22 / 46
第3話 精霊の力
22.王子の密約2
しおりを挟む
砂漠の街に闇が落ちる頃、鮮やかな赤い皮で作った胸と肩当てをした男達がマントを翻して、アーシャの店に入った。
(三名。ムハンマド、サラディン、バラー。外に二名。)
つかず離れずの隠密行動をとっているバードがルージュの頭に語りかける。
(砦から数名、こちらに『虫』が入りました)
(わかった)
この密談の不成功を願うものがパリスにいる。
しばしば身内に狙われることもある第二王子である。
(この道に貴方を巻き込みたくないし、こんなことさせたくないのだが、、)
アーシャの手で、清められ、綺麗に化粧をほどこされ薄物をまとうリリアスを見る。
シャラランとなる腕輪、足輪、耳飾りをつけられていく。
最後に目を残して、フワッとオーガンジーの柔布に髪と顔を覆われる。
「どお?」とアーシャ。
「とてもいいね」とノアール。
そお?とリリアスはルージュの反応を見る。
一番大きな部屋がこの時のために準備がなされ、三人の大柄な武人が通される。
アーシャは女たちに声を掛けた。
「さあ、お酒とご馳走を運びなさい。今夜は特別なお客様だよ」
妖艶な女達がお酒を注ぎ、料理を取り分けた。
「真ん中がムハンマド王子。部下のサラディンと頬に傷のある男はバラー。ムハンマドの悪友達」
アーシャが教えてくれる。
ノアールは笑顔で部屋に入り、続いてルージュたちも入る。
ノアールは真ん中、すぐ後ろにリリアス。
ルージュ、ザイール、ララは控目に入り口の壁際に位置をとる。
パリスの略式正装にきれいなショールを羽織り、腰から武器を下げる代わりに、ザイールはタンバリン、ララは笛、ルージュは3本の弦の楽器をもっている。
挨拶の口上をノアールは述べようとするが、バラモンの王子は早々にさえぎった。
「いつもお前は楽しませてくれる。今夜のこの席はどういう趣向か?」
後ろに控える面々を、面白くなさそうに眺める。
武器はすぐ手の届くところに置かれている。
射るような視線が滑っていく。
ルージュで少し眉をよせ、ザイールはさらっと、ララはなめるようにみる。
「そちらの音楽隊は、私の記憶違いでなければパリスのルージュ第二王子と見たが」
「お久しぶりでございます。ムハンマド第六王子。
サラディン将軍、バラー様もご健勝で何よりでございます。
お近くに来られていらっしゃいましたので、ご機嫌伺いに参上した次第」
ムハンマドは表情を変えないが、サラディンとバラーは反りかえった剣に手をかけている。
「ここで、そなたの首を取ったら戦わずしてパリスが手にはいるのではないか?」
さくっと思い付いたように言う。
目が本気な殺気を帯びている。
ザイールとララがピリッと緊張した。
「実はひとつ、ご提案があるのです。」
動じずにルージュは本題に入る。
「先日まで実は事情がありまして、わたし達はこちらに滞在しておりました。
身分を隠してのお忍びでしたが、おもてなしや風土に触れ、エディンバラの人と喧騒を大変好ましく思いました。
このとろの天候不順の影響で、水不足が起きているのが大変心苦しくてなりません。
パリスは樹海の森林を水瓶にして、大きな川が流れ、豊かな水資源を持っております。
困った時ほどお互い様の精神で、助け合うのが本当の友人だと思っております。
幸い、エディンバラの人口3000の二週間分の飲料水、生活用水は確保できます。明日からでも搬送は可能です。
次の雨は、天候学者によれば1週間から10日後。雨でオアシスも潤いましょう。
問題の10日を乗り切るとこさえできれば良いのではございませんか?
第六王子とパリスとて、バラモンの将来の水の確保に関して話し合いませんか?」
「、、すぐそこに水がしたたっておるのに、まどろっこしいことはできんわ」
言い捨てたが、次の雨が来るまでのたった10日間さえ乗り切りさえすればなんとかなるという考えは、ムハンマドを少し冷静にしたようだ。
「明日からでも、本当に水は可能なのですか?」
サラディン将軍は口を挟んだ。
彼はムハンマド王子が仕掛けようとしている戦の回避可能な道を探していたようだ。
「明日にでもこちらに運ぶことは可能です。明日にも物騒なご友人を撤退してくださったら」
「それは貴方の独断か」
「あなたに会いに来たのもそうです。ムハンマド王子がこの場を引く代わりに、パリスとの深い友好の関係を築かれる英断をなされることを信じています」
「、、良かろう」
合意がなされた。
ルージュの勝利だった。
(三名。ムハンマド、サラディン、バラー。外に二名。)
つかず離れずの隠密行動をとっているバードがルージュの頭に語りかける。
(砦から数名、こちらに『虫』が入りました)
(わかった)
この密談の不成功を願うものがパリスにいる。
しばしば身内に狙われることもある第二王子である。
(この道に貴方を巻き込みたくないし、こんなことさせたくないのだが、、)
アーシャの手で、清められ、綺麗に化粧をほどこされ薄物をまとうリリアスを見る。
シャラランとなる腕輪、足輪、耳飾りをつけられていく。
最後に目を残して、フワッとオーガンジーの柔布に髪と顔を覆われる。
「どお?」とアーシャ。
「とてもいいね」とノアール。
そお?とリリアスはルージュの反応を見る。
一番大きな部屋がこの時のために準備がなされ、三人の大柄な武人が通される。
アーシャは女たちに声を掛けた。
「さあ、お酒とご馳走を運びなさい。今夜は特別なお客様だよ」
妖艶な女達がお酒を注ぎ、料理を取り分けた。
「真ん中がムハンマド王子。部下のサラディンと頬に傷のある男はバラー。ムハンマドの悪友達」
アーシャが教えてくれる。
ノアールは笑顔で部屋に入り、続いてルージュたちも入る。
ノアールは真ん中、すぐ後ろにリリアス。
ルージュ、ザイール、ララは控目に入り口の壁際に位置をとる。
パリスの略式正装にきれいなショールを羽織り、腰から武器を下げる代わりに、ザイールはタンバリン、ララは笛、ルージュは3本の弦の楽器をもっている。
挨拶の口上をノアールは述べようとするが、バラモンの王子は早々にさえぎった。
「いつもお前は楽しませてくれる。今夜のこの席はどういう趣向か?」
後ろに控える面々を、面白くなさそうに眺める。
武器はすぐ手の届くところに置かれている。
射るような視線が滑っていく。
ルージュで少し眉をよせ、ザイールはさらっと、ララはなめるようにみる。
「そちらの音楽隊は、私の記憶違いでなければパリスのルージュ第二王子と見たが」
「お久しぶりでございます。ムハンマド第六王子。
サラディン将軍、バラー様もご健勝で何よりでございます。
お近くに来られていらっしゃいましたので、ご機嫌伺いに参上した次第」
ムハンマドは表情を変えないが、サラディンとバラーは反りかえった剣に手をかけている。
「ここで、そなたの首を取ったら戦わずしてパリスが手にはいるのではないか?」
さくっと思い付いたように言う。
目が本気な殺気を帯びている。
ザイールとララがピリッと緊張した。
「実はひとつ、ご提案があるのです。」
動じずにルージュは本題に入る。
「先日まで実は事情がありまして、わたし達はこちらに滞在しておりました。
身分を隠してのお忍びでしたが、おもてなしや風土に触れ、エディンバラの人と喧騒を大変好ましく思いました。
このとろの天候不順の影響で、水不足が起きているのが大変心苦しくてなりません。
パリスは樹海の森林を水瓶にして、大きな川が流れ、豊かな水資源を持っております。
困った時ほどお互い様の精神で、助け合うのが本当の友人だと思っております。
幸い、エディンバラの人口3000の二週間分の飲料水、生活用水は確保できます。明日からでも搬送は可能です。
次の雨は、天候学者によれば1週間から10日後。雨でオアシスも潤いましょう。
問題の10日を乗り切るとこさえできれば良いのではございませんか?
第六王子とパリスとて、バラモンの将来の水の確保に関して話し合いませんか?」
「、、すぐそこに水がしたたっておるのに、まどろっこしいことはできんわ」
言い捨てたが、次の雨が来るまでのたった10日間さえ乗り切りさえすればなんとかなるという考えは、ムハンマドを少し冷静にしたようだ。
「明日からでも、本当に水は可能なのですか?」
サラディン将軍は口を挟んだ。
彼はムハンマド王子が仕掛けようとしている戦の回避可能な道を探していたようだ。
「明日にでもこちらに運ぶことは可能です。明日にも物騒なご友人を撤退してくださったら」
「それは貴方の独断か」
「あなたに会いに来たのもそうです。ムハンマド王子がこの場を引く代わりに、パリスとの深い友好の関係を築かれる英断をなされることを信じています」
「、、良かろう」
合意がなされた。
ルージュの勝利だった。
1
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
二人の王子【2】~古き血族の少年の物語
藤雪花(ふじゆきはな)
BL
【甘いだけではない大人のファンタジー】
呪術に守られた樹海の奥底に、いにしえに失われた王国と、秘宝があるという。秘宝を手にいれた者は、世界の覇者にもなれるという。
樹海の少年リリアスには秘密があった。
男でもあり女でもある、両性未分化(プロトタイプ)だったのだ。
☆気に入っていただけたら、お気にいりに加えてくださるとうれしいです。
励みになります!

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

運命の子【5】~古き血族の少年の物語
藤雪花(ふじゆきはな)
BL
呪術に守られた樹海の民の出身の少年リリアスには秘密があった。
リリアスは男でも女でもある両性未分化(プロトタイプ)だった。
リリアスが愛を知り、成長していく物語です。
↑これが前提。
物語は完結します。
「運命の子」の収録内容
◆長期休暇の過ごし方
◆蛮族の王
◆呪術の森
◆水かけ祭
◆パリスの闇 完
※流れ的には、タイトルでは、
第一部 「樹海の宝石」
第二部 「二人の王子」
第三部 第1話「氷の女王」
第2話「王族の子」
この次に位置する、第3話の物語
☆気に入っていただけたら、お気に入りに加えてくださったらうれしいです。
☆感想を是非きかせてください♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる