5 / 46
第1部 樹海の少年 第1話 樹海の少年
5.旅立ちの夜(第1話完)
しおりを挟む
約定により世代交代の貢ぎものが交わされた夜、リリアスは樹海から自由になった。
父、母、兄、おじさん、おばさん、、、次々と別れの抱擁と短い別れの言葉をかわす。
亡くなった仲間が、大地に還るときとおんなじだと、リリアスは思う。
この地から出ることは、残される彼らにとっては永遠の別れ、今生の別れに等しいのだ。
残されるものの寂しさを感じて、後ろ暗く感じはするが、旅立つリリアスはこれから待ち受ける冒険に胸が高鳴った。
きっと、この森を出たものはみんなそうだったに違いないと思う。
「精霊が御守りくださいますように」
「いかなる時でもあなたの道が愛に満たされますように」
額に、ほほに、顎に、まぶたの上に、手のひらに、キスをする。
彼らがキスをすると、ふわっと紋様がリリアスの皮膚表面から浮き上がり、霧散する。
別れに立ち会うともなく眺めていたルージュは、キスで現れる紋様に興味がいく。
よく見ると、樹海の民の手やほほや額には、それぞれの紋様が刺青されており、まぶたやほほにキスをすれば、その体の紋様と同じ絵柄が呪文のように浮かぶのだ。
(樹海の民は精霊の加護を持つと言うが関係があるのか?こいつの体にも??)
泉で水浴びをしていたときの、少年の全裸を思い出す。
思い当たる刺青はどこにもなかったように思う。
樹海と外界への境界までは、金茶の美しい豹がリリアスに連れ添った。
毛皮の美しさで乱獲され、絶滅危惧種に指定されている豹だ。
樹海でしか生きられないに違いなかった。歩くとしなやかに揺れる肢体が、野生の躍動感を感じさせる。
(いくのですね、リリアス)
毛皮と同じ金茶の瞳に黒い星を写した。
(ごめん、僕は行く。ほんとうにごめんなさい。また会える)
(あなたが困ったとき、助けに行く)
(ありがとう、シャー。僕の兄弟)
すりっと頬をすりつけて、シャーはルージュを一瞥し、森の闇に紛れていく。
リリアスたちは森の終着点にいた。
何か、見えない壁があるかのように境界があった。
15年の人生でここまでたどり着いたことはない。
夜の月あかりのなかで、遠く街の明かりがちらほらと瞬いている。森の一段と暗い闇がある。
樹海の森とは比べ物にならないぐらい、小さな森だった。
境界を越える。
厚い空気の層がリリアスにまとわりつくが、拒絶の意思は感じられず、もう一歩進めると抜けたとわかる。
横に歩む王子を見ると、一瞬顔をしかめていて、ふっと息をはいた。
「これからどこへ?」
リリアスは期待を込めてきいた。
少年らしく冒険に憧れはしても、彼は赤子も同然で、金茶の王子の側にいればひとまずは安心のように思えた。
「街へ行くが、ここが何処だかわからない。あんまり動き回りたくはないが、ひとまず宿だな」
ちらりとルージュは少年をみる。
弾む息をしていて、彼の夢がかなった喜びが伝わってくる。
少年との約束は果たされた。
これでこの黒髪の少年と別れると思うと、せいせいするような、寂しいような気もする。
もう少し、彼が世界をみるのに付き合ってやるのも面白いかも。退屈な世界が少しは変わるかもしれないと思う。
とんだ茶番に付き合わされたと思う。
兄王子の代替りのための、形骸化している約定を形ばかり果たすため、4日も無駄にしたのだ。
「仲間と合流する。皆首を長くして待っている。お前も来るか?」
少年のキラキラした笑顔が答えだった。
第一話完
父、母、兄、おじさん、おばさん、、、次々と別れの抱擁と短い別れの言葉をかわす。
亡くなった仲間が、大地に還るときとおんなじだと、リリアスは思う。
この地から出ることは、残される彼らにとっては永遠の別れ、今生の別れに等しいのだ。
残されるものの寂しさを感じて、後ろ暗く感じはするが、旅立つリリアスはこれから待ち受ける冒険に胸が高鳴った。
きっと、この森を出たものはみんなそうだったに違いないと思う。
「精霊が御守りくださいますように」
「いかなる時でもあなたの道が愛に満たされますように」
額に、ほほに、顎に、まぶたの上に、手のひらに、キスをする。
彼らがキスをすると、ふわっと紋様がリリアスの皮膚表面から浮き上がり、霧散する。
別れに立ち会うともなく眺めていたルージュは、キスで現れる紋様に興味がいく。
よく見ると、樹海の民の手やほほや額には、それぞれの紋様が刺青されており、まぶたやほほにキスをすれば、その体の紋様と同じ絵柄が呪文のように浮かぶのだ。
(樹海の民は精霊の加護を持つと言うが関係があるのか?こいつの体にも??)
泉で水浴びをしていたときの、少年の全裸を思い出す。
思い当たる刺青はどこにもなかったように思う。
樹海と外界への境界までは、金茶の美しい豹がリリアスに連れ添った。
毛皮の美しさで乱獲され、絶滅危惧種に指定されている豹だ。
樹海でしか生きられないに違いなかった。歩くとしなやかに揺れる肢体が、野生の躍動感を感じさせる。
(いくのですね、リリアス)
毛皮と同じ金茶の瞳に黒い星を写した。
(ごめん、僕は行く。ほんとうにごめんなさい。また会える)
(あなたが困ったとき、助けに行く)
(ありがとう、シャー。僕の兄弟)
すりっと頬をすりつけて、シャーはルージュを一瞥し、森の闇に紛れていく。
リリアスたちは森の終着点にいた。
何か、見えない壁があるかのように境界があった。
15年の人生でここまでたどり着いたことはない。
夜の月あかりのなかで、遠く街の明かりがちらほらと瞬いている。森の一段と暗い闇がある。
樹海の森とは比べ物にならないぐらい、小さな森だった。
境界を越える。
厚い空気の層がリリアスにまとわりつくが、拒絶の意思は感じられず、もう一歩進めると抜けたとわかる。
横に歩む王子を見ると、一瞬顔をしかめていて、ふっと息をはいた。
「これからどこへ?」
リリアスは期待を込めてきいた。
少年らしく冒険に憧れはしても、彼は赤子も同然で、金茶の王子の側にいればひとまずは安心のように思えた。
「街へ行くが、ここが何処だかわからない。あんまり動き回りたくはないが、ひとまず宿だな」
ちらりとルージュは少年をみる。
弾む息をしていて、彼の夢がかなった喜びが伝わってくる。
少年との約束は果たされた。
これでこの黒髪の少年と別れると思うと、せいせいするような、寂しいような気もする。
もう少し、彼が世界をみるのに付き合ってやるのも面白いかも。退屈な世界が少しは変わるかもしれないと思う。
とんだ茶番に付き合わされたと思う。
兄王子の代替りのための、形骸化している約定を形ばかり果たすため、4日も無駄にしたのだ。
「仲間と合流する。皆首を長くして待っている。お前も来るか?」
少年のキラキラした笑顔が答えだった。
第一話完
1
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
二人の王子【2】~古き血族の少年の物語
藤雪花(ふじゆきはな)
BL
【甘いだけではない大人のファンタジー】
呪術に守られた樹海の奥底に、いにしえに失われた王国と、秘宝があるという。秘宝を手にいれた者は、世界の覇者にもなれるという。
樹海の少年リリアスには秘密があった。
男でもあり女でもある、両性未分化(プロトタイプ)だったのだ。
☆気に入っていただけたら、お気にいりに加えてくださるとうれしいです。
励みになります!

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる