樹海の宝石【1】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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第3話 精霊の力

22.王子の密約2

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砂漠の街に闇が落ちる頃、鮮やかな赤い皮で作った胸と肩当てをした男達がマントを翻して、アーシャの店に入った。

(三名。ムハンマド、サラディン、バラー。外に二名。)

つかず離れずの隠密行動をとっているバードがルージュの頭に語りかける。

(砦から数名、こちらに『虫』が入りました)

(わかった)

この密談の不成功を願うものがパリスにいる。
しばしば身内に狙われることもある第二王子である。

(この道に貴方を巻き込みたくないし、こんなことさせたくないのだが、、)

アーシャの手で、清められ、綺麗に化粧をほどこされ薄物をまとうリリアスを見る。

シャラランとなる腕輪、足輪、耳飾りをつけられていく。

最後に目を残して、フワッとオーガンジーの柔布に髪と顔を覆われる。

「どお?」とアーシャ。
「とてもいいね」とノアール。

そお?とリリアスはルージュの反応を見る。

一番大きな部屋がこの時のために準備がなされ、三人の大柄な武人が通される。

アーシャは女たちに声を掛けた。
「さあ、お酒とご馳走を運びなさい。今夜は特別なお客様だよ」
妖艶な女達がお酒を注ぎ、料理を取り分けた。

「真ん中がムハンマド王子。部下のサラディンと頬に傷のある男はバラー。ムハンマドの悪友達」

アーシャが教えてくれる。
ノアールは笑顔で部屋に入り、続いてルージュたちも入る。

ノアールは真ん中、すぐ後ろにリリアス。
ルージュ、ザイール、ララは控目に入り口の壁際に位置をとる。

パリスの略式正装にきれいなショールを羽織り、腰から武器を下げる代わりに、ザイールはタンバリン、ララは笛、ルージュは3本の弦の楽器をもっている。

挨拶の口上をノアールは述べようとするが、バラモンの王子は早々にさえぎった。

「いつもお前は楽しませてくれる。今夜のこの席はどういう趣向か?」

後ろに控える面々を、面白くなさそうに眺める。
武器はすぐ手の届くところに置かれている。
射るような視線が滑っていく。
ルージュで少し眉をよせ、ザイールはさらっと、ララはなめるようにみる。

「そちらの音楽隊は、私の記憶違いでなければパリスのルージュ第二王子と見たが」

「お久しぶりでございます。ムハンマド第六王子。
サラディン将軍、バラー様もご健勝で何よりでございます。
お近くに来られていらっしゃいましたので、ご機嫌伺いに参上した次第」

ムハンマドは表情を変えないが、サラディンとバラーは反りかえった剣に手をかけている。

「ここで、そなたの首を取ったら戦わずしてパリスが手にはいるのではないか?」

さくっと思い付いたように言う。
目が本気な殺気を帯びている。

ザイールとララがピリッと緊張した。

「実はひとつ、ご提案があるのです。」
動じずにルージュは本題に入る。

「先日まで実は事情がありまして、わたし達はこちらに滞在しておりました。
身分を隠してのお忍びでしたが、おもてなしや風土に触れ、エディンバラの人と喧騒を大変好ましく思いました。
このとろの天候不順の影響で、水不足が起きているのが大変心苦しくてなりません。
パリスは樹海の森林を水瓶にして、大きな川が流れ、豊かな水資源を持っております。
困った時ほどお互い様の精神で、助け合うのが本当の友人だと思っております。
幸い、エディンバラの人口3000の二週間分の飲料水、生活用水は確保できます。明日からでも搬送は可能です。
次の雨は、天候学者によれば1週間から10日後。雨でオアシスも潤いましょう。
問題の10日を乗り切るとこさえできれば良いのではございませんか?
第六王子とパリスとて、バラモンの将来の水の確保に関して話し合いませんか?」

「、、すぐそこに水がしたたっておるのに、まどろっこしいことはできんわ」

言い捨てたが、次の雨が来るまでのたった10日間さえ乗り切りさえすればなんとかなるという考えは、ムハンマドを少し冷静にしたようだ。

「明日からでも、本当に水は可能なのですか?」

サラディン将軍は口を挟んだ。
彼はムハンマド王子が仕掛けようとしている戦の回避可能な道を探していたようだ。

「明日にでもこちらに運ぶことは可能です。明日にも物騒なご友人を撤退してくださったら」

「それは貴方の独断か」

「あなたに会いに来たのもそうです。ムハンマド王子がこの場を引く代わりに、パリスとの深い友好の関係を築かれる英断をなされることを信じています」

「、、良かろう」

合意がなされた。
ルージュの勝利だった。


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