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第3話 精霊の力
12.プレゼント
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朝からリリアスは食欲旺盛で、宿の食堂でもりもりとフルーツサラダと平たいパンを平らげていた。
添えられたベーコンも口に入るが、咀嚼してももう顔を歪めることはない。
「そんなに食べて大丈夫なの、お連れさん」
と宿屋の主人は声をかけながらも、ラクダのミルクをリリアスに差し出した。
「すっかり回復したようだ。ご亭主、世話になった」
医者を紹介してくれたのはこのご亭主だ。良かったねえ、ノアールはやはりすごい医者だねえ、とうなずいている。
「それで、もう少し医者業に専念してくれたらありがたいんだがねぇ」
「吟遊詩人でもあったか?」
そうさっ。
と亭主はエディンバラの繁華街の広場を指した。
「この砂漠の街に来たらあそこでいつも歌っているよ。お礼がてらいってみるといい」
「医者がうた歌い???」
リリアスがブドウを頬張りながらも割って入る。
全く覚えていない様子だ。
亭主が離れたので、ルージュは上品にパンをちぎってちょんとラクダのミルクに浸す。
少しこの辺りのパンは固い。
国も違うと食べ物の習慣も異なる。
「リリアス、昨夜はそのう、、」
謝るべきか、そっとしておくべきか、それとも恋人になるのか、二人はいつまで一緒に行動をとるのか、リリアスの気持ちはどうなのか。
驚異的に回復した少年を確認してからは、昨夜の事実の位置づけに、ルージュは朝から苦悩することになった。
清浄な世界でしか生きれなかった少年は、『自分も穢され汚れている』と思うことで、生まれたときからの樹海の外は穢れているという、強い潜在的な抵抗を解除することができたのだ。
ルージュは口にした数々の卑猥な言動と、きれいな肢体を思い返し、ぐっと喉につかえるパンを慌てて飲み下した。
それに、彼は彼女でもある。
昨晩は男として愛したが、リリアスが女を選択することもあり得るのだ。
女としてのリリアス、、。
また思考が暴走する。
まるで思春期の男の子のようだ。
リリアスは昨夜と聞いて、さっと頬を赤らめる。
「昨夜は変な夢を見たんだ、シャーと戯れる夢」
なぜかルージュはがっくりした。
彼の体に情事の痕跡を残すような手荒な扱いはしていないし、きれいにぬぐって全身清めてはいたが、、。
この子は相変わらずきれいではあったが、天然なところがあってかわいい。
彼が世間を知り身を立てて一人立ちをするときに、手放しで喜んであげられるのだろうか、とルージュはいずれ訪れるであろう未来を思った。
奇跡の回復を遂げたリリアスとルージュは、エディンバラの街を観光することにした。
エディンバラはパリスとの国境近くの砂漠のオアシスから大きくなった街で、パリスの手工芸品や文物、エディンバラの遊牧の民の生活用品や、旅の疲れを癒す休憩どころ、炉端で屋台をひらく食事処など、多種多様の民族や旅人が集まる賑やかな陽気な街だった。
リリアスは色んなものに目をとめては歓声をあげていた。
宝飾を並べたところでは、あれこれ手にとっては光に透かして見ている姿は女の子にしか見えず愛らしい。
「これはルージュの瞳の色だ」
リリアスはしゃがんだまま首を巡らして、手にしたラピスのピアスをルージュの顔に並べた見た。
「深い青のなかに星が散っている。おんなじだね」
その様子にルージュも頬を緩めた。
連れが楽しそうであれば楽しい。
昨日までの歩くのも難儀な少年は、どこにもいなかった。
「いいものだよ。
ずうっと西の国にある女王の石だ。
彼氏にプレゼントしてもらいな。
お前さんが身に付けるとなんていうか、神秘的な雰囲気が増すよ?」
頭にぐるぐるとバラモン特有に布をまいた主人はいった。
「プレゼント!?彼氏!?」
リリアスは絶句する。
二人は彼氏彼女に見えるらしい。
「主人、それをもらおう」
リリアスは目を丸する。
値札は他と比べて○が明らかに多い。
ルージュはウインクする。
「快気祝いだ。気にするな」
両耳たぶにラピスを身につけたリリアスに笑顔を向ける。
リリアスも少し照れぎみではあったが嬉しそうだ。
いつも身に付けるものをプレゼントするのは自分の所有物であると主張するのと同様であり、自分の中にそういう気持ちがあることを発見して、ルージュは新鮮に思った。
日が高くなるにつれて、気温もどんどん上がってくる。
日差しを避けて、木陰のカフェ屋台のミントティーをいただくことにする。
さまざまな食べ物の屋台は丸い広場を囲うように何軒もあり、広場には公共の井戸の水場がいくつかあった。
「ここは暑いね」
とリリアスは砂糖たっぷりのミントティーをすする。
「これから昼過ぎまでどんどん暑くなるよ」
カフェのお兄さんが割り込んできた。
彼も頭に布を巻き、砂漠の民の特徴的な褐色の肌をしている。
彼もリリアスをお嬢ちゃん扱いをしている風である。
リリアスは知ってか知らずか、気にかけた様子はない。
「雨が降れば涼しくなるのにね」
お兄さんは言った。
「この数か月、雨は見たことないよ。このところの日照りで、エディンバラの地下のオアシスは干上がる寸前さ」
「干上がるとどうなる?」
とルージュも割り込む。
「あの井戸が枯れたらこの街は終わりさ。近くのオアシスへ移住することになる。どこも似たり寄ったりではあるけどね」
お兄さんはある方角を見た。
そちらに避難予定地があるようだ。
「水の都ともいわれているパリスへ行こうとするものも多いよ。バラモンは自由でいいところだが、こう雨も降らなくなったらなあ、、」
「ふうん?」
リリアスは目を閉じて意識を地下深くに潜らせた。
井戸の水源は、カフェの兄さんがいうように涸れかけていた。
でも水の精霊の気配がすぐそばにある。大きな地下水脈がそばにある。
エディンバラの井戸は大きな地下水脈の支流のひとつを汲み上げているようだ。
その支流を岩がほぼ塞き止めている?
この岩をどけたら地下の水流が回復するかもしれないとリリアスは思った。
それとも、
意識を空高く羽ばたかせる。
樹海では意識は樹海の範囲内であったが、ここではぐんぐん飛ばすことができる。
この地の大気中のH2Oは驚くほど少ない。リリアスは更に意識を飛ばした。
いくつもの集落や都を越えた先に、大海原が広がっている。
ここは湿度が高い。
海上の水蒸気を気圧の差で風を起こして運び、雨を降らせても良さそうだった。
添えられたベーコンも口に入るが、咀嚼してももう顔を歪めることはない。
「そんなに食べて大丈夫なの、お連れさん」
と宿屋の主人は声をかけながらも、ラクダのミルクをリリアスに差し出した。
「すっかり回復したようだ。ご亭主、世話になった」
医者を紹介してくれたのはこのご亭主だ。良かったねえ、ノアールはやはりすごい医者だねえ、とうなずいている。
「それで、もう少し医者業に専念してくれたらありがたいんだがねぇ」
「吟遊詩人でもあったか?」
そうさっ。
と亭主はエディンバラの繁華街の広場を指した。
「この砂漠の街に来たらあそこでいつも歌っているよ。お礼がてらいってみるといい」
「医者がうた歌い???」
リリアスがブドウを頬張りながらも割って入る。
全く覚えていない様子だ。
亭主が離れたので、ルージュは上品にパンをちぎってちょんとラクダのミルクに浸す。
少しこの辺りのパンは固い。
国も違うと食べ物の習慣も異なる。
「リリアス、昨夜はそのう、、」
謝るべきか、そっとしておくべきか、それとも恋人になるのか、二人はいつまで一緒に行動をとるのか、リリアスの気持ちはどうなのか。
驚異的に回復した少年を確認してからは、昨夜の事実の位置づけに、ルージュは朝から苦悩することになった。
清浄な世界でしか生きれなかった少年は、『自分も穢され汚れている』と思うことで、生まれたときからの樹海の外は穢れているという、強い潜在的な抵抗を解除することができたのだ。
ルージュは口にした数々の卑猥な言動と、きれいな肢体を思い返し、ぐっと喉につかえるパンを慌てて飲み下した。
それに、彼は彼女でもある。
昨晩は男として愛したが、リリアスが女を選択することもあり得るのだ。
女としてのリリアス、、。
また思考が暴走する。
まるで思春期の男の子のようだ。
リリアスは昨夜と聞いて、さっと頬を赤らめる。
「昨夜は変な夢を見たんだ、シャーと戯れる夢」
なぜかルージュはがっくりした。
彼の体に情事の痕跡を残すような手荒な扱いはしていないし、きれいにぬぐって全身清めてはいたが、、。
この子は相変わらずきれいではあったが、天然なところがあってかわいい。
彼が世間を知り身を立てて一人立ちをするときに、手放しで喜んであげられるのだろうか、とルージュはいずれ訪れるであろう未来を思った。
奇跡の回復を遂げたリリアスとルージュは、エディンバラの街を観光することにした。
エディンバラはパリスとの国境近くの砂漠のオアシスから大きくなった街で、パリスの手工芸品や文物、エディンバラの遊牧の民の生活用品や、旅の疲れを癒す休憩どころ、炉端で屋台をひらく食事処など、多種多様の民族や旅人が集まる賑やかな陽気な街だった。
リリアスは色んなものに目をとめては歓声をあげていた。
宝飾を並べたところでは、あれこれ手にとっては光に透かして見ている姿は女の子にしか見えず愛らしい。
「これはルージュの瞳の色だ」
リリアスはしゃがんだまま首を巡らして、手にしたラピスのピアスをルージュの顔に並べた見た。
「深い青のなかに星が散っている。おんなじだね」
その様子にルージュも頬を緩めた。
連れが楽しそうであれば楽しい。
昨日までの歩くのも難儀な少年は、どこにもいなかった。
「いいものだよ。
ずうっと西の国にある女王の石だ。
彼氏にプレゼントしてもらいな。
お前さんが身に付けるとなんていうか、神秘的な雰囲気が増すよ?」
頭にぐるぐるとバラモン特有に布をまいた主人はいった。
「プレゼント!?彼氏!?」
リリアスは絶句する。
二人は彼氏彼女に見えるらしい。
「主人、それをもらおう」
リリアスは目を丸する。
値札は他と比べて○が明らかに多い。
ルージュはウインクする。
「快気祝いだ。気にするな」
両耳たぶにラピスを身につけたリリアスに笑顔を向ける。
リリアスも少し照れぎみではあったが嬉しそうだ。
いつも身に付けるものをプレゼントするのは自分の所有物であると主張するのと同様であり、自分の中にそういう気持ちがあることを発見して、ルージュは新鮮に思った。
日が高くなるにつれて、気温もどんどん上がってくる。
日差しを避けて、木陰のカフェ屋台のミントティーをいただくことにする。
さまざまな食べ物の屋台は丸い広場を囲うように何軒もあり、広場には公共の井戸の水場がいくつかあった。
「ここは暑いね」
とリリアスは砂糖たっぷりのミントティーをすする。
「これから昼過ぎまでどんどん暑くなるよ」
カフェのお兄さんが割り込んできた。
彼も頭に布を巻き、砂漠の民の特徴的な褐色の肌をしている。
彼もリリアスをお嬢ちゃん扱いをしている風である。
リリアスは知ってか知らずか、気にかけた様子はない。
「雨が降れば涼しくなるのにね」
お兄さんは言った。
「この数か月、雨は見たことないよ。このところの日照りで、エディンバラの地下のオアシスは干上がる寸前さ」
「干上がるとどうなる?」
とルージュも割り込む。
「あの井戸が枯れたらこの街は終わりさ。近くのオアシスへ移住することになる。どこも似たり寄ったりではあるけどね」
お兄さんはある方角を見た。
そちらに避難予定地があるようだ。
「水の都ともいわれているパリスへ行こうとするものも多いよ。バラモンは自由でいいところだが、こう雨も降らなくなったらなあ、、」
「ふうん?」
リリアスは目を閉じて意識を地下深くに潜らせた。
井戸の水源は、カフェの兄さんがいうように涸れかけていた。
でも水の精霊の気配がすぐそばにある。大きな地下水脈がそばにある。
エディンバラの井戸は大きな地下水脈の支流のひとつを汲み上げているようだ。
その支流を岩がほぼ塞き止めている?
この岩をどけたら地下の水流が回復するかもしれないとリリアスは思った。
それとも、
意識を空高く羽ばたかせる。
樹海では意識は樹海の範囲内であったが、ここではぐんぐん飛ばすことができる。
この地の大気中のH2Oは驚くほど少ない。リリアスは更に意識を飛ばした。
いくつもの集落や都を越えた先に、大海原が広がっている。
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