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第2話 辺境の街 エディンバラ
6.初めての朝
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フカフカのベッド。気持ちの良いシーツ。
シャーの金茶の毛皮。つやつや、さらさら。
指を滑らせ解かしつける。
星を眺めながら、またこっそりリリアスの部屋に忍び込んできて幾夜、褥を同じくしたことか。
柔らかい長い毛並み、ついとリリアスは鼻を寄せ、固まった。
シャーはこんなに長い毛並みをしていない。
とたんに、ぐいっと手首を掴まれベットに押さえ込まれた。金茶の豪華な髪が指を締め付けるように絡まった。
コレは友人(豹)のシャーではなかった。
「朝からやってくれるな」
目を開けると、細めた青銀の眼がリリアスをとらえていた。
顔を少し傾けているのは、リリアスが毛を掴んでいるからだ。
二人とも、上半身は何も身に付けず、下履きだけのあられもない姿である。
かあっとリリアスは顔が赤くなるのを感じた。
なぜにこんな状況なのか、、、。
起き抜けで混乱している頭で、リリアスは必死に記憶をたどる。
樹海を抜けた後は、やっと見付けた宿の門をたたいたのだが、夜中の訪問者を警戒され敬遠された。
フカフカのベッドで寝れる!と喜んだ後のどん底の野宿の後、この辺りはルージュの祖国のパリス国でなく、樹海の反対側、遠く離れた異国バラモンの、辺境の街だということが判明したときは、王子は絶句して、更に柄にもなく悪態をついた。
彼の仲間は国境を越え、さらに馬を駆って2日ほどかかる別れた町で、伴を従えず樹海に入った王子を待ち続けているはずだという。
そして、樹海の際に続いてる切り立つ岩山を回らずに、今朝は樹海を背にして、まばらな民家と砂漠と点在するオアシスの森の影を横目に見ながら、ようやく見付けた道沿いの、これまた小さな宿で二人で過ごす2回目の夜を迎えていた。
リリアスにとって見るものすべてが新鮮で初体験だった。
道酔い、というのも初体験する。
樹海を離れてすぐに感じる気分の悪さである。
視界に緑の森が常にあり、足元も木の根や下草、翼の生き物のなき声や虫の羽音などの世界が常であったのが、荷車や馬で移動するのに便利な、平坦な舗装道路に立つと、ガクガクとすくんで一歩も踏み出せなくなるのだ。
青褪める少年をちっと顔を歪ませながらも、担いだのはルージュである。
こんな赤子のようないたいけな少年を置き去りにすれば、人攫いか、野垂れ死にするのが目に見えていたからしかたなしではあったが、この二日の内に、リリアスにとってルージュは、自分との約束を守り樹海から解放してくれるぐらいに義理堅く、役に立たない自分が側にいても見捨てないぐらいに優しい男であった。
一人で生きていける目処が立つまで何がなんでも彼についていくと決意するに至っている。
まだまだ判明したことは多くある。
必要な物を得るにはお金が必要であるということ。すべては等価交換するための、金銀銅のリールというコインが必要で、リリアスは持ったことがない。
宿代、食事、その他細かなものまで、ルージュが代わりに支払う。
リリアスがルージュに返済する目処はたっていない。どうしたらよいかも皆目見当がついていない。彼がどれだけ持っているのかもわからない。
道酔いで、進めないリリアスのために宿で休憩する。
パリスへの道は遅々として進まない。
ひとつの部屋を借りる。
そのままリリアスはベットにへばった。
女将は好色な視線をルージュに向けていた。ルージュは全く動じない。
彼は好意を向けられるのに慣れている人だ。
彼の心を動かす人はどんな女性なんだろう、そう思ったことが最後の記憶だ。
顔ひとつの距離で見ると、ルージュはかなり豪奢な男である。
知性を感じさせる双眸、柳眉は整い、唇はくっきりとひきしまる。
女子が10人いれば好みはそれぞれとはいえ、10人とも振り返らずにはいられないような、稀なる美男子だ。
それに、鍛え上げられた胸筋、上腕二頭筋、、。
顔に似合わず厚い手の平に、武器を握りなれた指の関節。
獲物をもったら強いんだろうな、と容易に推測できる。
その手はしっかりとリリアスの手首を掴んでいた。
「あ、、」
「ごめんなさい」と言おうとして、リリアスはすがめた青銀の眼に、縫い止められた。
顔から、視線が下がり胸でとまり、さらに降りていく。
「リリアス、女のような名前だが、よくみると、、」
ルージュは最後まで言わない代わりに、無意識に逆の手でするりと、胸の下から下腹へ滑らせた。
白い肌は前置きのない愛撫にぴくんと怯えた。
「ああ、、やめ、、」
リリアスは体を強ばらせた。
はねのけようにも体格差でびくともしない。
頭ひとつぶんはルージュは大きい。
泉で裸体をさらしたことがあるとはいえ、この距離で、起き抜けに撫でられるのは想定もしていなかった。
このまま下履きのなかを探られればリリアスの秘密が知られるかもしれなかった。
リリアスは15才。
あと一、二年で、男になるか、女になるかがはっきりする。
愛されれば女に、冒険を好めば男になるとリリアスは信じている。
男になって冒険したい~!と樹海を飛び出したのに、二日で道酔いで思うように体を動かせず、お金の力学も知らなかった。
意気消沈している時に、美貌の男からの愛撫に、リリアスの普段は押さえられている女の部分が存在を主張しだす。
艶やかで、清らかな肌であった。
13の頃より女を知らないわけではないルージュであったが、誰よりも美しいと思った。
禁欲生活が長かったか?とルージュは口の端を歪めた。彼の中心がにわかに立ち上がり始める。
貴族の趣味として男を侍らすものも多いという。今までまったく興味がなかった分野であるが、高いと思っていた壁は案外脆く崩れるのかもしれなかった。
へそ下の無駄な肉のないところで、ためらう。
視線を上げると、未だにルージュの髪を握るリリアスの怯えた黒曜石の瞳にとらえられた。
唇は呼吸を忘れたまま少し開かれている。
(男というより、女だ。女の色香を纏い始めた乙女のようだ)
キスをしようとルージュは首を伸ばす。
コンコンと扉をたたく音で、ルージュは正気を取り戻した。
「朝の湯をお持ちいたしました」
宿屋の女将のおせっかいにルージュは心から感謝した。
掴んでいた手を緩めて、のしかかっていた体をずらす。髪は引っ張られ、指からすり抜けた。
「ありがとう。体を清めたら食事に降りていくよ」
と、軽く上着を羽織ってたらいをルージュが受けとる。
出会い頭の事故のようなものだったと思う。
シャーの毛並をなでたくなるように、ルージュは手を伸ばしただけだろう。
体をなでられた事に深い意味はないはず。
二度と同じベッドには横たわるまい、とリリアスは強く決意した。
リリアスの生れつきの体の秘密、男でもあり女でもある、両性未分化(プロトタイプ)の秘密は、誰にも知られないままに、時間が解決してくれるのだろうと思うのだった。
シャーの金茶の毛皮。つやつや、さらさら。
指を滑らせ解かしつける。
星を眺めながら、またこっそりリリアスの部屋に忍び込んできて幾夜、褥を同じくしたことか。
柔らかい長い毛並み、ついとリリアスは鼻を寄せ、固まった。
シャーはこんなに長い毛並みをしていない。
とたんに、ぐいっと手首を掴まれベットに押さえ込まれた。金茶の豪華な髪が指を締め付けるように絡まった。
コレは友人(豹)のシャーではなかった。
「朝からやってくれるな」
目を開けると、細めた青銀の眼がリリアスをとらえていた。
顔を少し傾けているのは、リリアスが毛を掴んでいるからだ。
二人とも、上半身は何も身に付けず、下履きだけのあられもない姿である。
かあっとリリアスは顔が赤くなるのを感じた。
なぜにこんな状況なのか、、、。
起き抜けで混乱している頭で、リリアスは必死に記憶をたどる。
樹海を抜けた後は、やっと見付けた宿の門をたたいたのだが、夜中の訪問者を警戒され敬遠された。
フカフカのベッドで寝れる!と喜んだ後のどん底の野宿の後、この辺りはルージュの祖国のパリス国でなく、樹海の反対側、遠く離れた異国バラモンの、辺境の街だということが判明したときは、王子は絶句して、更に柄にもなく悪態をついた。
彼の仲間は国境を越え、さらに馬を駆って2日ほどかかる別れた町で、伴を従えず樹海に入った王子を待ち続けているはずだという。
そして、樹海の際に続いてる切り立つ岩山を回らずに、今朝は樹海を背にして、まばらな民家と砂漠と点在するオアシスの森の影を横目に見ながら、ようやく見付けた道沿いの、これまた小さな宿で二人で過ごす2回目の夜を迎えていた。
リリアスにとって見るものすべてが新鮮で初体験だった。
道酔い、というのも初体験する。
樹海を離れてすぐに感じる気分の悪さである。
視界に緑の森が常にあり、足元も木の根や下草、翼の生き物のなき声や虫の羽音などの世界が常であったのが、荷車や馬で移動するのに便利な、平坦な舗装道路に立つと、ガクガクとすくんで一歩も踏み出せなくなるのだ。
青褪める少年をちっと顔を歪ませながらも、担いだのはルージュである。
こんな赤子のようないたいけな少年を置き去りにすれば、人攫いか、野垂れ死にするのが目に見えていたからしかたなしではあったが、この二日の内に、リリアスにとってルージュは、自分との約束を守り樹海から解放してくれるぐらいに義理堅く、役に立たない自分が側にいても見捨てないぐらいに優しい男であった。
一人で生きていける目処が立つまで何がなんでも彼についていくと決意するに至っている。
まだまだ判明したことは多くある。
必要な物を得るにはお金が必要であるということ。すべては等価交換するための、金銀銅のリールというコインが必要で、リリアスは持ったことがない。
宿代、食事、その他細かなものまで、ルージュが代わりに支払う。
リリアスがルージュに返済する目処はたっていない。どうしたらよいかも皆目見当がついていない。彼がどれだけ持っているのかもわからない。
道酔いで、進めないリリアスのために宿で休憩する。
パリスへの道は遅々として進まない。
ひとつの部屋を借りる。
そのままリリアスはベットにへばった。
女将は好色な視線をルージュに向けていた。ルージュは全く動じない。
彼は好意を向けられるのに慣れている人だ。
彼の心を動かす人はどんな女性なんだろう、そう思ったことが最後の記憶だ。
顔ひとつの距離で見ると、ルージュはかなり豪奢な男である。
知性を感じさせる双眸、柳眉は整い、唇はくっきりとひきしまる。
女子が10人いれば好みはそれぞれとはいえ、10人とも振り返らずにはいられないような、稀なる美男子だ。
それに、鍛え上げられた胸筋、上腕二頭筋、、。
顔に似合わず厚い手の平に、武器を握りなれた指の関節。
獲物をもったら強いんだろうな、と容易に推測できる。
その手はしっかりとリリアスの手首を掴んでいた。
「あ、、」
「ごめんなさい」と言おうとして、リリアスはすがめた青銀の眼に、縫い止められた。
顔から、視線が下がり胸でとまり、さらに降りていく。
「リリアス、女のような名前だが、よくみると、、」
ルージュは最後まで言わない代わりに、無意識に逆の手でするりと、胸の下から下腹へ滑らせた。
白い肌は前置きのない愛撫にぴくんと怯えた。
「ああ、、やめ、、」
リリアスは体を強ばらせた。
はねのけようにも体格差でびくともしない。
頭ひとつぶんはルージュは大きい。
泉で裸体をさらしたことがあるとはいえ、この距離で、起き抜けに撫でられるのは想定もしていなかった。
このまま下履きのなかを探られればリリアスの秘密が知られるかもしれなかった。
リリアスは15才。
あと一、二年で、男になるか、女になるかがはっきりする。
愛されれば女に、冒険を好めば男になるとリリアスは信じている。
男になって冒険したい~!と樹海を飛び出したのに、二日で道酔いで思うように体を動かせず、お金の力学も知らなかった。
意気消沈している時に、美貌の男からの愛撫に、リリアスの普段は押さえられている女の部分が存在を主張しだす。
艶やかで、清らかな肌であった。
13の頃より女を知らないわけではないルージュであったが、誰よりも美しいと思った。
禁欲生活が長かったか?とルージュは口の端を歪めた。彼の中心がにわかに立ち上がり始める。
貴族の趣味として男を侍らすものも多いという。今までまったく興味がなかった分野であるが、高いと思っていた壁は案外脆く崩れるのかもしれなかった。
へそ下の無駄な肉のないところで、ためらう。
視線を上げると、未だにルージュの髪を握るリリアスの怯えた黒曜石の瞳にとらえられた。
唇は呼吸を忘れたまま少し開かれている。
(男というより、女だ。女の色香を纏い始めた乙女のようだ)
キスをしようとルージュは首を伸ばす。
コンコンと扉をたたく音で、ルージュは正気を取り戻した。
「朝の湯をお持ちいたしました」
宿屋の女将のおせっかいにルージュは心から感謝した。
掴んでいた手を緩めて、のしかかっていた体をずらす。髪は引っ張られ、指からすり抜けた。
「ありがとう。体を清めたら食事に降りていくよ」
と、軽く上着を羽織ってたらいをルージュが受けとる。
出会い頭の事故のようなものだったと思う。
シャーの毛並をなでたくなるように、ルージュは手を伸ばしただけだろう。
体をなでられた事に深い意味はないはず。
二度と同じベッドには横たわるまい、とリリアスは強く決意した。
リリアスの生れつきの体の秘密、男でもあり女でもある、両性未分化(プロトタイプ)の秘密は、誰にも知られないままに、時間が解決してくれるのだろうと思うのだった。
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