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第3話 精霊の力
18.水の行方2
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パリスのベルラードの砦はバラモンの都市の辺境ひとつエディンバラの、街の目と鼻の先に睨みを効かす軍事要塞基地である。
第2王子の無事帰国の一報とエディンバラへの水の救援要請は、すぐさまアルザス将軍に伝えられ、彼の指示によりたちまち抜かりなく、整えられる。
不穏な動きをしているバラモンの進行に対して、既に防戦の戦支度はアルザス将軍が指揮し1000の精鋭を集めていた。
13から面倒を見ていて我が子同然のルージュ王子から、無事の知らせと救援物資の準備依頼を聞いて、50を過ぎ、白髪の混ざる親子ほど年の離れたアルザス将軍は、誇らしく思う。
戦も、友好も、どちらも手駒として持ち使い分ける。
相手の望むものがわかっていれば、戦を回避できる可能性がある。
それにしても、樹海の探索に消えたルージュ王子が、バラモン国から帰国するなど誰も予想はしていなかった。
彼の帰りを約束の街で待っていた2人の側近のザイールとララの取り乱し様は半端ではなかった。
王子の帰還は既に伝えられ、じきに彼らもベルラードに合流をする。
アルザスは殿下を迎えると、力強い抱擁で無事を喜んだ。ルージュも同様に返す。
「アルザス、機敏な対応だな」
「ありがとうございます。
陛下、そしてカルサイト殿下にも帰還のご一報を入れました。
元より、ルージュ殿下は行方不明ではなく、陛下の命を受け、こちらを指揮していることになっております」
アルザス将軍に任せていれば、大抵の軋轢は避けられる。
ルージュが信頼する一人であった。
「ところで、あの」
と珍しくアルザスはいいよどむ。
視線はルージュの後ろに影のようにくっついている黒髪の少年を捉えていた。
「殿下、このお方は、、」
少年はルージュの後ろに控えながらも大きな目を見開いて、キョロキョロとルージュと抱擁を交わしたり、がしっと握手をしたりする様子や、ベルラードの砦内の行き交う人や積み上げられた武器、物資を見ている。時おり、ふおっと小さく感嘆をあげているようだ。
こちらで迎えの馬を差し向けて、その馬に二人乗りの姿を認めたときから、ルージュにとってひとかたならぬ関係であるに違いないと見るものに想像させた。
ルージュよりも顔ひとつ分ほど小柄で、肩の長さの黒髪が柔らかくほほにかかっている。
砂漠の埃を浴びているとはいえ、整った容姿は目をひいた。
きれいな男子にも男の子っぽい女子にも、どちらにもとれる。
「彼はリリアス。樹海で拾った」
「拾ったとはなんと。
彼を見習いにでもいれるのですか?それとも側仕えに?素姓がはっきりしないと殿下のお側には置けない決まりです」
推薦、試験、顔見せなど幾段階を経て、王陛下から王子の側仕えが任命される。
15の時から側に控えるザイールとララも身元がはっきりしている貴族の出である。
多くの競争相手と競い、彼らはルージュの側仕えの従騎士の居場所を勝ち得ている
「そちらの側仕えにではないが、、」
ルージュは困ったように顔をしかめた。
黒髪の少年を側におくための障害の数々を思ったようだ。
「彼はただ私の側におくだけだ。危険はないと思う」
「それは、お小姓ということですか?」
アルザスは王族や貴族の身の回りの世話をする側仕えを思った。
お小姓は年若い男子がなることが多く、ルージュはいままで一度も側におくことはなかった。
だから少年を連れている彼は意外で新鮮に映る。
「小姓になるのか?小姓というより、話し相手というか、そういうものなのだが、、」
「っっっ」
アルザスは絶句する。
こんな王子への対応は戦畑の将軍には専門外だった。
「こ、小姓になさいませ。採用基準はゆるく問題を起こさない限り、ルージュ様がご結婚されても側におけましょう」
王族の趣味に関しては何も言うことはない。
ただルージュの驚異になるならば、アルザスは恨みを買うことをいとわず取り去るだけだった。
アルザスの言葉にルージュは微妙な表情を浮かべた。
結婚。
王都に残す婚約者の存在をきれいさっばり忘れていたのだった。そしてまた蓋をする。
「バード!」
アルザスは壁に背中を預け、感動の再開の数々を見ていた密偵を鬼の形相で睨み付けた。
「はいよ、将軍」
「あれはどういうことだ!?」
「う~ん?王子さまがお姫さまにぞっこんていうことなんではないですか?」
「わかるように申せ!?」
「これ以上は言いようがなくて。
えっと公衆の面前でキスしたり、プレゼントしたり、道中夜はひとつ屋根の下、ご一緒にお休みになられたりしておりましたよ。それはもう、王子さまは見ている方が恥ずかしくなるぐらい」
「××××」
将軍は目眩を感じたのだった。
翌々日、ようやくルージュは二人の従騎士のザイールとララと合流を果す。
リリアスとの顔合わせではアルザス将軍の反応と似たりよったりの反応があり、かれらも身の回りの世話をする小姓の位置付けに表面上は納得したようだった。
バラモンのムハンマド率いる1500の軍勢はエディンバラの街をぐるっと取り囲むように夜営陣をはり、無言の圧力をかけている。
国境を守るベルラードの砦には三大貴族のひとりプリュッシエル領主から500の応援がむかっている。
そして、相変わらず燦々と太陽光は降り注ぎ、王都の気候学者たちはこの先一週間は、晴天が続くと予測していたのだった。
第2王子の無事帰国の一報とエディンバラへの水の救援要請は、すぐさまアルザス将軍に伝えられ、彼の指示によりたちまち抜かりなく、整えられる。
不穏な動きをしているバラモンの進行に対して、既に防戦の戦支度はアルザス将軍が指揮し1000の精鋭を集めていた。
13から面倒を見ていて我が子同然のルージュ王子から、無事の知らせと救援物資の準備依頼を聞いて、50を過ぎ、白髪の混ざる親子ほど年の離れたアルザス将軍は、誇らしく思う。
戦も、友好も、どちらも手駒として持ち使い分ける。
相手の望むものがわかっていれば、戦を回避できる可能性がある。
それにしても、樹海の探索に消えたルージュ王子が、バラモン国から帰国するなど誰も予想はしていなかった。
彼の帰りを約束の街で待っていた2人の側近のザイールとララの取り乱し様は半端ではなかった。
王子の帰還は既に伝えられ、じきに彼らもベルラードに合流をする。
アルザスは殿下を迎えると、力強い抱擁で無事を喜んだ。ルージュも同様に返す。
「アルザス、機敏な対応だな」
「ありがとうございます。
陛下、そしてカルサイト殿下にも帰還のご一報を入れました。
元より、ルージュ殿下は行方不明ではなく、陛下の命を受け、こちらを指揮していることになっております」
アルザス将軍に任せていれば、大抵の軋轢は避けられる。
ルージュが信頼する一人であった。
「ところで、あの」
と珍しくアルザスはいいよどむ。
視線はルージュの後ろに影のようにくっついている黒髪の少年を捉えていた。
「殿下、このお方は、、」
少年はルージュの後ろに控えながらも大きな目を見開いて、キョロキョロとルージュと抱擁を交わしたり、がしっと握手をしたりする様子や、ベルラードの砦内の行き交う人や積み上げられた武器、物資を見ている。時おり、ふおっと小さく感嘆をあげているようだ。
こちらで迎えの馬を差し向けて、その馬に二人乗りの姿を認めたときから、ルージュにとってひとかたならぬ関係であるに違いないと見るものに想像させた。
ルージュよりも顔ひとつ分ほど小柄で、肩の長さの黒髪が柔らかくほほにかかっている。
砂漠の埃を浴びているとはいえ、整った容姿は目をひいた。
きれいな男子にも男の子っぽい女子にも、どちらにもとれる。
「彼はリリアス。樹海で拾った」
「拾ったとはなんと。
彼を見習いにでもいれるのですか?それとも側仕えに?素姓がはっきりしないと殿下のお側には置けない決まりです」
推薦、試験、顔見せなど幾段階を経て、王陛下から王子の側仕えが任命される。
15の時から側に控えるザイールとララも身元がはっきりしている貴族の出である。
多くの競争相手と競い、彼らはルージュの側仕えの従騎士の居場所を勝ち得ている
「そちらの側仕えにではないが、、」
ルージュは困ったように顔をしかめた。
黒髪の少年を側におくための障害の数々を思ったようだ。
「彼はただ私の側におくだけだ。危険はないと思う」
「それは、お小姓ということですか?」
アルザスは王族や貴族の身の回りの世話をする側仕えを思った。
お小姓は年若い男子がなることが多く、ルージュはいままで一度も側におくことはなかった。
だから少年を連れている彼は意外で新鮮に映る。
「小姓になるのか?小姓というより、話し相手というか、そういうものなのだが、、」
「っっっ」
アルザスは絶句する。
こんな王子への対応は戦畑の将軍には専門外だった。
「こ、小姓になさいませ。採用基準はゆるく問題を起こさない限り、ルージュ様がご結婚されても側におけましょう」
王族の趣味に関しては何も言うことはない。
ただルージュの驚異になるならば、アルザスは恨みを買うことをいとわず取り去るだけだった。
アルザスの言葉にルージュは微妙な表情を浮かべた。
結婚。
王都に残す婚約者の存在をきれいさっばり忘れていたのだった。そしてまた蓋をする。
「バード!」
アルザスは壁に背中を預け、感動の再開の数々を見ていた密偵を鬼の形相で睨み付けた。
「はいよ、将軍」
「あれはどういうことだ!?」
「う~ん?王子さまがお姫さまにぞっこんていうことなんではないですか?」
「わかるように申せ!?」
「これ以上は言いようがなくて。
えっと公衆の面前でキスしたり、プレゼントしたり、道中夜はひとつ屋根の下、ご一緒にお休みになられたりしておりましたよ。それはもう、王子さまは見ている方が恥ずかしくなるぐらい」
「××××」
将軍は目眩を感じたのだった。
翌々日、ようやくルージュは二人の従騎士のザイールとララと合流を果す。
リリアスとの顔合わせではアルザス将軍の反応と似たりよったりの反応があり、かれらも身の回りの世話をする小姓の位置付けに表面上は納得したようだった。
バラモンのムハンマド率いる1500の軍勢はエディンバラの街をぐるっと取り囲むように夜営陣をはり、無言の圧力をかけている。
国境を守るベルラードの砦には三大貴族のひとりプリュッシエル領主から500の応援がむかっている。
そして、相変わらず燦々と太陽光は降り注ぎ、王都の気候学者たちはこの先一週間は、晴天が続くと予測していたのだった。
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