樹海の宝石【1】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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第3話 精霊の力

24.加護六つの体

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「お待ちください!
この者は、田舎から出てきたばかりの世間を知らないうつけものでございます。
何かと失礼な言動がありましょう。ご勘弁願いたく」

庇うように前にでたルージュは、リリアスとムハンマドの間に割り込んだ。
ムハンマドはリリアスの手首を離そうとしない。

ルージュはそっと押しやるようにムハンマドの掴んだ手に己の手を置く。

青銀と赤茶の目がぶつかり火花が散る。
三人の熱が混ざりあう。
ルージュは微かに震えるリリアスの恐怖を読み取った。

「、、、どうしても保証を示せと言われるならば、わたしがここに残りますが」

「殿下!?」

悲鳴のような叫びをあげたのは、ザイールとララだ。慌ててルージュを諌める。

「御身が人質とはありえません!!リリアスに残ってもらいましょう。水を運びいれるまでの数日の間ですから」

ギリッと奥歯を軋らせる様子をムハンマドは楽しげに眺める。

「舞姫は責任をもって丁重に扱うので安心せよ」

そうして、自分の腕にのせられた強張るルージュの手をつかんでおろし、両手でリリアスを立たせる。

見開かれた黒曜石の目を覗きこむ。

「安心せよ。何も捕って食おうなんてしないから」

「、、、僕に拒否権はないのですか」
憮然とリリアスはいう。
勝手に物事が進んでいく。

「残念ながらないな。国と国との約束ごとだ」
ルージュとリリアスは絶句する。

再びリリアスは取引の交換材料になったのだ。

リリアスは保証の品として、身柄がバラモンに引き渡された。
そして、パリスのルージュ第二王子とバラモンの第六王子の間の密約はなされた。



怒りに震えるルージュ王子を、二人の従騎士が引きずり出すようにして部屋を退席すると、ムハンマドは別室に手を取りリリアスを引き入れる。

「顔を見せてくれ」

 男なのだから人前に顔をさらすことなどはばかる必要はなかったが、なんとなくリリアスは顔のベールを付けたままにしていたのだ。

ムハンマドはリリアスをクッションを背に有無を言わせず座らせる。

「取り方がわからないのです」

「あはは。ノアールがつけさせたのか。よく似合っているが」

ムハンマドは馴れた手つきでベールを取る。
現れ出た艶やかな頬をなでる。

肩までの黒髪を親しげに指ですかしあげた。
親密な触れあいにリリアスは身を固くする。

「美しいな。皆からそう言われるであろう?少し話をするか?若そうだがいくつだ?どこの出だ?ルージュとの関係を教えてくれ。彼の奴隷なのか?」

矢継ぎ早の質問をしてしまい、ムハンマドは己を笑う。
リリアスは控えめに体をずらした。

「14です。僕は樹海を出たばかりですが、約定により彼のもので、、昨日えっと、小姓になりました」

「約定?なんだか複雑そうだな。
パリスの次期王のもの、と先程いっていたな。
○○のもの、と所有されるのをバラモンでは奴隷というのだ。
王子はやたらご執心のようだが、そういう関係か?パリスの男の小姓とはそういう役目もあるというが、、
わたしは奴隷であれ、なんであれ手放したくないものだと後先考えずに邪魔する者は切り捨てるがな」

そういう役目のところで、かあっとリリアスは顔を真っ赤になっている。
ムハンマドはあきれた顔をする。

「あやつ、堅物だと聞いていたんだが、意外だな」

ムハンマドは頭に巻いていた布を取った。
短く切った髪は燃えるの炎のようだ。
赤い胸当てと肩当ても取り去る。
ルージュよりもがっちりとした鍛え上げられた体をしていた。

リリアスが背にしていたクッションの横にもうひとつ大きめのクッションを据えて、どっかと体を預けた。

「わたしは25。第六王子だ。親父はまだまだ健在で、今でも子をなしている。
ありえないだろう、バカ親父。
わたしは早く王になりたい。この美しい砂漠の誇り高く、情熱の民をこの手で守りたい。
この地に来たのも、ひでり続きのエディンバラの様子が気になってな、、、」

(どうしよう、この王子を突き放せない気がする)

その言葉が聞こえたかのように、赤茶の目をリリアスの黒曜石の目と絡めた。

「ここでお前に会えたのも精霊の力かもしれないな」

と褐色の腕が伸びてリリアスの頭を引いた。
構える間もなく、目の上にキスを落とされる。
とっさに目をつぶると、閉じているのに炎の紋様が真っ赤に現れ、ふわっと消えた。

「はあっ」

と思わず声がもれ、扇情的なムスクの香りに耐えられず目を開けると、間近にムハンマドの驚いた顔があった。

息が互いの唇に触れあう。

「わたしの紋様と重なって何て美しい。
お前も火の精霊の加護を持っているのだな」

「ムハンマドは体に模様をいれているのですか」

言ったそばからふたつ、失言したことに気がついた。
敬称を省くのは付ける習慣がなかったからだ。
もうひとつは、まるで、見せてほしいといっているのも同然ではないか?

「見たいか?そういえばノアールもいれていたな。あんなハデハデしいのはノアールぐらいだ。
昔、あれに火以外を強制的に入れられた。
もともと火の加護をもっているから足りないものが必要だといわれてな」

くすっとムハンマドは笑った。

「見せてやりたいが、止められなくなるかもしれないから、今は見せないでおくのが良さそうだ」

といいつつ、頬にキスをする。
すると、ふたたび別の加護模様が現れて消える。

「これは、、加護ふたつ?」

はっとして、
ムハンマドは顔を背けようとするリリアスのおでこに、手のひらに唇を押し付ける。

そのたびに、加護紋様がリリアスの体から燃え上がった。

「みっつ、よっつ、、」

軽く唇を触れあわせる。

「五つ。まさか」

と薄物の胸元をはだけさせ、逃げられないように細い背中ごと抱き締めて胸に唇を押し付けた。
それも浮かび上がりはなかい夢の如く消える。

「全ての加護付か!ご丁寧にオーディンの印まである。
樹海の民といったな」

(体が熱い、、、嫌だ、ルージュ、、)
リリアスの体は意志と関係なく、沙漠の王子の燃えあがる熱に反応している。

「すまない、確認させてもらう」

リリアスの抵抗はかるくいなされた。
纏っていた薄物を剥ぎ取られ、片方のももを強い力で押し上げられ、もう片方は開かれた。
逃れられず、悔しさに涙がでる。

「男、、いや女でもある。プロトタイプか!!伝説の存在だ、、、」

ムハンマドは引き返せないところにいた。

「どちらでも愛せるなら、女として愛しても良いか?」
ぎらつく目をリリアスの顔に寄せる。
この先の流れを予想して、リリアスは恐怖で震えた。

「僕は男だ、、、手荒な真似はしないっていったでしょう、、」

「わたしと男として愛し合うのはお前は辛いぞ。
それでも良いのか?あいつはどちらで愛している?」

「嫌だ、助けて、、ルージュ!!」

少し間があり、不意に押さえつけられていた体が軽くなり、ばさっと何かがかけられた。
ムハンマドが身に付けていた上着だった。
おずおずと見上げると、バラモンの王子は辛そうに顔を歪めていた。

「やはり、今はやめておく。
おまえから愛を乞われるまで契るのは預けよう。
わたしはお前が男でも女でもどちらでも良いからな」

と部屋をでる。
かわりに顔に傷のある男、バラーが部屋をのぞいた。

「ややこしいことになっているな、お嬢ちゃん。ムハンマドはああ言っているので、数日は大人しくな」

リリアスは一人部屋に残されたのだった。


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