樹海の宝石【1】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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第3話 精霊の力

15.ノアールの誘惑2

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ノアールはルージュの眼が完全に閉じたのを確認し、ふっと表情を緩める。
保護者のように常に側にいる男には少しの間眠ってもらうことにした。

「この地方のお酒は案外強いからね」

体を寝かせクッションに頭を沈ませる。
傍らの少年も『別の薬』が効きはじめる頃だ。
つられて少しの顔を赤く上気させた少年もルージュの横に寝ようとするのを、ノアールは寝させない。

少年に飲ませたのは、気持ちが良くなり口が滑らかになるもの。

「少し、話せない?君と話をしたいのです」
「僕も。これは、、、素敵だね。
弾けるようになるかな」

「なんでも弾けるようになりますよ」

リリアスは小振りな竪琴をきちんと座り直し、ノアールが抱いていたのを思い出しながらかかえて弾いた。
シャランとなった。
リリアスは嬉しくなり、夢中で適当に弾いて和音を楽しむ。
なかには不協和音も混じるが、それも楽しい。

「君の町には僕のような吟遊詩人は来ないのですか?」

慎重に質問を落とす。

この後のために、尋問されたという印象は避けておきたかった。

「来ないよ。滅多に外からくる人もいなければ、出ていく人もまれなんだ」

リリアスの指をそっと包んで誘導する。
弾く角度がかわって澄んだ良い響きになると、ふわっと花咲ような笑顔となる。

「森で迷うルージュを見つけたとき、本当に嬉しくて」

「迷う?森の中で遭難でも?」
「ぐるぐると何日も同じところを廻っていたよ。森にかけられた呪術のせいで、外界の者は奥には着けないんだ。
同様に、内の者もよほどのことがないと外にでられない。だから僕たちは取引をしたんだ、、、」

話の方向が思いもかけない方へいく。

樹海の方角からきたのではなく、彼ら樹海から出てきたのだ。
清浄な樹海育ちにはさぞ外の世界は汚れているのだろう。
彼は苦しみ、助けたのは連れの男だ。

できうれば、その役目わたしがしたかったのだけど、とノアールは思う。

少年は体を痛めているようでもないので、青年が上手くやったのがわかる。
ノアールの中で、いろんな疑問のピースがはまっていく感じがした。
全体像が見えそうで見えない。

「君の発声の、破裂音の鼻に抜ける感じや、さしす、のような空気の音なんか、ちょっと変わっていて素敵です。
どことなく古い感じがあるのは、隔絶された樹海で育ったからですか?」

「古い?普通だと思っていたんだけど」

適切に質問をしなければと気を引き締める。
時間は無限にあるわけではない。

「ルージュ君は、樹海に冒険に?
最近は少なくなってきたと言うけど、どんな取引なのですか?」

「僕は彼を神殿まで案内し、彼は僕を樹海から開放する」

リリアスはひと息ついて言葉を重ねる。

「彼は約定を遂行しに来たんだ。
代替りの次代の王に古の宝が引き渡される。
宝を渡す代わりに樹海の遺跡や古の民は守られる。彼は輝石と僕を得た。
父さまは僕を出したくなかったけど、僕は出たくてたまらなかったんだ」

「パリスの第2皇子、ルージュ!?」

「、、、あと二年もすれば、僕の秘密も秘密でなくなるから、それまでルージュと一緒にいようかと思うんだ」

「君の秘密はどんな秘密なのですか?」

息をとめたまま押し出された声が震える。
ぎゅっとリリアスは顔をゆがませたが、促されて言葉を綴る。

「僕は未熟なんだ。男でもあり女でもあるプロトタイプだ。早く大人の男になって世界でいきたい」

「君の体から浮き出す紋章はどういう仕組なのですか?」

「僕は精霊の加護を内側に全てもっているから。
精霊と神さまのキスを受けた遠い始まりの人の血を引き継いでいる。
樹海には延々とその血が守られていて、たまに生まれてくるんだ。プロトタイプとして。
あなたのその袖口の模様は精霊の紋様でしょう?」

つと、リリアスは手を伸ばした。

ブルッと気持ちの良いしびれが触れた指先からノアールの全身に駆け巡る。

「見て」

ノアールは上着を脱ぎ、体に彫り巡らされた青い紋様を見せた。樹海のように、古い伝統を固辞しているところでは体にいれる習慣をもっているところもある。

大抵は加護ひとつ。
ノアールはさまざまなものをその体に宿していた。

秘め事の時以外人目に晒したことはないが、リリアスには見て触れてほしいと思った。
リリアスの手首を取り、彼の掌を胸に押し当てる。

「君の歌声に聞き惚れたよ。
一緒に世界を見てみるのも面白そうじゃあない?
ほら、こんなにドキドキしてるの、わかりますか?」

「面白そうだね。それに、ドキドキはわかる」

薬が聞いているからか、リリアスは丁寧に答える。

「君もドキドキしていますか?
男としても良いと思っていたけどわたしは君を女のコとして愛しても良いですか?
昨晩はどうしたか知りませんが、、」

リリアスは手を引こうとしたが、無駄だった。さらに強く引き寄せられる。

「、、ドキドキしているけど、女のコとして愛することはできないよ。僕は男なのだから」

「女のコでもあるのでしょう」

ノアールはおでこにキスをした。
ほわっと紋様が表れ、消える。

「綺麗だ、、」




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