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第3話 精霊の力
13.祝福のキス
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あなたに祝福のキスを
捧げましょう
優しい微笑みに
空の精霊は恋をする
(頬にキス)
愛しいささやきに
風の精霊は恋をする
(唇にキス)
熱く燃える瞳に
火の精霊は恋をする
(まぶたにキス)
命の輝きに
水の精霊は恋をする
(おでこにキス)
深い慈愛に
土の精霊は恋をする
(右手にキス)
(左手にキス)
創造の神オーディン
恋して愛した
(胸にキス)
乙女にキスを捧げましょう
愛で満たされますように
広場には娑羅双樹の大木があり、人々は動きを留めて、木陰で小さな竪琴を膝の上に置き、軽くつま弾きながら歌う旅の吟遊詩人に耳を傾けていた。
吟遊詩人は医者でもあるノアールだった。
盛大な拍手で区切りがつく。
笑顔でこたえたノアールは、二人の姿に気がついた。
じっとリリアスをみつめ、にこっと笑いかけた。
「この詩懐かしい。よく子供の頃歌ったよ」
リリアスは吟遊詩人に笑顔を返してから、ルージュに向きなおる。
「これは恋の詩であり、別れを惜しむ詩でもあるんだ。
こうやって親しい人にキスをする」
リリアスはルージュの肩を軽く押さえ、頬に、まぶたに、おでこに、唇に、軽くついばむようなキスをした。
ルージュは甘い不意討ちに、時間がこのままとまるのではないかと錯覚した。
「友人との挨拶でもあるよ。
そのときは触れあわせず、音だけでキスをする。、、、あはっ。そんなに固まらないで。僕が照れるよ」
リリアスはちょっと真剣な顔を作った。
「この詩には続きがあって、、、」
すっと息を吸う。
やがて人は地に満ち野山に広がる
恋する精霊の声は届かない
(おでこにキス)
(唇にキス)
天は黒くかげり、地は赤く染まる
恋する精霊の視線は届かない
(頬にキス)
(まぶたにキス)
海は干上がり、山は泣く
恋する精霊の想いは届かない
(右手にキス)
(左手にキス)
それでもあなたに愛をささげましょう
(胸にキス)
(唇にキス)
リリアスは歌った。
吟遊詩人の歌ったのは明るいパートで聞くものを楽しい気分にさせたが、リリアスの部分は哀しい響きで、忘れていた罪深い己を思い出させた。
愛するもののために二度と過ちを繰り返してはならないのだと、聞いたものそれぞれに決意させる、そんな詩だった。
ルージュは二順目のキスを受けて、輝く黒曜石の瞳に甘く囚われてしまったことを知る。
リリアスに恋をし、愛してしまったことを知った。
ふうっという嘆息があちこでなされる。
暑さにうだる砂漠の真昼間に差し掛かる刻限にもかかわらず、広場の空気が冷えたような気がした。
捧げましょう
優しい微笑みに
空の精霊は恋をする
(頬にキス)
愛しいささやきに
風の精霊は恋をする
(唇にキス)
熱く燃える瞳に
火の精霊は恋をする
(まぶたにキス)
命の輝きに
水の精霊は恋をする
(おでこにキス)
深い慈愛に
土の精霊は恋をする
(右手にキス)
(左手にキス)
創造の神オーディン
恋して愛した
(胸にキス)
乙女にキスを捧げましょう
愛で満たされますように
広場には娑羅双樹の大木があり、人々は動きを留めて、木陰で小さな竪琴を膝の上に置き、軽くつま弾きながら歌う旅の吟遊詩人に耳を傾けていた。
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笑顔でこたえたノアールは、二人の姿に気がついた。
じっとリリアスをみつめ、にこっと笑いかけた。
「この詩懐かしい。よく子供の頃歌ったよ」
リリアスは吟遊詩人に笑顔を返してから、ルージュに向きなおる。
「これは恋の詩であり、別れを惜しむ詩でもあるんだ。
こうやって親しい人にキスをする」
リリアスはルージュの肩を軽く押さえ、頬に、まぶたに、おでこに、唇に、軽くついばむようなキスをした。
ルージュは甘い不意討ちに、時間がこのままとまるのではないかと錯覚した。
「友人との挨拶でもあるよ。
そのときは触れあわせず、音だけでキスをする。、、、あはっ。そんなに固まらないで。僕が照れるよ」
リリアスはちょっと真剣な顔を作った。
「この詩には続きがあって、、、」
すっと息を吸う。
やがて人は地に満ち野山に広がる
恋する精霊の声は届かない
(おでこにキス)
(唇にキス)
天は黒くかげり、地は赤く染まる
恋する精霊の視線は届かない
(頬にキス)
(まぶたにキス)
海は干上がり、山は泣く
恋する精霊の想いは届かない
(右手にキス)
(左手にキス)
それでもあなたに愛をささげましょう
(胸にキス)
(唇にキス)
リリアスは歌った。
吟遊詩人の歌ったのは明るいパートで聞くものを楽しい気分にさせたが、リリアスの部分は哀しい響きで、忘れていた罪深い己を思い出させた。
愛するもののために二度と過ちを繰り返してはならないのだと、聞いたものそれぞれに決意させる、そんな詩だった。
ルージュは二順目のキスを受けて、輝く黒曜石の瞳に甘く囚われてしまったことを知る。
リリアスに恋をし、愛してしまったことを知った。
ふうっという嘆息があちこでなされる。
暑さにうだる砂漠の真昼間に差し掛かる刻限にもかかわらず、広場の空気が冷えたような気がした。
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