15 / 46
第3話 精霊の力
15.ノアールの誘惑2
しおりを挟む
ノアールはルージュの眼が完全に閉じたのを確認し、ふっと表情を緩める。
保護者のように常に側にいる男には少しの間眠ってもらうことにした。
「この地方のお酒は案外強いからね」
体を寝かせクッションに頭を沈ませる。
傍らの少年も『別の薬』が効きはじめる頃だ。
つられて少しの顔を赤く上気させた少年もルージュの横に寝ようとするのを、ノアールは寝させない。
少年に飲ませたのは、気持ちが良くなり口が滑らかになるもの。
「少し、話せない?君と話をしたいのです」
「僕も。これは、、、素敵だね。
弾けるようになるかな」
「なんでも弾けるようになりますよ」
リリアスは小振りな竪琴をきちんと座り直し、ノアールが抱いていたのを思い出しながらかかえて弾いた。
シャランとなった。
リリアスは嬉しくなり、夢中で適当に弾いて和音を楽しむ。
なかには不協和音も混じるが、それも楽しい。
「君の町には僕のような吟遊詩人は来ないのですか?」
慎重に質問を落とす。
この後のために、尋問されたという印象は避けておきたかった。
「来ないよ。滅多に外からくる人もいなければ、出ていく人もまれなんだ」
リリアスの指をそっと包んで誘導する。
弾く角度がかわって澄んだ良い響きになると、ふわっと花咲ような笑顔となる。
「森で迷うルージュを見つけたとき、本当に嬉しくて」
「迷う?森の中で遭難でも?」
「ぐるぐると何日も同じところを廻っていたよ。森にかけられた呪術のせいで、外界の者は奥には着けないんだ。
同様に、内の者もよほどのことがないと外にでられない。だから僕たちは取引をしたんだ、、、」
話の方向が思いもかけない方へいく。
樹海の方角からきたのではなく、彼ら樹海から出てきたのだ。
清浄な樹海育ちにはさぞ外の世界は汚れているのだろう。
彼は苦しみ、助けたのは連れの男だ。
できうれば、その役目わたしがしたかったのだけど、とノアールは思う。
少年は体を痛めているようでもないので、青年が上手くやったのがわかる。
ノアールの中で、いろんな疑問のピースがはまっていく感じがした。
全体像が見えそうで見えない。
「君の発声の、破裂音の鼻に抜ける感じや、さしす、のような空気の音なんか、ちょっと変わっていて素敵です。
どことなく古い感じがあるのは、隔絶された樹海で育ったからですか?」
「古い?普通だと思っていたんだけど」
適切に質問をしなければと気を引き締める。
時間は無限にあるわけではない。
「ルージュ君は、樹海に冒険に?
最近は少なくなってきたと言うけど、どんな取引なのですか?」
「僕は彼を神殿まで案内し、彼は僕を樹海から開放する」
リリアスはひと息ついて言葉を重ねる。
「彼は約定を遂行しに来たんだ。
代替りの次代の王に古の宝が引き渡される。
宝を渡す代わりに樹海の遺跡や古の民は守られる。彼は輝石と僕を得た。
父さまは僕を出したくなかったけど、僕は出たくてたまらなかったんだ」
「パリスの第2皇子、ルージュ!?」
「、、、あと二年もすれば、僕の秘密も秘密でなくなるから、それまでルージュと一緒にいようかと思うんだ」
「君の秘密はどんな秘密なのですか?」
息をとめたまま押し出された声が震える。
ぎゅっとリリアスは顔をゆがませたが、促されて言葉を綴る。
「僕は未熟なんだ。男でもあり女でもあるプロトタイプだ。早く大人の男になって世界でいきたい」
「君の体から浮き出す紋章はどういう仕組なのですか?」
「僕は精霊の加護を内側に全てもっているから。
精霊と神さまのキスを受けた遠い始まりの人の血を引き継いでいる。
樹海には延々とその血が守られていて、たまに生まれてくるんだ。プロトタイプとして。
あなたのその袖口の模様は精霊の紋様でしょう?」
つと、リリアスは手を伸ばした。
ブルッと気持ちの良いしびれが触れた指先からノアールの全身に駆け巡る。
「見て」
ノアールは上着を脱ぎ、体に彫り巡らされた青い紋様を見せた。樹海のように、古い伝統を固辞しているところでは体にいれる習慣をもっているところもある。
大抵は加護ひとつ。
ノアールはさまざまなものをその体に宿していた。
秘め事の時以外人目に晒したことはないが、リリアスには見て触れてほしいと思った。
リリアスの手首を取り、彼の掌を胸に押し当てる。
「君の歌声に聞き惚れたよ。
一緒に世界を見てみるのも面白そうじゃあない?
ほら、こんなにドキドキしてるの、わかりますか?」
「面白そうだね。それに、ドキドキはわかる」
薬が聞いているからか、リリアスは丁寧に答える。
「君もドキドキしていますか?
男としても良いと思っていたけどわたしは君を女のコとして愛しても良いですか?
昨晩はどうしたか知りませんが、、」
リリアスは手を引こうとしたが、無駄だった。さらに強く引き寄せられる。
「、、ドキドキしているけど、女のコとして愛することはできないよ。僕は男なのだから」
「女のコでもあるのでしょう」
ノアールはおでこにキスをした。
ほわっと紋様が表れ、消える。
「綺麗だ、、」
保護者のように常に側にいる男には少しの間眠ってもらうことにした。
「この地方のお酒は案外強いからね」
体を寝かせクッションに頭を沈ませる。
傍らの少年も『別の薬』が効きはじめる頃だ。
つられて少しの顔を赤く上気させた少年もルージュの横に寝ようとするのを、ノアールは寝させない。
少年に飲ませたのは、気持ちが良くなり口が滑らかになるもの。
「少し、話せない?君と話をしたいのです」
「僕も。これは、、、素敵だね。
弾けるようになるかな」
「なんでも弾けるようになりますよ」
リリアスは小振りな竪琴をきちんと座り直し、ノアールが抱いていたのを思い出しながらかかえて弾いた。
シャランとなった。
リリアスは嬉しくなり、夢中で適当に弾いて和音を楽しむ。
なかには不協和音も混じるが、それも楽しい。
「君の町には僕のような吟遊詩人は来ないのですか?」
慎重に質問を落とす。
この後のために、尋問されたという印象は避けておきたかった。
「来ないよ。滅多に外からくる人もいなければ、出ていく人もまれなんだ」
リリアスの指をそっと包んで誘導する。
弾く角度がかわって澄んだ良い響きになると、ふわっと花咲ような笑顔となる。
「森で迷うルージュを見つけたとき、本当に嬉しくて」
「迷う?森の中で遭難でも?」
「ぐるぐると何日も同じところを廻っていたよ。森にかけられた呪術のせいで、外界の者は奥には着けないんだ。
同様に、内の者もよほどのことがないと外にでられない。だから僕たちは取引をしたんだ、、、」
話の方向が思いもかけない方へいく。
樹海の方角からきたのではなく、彼ら樹海から出てきたのだ。
清浄な樹海育ちにはさぞ外の世界は汚れているのだろう。
彼は苦しみ、助けたのは連れの男だ。
できうれば、その役目わたしがしたかったのだけど、とノアールは思う。
少年は体を痛めているようでもないので、青年が上手くやったのがわかる。
ノアールの中で、いろんな疑問のピースがはまっていく感じがした。
全体像が見えそうで見えない。
「君の発声の、破裂音の鼻に抜ける感じや、さしす、のような空気の音なんか、ちょっと変わっていて素敵です。
どことなく古い感じがあるのは、隔絶された樹海で育ったからですか?」
「古い?普通だと思っていたんだけど」
適切に質問をしなければと気を引き締める。
時間は無限にあるわけではない。
「ルージュ君は、樹海に冒険に?
最近は少なくなってきたと言うけど、どんな取引なのですか?」
「僕は彼を神殿まで案内し、彼は僕を樹海から開放する」
リリアスはひと息ついて言葉を重ねる。
「彼は約定を遂行しに来たんだ。
代替りの次代の王に古の宝が引き渡される。
宝を渡す代わりに樹海の遺跡や古の民は守られる。彼は輝石と僕を得た。
父さまは僕を出したくなかったけど、僕は出たくてたまらなかったんだ」
「パリスの第2皇子、ルージュ!?」
「、、、あと二年もすれば、僕の秘密も秘密でなくなるから、それまでルージュと一緒にいようかと思うんだ」
「君の秘密はどんな秘密なのですか?」
息をとめたまま押し出された声が震える。
ぎゅっとリリアスは顔をゆがませたが、促されて言葉を綴る。
「僕は未熟なんだ。男でもあり女でもあるプロトタイプだ。早く大人の男になって世界でいきたい」
「君の体から浮き出す紋章はどういう仕組なのですか?」
「僕は精霊の加護を内側に全てもっているから。
精霊と神さまのキスを受けた遠い始まりの人の血を引き継いでいる。
樹海には延々とその血が守られていて、たまに生まれてくるんだ。プロトタイプとして。
あなたのその袖口の模様は精霊の紋様でしょう?」
つと、リリアスは手を伸ばした。
ブルッと気持ちの良いしびれが触れた指先からノアールの全身に駆け巡る。
「見て」
ノアールは上着を脱ぎ、体に彫り巡らされた青い紋様を見せた。樹海のように、古い伝統を固辞しているところでは体にいれる習慣をもっているところもある。
大抵は加護ひとつ。
ノアールはさまざまなものをその体に宿していた。
秘め事の時以外人目に晒したことはないが、リリアスには見て触れてほしいと思った。
リリアスの手首を取り、彼の掌を胸に押し当てる。
「君の歌声に聞き惚れたよ。
一緒に世界を見てみるのも面白そうじゃあない?
ほら、こんなにドキドキしてるの、わかりますか?」
「面白そうだね。それに、ドキドキはわかる」
薬が聞いているからか、リリアスは丁寧に答える。
「君もドキドキしていますか?
男としても良いと思っていたけどわたしは君を女のコとして愛しても良いですか?
昨晩はどうしたか知りませんが、、」
リリアスは手を引こうとしたが、無駄だった。さらに強く引き寄せられる。
「、、ドキドキしているけど、女のコとして愛することはできないよ。僕は男なのだから」
「女のコでもあるのでしょう」
ノアールはおでこにキスをした。
ほわっと紋様が表れ、消える。
「綺麗だ、、」
1
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜
水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。
そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー
-------------------------------
松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳
カフェ・ルーシェのオーナー
横家大輝(よこやだいき) 27歳
サッカー選手
吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳
ファッションデザイナー
-------------------------------
2024.12.21~
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
二人の王子【2】~古き血族の少年の物語
藤雪花(ふじゆきはな)
BL
【甘いだけではない大人のファンタジー】
呪術に守られた樹海の奥底に、いにしえに失われた王国と、秘宝があるという。秘宝を手にいれた者は、世界の覇者にもなれるという。
樹海の少年リリアスには秘密があった。
男でもあり女でもある、両性未分化(プロトタイプ)だったのだ。
☆気に入っていただけたら、お気にいりに加えてくださるとうれしいです。
励みになります!

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

運命の子【5】~古き血族の少年の物語
藤雪花(ふじゆきはな)
BL
呪術に守られた樹海の民の出身の少年リリアスには秘密があった。
リリアスは男でも女でもある両性未分化(プロトタイプ)だった。
リリアスが愛を知り、成長していく物語です。
↑これが前提。
物語は完結します。
「運命の子」の収録内容
◆長期休暇の過ごし方
◆蛮族の王
◆呪術の森
◆水かけ祭
◆パリスの闇 完
※流れ的には、タイトルでは、
第一部 「樹海の宝石」
第二部 「二人の王子」
第三部 第1話「氷の女王」
第2話「王族の子」
この次に位置する、第3話の物語
☆気に入っていただけたら、お気に入りに加えてくださったらうれしいです。
☆感想を是非きかせてください♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる