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第3話 精霊の力
30.逃避行2
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反射的にリリアスは駆け出した。
長い金髪。
女にしては高い背丈の赤いワンピースの女が、リリアスの手を引いて走る。
後ろでバラーが慌てた気配があるが、気にしない。
あっという間に水を運ぶ馬車の間に走り込み、ジグザグに馬車の間を走りぬけた。
そのまま大通りを抜けるかと思いきや、脇道の商店街へ飛び込む。
すこし走って人気のない路地に入る。
女は振り返り、金髪のかつらをとり、赤い服を脱いで、ゴミ箱に押し込んだ。
その下には、バラモンでは普通の男性の服になる。
「バード!」
「はいよ」
バードは手早くリリアスの黒髪を隠すように、頭からベールを被せる。
服はそのままで、ピンク色の大判のカシミヤのショールを首元にくるくるっと巻き付けた。
一瞬の内に、街をデートしている恋人たちになる。
ご丁寧に、仕上げに真っ赤な口紅を付ける。
「先方さんは、金髪の赤いワンピースの女と、黒髪の少年を探している。
一方俺たちは、色気付いた女をつれたカップルだ」
腕を組む。
リリアスの荒い呼吸が落ち着くのを辛抱強く待つ。
「行くぞ」
今度はゆったりと通りを歩きだす。
進行方向と逆に、元きた道の大通りを目指す。
(このまま進んだと思わせて、その実、戻る)
バードは途中、丸いパンに肉が挟んだパンをふたつ購入する。
バタバタと、ムハンマドの追っ手らしき集団と正面からすれ違う。
人捜しをしているが、二人は素通りだ。
「黒い髪の少年と金髪の女だ。あっちの方へ行ったぞ」
と言っている。
バードは余裕である。
パンの立ち食いをしながら目的地を目指す。
(大丈夫?)
(まかせとけ。伊達に隠密ではないよ。次の角を曲がると大通り。
途中で馬をゲットする)
(どうやって?)
にやりとバードは笑った。
(あちらさんのをお借りしよう)
堂々と歩いて、二人はムハンマドの残した救護班たちの馬が繋がれているところまで来ていた。
ここまでくると、人が少なくなっていた。
バードは一頭手早く失敬すると、リリアスを横座りに乗せ、自分は馬をのんびり引きながら、大通りを優雅に散歩する。
軍部を示す馬具の柄はショールとバードの立ち位置で隠す。
目的地は既に検問があるであろう門ではなく、この街に入った時アーシャが手まねいた、壁の崩れだ。
そこから一気に走り抜ける算段だった。
火事場を避けていく。
途中なんども探索隊に出くわすが、馬での散歩デートを楽しむカップルを呼び止めるものはなかった。
壁に着く。
エディンバラからの脱出を半ば成功したと思われたその時、
「こんにちわ」
と歌うような声をかけられた。
「こんにちわ」
とバードが挨拶を交わす。
崩れた壁の横で、男が優雅に立ち、彼らを待っていた。
長身の、しゃれた衣装を羽織る長髪の男。
甘いマスクに笑みが浮かんでいる。
しっかりとその目はリリアスを真正面から捉えていた。
「お出掛けですか?」
(バードばれたノアールだ)
その瞬間バードはナイフを投げる。
シュピッとノアールの顔の横、壁に突き刺さる。
「死にたくなければ見逃してくれ」
バードは低く言う。
リリアスは影から男達がでてくるのを見た。
「駈落ちとは物騒ですね、お姫さま?」
バードとリリアスは完全に囲まれた。
無駄な抵抗をせずに、4本のナイフを手から滑り落とす。
「あなたの花婿が探していますよ」
バードは逃走の失敗を悟った。
無抵抗に後ろ手に縛られ、膝をついた。
なんでもないことのような感じで、リリアスはふわっとノアールに抱きおろされる。
リリアスの手足はガクガクと震えて、止まらない。
「大丈夫ですか?このまま馬でもよいのですが、私が運んであげましょう」
まるで愛しい人を抱くかのように、ノアールは、リリアスを横抱きに抱き、ムハンマドの宿に戻される。
逃走は失敗したのだった。
長い金髪。
女にしては高い背丈の赤いワンピースの女が、リリアスの手を引いて走る。
後ろでバラーが慌てた気配があるが、気にしない。
あっという間に水を運ぶ馬車の間に走り込み、ジグザグに馬車の間を走りぬけた。
そのまま大通りを抜けるかと思いきや、脇道の商店街へ飛び込む。
すこし走って人気のない路地に入る。
女は振り返り、金髪のかつらをとり、赤い服を脱いで、ゴミ箱に押し込んだ。
その下には、バラモンでは普通の男性の服になる。
「バード!」
「はいよ」
バードは手早くリリアスの黒髪を隠すように、頭からベールを被せる。
服はそのままで、ピンク色の大判のカシミヤのショールを首元にくるくるっと巻き付けた。
一瞬の内に、街をデートしている恋人たちになる。
ご丁寧に、仕上げに真っ赤な口紅を付ける。
「先方さんは、金髪の赤いワンピースの女と、黒髪の少年を探している。
一方俺たちは、色気付いた女をつれたカップルだ」
腕を組む。
リリアスの荒い呼吸が落ち着くのを辛抱強く待つ。
「行くぞ」
今度はゆったりと通りを歩きだす。
進行方向と逆に、元きた道の大通りを目指す。
(このまま進んだと思わせて、その実、戻る)
バードは途中、丸いパンに肉が挟んだパンをふたつ購入する。
バタバタと、ムハンマドの追っ手らしき集団と正面からすれ違う。
人捜しをしているが、二人は素通りだ。
「黒い髪の少年と金髪の女だ。あっちの方へ行ったぞ」
と言っている。
バードは余裕である。
パンの立ち食いをしながら目的地を目指す。
(大丈夫?)
(まかせとけ。伊達に隠密ではないよ。次の角を曲がると大通り。
途中で馬をゲットする)
(どうやって?)
にやりとバードは笑った。
(あちらさんのをお借りしよう)
堂々と歩いて、二人はムハンマドの残した救護班たちの馬が繋がれているところまで来ていた。
ここまでくると、人が少なくなっていた。
バードは一頭手早く失敬すると、リリアスを横座りに乗せ、自分は馬をのんびり引きながら、大通りを優雅に散歩する。
軍部を示す馬具の柄はショールとバードの立ち位置で隠す。
目的地は既に検問があるであろう門ではなく、この街に入った時アーシャが手まねいた、壁の崩れだ。
そこから一気に走り抜ける算段だった。
火事場を避けていく。
途中なんども探索隊に出くわすが、馬での散歩デートを楽しむカップルを呼び止めるものはなかった。
壁に着く。
エディンバラからの脱出を半ば成功したと思われたその時、
「こんにちわ」
と歌うような声をかけられた。
「こんにちわ」
とバードが挨拶を交わす。
崩れた壁の横で、男が優雅に立ち、彼らを待っていた。
長身の、しゃれた衣装を羽織る長髪の男。
甘いマスクに笑みが浮かんでいる。
しっかりとその目はリリアスを真正面から捉えていた。
「お出掛けですか?」
(バードばれたノアールだ)
その瞬間バードはナイフを投げる。
シュピッとノアールの顔の横、壁に突き刺さる。
「死にたくなければ見逃してくれ」
バードは低く言う。
リリアスは影から男達がでてくるのを見た。
「駈落ちとは物騒ですね、お姫さま?」
バードとリリアスは完全に囲まれた。
無駄な抵抗をせずに、4本のナイフを手から滑り落とす。
「あなたの花婿が探していますよ」
バードは逃走の失敗を悟った。
無抵抗に後ろ手に縛られ、膝をついた。
なんでもないことのような感じで、リリアスはふわっとノアールに抱きおろされる。
リリアスの手足はガクガクと震えて、止まらない。
「大丈夫ですか?このまま馬でもよいのですが、私が運んであげましょう」
まるで愛しい人を抱くかのように、ノアールは、リリアスを横抱きに抱き、ムハンマドの宿に戻される。
逃走は失敗したのだった。
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