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第1部 樹海の少年 第1話 樹海の少年
3.シャー
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少年はルージュを森の奥にいざなう。
偏屈だった森は、枝を反らし、蔦をあげ、木の根の絡まりあう路を示す。
夕刻が近づき、これ以上深入りするのはやめておけと、ルージュの心の奥の冷静な声が言う。
前を行く少年の姿を見失わないように、ルージュは追いかける。
この道は彼のための道ではない。少年が通れば、再び閉じようとしていた。
不穏な気配を背後に感じた。
シダの藪のなかからじりじりとうかがう視線。
何かがいる!
とルージュは全神経、筋肉を緊張させた。
武器はブーツに仕込ませたナイフのみ。
「あれはシャーだ。豹だよ。撲がいれば襲ってくることはない」
少年は振り返り、顔をしかめた。
「血の匂にひかれているよ。その子はシャーにあげて?」
「この事か?」
ルージュは仕留めた白いウサギを腰に吊るしていたことを思い出した。
すぐにほどき、遠く藪に投げやる。
餓えた猛獣の晩御飯になるのはごめんだった。
すぐさま、むしゃぶりつく、わい雑な音がする。
「シャーは僕の兄弟。あなたのように美しい毛並みをしている」
少年はルージュの金茶の髪を見た。
ルージュは視線で己の髪を撫でられたような感覚を覚える。
「あなたの親切に感謝する。雪の子がシャーの血肉となり、新たな愛と喜びを得られますように」
「喜び、、」
ふっと何か違和感を覚えて、ルージュは目をほそめた。
その違和感を追求する間もなく、森が、雲が隠していた太陽を表すように左右に別れ、終わる。
石造りの建物の小さな集落があった。
人の気配があるものも、無いものもある。
ひとつの村にしては小さい。
この村の終焉はすぐそこなのかもしれない。とルージュは冷静に見る。
「リリアス!」
心配と恐れの混じった声にいきなり呼ばれ、少年は飛び上がった。
「お母様」
「なんてこと、、」
母と呼ばれた女は、白い衣装をまとう。
祖国の神官達の衣装に似ている。
「あなたは何を連れてきたの!!」
リリアスは母の恐怖を見た。
大事なものを奪われることの恐怖だった。
すぐさま人がわらわらと集まってくる。
皆武器は持っていない。
若いものは驚くほど少ない。
長老と目される、ご老人が体を支えられて出てくる。
「お父さま、、」
少年が呟くのを聞く。
いったいいくつの子だよ!とルージュは毒づく。
母との年の差は30と見た。
そういうのは心底嫌悪する。
4日も無駄にしている。さっさと用事を済ませて帰ろうと思う。
すっと軽く息を吸った。
「出迎えご苦労。わたしはパリス王国第二王子ルージュ パリス ロワール。
古の約定により、代替りの宝をもらい受けにきた。ありがたく差し出せ。
価値あるものがまだあるならばな!」
強国パリスの王族の傲慢さをただよわせ、若く美しい第二王子はいい放った。
偏屈だった森は、枝を反らし、蔦をあげ、木の根の絡まりあう路を示す。
夕刻が近づき、これ以上深入りするのはやめておけと、ルージュの心の奥の冷静な声が言う。
前を行く少年の姿を見失わないように、ルージュは追いかける。
この道は彼のための道ではない。少年が通れば、再び閉じようとしていた。
不穏な気配を背後に感じた。
シダの藪のなかからじりじりとうかがう視線。
何かがいる!
とルージュは全神経、筋肉を緊張させた。
武器はブーツに仕込ませたナイフのみ。
「あれはシャーだ。豹だよ。撲がいれば襲ってくることはない」
少年は振り返り、顔をしかめた。
「血の匂にひかれているよ。その子はシャーにあげて?」
「この事か?」
ルージュは仕留めた白いウサギを腰に吊るしていたことを思い出した。
すぐにほどき、遠く藪に投げやる。
餓えた猛獣の晩御飯になるのはごめんだった。
すぐさま、むしゃぶりつく、わい雑な音がする。
「シャーは僕の兄弟。あなたのように美しい毛並みをしている」
少年はルージュの金茶の髪を見た。
ルージュは視線で己の髪を撫でられたような感覚を覚える。
「あなたの親切に感謝する。雪の子がシャーの血肉となり、新たな愛と喜びを得られますように」
「喜び、、」
ふっと何か違和感を覚えて、ルージュは目をほそめた。
その違和感を追求する間もなく、森が、雲が隠していた太陽を表すように左右に別れ、終わる。
石造りの建物の小さな集落があった。
人の気配があるものも、無いものもある。
ひとつの村にしては小さい。
この村の終焉はすぐそこなのかもしれない。とルージュは冷静に見る。
「リリアス!」
心配と恐れの混じった声にいきなり呼ばれ、少年は飛び上がった。
「お母様」
「なんてこと、、」
母と呼ばれた女は、白い衣装をまとう。
祖国の神官達の衣装に似ている。
「あなたは何を連れてきたの!!」
リリアスは母の恐怖を見た。
大事なものを奪われることの恐怖だった。
すぐさま人がわらわらと集まってくる。
皆武器は持っていない。
若いものは驚くほど少ない。
長老と目される、ご老人が体を支えられて出てくる。
「お父さま、、」
少年が呟くのを聞く。
いったいいくつの子だよ!とルージュは毒づく。
母との年の差は30と見た。
そういうのは心底嫌悪する。
4日も無駄にしている。さっさと用事を済ませて帰ろうと思う。
すっと軽く息を吸った。
「出迎えご苦労。わたしはパリス王国第二王子ルージュ パリス ロワール。
古の約定により、代替りの宝をもらい受けにきた。ありがたく差し出せ。
価値あるものがまだあるならばな!」
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