、へそ下まで灯りに照らされていく。
「これ、どうしたの?」
腕の包帯を見つけて男は眉をひそめた。
「練習中に切られた」
「気を付けろ。君に傷をつけたくない。
これ以上つけるならわたしの隊から外すからな」
大丈夫だよ、といいかけた唇を男は身を乗り出して吸い上げた。
ふわっと幻想的に精霊の加護紋様が現れた。
加護紋様は、加護の刺青を入れている者と、精霊の加護をもつ者が触れあうと現れる紋様だ。
濃厚な接吻を堪能すると、男は情慾を赤く煌めかせた眼でリリアスの眼を覗く。
「男か女か」
リリアスは男に体を入れ替えられ、褥に押し付けられた。
男の体は強く鋼のように鍛え上げられ、彼がひねりあげようと思えば、リリアスは赤子同然だろう。
髪がふわっと広がり、リリアスの胸にも落ちる。
男はほんの少し膨らんだ胸を手のひらで愛しげに揉み込み、舌で転がす。
つん、と立ちあがってきたのを軽く吸う。
「はあっ」
あえぎ声がリリアスの口から漏れでる。
「こうしていると、まるで女のようだ、、、おまえの中で包まれたい」
リリアスは15才になったばかり。
まだ男であり、女でもある。
両方の可能性を残している両性未分化(プロトタイプ)は、古代の古い血族の血を引いているものに時折り出現する。
今では大変珍しいプロトタイプだ。
彼らは三回、性別を定めるという。
一度目は、産み落とした親に。
二度目は、自ら望んで。
三度目は、愛するものに望まれて。
「男で」
リリアスは男が自分を、女のように抱きたいことがわかっている。
自分の中に女のように抱かれてみたいという気持ちも、彼と出逢ってから生まれ始めている。
だが、言葉にできなかった。
言葉には力が宿る。
女で、と言ったとたん、全てが定まってしまうような予感が、リリアスの言葉を詰まらせる。
「わかった」
男はさらっと返事を返す。
彼は自身に熱い欲望をたぎらせながらも、リリアスがまだ幼く未熟なことを知っている。
男は無理強いをしない。
だからリリアスは安心して、切ない思いを紛らわせに来れる。
満たされて朝を向かえることができる。
先程までの満天の星が己の光を徐々に失って空に同化し始めた頃。
天幕から、来たときと同じフードの人影が音もなく出てきて去っていく。
天幕のすぐに外に座っていた顔に傷のある男バラーは、入り口の幕を少しあげ、主人の様子を一応確認した。
「今夜もお夜伽ご苦労さまです」
皮肉なものいいにも、ムハンマドはさらっと返す。
なぜならその通りなのだ。
沙漠のバラモン王国の第六王子ムハンマドは、少年に夜毎求められるまま奉仕をしている。
「、、、お前もご苦労」
リリアスは気紛れに訪れては満足し、夜明け前に誰にも見つからないように帰っている。
続けて来るときもあるし、ぴたっと来ないときもある。
ムハンマドには明日もリリアスが訪れるかはわからない。
毎夜来てほしいと心より思っているのだけれども。
彼は、後宮で愛する王を待つ愛人たちの、切なく焦がれる気持ちがわかったような気がした。
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